2020 Volume 36 Issue 1 Pages 74-77
出生後,黄疸のため前医で光線療法を開始.その際の診察で胸骨左縁に骨様の腫瘤を触れた.単純X線写真で異常陰影を認めたため紹介となった.
《受診時現症》在胎38週,自然分娩で出生.出生時体重3,275 g.Apgar score 8/10.出生時仮死なし,呼吸障害なし.
妊娠経過に異常を指摘されたものは以下のみ:
母体トキソプラズマ抗体価2,560倍(正常160未満),トキソプラズマIgM 1.9陽性(正常0.8未満).
診断は?
日齢7の胸腹部単純写真で右上肺野に境界明瞭な腫瘤を認める.また,左中肺野では肋骨の変形を伴った腫瘤影が認められる(Fig. 1).
日齢7 胸腹部単純X線写真
CTでは左右の胸壁から胸腔内に突出する腫瘤を認める(Fig. 2).肋骨の一部が腫瘤と連続し,腫瘤内部に石灰化成分が散在している.造影CTでは腫瘤内部に不均一な増強効果を認める.T2強調像では腫瘤内部に多数のfluid levelが認められる(Fig. 4a).T2強調像のfluid levelで低信号を示す部分が脂肪抑制T1強調像では高信号となっており(Fig. 4b),出血成分を反映していると考えられる.
日齢8 胸部CT
上段:単純 下段:造影
日齢13 MRI
上段:T2強調横断像 下段:脂肪抑制T1強調横断像
a:T2強調横断像 b:脂肪抑制T1強調横断像
胸壁間葉系過誤腫(mesenchymal hamartoma)
《解説》胸壁間葉系過誤腫は新生児~生後半年程度の間に発見される先天性骨腫瘍である.正常の骨組織から成る良性腫瘍であり,軟骨成分が豊富で,動脈瘤様骨嚢腫のような変化をきたす.このため,内部に出血成分によるfluid levelがみられることが特徴的である.肋骨から発生するため肋骨は変形し,腫瘤が大きい場合は肺を圧排するために呼吸障害をきたすことがある1,2).
呼吸障害を来すような場合,治療は外科的切除である.ただし,1歳を過ぎると腫瘤の増大が止まるため,児の成長に伴って相対的に縮小していくように見える.また,2歳以上になると自然退縮したという報告もある.
なお,本症例の主訴は「胸骨左縁に骨様の腫瘤を触れた」ことであり,左前胸壁にも小さな腫瘤が存在していたため(Fig. 5),胸腔内腫瘤の発見に至ったわけである(呼吸症状に乏しい胸腔内の腫瘤の場合,胸郭(肋骨)の変形がないと気づかれないだろう).
日齢8 胸部CT