Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
Special Feature: Image inspection of child abuse
Abdominal injury
Yukata Tanami
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 36 Issue 2 Pages 109-114

Details
要旨

腹部外傷は,虐待による外傷の中では相対的に頻度は少ないが,腸穿孔や肝臓,膵臓などの重要臓器の損傷をともなう場合がある.潜在性の臓器損傷が否定できないような事例に対しては,まず超音波検査を行い,実質臓器損傷や腸管の壁内血腫が確認されることで,外傷の可能性に思い当たる場合もありうる.虐待による腹部外傷は5歳以下に多く,外傷による腹部外傷と比較すると若年である.十二指腸損傷は,4歳未満の誤って負傷した子供では報告されておらず,5歳未満の子供における交通事故以外の十二指腸外傷は,病因としての虐待を考慮する必要がある.全身骨撮影では虐待に特異的とされる所見もあり,画像所見の信頼性は高い.一方で腹部損傷の多くは,画像所見のみからその原因を特異的に推察することは困難である.あくまでも画像所見と臨床経過,血液検査所見などを総合的に判断することが重要と考えられる.

Abstract

Abdominal trauma is relatively infrequent among abuse, but may include intestinal perforation and damage to vital organs such as the liver and pancreas. In cases where potential organ injury cannot be ruled out, ultrasonography may be performed first to determine the presence of parenchymal organ damage or intestinal hematoma. Abdominal trauma due to abuse is common in children under the age of five years, a younger age than usually seen in traumatic abdominal trauma. Duodenal injury has not been reported in accidentally injured children under the age of four years, and duodenal trauma other than traffic accidents in children under the age of five years needs to be considered for abuse.

Some findings are specific to abuse in bone survey. On the other hand, for many abdominal injuries, it is difficult to specify the cause from only the imaging findings. It is considered important to comprehensively judge the image findings, clinical course, and blood test findings.

はじめに

非偶発的外傷の腹部外傷は,虐待を受けた子供の入院の原因として相対的に頻度は少ないが,しばしば重篤であり外科的介入の割合が高い1).小児の腹部損傷,特に腸穿孔と膵臓の損傷が単独で発生することはめったになく,虐待を考慮し,追加の損傷部位の検索が望まれる.さらに非偶発的外傷による腹部損傷の知識は,患者のケアと保護にとっても重要である.

腹部症状や腹部所見が認められた患児ではまず臥位で腹部単純X線撮影の正面像を撮影する.遊離ガス像が確認された場合,消化管穿孔が疑われるため,追加の画像検査を省いて直接手術を行う場合もある.もちろん遊離ガスが確認できなかった場合であっても臨床経過や血液検査所見から腹部外傷が強く疑われる場合,通常はCTなどの追加検査が行われる.CT検査は,被ばくの問題があり,臨床経過や血液検査所見から腹部外傷や頸部・胸部外傷が疑われる場合に限って,施行するべきである.ただし,頭部外傷があった場合にしばしば腹部外傷の評価が難しくなるという点は十分に注意する必要がある.

被虐待児に認められる腹部損傷には様々なパターンが存在するが,虐待とその他の事故ではほぼ同様に診断されていく場合が多い.造影CTを施行することで,肝・脾・膵・腎損傷などの生死に関わる実質臓器の損傷や腹腔内出血の有無を判断し,その後の治療方針の道筋を固めることができる.特に血管損傷が疑われる場合には,後期動脈相,腎・膀胱損傷が疑われる場合には,排泄相を追加する2)

外傷を評価する際に超音波検査も有用である.小児においては症状や所見が不明瞭で,潜在性の外傷の可能性が否定できないような事例に対しては,まず超音波検査を行い,実質臓器損傷や腸管の壁内血腫や腹腔内の液体貯留が確認されることで,外傷の可能性に思い当たる場合もありうる.しかしながら,超音波検査にはさまざまな限界があり,特に実質臓器損傷を否定できない場合において,救急の現場で造影CTにとって代わるものではない.

虐待にともなう内臓損傷は,しばしば骨折を併発している.例えば救急外来に外傷の訴え以外の理由で受診した小児事例に肋骨骨折や椎骨骨折が確認された場合には,虐待の存在も念頭に置く必要がある3)

虐待による腹部外傷に関して2013年に188件の論文を検索したsystematic reviewが施行され,以下のように考察されている4).虐待による腹部外傷は5歳以下に多く,外傷による腹部外傷と比較すると有意に若年であった(2.5~3.7年対7.6~10.3年).十二指腸損傷は,3rd portion~4th portionで多く,一方で4歳未満の誤って負傷した子供では報告されていない.肝臓と膵臓の損傷が多く,膵仮性嚢胞の形成も認められる.共存する怪我には骨折,火傷,頭部外傷が含まれていた.検死では,多くの子供が以前の,認識されていない腹部の負傷を負っていたことが明らかになった.虐待による腹部外傷による死亡率は,偶発的な外傷よりも有意に高かった(53%対21%).特に5歳未満の子供における非自動車関連の十二指腸外傷は,病因としての虐待を考慮する必要がある.虐待による腹部外傷では腹部正中部に鈍的外力が加わることにより,椎体との間に腹部臓器が挟まれ,圧迫されることにより生じるとされている.以下に,十二指腸および小腸,膵臓,肝臓に関して個別に述べていく.

十二指腸及び小腸

十二指腸および小腸では穿孔,壁内血腫が主要な病態である.小腸穿孔は,子ども虐待の一徴候としてよく知られており,一般的に腹部への鈍的外力が加わることで生じる.その他,4歳未満の十二指腸損傷事例では,事故は少なく57),特に2歳未満で十二指腸損傷が認められた事例では,虐待の可能性につき調査を行う必要がある.十二指腸の腸間膜側では血管裂傷を,腸間膜の対側に穿孔が生じることが推定されている8).腸管穿孔をきたした場合,一般的に強い腹痛をともなう.このような状態が放置され,受診が遅れること自体がネグレクトである.十二指腸壁内血腫の評価のために,超音波検査やCTが用いられている.特に十二指腸穿孔やそれよりも遠位の小腸穿孔を診断するためには,CT検査の併用が望ましい9,10).小腸の壁内血腫は,腸間膜損傷を合併した場合に線維化をきたし管腔狭窄を続発しうる.

1. 腹部単純X線写真

腹腔内で腸管穿孔をきたした事例においては,腹腔内遊離ガスが確認されることが多い.遊離ガスの量はたいてい少量であり,仰臥位の単純X線写真で確認することは困難である.十二指腸血腫において,単純X線写真上で異常が確認されないこともありうるが,重度の閉塞をきたした場合,胃は液体で満たされてガスで拡張し,閉塞部位より末梢側の腸管ではガス像が不明である場合が多い.十二指腸上部に壁内ガスが存在していて,管腔内を占拠する腫瘤性病変として認められることもある11).他の内臓損傷を合併し,腹腔内遊離ガス像や腹水が確認されることもある.

2. 超音波検査

腸管穿孔における超音波検査では遊離ガスを検出できる場合もあるが,やはり腹腔内の液体貯留など,穿孔を疑わせるような超音波所見,臨床所見が存在した場合には造影CT検査が優先される.十二指腸壁内血腫は,血腫をきたした部位,血腫の量や拡がり,発症からの経過時間によりさまざまに描出される.腸管壁内の血腫が十二指腸下行脚に限局している場合,右腎と下大静脈の前方に,腫瘤として確認しうる.十二指腸水平脚を含みより広範性に血腫が広がっている事例では,正中線を超えて大動脈腹側にまで血腫が及ぶ.超音波検査では通常,血腫内部は均質の高エコー輝度を呈し,エコー輝度は時間とともに低下していき,最終的には嚢胞様の無エコー性の腫瘤像を呈するようになる.

3. CT

CTは腸管穿孔を評価する上で必須の手法であり,十二指腸穿孔事例でも有用である12,13).腸管穿孔をきたした事例で最も頻度の高いCT所見は,非特異的な腹水所見であり,CTで遊離ガス像を認める事例(Fig. 1)はその一部にすぎない14,15).CTで遊離ガス像を認める場合には,肝臓前面,腸間膜,後腹膜に確認されることが多い.腸管穿孔の際に認めうるその他のCT所見としては,腸管の局所的な拡張,壁肥厚,壁破壊,腸管壁の強い造影効果,血腫などが挙げられる15,16).腹腔内出血がある場合,血管損傷や尿管損傷を併発している場合には,CT値の高い腹腔内液体貯留が認められる.CT検査では,十二指腸壁内血腫の進展の状況に加え,周辺構造との位置関係についても確認することができる(Fig. 2).十二指腸血腫は混合性の吸収像を呈することが多い17)

Fig. 1 

腹部CT腹部条件,肺野条件,5か月 女児 消化管穿孔

消化管の造影不良,遊離ガスが認められる.

Fig. 2 

腹部CT 5歳 男児 十二指腸血腫

十二指腸3rd portionに血腫形成が認められる.

膵臓

超音波,CT,MRIの進歩によって,現在では肉眼的に判別可能な膵損傷は以前よりもより正確に診断することが可能となった.小児ではほとんどが腹部鈍的外傷に続発して生じたものである.小児では,外傷性膵炎の最大3分の1までもが虐待が原因と推定されている18).膵炎の発症には,膵腺房細胞の崩壊や膵管の途絶,組織への膵酵素漏出,タンパク質分解酵素・脂肪分解酵素の活性化などのいくつかの要因がある19).虐待に続発した膵炎事例の場合,全身診察を行うことで,挫傷,瘢痕や熱傷が確認されることもあり,全身骨撮影で骨折が確認されることもある8,20).しかしそれらの虐待を疑わせるような外表損傷所見が全く確認されないこともあり,次に損傷をきたして受診してくるまで,膵炎の原因として虐待が考慮されないこともある4,20).膵仮性嚢胞は,虐待による膵損傷の続発症として,しばしば認められる所見である.臨床的には症状が乏しいため,非特異的な腹部症状に対し施行された超音波検査で存在が確認されることが多い.

1. 腹部単純X線写真

腹部単純X線撮影が,膵炎の存在を疑う契機になることもある.例えば,急性膵炎の際には液而形成をともなった腸管ループの部分的拡張や近位横行結腸のガス充満像が突然途絶する所見を認めることがある.ただし,これらは他の病態でもみられうる非特異的な所見である21)

2. 超音波検査

急性膵炎の超音波所見は正常の場合もあるが,膵腫脹所見や腺組織の低エコー所見が確認されることもある22,23).超音波検査は仮性嚢胞を明確に描出しうるだけではなく,その自然経過を経時的に観察することもできる.

3. CT

膵損傷は,CTの適応であり,膵実質内の液体貯留を反映し,腫大をともなった膵臓が不均質な低吸収像として確認される1).膵周囲だけではなく,肝辺縁,横隔膜下,網嚢,骨盤腔内にも液体貯留が認められることもある.小児事例においては,説明のつかない前腎傍腔や網嚢部の液体貯留が,唯一の膵損傷所見であることはしばしばである14).膵臓と脾静脈の間にも液体貯留が認められることもあるが,これは膵損傷に特異的な所見というわけではない24).膵臓周囲の脂肪織の高吸収像や,腹側の腎筋膜の肥厚像が確認されることもある.膵損傷のほとんどは外表面に実質裂傷は確認されないが,CTや超音波検査上ではしばしば実質の離断や仮性嚢胞が描出される1,25,26).膵臓の裂傷や離断は,CTで線状の低吸収域として描出されるが,急性期にはCT上で存在が確認しえないこともある27).十二指腸の壁内血腫と外傷性膵炎が併発することは決して稀ではなく,剖検の際に両者が確認されることもしばしばである28,29).膵仮性嚢胞の評価には腹部CTも適しており,嚢胞の場所,大きさ,範囲について詳細に評価を行うことが可能30)である.

肝臓

肝損傷は,臓器正中部位(左葉,尾状葉)に生じることが多く31,32),逆に右葉の損傷は,事故による肝損傷の際に認められることが多い.画像検査が進歩するとともに,被虐待児において肝損傷が存在することが幅広く認知されるようになっている.

1. 腹部単純X線写真

腹腔内に大量の出血が認められた場合,腹部単純X線写真でも肝損傷の可能性を疑うことが可能であるが,臨床的に腹腔内出血が疑われる際には速やかに他の検査の併用を行うべきである.

2. 超音波検査

肉眼的に確認可能な程度の実質損傷や被膜下出血であれば,腹部超音波検査で診断することも可能である.肝の血腫は超音波検査で急性期には高エコーを呈し,数日以内に低~無エコーとなり,最終的には石灰化を認めるようになる.胆嚢周囲の液体貯留は,超音波検査では胆嚢縁の周囲の低エコー領域として確認される.

3. CT

肝損傷の確定診断に広く用いられている.肝裂傷は線状低吸収域や不連続性の低吸収域として確認されるが,血腫を併発することもある(Fig. 3).これは肝障害を示唆する唯一のCT所見ともなりうるが,特異所見というわけではなく,また必ずしも門脈周囲の出血を示唆するわけでもない.広汎に肝損傷をきたした場合には,より重篤な出血をきたしやすい.胆嚢周囲の液体貯留は,造影効果を示す肝実質と胆嚢との間の中間的な吸収値を示す領域として確認される.下部肋骨骨折は,単純X線写真で通常は診断可能であるが,症例によってはCTの三次元再構成像を作成することで,初めて診断されることもある.

Fig. 3 

腹部CT 7か月 女児 肝損傷

肝右葉に複数の線状,楕円形の低吸収域が認められる.

おわりに

最後に内臓損傷と鑑別を要する病態について述べる.骨折においては虐待に特異的とされる所見もあり,画像所見の信頼性は高い.一方で腹部損傷の多くは,画像所見のみからその原因を特異的に推察することは困難である.十二指腸血腫は,乳幼児の虐待に特異的とされる所見ではあるが,内視鏡や生検後にも認めうる.虫垂炎穿孔後の炎症性変化と外傷性の腸間膜損傷もまた,CT上鑑別することが困難である.心肺蘇生術後に稀に消化管損傷,気胸,肝損傷を認めることがあるが,それらと同部位の虐待による損傷とは画像上も剖検上も類似しており,その鑑別は困難である33).血液腫瘍にともなう肝臓,脾臓,皮膚,骨の変化は,時に虐待による臓器損傷と酷似することがある34).事故にともなう会陰部損傷も,性虐待の際の損傷所見に類似する.あくまでも画像所見と臨床経過,血液検査所見などを総合的に判断することが重要と考えられる.

文献
 
© 2020 Japanese Society of Pediatric Radiology
feedback
Top