2020 Volume 36 Issue 2 Pages 123-130
背景:血管輪とは,気管・食道を圧迫する先天性の血管異常である.近年,胎児エコーの発達に伴って診断数は増加している一方,血管輪を正確に診断することは容易ではない.今回,我々の経験した血管輪症例の画像診断,臨床転帰,血管輪の管理について検討した.
方法:胎児エコーで血管輪と診断され,出生後造影CTを撮影した4名の患者について後方視的に検討した.
結果:胎児エコー検査で,4例のうち1例は右大動脈弓・左上腕骨動脈・左動脈管,他の3例は右大動脈弓・左鎖骨下動脈異常・左動脈管による血管輪と診断された.新生児期には全例無症状であった.右大動脈弓・左上腕骨動脈・左動脈管による血管輪と診断された患者は生後1か月時に,右大動脈弓・左鎖骨下動脈異常・左動脈管による血管輪と診断された患者のうち1人は生後4か月にそれぞれウイルス感染に伴う喘鳴症状を認めた.造影CTの結果,胎児エコーで右大動脈弓・左上腕骨動脈・左動脈管による血管輪と診断された患者は重複大動脈弓であったことが確認され,右大動脈弓・左鎖骨下動脈異常・左動脈管による血管輪と診断されていたすべての患者にKommerell憩室が認められた.症状のあった2名は外科手術を受け,症状は改善した.
結論:胎児エコー検査は血管輪のスクリーニングに有効な方法であるが,血管構造を正確に評価することが困難な症例もある.そのような場合,造影CTにより詳細な情報を得ることができる.特に,胎児エコー検査で重複大動脈弓の可能性が除外できない場合には,造影CTを撮影するべきである. 無症状の血管輪を胎児エコーで出生前診断することで,生後,症状が出たときに早期に治療を行うことができる.
Background: Vascular rings are congenital vascular anomalies that encircle and compress the trachea and esophagus. They have been increasingly detected by prenatal sonography in recent years. However, it is sometimes difficult to detect them accurately. We review the diagnostic imaging, clinical outcomes and management of our experience with vascular rings.
Methods: Four patients with vascular rings were identified by prenatal sonography, and enhanced-computed tomography (CT) was used for further investigation after their birth. We retrospectively studied these 4 cases.
Results: One patient was diagnosed with a right aortic arch, left brachiocephalic artery and left ductus arteriosus (RAA·LBCA·LDA), and the others were diagnosed with a right aortic arch, aberrant left subclavian artery and left ductus arteriosus (RAA·ALSA·LDA) by prenatal sonography. All patients were asymptomatic in the neonatal period. The patient with RAA·LBCA·LDA and one of the patients with RAA·ALSA·LDA had episodes of stridor associated with viral infection at the age of 1 month and 4 months, respectively. Enhanced-CT revealed a double aortic arch in the patient with RAA·LBCA·LDA and Kommerell diverticulum in all the patients with RAA·ALSA·LDA. Two patients with symptoms underwent surgical treatment, and their symptoms improved.
Conclusion: Prenatal sonography is an effective screening method for vascular rings but evaluating vascular structures accurately can be difficult in some cases. In such cases, enhanced-CT can provide detailed information. In particular, enhanced-CT should be performed if the possibility of DAA cannot be excluded by prenatal sonography. Making a diagnosis of asymptomatic vascular rings by prenatal sonography can provide treatment early when they become symptomatic.
血管輪とは,大動脈弓やその分枝が気管,食道を取り囲み,それらを圧迫することにより症状を認める解剖学的先天性疾患であり,典型例は新生児期から乳幼児期に喘鳴・嚥下障害などの症状で発症し,心エコー・造影CTなどで診断される1).近年は,胎児エコーの普及に伴い,出生前に胎児診断される症例も増加しつつある2)が,エコーのみでは詳細な診断が困難な症例も存在する3,4).
今回,我々の施設において,2012年4月以降,胎児エコーにより4例の血管輪を胎児診断し,出生後に造影CTを撮影した.これらの4例の診断過程と臨床経過を検討し,画像診断としての胎児エコー・造影CTの特徴と有用性を明らかにし,血管輪の管理方法を考察することを目的として後方視的に検討した.
対象は,当院で2012年から2018年の間に胎児エコーで血管輪と胎児診断した4例で,全例が出生後に造影CTを撮影した.
診療録と画像データベースより,1.胎児診断と出生までの経過,2.出生時診断とその後の経過,3.造影CT診断と転帰について後方視的に調査検討した.
症例/性別 | 症例1/男 | 症例2/男 | 症例3/女 | 症例4/男 |
---|---|---|---|---|
胎児エコー診断(診断時在胎週数) | RAA・LBCA・LDA(29) | RAA・ALSA・LDA(34) | RAA・ALSA・LDA(30) | RAA・ALSA・LDA(27) |
症状(出現月齢) | 喘鳴(1)(10) | 喘鳴(4) | なし | なし |
CT診断(時期) | DAA(生後10か月) | RAA・ALSA・LDA・Kommerell憩室(生後4か月) | RAA・ALSA・LDA・Kommerell憩室 (日齢1) |
RAA・ALSA・LDA・Kommerell憩室 (日齢5) |
治療(実施月齢) | 左大動脈弓離断術・ 動脈管索切除術(11) | Kommerell憩室切除術・左鎖骨下動脈転位再建術(9) | なし | なし |
最終転帰(観察期間) | 喘鳴残存(2歳4か月) | 無症状(1歳7か月) | 無症状(9か月) | 無症状(6歳2か月) |
ALSA:左鎖骨下動脈起始異常,DAA:重複大動脈弓,LBCA:左腕頭動脈,LDA:左動脈管,RAA:右大動脈弓
4例は産婦人科でのスクリーニング検査において血管輪疑いとして小児科紹介され,在胎27~34週(中央値:29.5週)で胎児エコーを施行した.胎児診断は,症例1が右大動脈弓・左腕頭動脈・左動脈管(right aortic arch, left brachiocephalic artery, left ductus arteriosus; RAA·LBCA·LDA),症例2,3,4は右大動脈弓・左鎖骨下動脈起始異常・左動脈管(right aortic arch, aberrant left subclavian artery, left ductus arteriosus; RAA·ALSA·LDA)であった.この時点で保護者には,血管輪の可能性と,出生後に呼吸・嚥下障害などが生じるリスクに関して十分な説明を行った.妊娠経過は良好で,分娩は生直後の呼吸障害出現に備えて,小児科医立会いの下で行い,症例2は帝王切開既往のため帝王切開で出生した.
2. 出生時診断とその後の経過出生直後の心エコーでは,全例胎児診断と同様と診断した.出生後,特に症状は認めなかったため,症例1~4においてそれぞれ,5,7,7,9日間の経過観察の後に退院した.今後出現し得る喘鳴・呼吸苦・嚥下障害・嘔吐などの症状に再度注意喚起し,経過観察とした.症例1は生後1か月と10か月,症例2は生後4か月で喘鳴が出現したが,症例3,4は無症状で経過した.
3. 造影CT診断と転帰症例1,2はそれぞれ生後10か月,4か月で造影CTを撮影した.造影CTにより,症例1は重複大動脈が判明し,生後11か月で左大動脈弓離断術,動脈管索離断術を行った.症例2はKommerell憩室が気管分岐部を左後方から圧迫しており,生後9か月でKommerell憩室切除術,左鎖骨下動脈転位再建術を行った.症例3,4は生後無症状であったが,出生後早期に撮影した造影CTでともに左鎖骨下動脈起始部にKommerell憩室を認めたが,この部位が気管に直接圧迫する様子は見られなかった.症例1は現在もわずかに感冒時の喘鳴が残存しているが,症例2~4に関しては現在経過観察中(9か月~6年2か月)であるが,症状の出現は認めていない.
在胎29週に当院産婦人科での胎児エコーで血管輪疑いと診断され,当科に紹介された.胎児エコー(Fig. 1)では,大動脈弓は気管右側を走行する右大動脈弓,第一分枝は左腕頭動脈で気管左側を走行,動脈管は太く,気管左側を通り気管背側で大動脈と合流し,気管・食道を取り囲んでいた.一方,出生後造影CTで判明した左腕頭動脈と下行大動脈の接続をこの時点では明確にできず,O-shape,9-shapeは確認されず,右大動脈弓と動脈管の位置関係からU-shape像を認めたことから,右大動脈弓・左腕頭動脈・左動脈管による血管輪と胎児診断した.在胎37週4日に普通分娩で出生,男児,出生体重は2,260 gであった.出生後心エコー診断は胎児診断と同様であると診断した.
症例1 在胎29週胎児 胎児エコー検査
胎児エコー検査で,左動脈管と右大動脈弓の中心に気管を認めた(a).
第一分枝は左腕頭動脈を形成し,気管を中心とした左右対称性の大動脈弓の分枝を認めた(b).
新生児期には呼吸障害・嚥下障害はなく,今後の呼吸器症状・嚥下症状の出現に関して十分に両親に説明,経過観察の方針とし,5日間の経過観察の後に退院した.新生児期は著変なく経過したが,生後1か月に感冒罹患時の陥没呼吸および喘鳴症状を認めた.生後10か月時,再度感冒罹患した際に同様の症状が出現したため,血管輪の再評価目的に単純・造影CT(Fig. 2)を撮影した.造影CTでは,胎児エコーで明確にできなかった低形成な左大動脈弓を認め,重複大動脈弓による気管支の圧迫像を認めた.また,単純CT画像との比較で,単純CT・造影CTでともに高輝度な造影効果を伴わない索状構造物を左肺動脈分岐部と左大動脈弓遠位部の間に認め,動脈管の遺残物と考えられた.以上より,重複大動脈弓(double aortic arch; DAA)と診断し,症候性の完全血管輪で外科手術適応と考え,11か月時に他院で左大動脈弓離断術・動脈管索離断術を施行した.
症例1 生後10か月 造影CT 水平断・矢状断画像
生後10か月で撮影した造影CT水平断で,右大動脈弓と低形成な左大動脈弓が気管・食道を取り囲んでおり,重複大動脈弓による血管輪を形成していた(a).また,左大動脈弓の尾側で動脈管の遺残と考えられる石灰化した動脈管索を認めた(b).
矢状断では低形成な左大動脈弓の尾側に石灰化した動脈管索を認めた(c).
※CTDIvol 9.2 mGy,DLP 229.3 mGy/cm
現在,術後1年5か月経過し,日常は無症状で過ごしているが,感冒時の喘鳴症状はわずかに残存し,引き続き経過観察中である.
症例2 在胎31週の胎児在胎31週に近医産婦人科での胎児エコーで血管輪疑いと診断され,在胎34週で小児科紹介された.胎児エコーでは,大動脈弓は気管右側を走行する右動脈弓で,第一分枝は左総頸動脈で気管左側を走行しており,第四分枝が起始異常を伴う左鎖骨下動脈で気管背側の大動脈から分岐していた.動脈管は気管左側を通り気管背側で左鎖骨下動脈起始部と合流し,気道・食道を取り囲み,U-shapeが確認できた.これらから,右大動脈弓・左鎖骨下動脈起始異常・左動脈管による血管輪と胎児診断した.在胎40週0日に普通分娩で出生,男児,出生体重は3,442 gであった.出生後心エコー診断は胎児診断と同様と診断した.新生児期には呼吸・嚥下障害はなく,今後の呼吸器症状・嚥下症状の出現について十分に両親に説明,経過観察の方針とし,7日間の経過観察の後に退院した.退院後,生後4か月で急性細気管支炎に罹患し,呼気性喘鳴に加え,吸気性喘鳴を認めたため,血管輪の症状への関与も考え造影CT(Fig. 3a)を撮影し,3D画像構築(Fig. 3b)を行った.胎児エコーと同様に右大動脈弓・左鎖骨下動脈起始異常を認め,左動脈管は退縮していたが,左鎖骨下動脈起始部に新たにKommerell憩室を認めた.また,気管はKommerell憩室により左後方から気管分岐部で圧迫されていた.生後9か月に待機的に他院でKommerell憩室切除術,左鎖骨下動脈を左総頸動脈に吻合する左鎖骨下動脈転位再建術を施行した.術後より喘鳴は消失し,現在,術後10か月で経過観察中である.
症例2 生後4か月 造影CT 水平断,造影CT 3D構築画像
生後4か月で撮影した造影CT水平断で,気管・食道の後方で下行大動脈から分枝する左鎖骨下動脈起始異常を認め,その起始部にKommerell憩室を認めた(a).同CTの3D構築画像では,起始部のKommerell憩室をより鮮明に確認できた(b).
※CTDIvol 11.5 mGy,DLP 345 mGy/cm
胎児エコーは簡便かつ低侵襲に実施でき,血管輪のスクリーニング検査として有用である5–7).胎児エコーのスクリーニング法として,胎児心エコー検査ガイドライン6)に記載されるthree-vessel view,three-vessel trachea viewが一般的である.特に血管輪の診断には,three-vessel viewにおいて,気管を取り囲む大動脈弓と動脈管の像が,左鎖骨下動脈起始異常を伴う右大動脈弓ではU-shape,重複大動脈弓ではO-shapeとして観察されること,重複大動脈弓の場合,three-vessel trachea viewよりやや下方からの断面において右大動脈弓・肺動脈・左動脈管・左総頸動脈起始部により形成される9-shapeが観察されることなどが有用であるとされる3,5,8–10).
これらの方法により血管輪の診断が可能であったとする報告も散見されるが,胎児エコーのみでは診断に難渋することも少なくない.
特に重複大動脈弓のうち70–80%は左大動脈弓が低形成とされているが1),左大動脈弓が低形成な場合,気管を取り囲むO-shape,9-shapeは正確に確認できない場合があり,他の右側大動脈弓による血管輪との鑑別は難しく,エコーのみでの診断は非常に困難とされている3,4).
今回の症例1~4の胎児エコー所見は,いずれも気管を取り囲む大動脈弓と動脈管の像はU-shapeと確認され,症例1は左腕頭動脈を伴う右大動脈弓,症例2~4は左鎖骨下動脈起始異常を伴う右大動脈弓と診断した.しかし,実際には症例1は重複大動脈弓であり,胎児エコー上,左鎖骨下動脈を伴う右大動脈弓と診断した原因について以下のように検討した.症例1は胎児エコーではO-shape,9-shapeともに確認できず,右大動脈弓と左腕頭動脈は確認できたものの,左腕頭動脈の尾側に動脈管が接しており,左腕頭動脈と連続する低形成な左大動脈と動脈管を見分けることは非常に困難であった.その理由として,左内頸動脈・下行大動脈間の左大動脈は細く,そのすぐ尾側に非常に太い動脈管が並行していた.すなわち,①両血管の位置のずれが非常にわずかであった,②さらに並行して走行していた,という2つの原因により,低形成な左大動脈弓と太い動脈管を見分けるエコー操作が困難であったため,と考えられた.
左大動脈が低形成な重複大動脈弓の診断には,MRI・CTで左右の総頸動脈・鎖骨下動脈が気管に対して左右対称に分枝する所見が診断に有用とされている11).また,左腕頭動脈を伴う右大動脈弓では,動脈管は左腕頭動脈に接続することが多く,下行大動脈に接続することは稀とされている12).本症例1を後方視的に検討したところ,胎児エコー(Fig. 1b)で左右の総頸動脈・鎖骨下動脈は気管に対して対称に分枝した断面を捉えており,重複大動脈弓の特徴を有していた.また,胎位の関係から動脈管と大動脈弓との接続部は不鮮明であったが,左腕頭動脈であるにも関わらず動脈管が気管背側で下行大動脈と合流しており,重複大動脈弓を疑うことが可能であったと考えている.これら2点は左大動脈が低形成な重複大動脈弓と,左腕頭動脈を伴う右大動脈弓との鑑別の重要なポイントと考えられた.
2. 造影CTの有用性胎児エコーのみで診断が困難と考えられる血管輪に関しては,造影CT検査が有用であると報告されている13–15).特に出生後早期,具体的には動脈管閉鎖前に撮影することで,動脈管の走行を確認することができる.本症例1では動脈管の石灰化を認めたため,その存在位置を予測できたが,乳児における動脈管の石灰化の頻度は少なく16),動脈管は出生後索状化すると造影効果が失われるため,その存在し得た位置を予測することは困難であり,気道・食道との位置関係も不明となる17).
我々の症例では,造影CTにより症例1では左大動脈が低形成な重複大動脈弓が,症例2ではKommerell憩室による気管の圧迫が明らかになった.また,症例3,4においても気管の圧迫像を認めない無症候性のKommerell憩室が明らかになった.以上のように胎児エコーのみでは不十分な部分の把握に造影CTは有用であったと考えられた.
Kommerell憩室と症状の関係の報告は限られるが,Backerら18)はKommerell憩室の径が左鎖骨下動脈の径の1.5倍以上の大きさであれば呼吸症状を来しやすい,と述べている.本検討において,症例2は生直後無症候性であったが,生後4か月より症候性となり,症例3,4は生来無症状であった.
症例2と症例3,4の造影CT画像を比較したところ,Kommerell憩室の最大径は,症例2~4でそれぞれ4.2 mm,4.0 mm,4.1 mmと差は認めず,いずれも左鎖骨下動脈径の1.5倍以下であった.一方,大動脈との関連に注目してみると,症例3のみ左下行大動脈であり,症例2,4は右下行大動脈であった.また,症例2は右下行大動脈が身体の正中付近を走行し,症例3,4と比べ大動脈弓部,左鎖骨下動脈起始部,Kommerell憩室が,いずれも気管分岐部の近くに位置していた.Kommerell憩室の大きさが同程度であるにも関わらず,症例2のみ症状を認めた理由として,生理的狭窄部である気管分岐部付近に大動脈弓・左鎖骨下動脈起始部・Kommerell憩室が存在し,気管を圧迫していたことが一因と推察された.しかし,本検討における3例のみで結論づけることは困難であり,更なる症例の比較・検討が必要と考えられる.また,本検討で留意すべき点として症例1,2は症状出現時に造影CTを撮影した一方,症例3,4は生直後に造影CTを撮影しており,撮影時期に違いがある点が挙げられる.特に動脈管が退縮し十分に時間が経過した時期と比べて,生直後は,動脈管の名残としてKommerell憩室がより太く残存している可能性や,大血管・気管の位置関係が異なる可能性があり,両者を単純に比較することは困難である.
当院では胎児エコーで血管輪が疑われた場合,重複大動脈弓の否定が完全にできない点,退院後の症状発症時に備えて動脈管閉鎖前の解剖学的情報を把握しておくことが肝要であると考えられる点の2点より,早期に造影CTを撮影しており,実際に症例3,4においては早期の造影CTを撮影した.(査読A先生(7))塩野らの報告3)でも,胎児エコーで血管輪が疑われた症例の多くで動脈管閉鎖前の生後早期に造影CTが施行されており,重複大動脈弓を完全に否定することが難しい状況では,現実的な対応として報告されている.
3. 血管輪を胎児診断する意義胎児エコーの普及に伴い,血管輪の胎児診断例は増加傾向にある.Evansら19)は同一地域において1990–2015年の25年間に血管輪と診断した92例を後方視的に検討し,胎児エコー導入後の2004年以降,有意な差を持って診断例が増加し,特に2013–2015年は血管輪と診断されたうち70%(14/20)が胎児診断によるものであったと報告した.本邦では川滝ら20)が,2005年以降,産科でのスクリーニング検査の胎児エコーによる先天性心疾患の胎児診断数の増加を報告している.本検討における4例ともが産科でのスクリーニング検査から当科紹介となったように,今後も産科における胎児エコーの普及とともに血管輪の胎児診断例はさらに増加すると考えられる.
また胎児診断の増加に伴って,無症候性の血管輪症例も今後増加していくと考えられる.胎児診断期以前の症候性の血管輪に関しては,比較的症状の出やすい重複大動脈弓と,症状の出難い,左鎖骨下動脈起始異常を伴う右大動脈弓は,ほぼ半数ずつであったとされている2)一方,胎児診断された血管輪に関しては,その多くが後者であったとされている3,21).後者の呼吸器合併症の頻度は10%程度3)と,多くは無症候性であることからも,無症候性の血管輪は今後増加すると考えられる.
血管輪は,実臨床においては症状出現から診断まで数か月以上かかることが多く,齋藤ら15)は,重複大動脈弓11例を後方視的に検討し,症状発症から診断までの期間の中央値は1年9か月であったと報告している.本症例において,症例1,2は出生時無症状であったものの,血管輪を胎児診断していたことによって,注意深い経過観察が可能であった.ゆえに症状出現時に早期発見が可能であり,造影CTにより詳細な解剖学的情報を把握することで,スムーズに治療介入ができたと考えられる.また,症例3,4に関しても,現在経過観察中であり,今後症状が発症した際も同様に早期に治療介入が出来ると考えられる.
血管輪が胎児診断されはじめたのは2000年代前半以降で,現在もその数は増加傾向にあり,それに伴って,今後無症候性の血管輪症例も増加していくと考えられる.本症例1,2に示されるように,血管輪を胎児診断することは,例え出生時無症状であったとしても,症状出現時に早期発見し治療介入することができるようになるという点で意義深いものと考えられる.
今回我々は,胎児エコー検査で血管輪を指摘された血管輪の4例を経験し,その確定診断に造影CTを撮影した.血管輪のスクリーニング検査には胎児エコー検査が有用であったが,エコーのみで詳細な病型診断が困難な場合は,造影CTが有用であると考えられた.特に右大動脈弓と左腕頭動脈に下行大動脈から合流する左動脈管を認める血管輪に関しては,重複大動脈弓の除外が困難であり,造影CTを撮影して確実に解剖学的情報を把握すべきであると考えられた.血管輪はたとえ出生時無症状であっても症候性となり得る疾患であり,症状出現時,早期に診断・治療が行えるという点において,無症候性の血管輪症例を胎児診断することは重要であると考えられた.
本症例報告はヘルシンキ宣言に則り,患者のインフォームド・コンセントを取得して行い,当所属施設の倫理委員会の承認を得た.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.