Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
Two cases of fidget spinner component ingestion in school-age children
Atsushi Suzuki Shigeko KuwashimaShotaro MatsuderaTakashi TsuchiokaYasushi Kaji
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2020 Volume 36 Issue 2 Pages 137-141

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要旨

ハンドスピナーは主に学童を対象とした玩具で,2017年頃から世界的に普及している.普及に伴い部品の誤飲が報告され,問題になっている.今回2例を経験したので報告する.

1例目は7歳女児,既往にTurner症候群をもつ.ハンドスピナー部品誤飲を母が目撃し来院.無症状かつ腹部単純X線写真で異物は胃内のため経過観察とした.しかし異物は1か月以上胃に停留したため,内視鏡的摘出施行となった.2例目は7歳男児,生来健康.ハンドスピナー部品のボタン電池のようなものを誤飲した後から腹痛を訴えたため来院.腹部単純X線写真で異物が小腸内であることを確認し,来院時症状軽快していたため経過観察した.

小児の異物誤飲は低年齢が好発で,多くは経過観察で対処可能であるが,ハンドスピナー部品誤飲は好発年齢が高く,内視鏡的摘出を要する率が高いとされている.病歴聴取より診断は比較的容易だが,長期停滞やボタン電池が含まれるため注意を要する.

Abstract

Fidget spinners, handheld toys designed to spin freely in one’s grasp, have become an entertainment source for consumers of all ages, especially school-age children. Fidget spinner component ingestion is frequent and requires endoscopic intervention at a higher rate than other foreign body ingestion. Toy construction may be inadequate to prevent fidget spinner fracture or disassembly and subsequent toy component ingestion in children. The majority of the fidget spinner components are identified radiographically. Radiographs may identify the foreign body location and complications, such as obstruction or perforation. Radiolucent components cannot be radiographically identified. Damage can occur if a button battery is in the esophagus. We report two patients with fidget spinner component ingestion to describe patient presentations and radiographic appearance. Both the patients were radiographically identified. One patient underwent endoscopy one month after fidget spinner component ingestion. Clinicians and radiologists should consider fidget spinners as one of the many varieties of toy that have a potential for ingestion or aspiration.

はじめに

ハンドスピナー(fidget spinner)は中央の軸受けの部品を掴みながら,そのまわりの羽根のような部品を回転させて遊ぶ学童向けの玩具で,2017年頃より世界的に普及した.海外では一時「ADHDの子供に対する非薬物的治療法」として宣伝された.しかし一方で,ハンドスピナーの破損・分解により生じた小さな部品の誤飲が報告され,米国では消費者製品安全委員会(Consumer Product Safety Commission: CPSC)が注意喚起を促すなど大きな問題となっている.今回,学童のハンドスピナー部品誤飲の2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例1は7歳の女児.既往歴にTurner症候群,新生児仮死がある.家族歴に特記事項なし.軽度の精神・運動発達遅滞があり,経口摂取は可能であるが食事は主に経管栄養で行っている.3日前にハンドスピナー部品の誤飲を母親が目撃するも症状ないため経過観察していたが,部品の排泄がないため当院小児科受診となった.初診時の腹部立位単純X線写真では胃前庭部に金属製の異物を認めた(Fig. 1a).穿孔やイレウスを疑う所見は認められず経過観察とした.約1か月後の腹部立位X線写真でも異物が胃内に停滞していた(Fig. 1b).そのため,全身麻酔下で内視鏡的摘出術が施行された.摘出時,異物は胃前庭部に認められ,胃粘膜に損傷や穿孔の所見はなかった(Fig. 1c).摘出された異物は金属製でベアリングと思われる突起状構造を有しており,大きさは直径21 mmであった(Fig. 1d).摘出後の経過は良好で,合併症等なく手術翌日に退院となった.

Fig. 1 

a:誤飲後3日の腹部立位単純X線写真.異物は胃前庭部に認められ,軸の部分と思われる突起を有している(矢印).b:誤飲後36日の腹部立位単純X線写真.異物は胃内から動かず,前庭部付近に停滞している(矢印).c:内視鏡的摘出施行時の写真.異物は胃前庭部に認められたが,潰瘍やびらんの形成はみられない.d:摘出された異物.金属製で長径は21 mmであった.

症例2は7歳男児.既往歴や家族歴に特記事項なく,生来健康.ハンドスピナーで遊んでいるうち,部品のボタン電池のようなものを誤飲したのを兄が目撃した.誤飲後から腹痛を訴えたため当院夜間救急外来を受診した.病院到着時,症状は消失していた.胸腹部立位単純X線写真で異物は小腸に認められた(Fig. 2a).穿孔やイレウスの所見はないため経過観察とした.翌日,昼食時に再度腹痛の訴えがあり当院再受診.来院時には症状消失していた.胸腹部立位単純X線写真で異物は上行結腸に移動していたため,経過観察継続とした(Fig. 2b).症状あれば再診指示としたが,その後当院受診はなく,自然排泄されたものと思われる.そのため異物がボタン電池であったかは確認できなかった.

Fig. 2 

a:誤飲当日の胸腹部立位単純X線写真.ボタン電池と思われる高吸収の異物(画像での測定上は長径14 mm)が小腸内に認められる(矢印).消化管穿孔を示唆するfree airはみられない.b:誤飲翌日の腹部立位単純X線写真.異物は小腸から上行結腸へ移動している(矢印).

考察

小児における異物誤飲の好発年齢は3歳未満である.厚生労働省の2004年の調査では誤飲する異物はタバコが最多で,次いで医薬品や硬貨などが多いとされている.多くは無症状で経過するため経過観察が基本であるが,食道に停滞する場合や,消化管穿孔のリスクのある鋭利な異物,腐食性の強いバッテリーなどでは摘出が検討される.

ハンドスピナーは中央の軸受けの部分を指で持ち,羽根(多くの製品では3枚)を回転させて遊ぶ玩具であり,主に学童を対象としている.2017年頃から世界的に流行した.この流行の背景に「ADHDに対する注意力向上に寄与する非薬物的療法」とされたことがあるが,現在ではその効果は証明されておらず,有用性に関しては疑問がある1)

Sammerら2)のハンドスピナー部品誤飲に関する報告では,ハンドスピナー部品誤飲の特徴として,好発年齢が高く(ハンドスピナー7.1歳vs他の一般異物4.0歳),内視鏡的摘出となる割合が高い(ハンドスピナー5/10例vs 54/383例)としている.今回の2例も7歳と,通常の誤飲好発年齢よりも高かった.好発年齢が高い理由として,この玩具の対象年齢が6歳以上の学童対象であることが大きいと考えられる.今回の2例のうち1例で内視鏡的摘出が施行された.内視鏡的摘出が高率となる理由の明確な根拠の報告はない.Sammerらの報告2)における摘出術施行となった異物の部位の内訳であるが,食道内は全例(3/3例),胃内は半数(2/4例)であった.胃の摘出2例のうち1例は11日の停滞(もう1例はバッテリーの誤飲)であった.当院の症例1は約1か月の停滞による摘出であった.胃に停滞が起きやすい原因として,破損や分解して小さくなった部品の辺縁や突起が胃にはまりこみやすくなり,停滞が起きやすいために高い摘出率となっている可能性がある.Tipnisら3)はハンドスピナーの軸受け部品が胃壁にはまりこみ内視鏡的摘出を施行した症例を報告している.周囲には潰瘍やびらん形成が認められた.小児一般異物誤飲での食道停滞の割合は20%程度といわれている4).Sammerらはハンドスピナーの食道異物は10例中3例とし,食道異物が多いとはいえない.

小児異物誤飲は目撃者や本人への問診より病歴が明らかである場合が多く4),関係者への詳細な病歴聴取が診断に重要である.特にハンドスピナー部品誤飲では年齢が高く,本人が誤飲部品の形状や,誤飲からの時間などを説明可能な場合が多い2).また,素材としてはチタン・アルミ・鉄・亜鉛合金やステンレスなどのX線非透過性素材が多く,異物の有無,部位,合併症の有無に関し胸腹部単純X線写真が有用である.しかしハンドスピナーの部品にはX線透過性素材のプラスチックやABS樹脂が使用されているとのこともあるため,素材によって偽陰性になることに注意が必要である2).誤飲の画像診断時には,製品のパッケージや残りの部品から,素材を確認することが必要である.

治療方針に関しては他の小児異物誤飲と同様で,食道異物や鋭利なものの異物では摘出術の適応となる.ボタン電池を含む部品が食道に停滞し粘膜損傷や縦隔炎を発症した症例報告や5,6),ボタン型リチウム電池の誤飲報告もある.ボタン型リチウム電池は通常のボタン電池よりも外径・起電力ともに約2倍であるため食道停滞のリスクが高く,また短時間で粘膜損傷を起こす可能性がある7).それ以外の胃以遠の異物は経過観察が基本である.

ハンドスピナーは約6–8 cmの大きさであり,そのままでは誤飲は起こらない.破損や分解により子供が飲み込める大きさの部品になり,誤飲が起こる.わが国の国民生活センターが行ったハンドスピナー(国内流通90銘柄)に関する調査によると,138 cmの高さからの落下で容易に壊れ耐久性に問題のある商品(19%)や,日本語での対象年齢の記載がない(34%)あるいは誤飲等の注意の記載がない(50%)商品が数多く存在することが呈示されている.このような現状を鑑みて,米国のCPSCから製造側に対しては破損・分解やその他の事故が起きにくい安全性の高い製品の製造に関するガイドラインが提唱されている.同時に,CPSCやわが国の国民生活センターから,消費者に対しては部品の誤飲や窒息などの事故が起きうるという注意喚起がなされている.

我々放射線科医は,学童が好発年齢であるハンドスピナー部品誤飲の素材による臨床的特徴と画像所見を理解し,早期診断や適切な治療方針の決定に貢献すべきである.

結語

画像診断で確定診断した,学童のハンドスピナー部品誤飲2例を経験した.玩具の破損・分解などによる誤飲や窒息,消化管損傷の報告もあり,学童以後も注意が必要であった.

 

なお,この内容は第55回日本小児放射線学会学術集会にて報告した.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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