Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
A case of Kawasaki disease in which acute and convalescent MRI were useful for diagnosing the cause of arthritis and deciding the treatment strategy
Hisataka NakazakiSatsuki NakanoYumi TakizawaKazane MizunoMisa HondaGoro SasakiYuko KobashiHiroyuki Fukushima
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2020 Volume 36 Issue 2 Pages 142-146

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要旨

ステロイド薬を含む治療を行っていた川崎病患者が,ステロイド薬の中止直後に股関節と膝関節の痛みにより歩行できなくなった.MRIにより,両側股関節に炎症が存在することに加え,大腿骨頭壊死を認めないこと,化膿性股関節炎の可能性が低いことが明らかとなり,安全にステロイド薬を再開することができた.ステロイド薬の再開により関節症状は速やかに軽快した.ステロイド薬の中止後6か月で再検したMRIでは関節炎の改善が確認され,若年性特発性関節炎などの慢性炎症性疾患は否定的であり,本例の関節炎は川崎病の随伴症状であったと判断した.急性期と回復期のMRIは川崎病患者に生じた関節炎の原因診断と治療方針の決定に有用であると思われる.

Abstract

A patient with Kawasaki disease who had been treated with steroids was unable to walk because of pain in the hip and knee joints immediately after their discontinuation. An MRI examination revealed the presence of inflammation in both hip joints, no necrosis of the femoral head, and a low possibility of purulent hip arthritis. Thus, steroid treatment was safely resumed. The joint symptoms were promptly alleviated thereafter. A second MRI examination performed 6 months after the initial discontinuation of the steroid drug showed an improvement in the arthritis and the absence of chronic inflammatory diseases such as juvenile idiopathic arthritis. The arthritis in this case was determined to be a concomitant manifestation of Kawasaki disease. Acute and convalescent MRI examinations are useful for diagnosing the cause of arthritis in patients with Kawasaki disease and for determining the optimal treatment strategy.

はじめに

川崎病は原因不明の疾患であり,全身の血管炎がその本態といわれている.心血管障害として冠動脈病変が重視されるが,関節炎,無菌性髄膜炎や脳炎・脳症などの中枢神経疾患,胆嚢腫大など,多臓器にわたる随伴症状を生じることも知られている1).川崎病患者に関節炎を認めた場合,多くは川崎病の随伴症状と考えられるが,ステロイド薬の投与や中止を含む治療方針の決定においては,大腿骨頭壊死,化膿性関節炎や若年性特発性関節炎などの鑑別が重要となる.

今回,急性期と回復期に行ったMRIが関節炎の原因診断と治療方針の決定に有用であった川崎病症例を経験したので,文献的な考察を加えて報告する.

症例

症例:3歳,男児.

主訴:発熱.

既往歴:特記すべき事項なし.

家族歴:川崎病なし,関節炎を生じる自己免疫性疾患なし.

現病歴:来院2日前に発熱し,前日から腹痛,頸部痛を伴い,当院に受診した.両側眼球結膜の充血など川崎病の主要症状を認め,川崎病を疑った.

入院時現症:身長95.7 cm(−0.90 SD),体重13.5 kg(−0.97 SD),体温39.7°C,心拍数178回/分,呼吸数42回/分,血圧98/56 mmHg.活気不良.項部硬直なし.両側眼球結膜の充血あり.咽頭の発赤あり・白苔付着なし.口唇の紅潮あり.両側頸部リンパ節腫脹あり,同部位に圧痛あり.呼吸音清.心音整,雑音なし.腹部軟,腸蠕動音正常,圧痛なし.手足の硬性浮腫あり,手掌足底に紅斑あり.BCG接種部位の発赤なし.臀部と背部に発疹あり.

入院時検査所見:血液検査(Table 1)では好中球優位の白血球数の増多,高ビリルビン血症,肝逸脱酵素の上昇,低Na血症とCRPの上昇を認め,免疫グロブリン抵抗性の川崎病を示唆する所見であった.心臓超音波検査では冠動脈病変を認めなかった.

Table 1  入院時検査所見
​【血算】 ​【生化学】
​WBC 27,900​/μl ​TP 6.3​ g/dl ​Na 128​ mEq/L
​Neutro 95.6​% ​Alb 3.3​ g/dl ​K 4.2​ mEq/L
​Lymph 2.1​% ​T-Bil 5.6​ mg/dl ​Cl 93​ mEq/L
​Hb 12.8​ g/dl ​D-Bil 4.6​ mg/dl ​Ca 9.7​ mg/dl
​Plt 45.3 × 104​/μl ​AST 114​ IU/L ​CRP 11.63​ mg/dl
​ALT 169​ IU/L ​ASO <10​ IU/ml
​【凝固】 ​LDH 254​ IU/L ​ASK <80​倍
​PT-INR 1.42​ ​CK 20​ IU/L
​APTT 40.1​秒 ​UA 8.6​ mg/dl
​fibrinogen 993​ mg/dl ​UN 20.5​ mg/dl
​Cre 0.43​ mg/dl

入院後経過(Fig. 1):川崎病の6つの主要症状を認め,川崎病と診断した.免疫グロブリン療法への抵抗性が予測されたため,入院日(第3病日)より,初回治療として免疫グロブリン大量療法(IVIG),アスピリンに加えてステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン30 mg/kg/day)を行った.一旦解熱したが第5病日に再度発熱したため,IVIGとステロイドパルス療法を追加した.その後も発熱が持続したため,第7病日に3回目のIVIGとステロイドパルス療法を行ったところようやく解熱し,その後は発熱を認めなかった.

Fig. 1 

入院中の経過

IVIG:免疫グロブリン,mPSL:メチルプレドニゾロン,ASA:アスピリン,PSL:プレドニゾロン

ステロイドの後療法としてプレドニゾロン(以下PSL)2 mg/kg/day経静脈投与を行い,第17病日よりPSL 1 mg/kg/dayの経口投与に移行した.第22病日よりPSL 0.5 mg/kg/dayに減量したところ,第23病日に右股関節痛を認めるようになった.さらに,第27病日にPSLを中止したのち第28病日に発熱し,左膝関節痛も訴えて,歩行できなくなった.発熱以外の川崎病の主要症状の再燃は認めなかった.発熱および炎症反応再燃を伴っており,単純性股関節炎は否定的であった.関節症状が川崎病に随伴するものであれば,川崎病の治療を再度強化することにより改善が見込まれるが,ステロイド薬投与を再開するためには大腿骨頭壊死と化膿性関節炎の鑑別が必要と考え,第29病日に鎮静下のMRI(Fig. 2)を行った.

Fig. 2 

関節炎発症時のMRI画像 a:STIR冠状断像,b:造影後脂肪抑制T1強調冠状断像,c:造影後脂肪抑制T1強調横断像(寛骨臼のレベル),d:造影後脂肪抑制T1強調横断像(転子下のレベル)

a:左優位の両側股関節の関節液の貯留(矢印)を認める.両側大腿骨頭に二重線状を示す異常信号域はなく,大腿骨頭壊死は指摘できない.骨髄信号上昇もなく骨髄浮腫は認めない.

b:左優位の両側股関節の滑膜の肥厚と強い増強効果(矢印)を認める.

c,d:両側外閉鎖筋,左恥骨筋の造影効果が見られる.左関節包の造影効果もみられる(矢頭).

STIR冠状断像(Fig. 2a)では,両側股関節に関節液の貯留(左 > 右)を認めた.訴えのあった膝関節に所見は認めなかった.大腿骨頭の二重線状の異常信号域はなく,大腿骨頭壊死は指摘できなかった.また大腿骨頭の骨髄信号上昇もなく骨髄浮腫の所見も認めなかった.造影後脂肪抑制T1強調冠状断像(Fig. 2b)では,左優位の両側股関節の滑膜の肥厚と強い増強効果を認めた.造影後脂肪抑制T1強調横断像(Fig. 2c(寛骨臼のレベル),Fig. 2d(転子下のレベル))で両側の外閉鎖筋・左恥骨筋の造影効果がみられ,股関節の炎症の波及が示唆された.関節包外に膿瘍を示唆する周囲造影効果のある液体貯留がみられず,骨髄浮腫がないこと,また多関節にわたり症状が移動しており,関節の発赤および熱感がないことから化膿性股関節炎は可能性が低いと考えられた.滑膜の肥厚と増強効果および関節液貯留があり,若年性特発性関節炎を否定し得る所見は得られなかった.川崎病に随伴する股関節炎を第一に疑いPSL 2 mg/kg/day経静脈投与を再開した.第31病日には関節痛の改善を認め,歩けるようになった.その後PSLを経口投与に移行し,漸減しても関節症状の再燃がないため,第55病日にPSLの投与を終了した.

その後も長期間にわたり無治療で観察するためには,若年性特発性関節炎などの慢性炎症性疾患を除外することが望ましいと考えた.本人にも,痛いことはしないなど具体的なMRIの検査方法を説明し,MRI検査室を事前に訪問するなどの準備を行ったところ,鎮静なしで検査ができる見通しがたったため,ステロイド薬の中止後6か月でMRIを再検した(Fig. 3).両側股関節には少量の関節液が認められたものの,前回のMRIで指摘されていた外閉鎖筋や恥骨筋の信号異常は認めなかった.関節炎が遷延する慢性疾患は否定的と考え,本症例における関節炎は川崎病の随伴症状であったと判断した.回復期のMRIから1年以上が経過したが,関節炎の再燃を認めていない.

Fig. 3 

関節炎回復期(ステロイド薬中止後6か月)のMRI画像 a:STIR冠状断像,b:STIR横断像

a:両側股関節の関節液貯留が改善している(矢印).

b:両側外閉鎖筋,左恥骨筋の信号異常は指摘できない.

考察

川崎病は,発熱・眼球結膜の充血・口唇や舌の発赤・発疹・四肢末端の変化・非化膿性頸部リンパ節腫脹の6つの主要症状のうち経過中に5症状を呈する場合に診断される疾患である.川崎病患者に関節炎を認めることは珍しくなく,IVIG療法が確立された後も2–12.7%に認められると報告されている2).「川崎病診断の手引き 改訂第6版3)」にも,川崎病を否定しない所見として「関節の疼痛,腫脹」が挙げられており,多くの関節炎は川崎病の随伴症状と考えられる.川崎病患者に生じた関節炎の大部分は川崎病自体の治療の継続あるいは強化により改善すると報告されているが4,5),ステロイド薬を投与する際には化膿性関節炎を考慮する必要があり,すでにステロイド薬を投与している症例に股関節痛を認める場合には大腿骨頭壊死を鑑別することが重要となる.また石丸らは,股関節炎を合併した川崎病症例において,関節炎の重症度の判定と川崎病以外の原因疾患の鑑別にMRIが有用であったと報告している6)

本症例では関節症状の急性期に行ったMRIにより,大腿骨頭壊死を否定し,化膿性関節炎の可能性も低いと判断できたため,安全にステロイド薬の再開することができ,速やかに関節痛や歩行困難を改善することができた.本症例では左膝関節痛の訴えがあったが,MRIでは左膝関節に所見は認められず,股関節の病変であることが確認された.股関節炎やPerthes病などの股関節疾患では,閉鎖神経が関与する関連痛として膝関節や大腿部痛を訴えることがあるといわれており7),川崎病患者が膝や大腿部に疼痛を訴えた際には,股関節炎も考慮して股関節も含めたMRIを行うのがよいと思われる.

後藤らが川崎病の診断基準を満たした後に若年性特発性関節炎と診断した症例を報告しているように8),川崎病患者に認める関節炎が若年性特発性関節炎などの慢性炎症性疾患により生じていることもあり,この場合は継続的な治療を要することが多いため,短期間で川崎病の随伴症状であると決めつけず,長期的な視点で鑑別を進める必要がある.若年性特発性関節炎のMRI所見として,関節液貯留や滑膜の増強効果および肥厚,骨髄浮腫所見が報告されている9).一方で,川崎病の随伴症状である関節炎のMRI所見としても造影MRIで滑膜の増強効果が見られることが報告されており,関節炎の急性期のMRIのみでは川崎病の随伴症状としての関節炎と他の関節炎との鑑別はできないといわれている10)

本症例では関節炎の回復期にもMRIを行うことにより,関節炎は遷延しておらず,若年性特発性関節炎などの慢性炎症性疾患の可能性も低いことがわかり,最終的に関節炎は川崎病の随伴症状であったと判断しえた.

関節炎を生じた川崎病患者において,MRIは大腿骨頭壊死がないことや化膿性股関節炎の可能性が低いことを確認することに寄与し,とくにステロイド薬の開始や継続の可否を判断するうえで有用と思われた.若年性特発性関節炎などの慢性炎症性疾患の鑑別には関節炎の回復期のMRIが一助となり,小児であっても鎮静を要しない場合には積極的に検査を考慮するのがよいと考える.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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