2020 Volume 36 Issue 2 Pages 153-158
可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome; RCVS)は,雷鳴頭痛を特徴とし脳血管に可逆性の分節状攣縮を認める.予後は一般的に良好だが,脳実質障害を合併することもある.今回,筆者らはRCVSに脳梗塞を合併し神経学的後遺症が残存した小児例を経験したので報告する.
患者は13歳男子で,雷鳴頭痛と嘔気,構音障害,左上下肢麻痺で発症した.頭部MRI検査で右淡蒼球から放線冠の一部にかけて急性期脳梗塞を認め,頭部MRA検査や脳血管造影検査で多発分節状の血管壁不整や狭窄を認めたため,脳梗塞を合併したRCVSと診断した.ベラパミルの内服により,頭痛と画像所見は改善したが,左手指の固縮,および感覚障害が残存した.脳梗塞を合併した小児RCVS既報例を検討した結果,男性に多く,多発脳梗塞をきたす傾向があった.
以上から,小児においても雷鳴頭痛を主訴とする小児の鑑別疾患としてRCVSを考慮し,画像検査を繰り返し行うことが重要であると思われた.
Reversible cerebral vasoconstriction syndrome (RCVS) presents neurologically with reversible segmental vasospasms and is characterized primarily by complaints of sudden, severe (‘thunderclap’) headaches. Although disease prognosis is often good, some reports have described poorer outcomes in patients with comorbid stroke or other cerebrovascular injury. Here, we report a pediatric case of RCVS complicated by stroke resulting in lasting neurological sequelae.
A 13-year-old boy suddenly developed severe headaches, vomiting, disordered articulation, and left-sided arm and leg paralysis. Cranial magnetic resonance imaging revealed a cerebral infarction spanning the right globus pallidus to the corona radiata. Cranial magnetic resonance angiography indicated multifocal vascular wall irregularities and stenosis. Cerebral angiography indicated multi-segmental vasoconstriction. RCVS was diagnosed from these findings and clinical course; both improved upon oral verapamil administration, but the patient still experienced left arm rigidity and sensory paralysis.
We examined previously reported cases of RCVS complicated with cerebral infarction; pediatric cases were more likely to be male and to develop multifocal infarctions.
RCVS should be considered in the differential diagnosis of pediatric patients complaining of sudden, severe headaches. Furthermore, clinicians should continue to perform imaging exams regularly while observing patient symptoms and neurological findings.
可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome; RCVS)は,雷鳴頭痛(突然に出現し,1分未満で痛みの強さがピークに達する重度の頭痛)を主訴とし,脳血管に可逆性の分節状攣縮を認める疾患である1).
一般的に予後は良好であるが,今回,筆者らは雷鳴頭痛で発症し脳梗塞を合併した結果,神経学的後遺症を残したRCVSの小児例を経験した.そこで,自験例を含め,既報の小児の脳梗塞合併例から小児期発症のRCVSの臨床的特徴を検討したので報告する.
患者:13歳,男子.
主訴:突然の激しい頭痛と嘔吐.
既往歴:家族歴および内服歴に特記事項なし.
現病歴:入院前日に自宅でダンベルを用いてトレーニングを行っていた.その後,右側頭部に拍動性の激しい頭痛が出現し,嘔吐も認めたため近医を受診した.同医で左上下肢麻痺が出現したため,当院へ救急搬送された.当院到着時,意識清明で血圧は107/53 mmHgだった.左上下肢麻痺も改善しており,また頭部CTでも異常所見を認めなかったため帰宅となった.しかし,翌朝に再度頭痛が出現し,構音障害と左上下肢麻痺を認めたため再受診し,脳血管障害を疑われ入院となった.
入院時現症:血圧100/47 mmHg,心拍数76回/分で整,意識は清明であったが,左鼻唇溝は浅く挺舌も左へ偏位しており,カーテン徴候は右後咽頭が陽性であった.また,構音障害と左上下肢の運動麻痺(徒手筋力検査,manual muscle testing: MMT 5/3),および感覚鈍麻を認めた.
入院時検査所見:末梢血検査,凝固機能検査は正常範囲であったが,生化学検査ではCK 1,955 U/L(CK-MM; 98.8%),尿酸値8.1 mg/dlが高値であった.頭部MRI検査はT1 weighted image(T1WI)で右淡蒼球から放線冠の一部にかけて低信号,T2 weighted image(T2WI)とdiffusion weighted image(DWI)で同部位に高信号が認められ,また同部位でapparent diffusion coefficient(ADC)mapは低下していた.頭部MR angiography(MRA)では右前大脳動脈A1 segmentと右中大脳動脈のM1 segmentおよびM2 segment inferior trunk起始部に血管壁の不整が認められたが,脳動脈瘤や脳動静脈奇形などは認められなかった(Fig. 1).
入院時の頭部MRIおよびMRA所見
a:DWIで右淡蒼球から放線冠の一部にかけて高信号を認めた(矢印).
b:T2WIで同部位に高信号を認めた(矢印).
c:MRAで右前大脳動脈A1 segmentと右中大脳動脈のM1 segmentおよびM2 segmentのinferior-trunk起始部に血管壁の不整を認めた(矢印).
入院後経過:脳梗塞の診断で,エダラボンを主体とした保存的加療を行ったが頭痛は持続し,入院3日目に左上下肢の運動麻痺が増悪した(MMT 5/2).MRIでは右放線冠レベルにおいて入院時より病変が拡大しており,fluid attenuated inversion recovery(FLAIR)でも高信号域を認めた.MRAでは前交通動脈・右中大脳動脈のM1 segmentの壁不整は消失していたが,右中大脳動脈のM2 segmentのinferior-trunk起始部の血管壁不整は残存していた.梗塞後浮腫による頭蓋内圧亢進をきたしていると考え,グリセオールの投与を開始した.その後,頭痛と左上下肢の運動麻痺,感覚鈍麻は徐々に改善し,入院14日目に行ったMRIでは脳浮腫の改善を認めた.しかし,MRAでは右中大脳動脈のM1 segmentに再び血管壁の不整を認め,その末梢血管の描出も不良であったため,脳動脈解離などの脳血管障害との鑑別を目的に入院19日目に脳血管造影を行った.Fig. 2に示すように脳血管造影では右総頸動脈造影で右前大脳動脈のA1 segmentに血管狭窄,右中大脳動脈のM1 segmentに数珠状の血管狭窄を認め,右前大脳動脈皮質枝から中大脳動脈領域への側副血行路の発達と右後大脳動脈皮質枝から脳梁辺縁動脈領域への側副血行路の発達を認めた.
入院後19日目の脳血管造影検査所見
a:右前大脳動脈A1 segmentに血管狭窄,右中大脳動脈のM1 segmentに数珠状狭窄を認めた(矢印).
b:左側脳血管には異常所見を認めなかった.
雷鳴頭痛で発症し可逆的な多発性分節状の血管攣縮をきたしていること,一方で脳動脈瘤や脳動静脈奇形などを認めず,入院後に行った髄液検査も正常所見であったことからRCVSと診断した.血管攣縮抑制のためベラパミルの内服を開始したが,左手指の固縮および感覚障害が残存した.
その後,再び右側頭部から後頭部にかけての痛みが認められたが,MRIで新規病変は認めなかった.また,MRAでも右中大脳動脈起始部の狭窄は認めたが,前回のMRAで見られた右前大脳動脈のA1 segmentの狭窄所見(Fig. 1c)は消失していた.ベラパミルを増量したところ頭痛は改善し,退院56日目に施行したMRAでは右中大脳動脈M1 segmentの壁不整は一部改善するも,狭窄は部分的に残存していた(Fig. 3).発症から約3年が経過した現在まで症状や画像所見の再燃は見られていない.
退院56日後の頭部MRIおよびMRA所見
a,b:DWIおよびT2WIで新規の梗塞像は認めなかったが,陳旧性脳梗塞の所見は残存していた(矢印).
c:MRAで右中大脳動脈M1 segmentの壁不整は一部改善するも,狭窄は部分的に残存していた.(矢印)
RCVSは,雷鳴頭痛で発症し,嘔気・嘔吐や巣症状などを伴う症候群で,頭痛は数日から数週間続く.20~50歳に好発し女性が約2/3を占める1).併存症としては片頭痛を含む頭痛(約40%)や高血圧(約30%)が多く,また妊娠の既往を有する患者(約10%)の頻度も高い2).診断基準として,①脳血管造影,computed tomography angiography(CTA)やMRAで分節性の脳血管攣縮所見を認めること,②脳動脈瘤によるくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage; SAH)が否定されること,③脳脊髄液検査がほぼ正常であること,④突然の激しい頭痛が出現すること,⑤発症後12週以内に脳血管の攣縮が回復すること,という5項目が提唱されている3).病因は明らかではないが,誘因として出産や高血圧,ポルフィリン症,褐色細胞腫,高Ca血症,頸動脈内膜剥離術の他に,血液製剤,化学療法,交感神経作動薬や血管作動薬などが報告されている2–4).脳内合併症に関しては発症時のCT/MRIで55%に脳内病変を認め,最終的には81%に異常を認めたとされているため3),疑わしい症例に対しては積極的に画像検査を反復して行う必要がある.脳内合併症の内訳としてはSAHが30–34%,脳内出血(intracranial hemorrhage; ICH)が12-20%,脳梗塞が6-39%,可逆性後頭葉白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome; PRES)が8-38%とされている2,3).SAHやICH,PRESはRCVSの発症から1週以内に起こることが多いが,脳梗塞は1~2週以内に多い4).予後については90%以上が良好で,致死率は1%未満,再発率も約5%とされている2,3).
一方で小児に関しての報告は少なく,Samanthaらが報告した13例5)の報告が最も多数例のものである.それによれば,85%が男性で,高血圧を伴ったのは23%,脳内合併症はSAHが23%,ICHが15%,脳梗塞が23%であった.また予後を追跡できた11/13例で再発や後遺症は認めなかったとしている.このように小児例も,成人例と同様に多くは予後良好であるが,本症例は脳梗塞を合併し,神経学的後遺症を残した.
そこで,脳梗塞を合併したRCVS症例について本症例と既報例の臨床的特徴を検討したところ,検索し得た範囲で,小児8例(本症例を含む)の誌上報告を確認した(Table 1)5–10).小児例は年齢平均値9.5歳,男性5/8例(63%)と思春期の男児に多かった.また既往歴としては片頭痛が2/8例(25%),肥満・高血圧・全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)・神経芽腫がそれぞれ1/8例(13%),およびB細胞性急性リンパ性白血病が2/8例(25%)に認められた.症状出現の誘因は5/8例(63%)に認められ,スイミング,運動,化学療法(ビンクリスチン静注,シタラビン静注),ステロイドパルス療法であった.また脳梗塞の発症時期は頭痛出現から平均値7.9日で,梗塞病変数は6/8例(75%)が2箇所以上の多発脳梗塞例であった(Table 1)5–10).
文献番号 | 5) | 5) | 6) | 7) | 8) | 9) | 10) | 本症例 |
年齢 | 13 | 12 | 13 | 3 | 7 | 13 | 2 | 13 |
性別 | 男 | 男 | 男 | 女 | 男 | 女 | 女 | 男 |
既往歴 | 肥満,高血圧,片頭痛 | なし | 片頭痛 | 前駆B細胞性ALL | 前駆B細胞性ALL | SLE | 神経芽腫,高血圧 | なし |
内服歴 | 不明 | なし | スマトリプタン | なし | 不明 | mPSL,MMF | なし | なし |
発症要因 | なし | 運動 | 運動,内服 | 化学療法 | 化学療法 | ステロイドパルス | なし | 運動 |
症状 | 反復する後頭部痛 | 右雷鳴頭痛,左上下肢しびれ | 突然の激しい頭痛 | 歩行困難,左下肢感覚鈍麻 | 失明,頭痛,右上下肢の筋力低下 | 雷鳴頭痛,嘔気・嘔吐,右上下肢感覚障害 | 嘔吐,意識障害,強直性間代性痙攣 | 頭痛,嘔吐,左上下肢麻痺 |
身体所見 | 左顔面神経麻痺,構音障害,左下肢の運動麻痺と感覚鈍麻 | 左上下肢感覚鈍麻 | なし | 左下肢運動麻痺と腱反射亢進 | 右上下肢運動麻痺 | 右上下肢感覚障害 | 意識障害 | 左顔面神経麻痺,左上下肢運動麻痺と感覚障害 |
脳梗塞の病日(日) | 4 | 7 | 12 | 5 | 10 | 20 | 3 | 2 |
梗塞領域 | 右頭頂葉に梗塞,前頭葉 | 右視床および右側頭葉(2病巣) | 頭頂葉,後頭葉に多発小梗塞 | 右前頭葉に多発小梗塞 | 多発ラクナ梗塞 | 半卵円中心 | 右前頭葉,両側後頭葉 | 右尾状核から内包後脚にかけての梗塞 |
他の合併症 | なし | 左室肥大,卵円孔開存 | なし | 上部消化管出血 | 急性多巣性白質脳症 | なし | なし | なし |
治療薬 | ベラパミル,アスピリン,ビタミンB2 | アスピリン | アミトリプチリン,アスピリン | ニフェジピン,ヘパリン,硫酸プロタミン | ニモジピン,低分子ヘパリン,シチコリン,アンチトロンビン,新鮮凍結血漿 | ニモジピン | ニカルジピン | エダラボン,グリセオール,ベラパミル |
脳梗塞を合併したRCVS小児例では,思春期男児に多く,また多発脳梗塞例をきたす傾向があった.この理由として思春期男子において分泌量の急増するアンドロゲンやテストステロンの影響があげられる.アンドロゲンは脳血管収縮作用を有するため,血中濃度の増加が脳梗塞に対して増悪因子として働き,多発脳梗塞を起こしやすいものと推測されている5).また,テストステロンも男児の虚血性脳卒中や脳静脈洞血栓症との関連性が示唆されており,凝固能亢進や血小板活性化による機序が考えられている11).今後,RCVSの補助診断やRCVS症例の脳梗塞合併リスクのバイオマーカーとして検討の価値はあるものと思われる.
小児のRCVSは稀であるため,小児科医の認知度が低く,片頭痛などの一次性頭痛として診断されている症例が少なくない.しかし,多発脳梗塞などによって神経学的後遺症を残す可能性のある疾患であるため,突然の激しい頭痛を訴える小児においては本疾患を念頭において診療にあたるべきであると思われた.特に思春期男子の雷鳴頭痛は,RCVSを疑って繰り返しMRIやMRAなどの画像検査を行い早期診断に努めるべきである.診断が確定したら,降圧作用や血管攣縮抑制のためベラパミルなどのCa拮抗薬で速やかに治療を開始する必要がある.
RCVSによる多発脳梗塞で神経学的後遺症を残した小児例を経験した.既報例を含めて小児期のRCVSは思春期男子に多く,多発脳梗塞を合併する症例が多かった.したがって,雷鳴頭痛を訴える思春期の男子においてはRCVSを念頭に置き,繰り返しMRIやMRAなどによる画像検査を行うことが重要であると思われた.
(本人・保護者から論文発表への同意を書面で得た.)
(ベラパミルは本疾患においては適応外であるため,本人および保護者に使用の承諾を得てから投与した.)
本稿の主旨は第214回大阪小児科学会(2017年,大阪)で発表した.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.