Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
Spontaneous regression of osteochondroma: Two case reports
Naoko Matsubara Yoshinobu AkasakaMitsunori KanagakiMarina ShimizuTakeo KatoDaisuke KobayashiHiroyuki Kimura
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2020 Volume 36 Issue 2 Pages 159-163

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要旨

自然退縮を認めた骨軟骨腫の2例を報告する.症例1は12歳女児.左上腕近位の膨隆に気づかれ,当院整形外科を受診.単純X線写真,MRIにて骨軟骨腫と診断された.経過観察の方針となったが,8か月後の単純X線写真で病変はほぼ消失し,診察上も膨隆は消失していた.症例2は16歳男児.左大腿遠位に腫脹,圧痛を認めたため,当院整形外科を受診.単純X線写真,MRIにて周囲軟部組織に炎症性変化を伴う骨腫瘤が確認され,骨軟骨腫の診断となった.保存的治療で経過を見たところ,1年後の単純X線写真で腫瘤の縮小が見られた.

骨軟骨腫は小児期5–15歳頃に発見されることが多い,最も頻度の高い良性骨腫瘍とされるが,症状がなく気づかれないことも多いため正確な頻度は不明で,その自然史も十分に理解されていない.多くは成長とともに発達し骨格の成熟を来すと増大も止まるとされる.骨軟骨腫の自然退縮はこれまでも症例報告が散見され,稀な現象と考えられていたが,骨の成長・変化の著しい成長板閉鎖前後の小児期~青年期に稀ならず認められる可能性があると考えられる.

Abstract

Case 1: A 12-year-old girl consulted our orthopedics department with a chief complaint of a bulge in her proximal left upper arm. X-ray and MRI showed an osteochondroma of the proximal humerus. Repeated X-rays were obtained at 8-month follow up and showed near complete regression of the lesion. Case 2: A 16-year-old boy presented with painful swelling of the left distal thigh. He was diagnosed with osteochondroma by X-ray. MRI showed inflammation around the tumor. He was followed up with conservative treatment. By one year later, the tumor had regressed.

Osteochondromas are the most common benign tumors of bone. Most are discovered at 5–15 years of age. Because many osteochondromas are completely asymptomatic and unrecognized, their true incidence is unknown and the natural history is poorly understood. Their growth usually parallels that of the patient and usually ceases when skeletal maturity is reached. There are some reports about spontaneous regression of osteochondroma and its spontaneous regression is considered a rare phenomenon so far. However, spontaneous regression of osteochondroma may not be a rare phenomenon in childhood and adolescence.

はじめに

骨軟骨腫は主に小児期に発見される,最も頻度の高い良性骨腫瘍である.しかし,症状がなく気づかれないことも多いため正確な頻度は不明で,その自然史も十分には理解されていない.多くは成長とともに発達し骨格の成熟をきたすと増大も止まり,いったん形成された腫瘤は生涯残存するとされているが13),自然退縮した骨軟骨腫の症例報告が散見される49).これまで稀な現象とされてきた骨軟骨腫の自然退縮だが,近年まとまった数のレビューも報告されており9,10),骨の成長・変化の著しい成長板閉鎖前後の小児期~青年期を中心に稀ならず認められる可能性があると考えられる.

今回,我々は自然退縮した骨軟骨腫の2例を経験したため,文献的考察をあわせて報告する.

症例

症例1:12歳,女児

周産期および発育歴:4p欠失症候群,発達遅滞,てんかんで当院小児神経内科に通院中.11歳時にASDにて手術歴あり.

現病歴および経過:左上腕近位の膨隆に気付かれ,当院整形外科を受診.診察では左上腕近位に固い膨隆が認められた.受診時の単純X線写真では左上腕骨近位に骨性隆起を認めた(Fig. 1c, d).MRIでは腫瘤は上腕骨と骨髄で連続しており,表面に脂肪抑制T2強調画像で高信号を呈する軟骨帽と思われる構造が認められた(Fig. 1a, b).診察上他部位に骨病変は指摘されず,単発性の骨軟骨腫と診断され,症状もなかったために経過観察となった.8か月後のフォローアップ単純X線写真では病変は縮小し,ほぼ消失した(Fig. 1e, f).診察でも膨隆は消失していた.

Fig. 1 

(a)受診時 MRI T2強調画像 冠状断 左上腕骨近位に骨髄と連続する広基性の骨腫瘤を認める.(b)受診時 MRI脂肪抑制T2強調画像 軸位断 腫瘤の辺縁には軟骨帽と思われる高信号の構造が認められ,骨軟骨腫と診断された.(c, d)受診時 左上腕単純X線写真(c:側面像,d:正面像)左上腕近位に骨性隆起が認められる.(e, f)フォローアップの8か月後の単純X線写真(e:側面像,f:正面像)では病変は縮小し,ほぼ消失している.

症例2:16歳,男児

周産期および発育歴:特記すべき事項なし.

現病歴および経過:左大腿遠位に腫脹,圧痛が出現したために当院整形外科を受診.単純X線写真にて左大腿骨遠位に有茎性の骨性隆起を認めた(Fig. 2c).MRIでは左大腿骨遠位に骨髄と連続する有茎性の隆起を認めた.脂肪抑制T2強調画像で周囲には液体貯留および軟部組織の腫脹を伴う高信号が認められ,炎症の存在が示唆された(Fig. 2a, b).周囲に滑液包形成および炎症を伴う骨軟骨腫と診断された.この症例も他部位に骨病変を疑う所見はなく,単発性の骨軟骨腫と考えられた.患者本人や家族の希望もあり,保存的治療にて経過観察となった.症状は徐々に軽快し,1年後の単純X線写真では,腫瘤は茎が細くなり,縮小が認められた(Fig. 2d).

Fig. 2 

(a)受診時 MRI T1強調画像 冠状断 左大腿骨遠位に骨髄と連続する有茎性の骨腫瘤を認める.(b)受診時 MRI脂肪抑制T2強調画像 冠状断 腫瘤および周囲軟部組織は高信号を呈し,液体貯留も認められる.滑液包形成および炎症を伴う骨軟骨腫と診断された.(c)受診時単純X線写真.(d)1年後の単純X線写真にて腫瘤は細くなり,全体に縮小している.

考察

骨軟骨腫は最も頻度の高い良性骨腫瘍であり,多くは小児期の5–15歳ごろに本人や親が無痛性の骨腫瘤に気付いて発見される.無症状のことが多く,無症状の場合は気づかれないことも多いため,正確な頻度は不明である1).関節可動域制限のほか,腫瘤周囲の炎症や滑液包形成および出血,病的骨折,近接する血管や神経の圧迫などの症状を伴うこともある.長管骨,特に大腿遠位,上腕骨近位,脛骨近位の骨幹端,骨盤骨に好発する2).有茎性のものから広基性のものまで様々な形態をとる1)

骨軟骨腫は軟骨帽と呼ばれる骨端軟骨と類似した軟骨組織を持つ骨性隆起であり,成長に伴って骨端軟骨と同様に軟骨増殖と軟骨内骨化が起きるために生じると考えられている.一般に腫瘍は骨の成長と平行して発育し,骨格の成熟を来すと増大も停止し,いったん形成された腫瘤は生涯残存するとされている.真の腫瘍というよりは発達の過程での奇形であろうと考えられている3)

骨軟骨腫の自然退縮はこれまで複数の報告がなされている49).単発例の報告が多いが,多発性の骨軟骨腫で複数の病変に縮小が見られた報告もある8,9).いずれにおいても自然退縮は稀な現象と考えられてきた.

2018年にYasudaらは,自然退縮した骨軟骨腫の症例報告において,自験の1例とこれまで報告されている25例の報告をあわせ,26例のレビューを報告している9).診断時の年齢は3–15歳(平均8.6歳),退縮までの期間は0.5–7年(平均3.1年)で,多少のばらつきがあるものの自然退縮の報告は小児期・青年期前期に集中している.また2018年にAibaらは,自験17例の単発性骨軟骨腫の詳細な経過を報告している10).17例中縮小が8例,変化ないものが6例,進行が3例と47.1%に自然退縮が認められ,自然退縮はこれまで言われてきたような稀な現象ではないことが示唆される.

骨軟骨腫の自然退縮の機序については,1)骨端線閉鎖より前に成熟・成長を停止した骨軟骨腫がその後も成長を続ける骨に取り込まれていくという説510)や,2)骨端線閉鎖後にリモデリングの過程で吸収されるという説10)などが提唱されている.これらの説は必ずしも独立したものではないと考えられ,Aibaらの報告には,骨端線閉鎖前に隣接する骨に取り込まれて縮小した腫瘤が骨端線閉鎖後にさらに吸収されるという経過をとった1例が含まれている10).また,外傷3か月後に受傷部に近接した骨軟骨腫の自然退縮が確認された15か月男児の症例報告7)など,外傷に関連した骨軟骨腫の自然退縮の報告もある.画像上,明らかな骨折がなくとも,外傷により軟骨帽の損傷や血流の遮断,隣接する骨の修復などが刺激となり,退縮が生じるのではないかと推測されている6)

これまで提唱されている退縮機序に照らして考えると,今回の症例1は年齢および画像から骨端線閉鎖前と考えられ,明らかな外傷の既往もないことから,何らかの原因で成長を停止した骨軟骨腫が成長を続ける骨に取り込まれるという,最初の説で説明できるのではないかと思われる.症例2は,ほぼ骨端線閉鎖の時期に相当し,骨端線閉鎖後のリモデリングによる吸収という後者の説に対応すると考えられるが,画像で見られた局所の炎症が契機となって吸収が促進された可能性があると考えている.

これまでの報告では,自然退縮を示した骨軟骨腫は広基性が多いという傾向と,骨軟骨腫の発症率には性差がないものの自然退縮の報告は男性に多いという傾向がみられている9,10).その原因として,我々は,骨と広く接し丈の低い広基性病変のほうが,成長する骨に取り込まれやすいとともに,骨の成長,リモデリングに伴う変化を反映しやすいのではないか,また男性のほうが骨の成長が著しいからではないかと推測している.

骨軟骨腫自体の頻度が不明であるため,自然退縮の頻度を正確に把握することは難しいと思われるが,これまで稀とされてきた骨軟骨腫の自然退縮は稀ならず起こり得る現象であることを認識しておくことは重要と思われた.どの骨軟骨腫が自然退縮するかを事前に推測することは困難であるが,これについては今後の症例の蓄積および検討が望まれる.

結語

自然退縮した骨軟骨腫の2例を画像の経時変化とともに報告した.自然退縮の機序には諸説あるが,骨の成長・変化の著しい成長板閉鎖前後の小児期~青年期に稀ならず認められる可能性がある.

 

本論文の要旨は第55回日本小児放射線学会学術集会(令和元年6月21–22日)で発表した.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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