Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Special Feature: Image inspection of child abuse
Abusive head trauma in infants and children
Mikiko Miyasaka
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2020 Volume 36 Issue 2 Pages 91-100

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要旨

Abusive head trauma in infants and young children(AHT)は,虐待による乳幼児頭部外傷を総称する身体的虐待のひとつである.暴力的な外力によって頭蓋内に硬膜下血腫,脳実質損傷,多層性多発性の網膜出血を高頻度に認めることを特徴としている.診断のきっかけとなる症状は,嘔吐,哺乳力低下,意識障害,痙攣など非特異的であり,外傷歴不明のことも多い.AHTの画像所見には,硬膜下出血のほか,外傷性くも膜下出血,硬膜外出血,頭蓋骨骨折などが挙げられる.AHTは,凝固異常や代謝疾患などの鑑別すべき疾患を除外しながら,臨床所見,病歴,家族背景などを考慮した総合的判断で行われるものである.頭部CTは,初回に行う検査であり,引き続き頸椎MRIを含めた頭部MRIを行うことが推奨されている.本稿では,AHTに対する画像所見,画像診断検査のプロトコルについて文献的考察も含め解説する.

Abstract

Abusive head trauma (AHT) in infants and young children are broadly defined as those sustaining perpetrator-inflicted injury of the skull and intracranial contents. Shaken-baby syndrome is a subtype of AHT. The clinical findings might include neurologic signs and symptoms such as irritability, seizures, apnea, vomiting, and poor feeding. The characteristic imaging features of AHT include subdural hematoma, brain parenchymal injury, and retinal hemorrhages. Moreover, young infants are at an increased risk of upper cervical spinal injury such as soft-tissue or ligamentous ones. Therefore, head non-contrast head computed tomography (CT) and magnetic resonance imaging (MRI) including cervical the spine are necessary to diagnose AHT. Non-contrast head CT is the first diagnostic imaging modality for pediatric patients with symptoms. Initial head CT should include 3D reconstruction for the accurate representation of skull fractures. Thereafter, additional complementary MRI is more sensitive for intracranial hemorrhages and parenchymal injuries.

The focus of this article is to review the diagnostic findings of AHT and the optimal diagnostic imaging strategy for it.

はじめに

Abusive head trauma in infants and young children(AHT)は,虐待による乳幼児頭部外傷を総称しており,2009年にアメリカ小児科学会から提唱された1).かつて,whiplash shaken infant syndrome, Shaken baby syndrome(SBS:乳児揺さぶられ症候群)など様々な用語で言われていたが,揺さぶる行為だけでなく様々な生体力学的要因によること,司法面における揺さぶりという言葉の不要な混乱を避けるため,現在は,abusive head trauma in infants and children(虐待による乳幼児頭部外傷)と称する1,2).SBSは,AHTの一型という位置づけである.AHTは,身体的虐待のなかで,最も生命予後,神経学的予後に影響があり,重篤である.来院のきっかけが痙攣,嘔吐などの非特異的症状が多いため,画像診断検査がAHTを疑うきっかけとなることが少なくない.そのため,AHTの画像所見に精通していることは早期発見のために大切である.また,AHTを含む虐待に対する画像診断は,診療のためだけなく,福祉面,司法面に対する情報提供の資料となる可能性があり,初期対応での適切な検査は大きな意味を持つ.本稿では,AHTの画像所見,偶発的頭部外傷とのちがい,AHTに対する画像診断検査を中心に文献的考察を含め解説する.

AHTの概要

AHTは,乳児10万人のうち25–30人の頻度とされ,その1/4が致死的経過をたどるとされている.AHTの約半数は1歳以下とくに6か月未満が多く,男女比は若干男児に頻度が高い2,3)

来院時の症状は,外傷の程度により軽症から重症まで様々である.新生児,乳児では,活気不良,哺乳不良,不機嫌,嘔吐,意識障害,痙攣,呼吸障害などの非特異的な症状で,外傷歴が不明なことも少なくない3,4).身体所見では,顔面,体幹などにあざ,やけどなどを見ることもあるが,AHTでは外表に異常を伴わないことも多い4).症状出現は,外傷後比較的早期(数分から数時間の間)から現れるとの報告がある3)

AHTの発生機序として,頭部打撲などの直達外力だけでなく,回転性加速度減速度運動の力による頭蓋内への影響が言われている.その結果,未熟な乳児脳に剪断力が生じ,架橋静脈の断裂による硬膜下出血(SDH),外傷性くも膜下出血(SAH),限局性またはびまん性の脳実質損傷,網膜出血を引き起こすとされている.網膜出血は,AHTの85%に確認される重要な所見で,多発性,多層性出血で,網膜鋸状縁に及ぶもの,外傷性網膜分離症はAHTに特徴的とされている24).網膜出血は,数日のうちに改善する傾向があるため,迅速な眼底検査が必須である4)

AHTの画像所見

AHTの画像所見として,SDH,脳実質損傷(限局性またはびまん性),SAH,硬膜外出血(EDH),頭蓋骨骨折があり,これらが複合している35).最近では,頭蓋頸椎移行部の靭帯損傷,頸髄損傷,脊柱管内のSDH,EDHを伴う頻度が高いことが報告され,AHTを疑う所見のひとつに挙げられている.乳児の頭部が体幹に比して大きくアンバランスで,頸部の支持が弱いため,揺さぶりなどを受けることで頭蓋頸椎移行部が過進展,過屈曲され,損傷するためと推測されている3)

前述したAHTの画像所見のなかでも,SDH,脳実質損傷,網膜出血は,AHTに高頻度に認めることから,AHT 3徴として知られている3,4).SDHのみなど単独の画像所見の場合は,AHTと診断するに乏しく,複数の所見の組み合わせ,病歴(特に外傷歴がないなど),臨床症状,身体所見,血液検査所見を考慮して判断することが大切である4)

1. 硬膜下出血(SDH)

SDHは,AHTの90%と高頻度に認める所見である.AHTに見る多くのSDHは,片側性または両側性で,薄く少量である.SDHは,大脳鎌,円蓋部,小脳テントに沿った部位に認める傾向がある4,5)

初回CTで認めるSDHは,必ずしも,high densityを示さず,low densityやmixed-density(lowとhighの混在)など様々な濃度を示す.均一なhigh densityは,比較的急性期の出血を示すことが知られているが,血腫の濃度は,出血の時期,凝固異常や貧血の有無,髄液の混入等の様々な影響により変化する.そのため,初回CTでは,硬膜下腔の液体貯留をその濃度で表現するほうが適切とされている(low-, iso-, high-, mixed-density pattern).AHTではmixed-densityを示すことが多い4,5).Mixed-densityには,場所のちがうSDHのdensityが異なる場合と同部位の液体貯留内がlowとhighで混在する場合がある(Fig. 1).前者の場合は,時相の異なる出血の存在が考えられ,繰り返す外傷の存在を示唆する5)Fig. 2).一方,後者には,超急性期,急性期,髄液の混入による硬膜下血水腫,慢性硬膜下出血内の急性出血(aucte on chronic SDH)などが考えられる(Fig. 3).また,low densityを示す要因として,少量の出血を伴う髄液,慢性硬膜下出血,硬膜下水腫が考えられる.これは,架橋静脈の破綻がSDHの原因とされているが,架橋静脈の破綻とともにくも膜の裂傷が起こり,硬膜下腔に,出血だけでなく,髄液が入り込むことがlow densityを示す原因と考えられている4,5).慢性SDHとの鑑別には,新生膜の有無が大切で,新生膜の形成は受傷後10日から3週間と言われ,MRIでは,2~4週で確認できるようになる5,6).そのゆえ,初回CTだけで出血の時相を判断せず,MRI,follow CT,脳実質損傷の状態などを加味しながら判断することが大切である.過去に報告されているSDHの経時的変化についてTable 17)に示すが,オーバーラップすることや血液検査所見,出血の状態により異なるため,正確な受傷時期を同定することは困難であり,あくまでも推測である4,5,8)

Fig. 1 

硬膜下出血mixed-density

意識障害,痙攣

a.頭部CT冠状断像:左円蓋部から大脳鎌に沿って不均一なdensityを示す出血を認める.大脳実質は,小脳に比してlow densityである.

b.頭部CT:大脳鎌に沿ったhigh densityの硬膜下出血を認める.皮髄境界が不明瞭で,脳実質に異常を疑う.

c.MRI拡散強調画像:大脳皮質,淡蒼球に高信号を認め,大脳全体的広範囲におよぶ脳実質損傷をを認める.

Fig. 2 

硬膜下出血mixed-density

1歳男児,意識障害

a.初回CT:両側前頭部および大脳鎌右側に沿って硬膜下液体貯留を認める(矢印).右前頭部は,中等度のhigh densityを示し,左前頭部は,low densityである.大脳鎌に沿った液体貯留はhigh densityである.部位ごとに異なったdensityを示す硬膜下腔の液体貯留である.

b.初回CT冠状断像:右円蓋部はhigh density,左円蓋部はlow densityのなかに線状のhigh densityを示している.また,右小脳テントに沿ってhigh densityの硬膜下出血を認める(矢印).時相の異なる出血の可能性が疑われた.

多発,多層性,広範囲に広がる網膜出血が確認された(未呈示).

Fig. 3 

硬膜下出血とびまん性脳実質損傷

2か月男児,意識障害

a.頭部CT:右前頭部の硬膜下腔の液体貯留を認めるが,low densityである.後方の大脳鎌に沿ってhigh densityを示す硬膜下出血を認める.

b.頭部CT冠状断像:左円蓋部には,high densityの硬膜下出血が広がっている.大脳は小脳に比して全体的に濃度が低く,皮髄境界は不明瞭である.

c.翌日頭部MRI T1強調横断像:両側前頭部の硬膜下腔液体貯留は,髄液よりやや高めの低信号で,左前頭部については,外側にやや高めの信号域が認められる.

d.T2強調横断像:両側ともに,前頭部の硬膜下液体貯留は高信号である.左前頭部については,前日CTよりも硬膜下腔が拡大しており,髄液等により液体が増えている可能性がある.

e.拡散強調画像:両側側頭葉の皮質,皮質下白質に高信号域を認める.

f.SWI:左円蓋部は,硬膜下血腫の存在のため,強い低信号を示している.右前頭部には,線状の低信号(矢印)があり,架橋静脈の血栓を反映していると思われる.

Table 1  硬膜下出血の経時的変化
受傷後時間 CT MRI
T1 T2
3時間未満 超急性期 low~iso density iso intensity low
3時間から3日 急性期 high~mixed iso low
3日から10日 早期亜急性期 high high iso-high
10日から3週 晩期亜急性期 iso high high
3週以上 慢性期 low low high

文献7より一部改変

架橋静脈の破綻による血栓の形成は,MRIのSWI(susecptability weighted image)で認める(Fig. 3).Tadplole, lollipop signと言われている6)

2. 脳実質損傷

脳実質損傷の程度は,その後の神経学的予後,生命予後に大きく関与している6).AHTに認める脳実質損傷には,びまん性と限局性の病変がある.限局性の脳実質損傷では,直達外力に伴う脳挫傷のほかに,回転性加速度減速度現象の影響と考えられる皮髄境界や白質に損傷が認められる.髄鞘化の完成していない乳児期の前頭葉,側頭葉の皮質下白質に認める損傷を,白質裂傷とも言う(Fig. 4).片側性またはびまん性の脳浮腫は,外傷を契機に血管支配領域の障害や低酸素性虚血性脳症,興奮毒性の痙攣等による影響で引き起こされる二次性脳損傷である(Fig. 1, 3).これらの脳実質損傷は,かつて,びまん性軸索損傷が原因のひとつに考えられていたが,低酸素性虚血性脳症,延髄頸髄損傷,脳興奮毒性,炎症性変化,一過性血管閉塞などの説が言われている.いずれも外傷をきっかけに様々な要素が複合的に起こっているものと考えられる6)

Fig. 4 

白質裂傷

2か月女児,痙攣

a.初回頭部CT冠状断像:右前頭葉内側の皮質および皮質下白質にlow densityを示す限局した脳実質の異常を認める(矢印).左円蓋部には,少量のhigh densityを示す硬膜下出血を認める.

b.1か月 後頭部MRI T2強調画像:両側前頭葉の皮質,皮質下白質は破壊性変化を示している(矢印).前頭部の硬膜下腔には,新生膜を伴う硬膜下液体貯留が認められる.

3. 頭蓋骨骨折

頭蓋骨骨折は,偶発的頭部外傷,低所墜落の場合でも起こりうる病態である.AHTに特徴的な頭蓋骨骨折は存在しないが,外傷歴不明または軽微な頭部外傷である児に,多発性,複合骨折,骨折幅が3 mm以上の離開骨折,進行性骨折(growing fracture)などを認めた場合は.虐待を疑う必要がある6,8)Fig. 5).

Fig. 5 

頭蓋骨骨折

1か月男児,60 cmほどの高さからの墜落,嘔吐が出現し,来院

a.頭部3DCT:右頭頂骨に骨折幅の広い離開骨折を認める(矢印).対側の頭頂骨にも骨折を伴っていた(未呈示).

b.頭部CT:左前頭部に硬膜下出血と少量のくも膜下出血を認める(矢印).外傷のエピソードと頭蓋内,頭蓋骨骨折の程度が強く,充分な検証が行われた.

骨折部に接する軟部組織の腫脹や出血を伴っている場合は,受傷から比較的近い時期と推察することができるが,軟部組織所見がない場合に急性期の骨折ではないとは言えない6)

頭蓋骨骨折の治癒過程は長管骨とは異なる経過であり,単純性線状骨折の場合受傷後1~2か月以内に不明瞭になるとも言われているが,複合骨折や離開骨折では数か月を要するため,受傷時期の推定は難しい8)

頭蓋骨骨折の診断においては,裂溝,血管溝などの正常構造との鑑別が必要である.裂溝は,縫合線を横切る短い線状の透亮像である.血管溝は骨折に比して辺縁が不明瞭で彎曲し,枝分かれした構造のことが多い8)

4. 頭蓋頸椎移行部,脊髄損傷

頭蓋頸椎移行部の靭帯損傷,脊柱管内のSDHの報告があり,およそ36~78%の頻度とも言われている6,9)Fig. 6).特に,頭蓋頸椎移行部の靭帯損傷や頸髄損傷の所見は,頭蓋頸椎移行部の過進展,過屈曲による影響が考えられ,AHTに好発に見られる所見とされている(Fig. 7).そのため,AHTを疑う場合は,頭部MRIに加えて頸椎の評価を同時に加えることが大切である6,10)

Fig. 6 

脊椎管内の 硬膜外出血

6か月女児,AHTの精査のため,脊髄MRI実施.

T1強調矢状断像:腰椎レベルに,硬膜下血腫と思われる高信号域を認める.

Fig. 7 

頸椎靭帯損傷疑い

1歳男児.心肺停止の状態で救急搬送された.外傷の既往なし.

a.来院時頭部CT:左前頭部から頭頂部にかけてmixed densityを示す硬膜下出血を認める.大脳鎌に沿ってもhigh densityな硬膜下出血を認める.左大脳は全体的に腫脹し,midline shiftを伴っている.

b.3日後の頸椎MRI T2強調矢状断像:後頸部の軟部組織が高信号を示し(矢印),棘突起間も高信号である.頸椎靭帯損傷を疑う.

偶発的頭部外傷とのちがい

偶発的頭部外傷では,AHTに比して,頭蓋骨骨折,EDHの頻度が高く,直達外力による損傷が多い6)Fig. 8).AHTに比して,頭蓋骨骨折は単発性線状骨折が多く,脳実質損傷を伴う頻度は低いと言われている4,8).また,低所墜落や後方転落に伴い少量のSDHを認めることがあるが,軽症で,後遺症を残すことはほとんどないとされている(Fig. 9).SDHをきたすリスクファクタとして,新生児期の良性くも膜下腔拡大が言われているが,軽症頭部外傷においてSDHを発生する頻度はおよそ6%といわれ,必ずしも頻度が高いとは言えない4)

Fig. 8 

偶発的頭部外傷.

2か月男児,120 cmほどの高さからコンクリートに墜落.

a.頭部3DCT:右頭頂骨に比較的幅の広い骨折を認める.

b.頭部CT冠状断像:右頭頂骨の骨折部に一致して帽状腱膜下血腫を認めるが,その他,頭蓋内に異常を指摘できない.

Fig. 9 

偶発的外傷例,硬膜下出血

9か月男児,つかまり立ちをしていたところ後方に転倒,その後嘔吐あり.

大脳鎌右側に沿ってhigh densityな硬膜下出血を少量認める.脳実質に異常なく,網膜出血は,ごくわずかであった.その後,予後は良好であった.

AHTを疑う症例の病歴として,低所墜落や後方転落などのエピソードが語られることも少なくない.一般的に低所墜落からの受傷では,単発性線状骨折,EDH,限局した脳挫傷,限局した少量のSDH,SAHを認めることはあるが,びまん性の脳実質損傷や広範囲に広がるSDHなどを認めることは,AHT例に比してかなりまれであると言われている4).偶発的頭部外傷例のSDHは少量high densityで,AHT例ではmixed-densityを示す傾向があると言われる.また,神経学的予後は良好である4)

鑑別診断

出生直後の新生児に,ごく少量SDHを認めることがあるが,無症状であり,生後4~6週で消失し,慢性硬膜下血腫に発展したとの報告はないと言われている3).その他,頭蓋内出血や脳実質損傷をきたす内因性疾患として,血友病,ビタミンK欠乏性出血などの血液凝固異常症,白血病などの悪性疾患,代謝疾患,髄膜炎などが挙げられる7)

AHTに対する画像診断のプロトコル

AHTを疑う児に対する初回の画像診断検査は,単純頭部CTである.ヘリカルスキャンで撮影し,3DCT,多断面再構成画像を作成することで,わずかな骨折や少量のSDHなどの出血の診断能が向上する.造影CTは,静脈洞血栓症との鑑別や慢性SDHの新生膜の描出に有用である.

MRIの適応は,CTで異常を認める場合,臨床症状とCT所見に乖離がある場合,虐待の可能性が極めて高い場合など脳神経学的な症状のない児においても,頭蓋内のスクリーニングを行うことが推奨されており,CTに引き続いて行う検査である6,11).前述したようにAHTのうち75%に頭蓋頸椎移行部に異常を認めるとされていることから頸椎MRIを含めた頭部MRIの撮像が推奨されている6,10).MRIの撮像時期については,入院後1~2日が理想とされているが,児の状態によっては撮像することが難しいこともある.可能なかぎり早い時期の施行が望まれる11,12)

撮像シーケンスは,T1強調画像,T2強調画像,FLAIR像,拡散強調画像,T2*強調画像などの磁化率強調画像(SWI)などを含めた撮像が推奨される.T1,T2,FLAIR像は頭蓋内出血の検出および出血時期の推定に関する情報を得ることができる.拡散強調画像は脳実質損傷の早期検出に有用である.T2*強調画像,SWIは,びまん性軸索損傷などに特徴的な微小出血,架橋静脈血栓の検出に優れている.横断像のみでなく矢状断像,冠状断像の撮像を組み合わせることも大切である.特に矢状断像で頸椎を含めた広い撮像範囲を設定することによって頭蓋頸椎移行部,頸椎損傷も同時に評価することが可能である10).頸椎MRIは,靭帯を含めた軟部組織の異常について評価できるようにT2強調画像の脂肪抑制を撮像する.その他,血管損傷,血栓の評価のためのMR angiographyを行う.近年では,MR spectroscopyについての報告も散見される.今後,小児頭部外傷,虐待例における変化を知る手がかりになる可能性が含まれている11)

経時的な頭部CTの撮影は,初診時CTの画像所見の明瞭化,病変の性状,時間経過による変化を知り得るほか,受傷時期推定の診断の一助となる11).MRIの実施が困難な場合においては,頭部CTのフォローを考慮する.

そのほか,虐待を疑う2歳以下の乳児例には,全例の全身骨撮影を行うことが推奨されている.身体的虐待のうち肋骨骨折,長管骨骨折(上腕骨,大腿骨に頻度が高い),骨幹端部骨折など頭部以外の骨損‍傷が10~20%に合併すると言われている3)Fig. 10).

Fig. 10 

AHTに伴う肋骨骨折

6か月女児,呼吸障害

a.頭部CT:大脳鎌と左前頭部に沿ったhigh densityな硬膜下血腫を認める.

b.頭部CT:左前頭頂部の円蓋部に沿ってhigh densityな硬膜下血腫を認める.大脳の皮髄境界は不明瞭で脳実質全体の損傷を疑う.

c.14日後の胸部単純写真:肋骨の側面に沿って仮骨を認め,3つの連続する肋骨骨折が判明した(矢印).

AHTの画像診断と社会との関与

AHTに対する画像診断検査の主な目的は,初期治療のための診断とその後の予後予測のために経験と文献的考察に基づいて画像所見を評価し,臨床医に伝えることである.しかし,虐待が疑われると,児童相談所などの福祉機関や警察,検察などの司法機関と関与することになる.そして,画像検査やその画像診断報告書は,医学的診断を客観的に示す証拠資料としての側面を持つことになる.セカンドオピニオン,意見書の作成など通常の診療に加え,緊張を強いられることが少なくなく,AHTをはじめ虐待に携わる診療の複雑さを含んでいる.AHTと診断した必要充分な情報を提供するために,適切な検査の実施,撮影方法,所見の拾い上げが必要となる.また,鑑別診断,受傷機転や出血時期などを考慮に入れた読影を行うために,小児科医,脳神経外科医をはじめとする臨床医との充分な情報交換も大切である.

おわりに

AHTに対する画像診断所見,検査のプロトコルを中心に解説した.AHTは,医療現場だけでなく,福祉機関,司法機関にも関与する難しい側面が多い.しかし,画像診断を担う我々は,つねに,臨床情報を加味しながら,文献的背景をもとに,客観性をもって所見をひろいあげ,的確に伝え,子どもの安全のために,早期診断と治療に寄与することが大切と思われる.

文献
 
© 2020 Japanese Society of Pediatric Radiology
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