Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
Axial spondylometaphyseal dysplasia associated with biallelic CFAP410 mutations in a 5-year-old girl
Kaori Taga Reiko FujisawaYou ShimizuHitoshi SatouMasatsune ItouHideaki OkajimaMakoto AndouZheng WangYutaka Saikawa
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2022 Volume 38 Issue 2 Pages 103-108

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要旨

軸性脊椎骨幹端異形成症は,軸性骨格と四肢骨近位部の骨幹端に異形成を示し,網膜色素変性症を伴う稀な常染色体潜性遺伝病(劣性遺伝病)である.症例は5歳女児.1歳頃から胸郭変形が出現し,両側乳頭の外側下部が陥凹していた.画像検査にて,肋骨の短縮,肋骨前縁のフレアリングおよび大腿骨近位骨幹端の不整像を認めた.四肢骨遠位部の異常は認められなかった.視力は高度に低下し,網膜電図にて網膜色素変性症と診断された.遺伝子解析にてCFAP410遺伝子にホモ接合変異が同定され,臨床症状と合わせて軸性脊椎骨幹端異形成症と診断した.本例に認めた骨変形は,骨幹端異形成症における骨の成長様式で説明し得る特徴的な所見であった.骨系統疾患を疑う際は,骨の成長様式と部位ごとの特徴を理解することが重要である.

Abstract

Axial spondylometaphyseal dysplasia (axial SMD) is an autosomal recessive disorder characterized by dysplasia of the axial skeleton and retinal degeneration. A 5-year-old girl, born of consanguineous parents, presented with thoracic deformities that were first noticed at the age of 1 year. Physical and radiological evaluations showed short stature (−2.7 SD), marked symmetrical deformity of the anterior thorax with a normal sternum, hollowing of the shortened ribs in the mid-parasternal region, flaring of the lower costal margins, and irregular sclerotic lesions at the proximal femoral metaphyses. No other long or short bone metaphyses or epiphyses were affected. On ophthalmological examination, retinal degeneration was seen bilaterally, leading to a clinical diagnosis of axial SMD. DNA analysis of the CFAP410 gene identified biallelic mutations in exon 4 (c.322 C>T, p.Arg108Cys). Understanding the basic processes of bone formation and membranous and endochondral ossification is important for identifying pathognomonic skeletal changes in the radiological diagnosis of skeletal dysplasia.

はじめに

軸性脊椎骨幹端異形成症(axial spondylometaphyseal dysplasia,以下axial SMD)は,軸性骨格と四肢骨近位部の骨幹端に異形成を認める骨系統疾患である1).四肢遠位部に異常はなく,体の軸となる体幹に近い部分に限局した異形成を示すため,「軸性(axial)」と呼ばれる.また網膜色素変性症を伴うことが特徴であり,他の骨幹端異形成症との臨床的鑑別点となる.今回,胸郭変形が診断契機となったaxial SMDの女児例の臨床像と骨格変形の特徴について報告する.

症例

症例:5歳1か月,女児.

主訴:胸郭変形.

現病歴:1歳頃から胸郭変形に気付かれていた.成長曲線では同時期から胸囲の成長が乏しかった.4歳頃から身長の成長率が低下し,5歳1か月時には低身長が顕在化した(Fig.1).

Fig. 1 成長曲線と5歳1か月時の全身像

身長(a)は4歳頃から,胸囲(b)は1歳6か月頃から成長が停滞している.両側乳頭の外側下部の陥凹により胸郭が狭小化し,相対的に腹部膨満様を呈する(c).

出生歴:在胎41週4日,頭位経膣分娩にて出生した.出生体重3545 g(+1.3 SD),身長48.0 cm(−0.1 SD),頭囲35.0 cm(+0.9 SD),胸囲32.0 cm(中央値31.8 cm)であり,出生時に胸郭変形や低身長を認めなかった.新生児仮死はなく,新生児マススクリーニング検査は全て正常であった.

既往歴:1歳10か月頃から2~3か月毎に左側中~下肺野におよぶ広汎な肺炎と無気肺を繰り返していた.5歳頃にはその頻度が1か月毎に増加していた.

家族歴:両親はいとこ婚(父方祖父と母方祖父が兄弟)であった.両親と異父姉妹の姉(12歳)は健康であり,胸郭変形や低身長を認めなかった.

身体所見:5歳1か月時,体重13.9 kg(−1.5 SD),身長94.9 cm(−2.7 SD),頭囲50.0 cm(+0.0 SD),胸囲45.0 cm(中央値48.9 cm),指極長/身長比0.87,上節/下節比は1.2であった.「胸郭の発育不全を伴う低身長」が特徴的であり,指極長/身長比の低値は胸郭横径の短縮によるものと考えられた.胸郭は両側乳頭の外側下部の陥凹により狭小化し,相対的に腹部膨満様の外観を呈した(Fig.1).短指症,側彎および顔貌の異常を認めなかった.

血液検査所見:骨代謝・成長関連の検査では,Ca 10.1 mg/dL,P 5.7 mg/dL,Mg 2.2 mg/dL,Alb 4.6 g/dL,ALP 553 U/L,TSH 2.370 μIU/mL,Free T3 4.90 pg/mL,Free T4 1.17 ng/dL,LH 0.2以下 mIU/mL,FSH 2.1 mIU/mL,IGF-1は59 ng/mL と相対的低値であった.成長ホルモン分泌刺激試験では,成長ホルモンの分泌能は保たれていた.その他一般検査に明らかな異常値を認めなかった.

画像所見:胸部単純X線写真では,両側肋骨の短縮と肋骨前縁が広がるフレアリングを認めた(Fig.2).骨盤部には,軽度の腸骨翼低形成,坐骨切痕の狭小化,水平臼蓋,Y軟骨辺縁の骨棘形成を認めた.大腿骨近位骨幹端は不整だったが,上腕骨近位骨幹端の不整像は認めなかった.また四肢遠位部,頭蓋骨,脊椎に明らかな異常を認めなかった.骨三次元コンピュータ断層撮影(three-dimensional computed tomography; 3D-CT)にて,肋骨のフレアリングはより明瞭に描出された(Fig.3).胸部CTでは,肋骨の短縮に伴い両側第4~7肋骨の前縁が胸腔内に陥凹し,代償的に延長した肋軟骨がS字状に変形していた.胸郭前後径の短縮により心臓が左背側に圧排され,左主気管支は右肺動脈と下行大動脈に挟まれて高度狭窄を呈していた.

Fig. 2 単純X線写真

a.胸部正面像

b.骨盤正面像

c.左手

d.全脊椎側面像

肋骨の短縮と肋骨前縁のフレアリングを認める.腸骨翼低形成を認める.両側大腿骨近位骨幹端が不整である.手指の変形はない.脊椎の扁平化は明らかではない.

Fig. 3 胸部CT

a.胸郭の骨3D-CT

b.左第6~9肋骨前縁の骨3D-CT拡大像

c.単純CT(縦隔条件)

第7胸椎の水平断(CTDIvol 1.0 mGy,DLP 25.2 mGy·cm)

短縮した肋骨の前縁が胸腔内に陥凹し(白三角),肋軟骨が延長している(白矢印).心臓が背側に圧排され,周囲大血管に挟まれた左主気管支が閉塞している(白抜き矢印).3D-CTにてフレアリングが明瞭に描出されている.

眼科的検査:右眼0.06(0.2xS + 6.00D = C − 2.00D Ax180°),左眼0.15(0.3xS + 5.50D = C − 2.00D Ax180°).裸眼視力は右眼0.06,左眼0.15と低下し,強度の遠視性乱視を合併していた.矯正視力は右眼0.2,左眼0.3だった.網膜には明らかな骨小体様色素沈着を認めなかった.網膜電図では左右とも減弱型を示し,網膜色素変性症の所見であった.

遺伝子解析:骨幹端異形成と網膜色素変性症を有する特徴より,臨床的にaxial SMDと診断した.Axial SMDの責任遺伝子であるCFAP410遺伝子の変異解析にて,exon 4に108番目のアルギニンがシステインに変化するホモ接合性変異が同定された(c.322 C>T, p.Arg108Cys).

経過:7歳3か月時点で胸囲46.0 cm,身長104 cm(−3.1 SD)であり,骨成長は著しく停滞している.左主気管支狭窄に対して,5歳1か月時に気管支外ステントを留置した.その後は左肺炎と無気肺を認めていない.円背の矯正器具を装着し,9歳頃に胸郭形成術を予定している.また矯正眼鏡の装用を継続し,裸眼視力が右眼0.2,左眼0.3と改善している.

考察

Eharaら1)が1997年に初めて提唱したaxial SMDは,脊椎と長管骨の骨幹端に異常をきたす脊椎骨幹端異形成症に分類される2).骨幹端の異形成は体幹と四肢近位部に限局し,四肢遠位部は正常であることを特徴とする.胸郭変形や低身長に加え,合併する網膜色素変性症による視力低下が受診契機となることがある.

本疾患は,胸郭変形により新生児期に呼吸困難が出現する例から,胸郭変形が軽度で呼吸器症状を伴わない例まで個体差が大きい3).本例は1歳時から左側の広汎な肺炎と無気肺を繰り返しており,これは胸郭変形に伴い周囲大血管に挟まれた左主気管支狭窄による影響と考えられた.

本疾患の低身長は出生時には明らかではなく,小児期早期に近位肢節短縮型の低身長を呈し,小児期後期になると体幹短縮型の低身長が顕在化する4).最終身長は−2 SDから最大−6 SDとなる例が報告されている.

網膜色素変性症の経過にも個体差があり,新生児期に追視がないことや学童期の夜盲を契機に診断され,思春期頃までに機能的盲や失明に至る例がある4).Axial SMDの全ての患者で出生時から網膜色素変性症を発症しているかどうかは,本疾患の希少性から不明である.本例は乳幼児健診では視力異常を指摘されず,5歳の精査時に初めて視力低下が確認された.乳幼児は夜盲や視野狭窄に気づかれず,また病初期であれば典型的な骨小体様色素沈着を認めないため,網膜電図を確認する必要がある.

本疾患の放射線学的特徴は,肋骨の短縮,肋骨の前縁が広がるフレアリング,および両側の肋骨前縁が胸腔内に陥凹し前後径が短縮する胸郭変形である.さらに四肢は近位肢節骨の近位部(肩関節と股関節)に限局した骨幹端の不整像を認め,四肢遠位部には異常が認められない点が重要である.骨盤部では,二次骨化核が出現する腸骨稜に辺縁不整像や,臼蓋の水平化,坐骨切痕の狭小化を認める.椎体は幼児期に扁平化を認めることがある1,3).本例の肋骨前縁の評価には,胸部単純X線写真よりも骨3D-CTが優れており,より明瞭なフレアリングを描出することができた.骨3D-CTは肋骨のみを抽出することが可能で,立体的描画により肋骨断端の変形が確認しやすいと考えられる.さらに胸郭の全貌を再構築可能であり,不揃いな肋骨断端も確認できる.CTは骨の形態評価では通常の軟部組織の評価と比較するとより線量を減らして撮影が可能であり,骨の形態評価において相対的に被ばくを減らすことができる.

Axial SMDは常染色体潜性遺伝病(劣性遺伝病)として知られており,21番染色体q22.3に位置するCFAP410遺伝子変異が報告されている5).これまでにミスセンス変異とスプライシングに関係する塩基の変異の報告があり,いずれもCFAP410蛋白の機能低下・喪失をきたすと考えられている.CFAP410蛋白は軟骨の分化維持に必要とされ,さらに網膜視細胞に発現し,網膜の機能維持に重要であることが示されている5).このことからCFAP410蛋白の機能異常は,骨組織と網膜の両方に機能異常をきたすと考えられている.本例の変異はこれまでに報告例がなく,in silico解析ツールを用いた機能予測にて「病的変異の可能性が高い」と判定された.病的変異の確定には変異蛋白の機能評価が必要である.

骨幹端異形成症の骨所見の現れ方は,骨の成長様式で説明することが可能である.正常の骨は軟骨内骨化により長軸方向に伸長し,膜性骨化により短軸方向に太くなる(Fig.4a6,7).骨幹端異形成症では軟骨細胞の骨化が完了せず,骨幹端が粗造になる.一方で膜性骨化は行われるため,骨幹端は太くなり,結果的に辺縁が不整で断端が広がるフレアリングを呈するようになる(Fig.4b).本例の肋骨前縁のフレアリングと大腿骨の骨幹端不整像は,いずれも骨幹端の骨化障害を示す所見と考えられる.

Fig. 4 骨幹端異形成症の骨幹端変形と胸郭変形の現れ方(文献6)より筆者作成)

a.正常骨は軟骨内骨化により伸長し,膜性骨化により太くなる.

b.骨幹端異形成症では,骨幹端は骨化障害のため粗造になるが,膜性骨化は保たれるため太くなる.結果的に辺縁不整とフレアリングを認める.

c.正常の肋骨は前縁が骨幹端に相当する.

d.骨幹端異形成症では肋骨が短縮し,肋軟骨が陥凹する.

また骨幹端異形成症が本例のような特徴的な胸郭変形をきたす機序についても,肋骨の解剖学的特徴で説明可能である.正常の肋骨は肋軟骨と付着する前縁が骨幹端に相当するため(Fig.4c),骨幹端異形成症の肋骨の変形は肋骨前縁に顕著に現れる.肋骨の短縮に伴い,延長した軟らかい肋軟骨は胸腔内に引き込まれて陥凹する特徴的な形を呈する(Fig.4d).両側乳頭の外側下部の陥凹が強い胸郭変形では,肋骨の短縮と前縁の変形を伴う骨幹端異形成症の可能性を考慮する必要がある.胸部単純X線写真にて骨幹端の異形成の所見が不明瞭な場合は,骨3D-CTによる追加評価が有用である.

結語

Axial SMDの女児例に認めた骨幹端の不整像やフレアリングは,骨幹端の異形成を示唆する特徴的所見である.骨系統疾患を疑う症例においては,骨の成長様式と部位ごとの特徴を理解することが重要である.

謝辞

遺伝子診断にご協力頂きました骨系統疾患コンソーシウム山田崇弘先生,池川志郎先生,王錚先生,西村玄先生,大橋博文先生に深謝致します.

本論文の投稿にあたり,患者家族に書面で同意を得た.

本論文の要旨は,第333回日本小児科学会北陸地方会で発表した.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

文献
 
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