Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
Late-onset liver abscess due to cholangitis in congenital biliary dilatation
Miku UeharaAkira NishiTsuneo Igarashi Junichiro MorotaHaruna HonmaAkira ImaiKanako KurataTakashi IshigeYasuko KobayashiTakumi Takizawa
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2022 Volume 38 Issue 2 Pages 109-114

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要旨

10か月時に先天性胆道拡張症,戸谷分類IV-A型で肝外胆管切除術と肝管空腸吻合術を行った女児.術前から左右両葉に多発性の肝内末梢胆管の嚢胞状拡張を認め,術中胆道造影で嚢胞と胆管の交通を確認した.11歳時に心窩部痛と発熱を主訴に来院し,腹部超音波検査で肝左葉に嚢胞成分と充実性成分を含む約20 mmの腫瘤及び後方エコーの増強を認めた.腹部造影CTでは,腫瘤自体の造影剤による増強効果はなく,周囲は動脈相早期に濃染された.術前より認めていた肝内拡張胆管に一致していたことから,胆管炎に伴う肝膿瘍と診断した.抗菌薬による治療で改善し,第21病日に退院した.膿瘍部の嚢胞は残存していたが,患者・家族に外科的治療の希望がなく,保存的に経過観察した.現在まで3年5か月間,肝膿瘍の再発はない.先天性胆道拡張症術後患者では,合併症の発生を念頭に置いたフォローが必要である.

Abstract

A 10-month-old female patient with Todani Type IV-A congenital biliary dilatation underwent extrahepatic bile duct resection and intrahepatic cholangiojejunostomy. Multiple intrahepatic cysts were observed in her liver, and cholangiography during surgery showed them to be cystic dilatations of the peripheral bile ducts connecting to the main bile ducts. At the age of 11 years, she visited our hospital for fever and epigastric pain. Abdominal ultrasonography showed a 20-mm tumor containing solid cyst components and a posterior echo in the left lobe of her liver. Abdominal contrast-enhanced computed tomography showed that the tumor was not enhanced, and that the surrounding area was deeply stained in the early arterial phase. A hepatic abscess was diagnosed due to preoperative intrahepatic bile duct dilatation. She was admitted and treated with antibiotics. Her symptoms resolved, and she was discharged after 21 days with a remnant cystic lesion at the abscess site. She and her family refused surgical lobectomy. She was followed conservatively for 3 years and 5 months; there was no relapse of cholangitis or liver abscess. Postoperative patients with congenital biliary dilatation require careful follow-up for complications for a long period of time.

はじめに

先天性胆道拡張症の術後予後は良好とされているが,近年,胆道癌,肝内結石,胆管炎,吻合部狭窄などの晩期合併症も報告されている.今回,残存していた肝内拡張末梢胆管に肝膿瘍を発症した症例を経験したため,画像所見を含め報告する.

症例

症例:11歳 女児.

主訴:心窩部痛,発熱.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:基礎疾患なし.10か月時に先天性胆道拡張症 戸谷分類IV-A型の診断で肝外胆管切除術,肝管空腸吻合術を受けた.術前から左右両葉に多発性の肝内末梢胆管の嚢胞状拡張があり(Fig.1),術中胆道造影で肝内胆管と嚢胞状拡張部の交通が確認されていた(Fig.2).これらの拡張した末梢胆管には,外科的処置は行われなかった.術中に採取した胆嚢胆汁はアミラーゼ9,830 U/L,リパーゼ30,080 IU/L,トリプシン386,163 ng/mL,エラスターゼI 1,700,000 ng/dL,膵ホスホリパーゼA2 2,100,000 ng/dL,総胆管胆汁はアミラーゼ9,330 U/L,リパーゼ26,240 IU/L,トリプシン323,706 ng/mL,エラスターゼI 1,300,000 ng/dL,膵ホスホリパーゼA2 1,800,000 ng/dLといずれも著明な高値であり膵胆管合流異常と診断された.肝生検の病理所見はcongenital biliary dilatation, compatible.No significant fibrosis of the liverであった.

Fig. 1 術前腹部磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)978/600/4(TR/TE/excitation)

胆嚢(▶),拡張総胆管(▷),十二指腸(⇨),共通管(→)を認める.肝内,肝外胆管が拡張しており戸谷分類IV-A型と診断された.肝内に多発嚢胞を認める(黄→).黄➡は今回感染した肝嚢胞.

Fig. 2 術中胆道造影検査

胆嚢(▶)から造影し,拡張総胆管(⇨),膵管(青色➡)を認める.黒→は膵管の胆管合流部と考えられる部位を示し,十二指腸まで連続する共通管が認められる.術中に採取した胆嚢内溶液と総胆管内容液の所見から膵胆管合流異常と診断した.今回肝膿瘍になった肝内胆管末梢の嚢胞状拡張(▷)も認められる.三管合流部手前と肝内に多発性の狭窄および嚢胞(左右両葉,左優位)を認める(白→).

現病歴:X月Y日早朝に発熱,心窩部痛が出現し,当科を受診した.腹部超音波検査所見(Fig.3a, b)から肝膿瘍を疑い精査加療目的に入院した.

入院時現症:身長131.0 cm(−2.0SD),体重24.0 kg(−1.7SD),体温38.4°C,酸素飽和度(室内気)97%,血圧105/70 mmHg,心拍116回/分.表情は苦悶様,項部硬直なく,呼吸音清,心雑音を聴取しない.腹部は平坦・軟で,自発痛あり,心窩部に圧痛,反跳痛を軽度認めた.Heel drop test陽性,McBurney部位に圧痛なし.皮疹なし.

入院時検査所見:血液検査では白血球増多や炎症反応の亢進を認めたが,肝胆道系酵素や心筋酵素は上昇していなかった(Table 1).腹部超音波検査(Fig.3a, b)では,肝左葉に嚢胞成分と充実性成分を含む約20 mmの腫瘤を認めた.後方エコーは増強していた.その他5–10 mm程度の嚢胞を複数個認めた.腹部造影コンピュータ断層撮影(CT)(Fig.4)では,腹部超音波検査と同部位に腫瘤を認め,腫瘤自体の造影剤による増強効果はなく,周囲は動脈相早期に濃染された.また嚢胞の前方に圧排された胆管を疑う所見を認めた.血液培養検査は陰性.心電図,心臓超音波検査は異常なく,胸部単純X線検査でも心拡大や肺野に浸潤影を認めなかった.

Table 1  入院時血液検査所見
【血算】
WBC 10,100/μL
Neut 67.5%
RBC 467 × 104/μL
Hb 13.1 g/dL
PLT 26.4 × 104/μL
【生化学】
TP 7.5 g/dL
Alb 4.2 g/dL
AST 18 U/L
ALT 8 U/L
LDH 230 U/L
ALP 736 U/L
γGTP 15 U/L
Amy 101 U/L
T-Bil 0.67 mg/dL
D-Bil 0.04 mg/dL
BUN 9.3 mg/dL
Cr 0.40 mg/dL
CK 100 U/L
CK-MB <3 U/L
トロポニンI 0.7 pg/mL
ミオグロビン 16.9 ng/mL
Na 137.0 mEq/L
K 3.88 mEq/L
CRP 4.63 mg/dL
Fig. 3 入院時腹部超音波検査

a:矢状断像

肝左葉に直径約20 mmの腫瘤を認め(⇨),内部は嚢胞成分と充実性成分を含む.後方エコーは増強しており,肝膿瘍を疑う.

b:横断像

上記と同様の腫瘤を認める(⇨).直径5–10 mmの複数の肝内嚢胞を認めた(→).

Fig. 4 腹部造影CT(CTDIvol 1.98 mGy, DLP 75.8 mGy·cm)横断像

エコーと同部位に腫瘤を認め,腫瘤自体の造影剤による増強効果はなく,周囲は動脈相早期に濃染を認めた(➡).

入院後経過(Fig.5):上記の超音波検査所見,造影CT所見から肝膿瘍と診断した.病変部位付近に連続性が示唆される嚢胞状拡張胆管を認めたことから,胆管炎も考えられた.まず抗菌薬で保存的に治療し,改善なければ外科的治療の適応を検討する方針とした.起炎菌としては腸内細菌系のグラム陰性桿菌を想定して,直ちにセフォタキシム(CTX)の投与を開始した.しかし発熱が持続し,入院第4病日にCRPは13.07 mg/dLに上昇したためCTXは無効と判断し,メロペネム(MEPM)とピペラシリン(PIPC)に変更した(Fig.5).その後炎症所見は改善傾向を示し,血液培養陰性,CRP陰性化を確認して,第11病日にPIPCを,第19病日にMEPMを終了した.抗菌薬終了後も炎症所見の再燃なく,第21病日に退院した.感染を起こした肝嚢胞を含め左右両葉の嚢胞は残存しており(Fig.6),感染を繰り返す可能性を考慮すれば肝部分切除の適応があることを説明したが,患者・家族に切除の希望がなく,保存的に経過観察した.退院後から現在までの3年5か月間,臨床的には胆管炎や肝膿瘍の再発はない.

Fig. 5 臨床経過

セフォタキシム(CTX)を開始したが炎症所見の改善は乏しく,第4病日よりメロペネム(MEMP)とピペラシリン(PIPC)に変更し,改善した.第11病日にPIPCを,第19病日にMEPMを終了し,第21病日に退院した.

Fig. 6 退院時腹部MRI T2強調画像横断像1270/100/4(TR/TE/excitation)

感染を起こした肝嚢胞は残存している(➡).嚢胞の腹側は気相で,嚢胞内に二ボーが形成されている.本来あった嚢胞内に腸管ガスが逆流性に流入した可能性や,ガス産生性の細菌感染によるガスの出現が考えられる.

考察

一般に先天性胆道拡張症の術後予後は良いとされてきたが,近年,胆道癌,肝内結石,胆管炎,吻合部狭窄などの晩期合併症が報告されている13).胆道癌は膵胆管合流異常による膵酵素の胆管内への逆流が主因とされている.さらに,術後の吻合部狭窄や,戸谷IV-A型では,残存する肝内胆管拡張と相対的狭窄による胆汁うっ滞と胆管炎に起因する肝内結石の形成,肝内結石による胆管の慢性炎症が胆道癌の発症に寄与している4).このように,術後遠隔期の胆道癌,肝内結石,胆管炎,肝膿瘍は密に関連している4)

福澤ら2)によると,先天性胆道拡張症手術例105例中5例に胆管系合併症があり,うち3例に術後7~16年で肝内結石を,2例に術後1~11年で胆管炎を合併した.胆管炎を合併した2例は,肝内胆管の軽度拡張を認めた.また吾妻ら1)によると先天性胆道拡張症手術例127例中16例に胆管系合併症があり,うち6例に肝内胆管の高度拡張と多発狭窄を認めた.この6例全例で術後6か月~21年に肝内結石を認め,うち2例は術後1~9年に肝膿瘍を合併した.医中誌で検索し得た範囲で,先天性胆道拡張症の晩期合併症として肝膿瘍を発症した報告は8例あり,その発症時期は術後1~26年であった1,510).全例に肝内胆管の拡張と高度狭窄を認めている.本症例においては術後10年で肝膿瘍を発症しているが,肝内胆管拡張部の中枢側の狭窄が強く,胆管炎を生じ肝膿瘍を形成したと考えている.

医中誌で「肝膿瘍,小児,症例報告」をキーワードとして検索したところ,2001年から2021年の20年間に151例の報告があった.基礎疾患や原因としては,虫垂炎や猫ひっかき病などの感染症への合併例が60例(40%),特発性または原因不明が37例(24%),慢性肉芽腫症等先天性免疫不全症への合併例が34例(23%),急性白血病など治療による免疫抑制状態での合併例が14例(9%),肝外傷後,胆汁うっ滞性疾患の合併例が6例(4%)であった.原因となる病原体として細菌,真菌,赤痢アメーバなどがあるが,細菌による肝膿瘍では,免疫不全などの基礎疾患の存在や,新生児の臍カテーテルからの血行感染が多い.先天性胆道拡張症術後遠隔期の肝膿瘍の報告は少ないが,前述のように,肝内胆管の高度拡張と多発狭窄が残存する症例は胆管炎や肝内結石,肝膿瘍の発症リスクが高まる.

肝膿瘍の超音波所見は,被膜を伴わない腫瘤性病変で,形状不整,内部エコーは不均一で経時的に変化する.細菌による化膿性肝膿瘍では,感染初期に内部が比較的均質な充実性パターン(solid pattern),融解壊死に伴う領域や腫瘤腔が散在する混合パターン(mixed pattern),多くの領域が液体成分に置き換わった嚢胞パターン(cystric pattern)の順に推移する11).本症例の診断時は混合パターンであった.

本症例は抗菌薬投与で改善した.先天性胆道拡張症に合併した肝膿瘍の治療の原則は外科的な胆管の狭窄解除であるが,本症例では狭窄部が末梢にあり,手術による狭窄解除は困難であった.膿瘍へのドレーン留置は胆汁漏のリスクがあることから,抗菌薬投与による保存的治療を第一選択としたところ,臨床的な改善をみた.膿瘍再発の懸念から肝部分切除を提案したが,本人・家族に手術の希望がなく経過観察しているが,現在まで再発はない.今後,肝内結石や胆泥の有無,狭窄の程度など精査を行い,狭窄がある限り再発の可能性があるため,外科的治療の必要性を説明しつつ厳重なフォローが必要である.

結語

先天性胆道拡張症の術後予後は比較的良好とされてきたが,近年,胆管癌の発生や難治性肝内結石,難治性胆管炎,肝膿瘍など先天性胆道拡張症の晩期合併症の報告が散見され,術後数十年での発症も報告されている.先天性胆道拡張症術後患者では,上記合併症の発生を念頭に置いたフォローが必要である.

本論文の投稿にあたり,患者家族に書面で同意を得ました.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

謝辞

群馬県立小児医療センター放射線科畠山信逸先生にご指導いただき,深謝申し上げます.

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