Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
A pediatric case of spinal muscular atrophy type I with pneumatosis cystoides intestinalis
Wataru Machidori Hikari YasuiKento KawakamiJun YamanishiSyo NakayamaSatomi HigashiSayaka FukudaMari Iwamoto
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2022 Volume 38 Issue 2 Pages 97-102

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要旨

腸管嚢胞性気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis; PCI)は腸管壁内に小嚢胞状の気腫が形成された状態であり,小児での報告は稀である.今回我々は持続する粘血便を契機にPCIに気付かれ,高濃度酸素療法が有効であった脊髄性筋萎縮症I型の9歳女児例を経験した.特徴的な画像所見を把握していればより早期にPCIを発見できた可能性があったため症例報告する.

Abstract

Pneumatosis cystoides intestinalis (PCI), a condition in which small cystic emphysema forms in the intestinal wall, is rarely reported in children. This article describes the case of a 9-year-old girl with spinal muscular atrophy type I, who was found to have PCI due to persistent mucous blood in her stool. She responded well to hyperbaric oxygen therapy. Had we known the characteristic imaging findings, we could have identified the PCI earlier.

はじめに

腸管嚢胞性気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis; PCI)は腸管壁の粘膜下あるいは漿膜下に多発性に小嚢胞が形成された状態であり,腹部単純X線,腹部単純CT検査において特徴的な画像所見を呈する1).今回我々は,PCIにより粘血便を来した脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy; SMA)の9歳女児例を経験した.小児におけるPCIの報告は稀であり,経過と画像所見を報告する.

症例

患者:9歳 女児

主訴:粘血便

出生歴:在胎40週2日,出生時体重2558 g,経腟自然分娩で出生.

既往歴:SMA I型.生後2週間より上肢の自発運動低下,生後2か月より下肢の自発運動低下および舌の線維束攣縮が出現した.生後6か月時の遺伝子検査でSMN1遺伝子およびNAIP遺伝子の欠失を認め診断に至った.7歳からヌシネルセンナトリウムを4か月ごとに投与していたが,強度の側弯症により髄腔内投与が困難になり,効果も乏しかったため9歳時に終了した.

[呼吸]生後9か月時に気管切開し,生後12か月より在宅用人工呼吸器が導入され,1歳11か月より24時間人工呼吸管理となった.気道感染による入院を繰り返したことや,リークが多く換気量低下に苦慮した経過があり,気管切開チューブのサイズ変更や呼吸器の最高気道内圧の引き上げを繰り返した.入院時の呼吸器条件:Spontaneous/Timed Average Volume Assured Pressure Support(S/T AVAPS)モード,吸入気酸素濃度0.21%,inspiratory positive airway pressure(IPAP)20–30 mmHg/expiratory positive airway pressure(EPAP)5 mmHg,呼吸回数22回/分,目標1回換気量140 mL.吸気圧は多くの時間で設定範囲内の最高圧を要していた.入院時の気管切開チューブ:I.D. 6.5 mm.

[栄養]生後6か月より半消化態栄養剤を中心とした経管栄養を開始し,7歳2か月時に胃瘻を造設した.入院時の注入内容:水分量1325 mL,摂取カロリー845 kcal.

家族歴:特記事項なし

服薬歴:カルボシステイン450 mg分3,アンブロキソール塩酸塩15 mg分3,モサプリドクエン酸4 mg分3,ファモチジン9 mg分3,タルチレリン水和物3 mg分2,レボカルニチン200 mg分1,ラメルテオン8 mg分1,酪酸菌3 g分3

アレルギー:なし

現病歴:もともと便秘症に対し便秘薬の内服および浣腸で排便コントロールを行っていたが,気道感染に対する抗菌薬投与に伴って下痢を呈したため,入院4か月前より便秘薬の内服は中止されており,便秘が悪化していた.便秘に対して浣腸を施行し,排便後より毎回暗赤色の粘血便を認めるようになった.肛門に痔核と裂肛を認め,これによる粘血便の可能性を考慮し経過観察したが,裂肛が改善した後も症状は改善しなかった.粘血便が1か月間持続するため,精査加療目的に入院した.

入院時現症:身長128.2 cm(−0.8 SD),体重19.4 kg(−3.2 SD),体温36.5°C,血圧112/72 mmHg,脈拍102回/分,呼吸数28回/分,SpO2 96%(室内気),気管切開チューブ挿入中,顔色良好,眼瞼結膜蒼白なし,舌の線維束攣縮あり,呼吸音清明,心音整,心雑音なし,腹部膨満あり,腸蠕動音の亢進・減弱なし,腹部圧痛なし,肝脾腫なし,胃瘻造設後,右凸の高度側弯あり,右下腹部に脊椎を触知,手関節尺側偏位あり,皮疹なし,末梢冷感なし,頚定なく寝返り不可,全身の筋萎縮あり,筋緊張低下あり,深部腱反射消失,眼球運動・瞬きで意思表示可能.

入院時検査所見:静脈血液ガスで呼吸性アルカローシスを認めた.血球算定,生化学,凝固機能検査は異常なかった.便迅速検査はノロウイルス,ロタウイルス,アデノウイルスいずれも陰性であり,便培養も陰性であった.Clostridium difficile(以下CD)抗原陽性,CD toxinは陰性であった(Table 1).

Table 1  入院時検査所見
〈静脈血液ガス〉 〈生化学〉 〈凝固〉
pH 7.468 TP 7.5 g/dL PT-INR 1.15
pCO2 27.8 mmHg Alb 4.5 g/dL PT 78.3%
HCO3 19.8 mmol/L AST 31 U/L APTT 29.8秒
BE −2.2 mmol/L ALT 18 U/L Fib 269 mg/dL
Lac 11 mg/dL LDH 213 U/L FDP 2.3 μg/mL
CK 15 U/L D-dimer 1.0 μg/mL
〈血算〉 Cr 0.04 mg/dL
WBC 4920/μL BUN 10.5 mg/dL 〈便迅速検査〉
 Neu 72.6% CRP 0.07 mg/dL ノロウイルス 陰性
 Lym 20.3% Na 139 mEq/L ロタウイルス 陰性
Hb 13.3 g/dL K 3.7 mEq/L アデノウイルス 陰性
Plt 32.7 × 104/μL Cl 108 mEq/L CD抗原 陽性
CD toxin 陰性

腹部単純X線検査では腸管壁に沿った円形の透亮像を多数認め(Fig.1a),腹部単純CT検査では肺野条件で大腸の腸管壁内に小泡沫状の気腫像が確認された.門脈や縦隔内に気腫は認めなかった(Fig.1b–d).

Fig. 1 腹部単純X線検査(a)および腹部単純CT検査(b–d)

腹部全体に腸管壁に沿った嚢胞状のガス像を多数認める(a).結腸全体の腸管壁内に集簇する小泡沫状のガス像(矢印)が指摘できる(b–d).上行結腸および下行結腸の一部に便塊(矢頭)を認める(c, d).門脈内や縦隔内に気腫像は指摘されなかった.

腹部超音波検査では腸管壁に沿った小さな高エコー域が結腸全体に複数認められ,一部では後方エコーの増強を伴っていた(Fig.2).

Fig. 2 腹部超音波検査

線状に連なった小さな高エコー域(矢印)が,腸管壁に沿って指摘できる.

一部,後方高エコーの増強(矢頭)を伴っている.

入院後経過(Fig.3)
Fig. 3 治療経過と臨床症状の推移

保存的加療(高濃度酸素療法,呼吸器条件および栄養剤の変更,メトロニダゾールの投与)により腹部症状は改善傾向となり,入院12日目に退院となった.

入院時の腹部単純X線および腹部単純CT検査で初めてPCIが認識されたが,過去の画像を確認すると,2年前より胃瘻交換時に行う腹部単純X線検査では腸管壁に沿った嚢胞状の気腫像が存在していた(Fig.4).無症候性PCIの状態が持続しており,浣腸を契機に粘血便を呈し症候化した可能性が考えられた.

Fig. 4 入院以前の腹部単純X線

a:6歳6か月,b:7歳7か月,c:8歳0か月,d:8歳6か月

3年前のX線では異常なガス像は指摘できない(a).2年前より腸管内気腫像(矢印)が出現し,時間経過とともに増加しているのがわかる(b–d).

入院後より高濃度酸素療法(FiO2 70%)を開始した.高い気道内圧での呼吸器管理は腸管内圧上昇に繋がりPCI悪化要因になりうる1)と考えたため,可能な限り最高気道内圧を下げるよう調整し,IPAP 20–30 mmHgから16–24 mmHgまで漸減した.また,CDがPCIを来した一因になった可能性を考慮し,メトロニダゾール900 mgの内服投与を行った.加えて,自宅では半消化態栄養剤を使用していたが,腸管への負担軽減目的に一時的に成分栄養剤へ変更した.粘血便は入院3日目に消失した.入院5日目の腹部単純X線検査では気腫像の減少を認めたため,酸素濃度の減量を開始し,入院8日目に酸素投与を終了とした.入院9日目の腹部単純CT検査では気腫像はほぼ消失し,わずかに残存するのみであった(Fig.5).以後も経過良好であり,入院12日目に退院した.

Fig. 5 左:腹部単純CT検査(入院9日目),右:腹部単純X線検査(入院12日目)

入院時に認めた気腫像は,いずれも改善を認めた.

退院4か月後,7か月後,1年2か月後,1年4か月後に粘血便が再燃し,入院加療を要した.治療は高濃度酸素療法のみで効果があり,速やかに粘血便は消失し退院した.

考察

PCIは疾患名ではなく,腸管壁内に嚢胞様気腫が多数形成された画像所見を示す表現である2)

PCIを来す原因疾患には呼吸器疾患,全身性疾患,消化器疾患,医原性,薬剤性,臓器移植などがあり,良性疾患から重篤なものまで多岐にわたる他,特発性も約15%存在するとされる1).発生機序は,St Peterらによると,機械説(腸管内圧の上昇や腸粘膜の損傷,あるいはその両者),細菌説(腸管壁内へのガス産生菌の侵入),肺原説(肺胞の損傷や破裂により遊離したガスが,縦隔内を経由して後腹膜や腸管壁内へ到達)の大きく3つに分類される2)

本症例では,便秘症が慢性的にあり,浣腸での排便後にPCIが症候化したという経過から,腸管内圧上昇が寄与した可能性が考えられる.また強度の脊椎前弯側弯症により,上行結腸が脊椎と腹壁に挟まれる形となっており,その部位はPCIの所見が顕著な部位と一致していた(Fig.1b–d).これらの画像所見から,本症例は機械説を介してPCIを来した可能性が考えられるが,推測の域を出ない.初回入院時の便検体よりCD抗原が検出されたが,CD toxinは終始陰性であり,粘血便再発時にはメトロニダゾールの投与を行わなくても治療効果が十分に得られたため,細菌説を支持する根拠は乏しい.また,呼吸器設定が高圧管理であったことから肺原説も疑ったが,縦隔内や後腹膜の気腫像は指摘できず,主要因とは考えにくい.

SMAはsurvival motor neuron 1SMN1)遺伝子の欠損や変異によるSMN蛋白産生の低下が病因となり発症し,著明な筋緊張低下,筋力低下,深部腱反射消失,線維束攣縮等を呈する.呼吸筋の筋力低下により人工呼吸管理が必要になる症例や,傍脊柱筋の筋力低下により側弯症を合併する症例も多い3,4).加えてSMAの原因遺伝子であるSMN1の欠損により,胃食道逆流,便秘,腸蠕動低下,胃内容物排泄遅延等の腸管合併症を来す可能性が指摘されており5),PCIを呈するリスクを高める可能性があると考えられた.

本症例では再燃時を含めて粘血便を契機にPCIが指摘されていることから,炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease; IBD)の関与も考慮される.PCI患者におけるIBDの有病率は4–5%程度とする報告もあり6,7),一般的なIBDの有病率より高い.加えて,脳性麻痺患者では健常児と比較しIBD発症のリスクが高まる可能性が指摘されている8).SMAは意思表示が可能であることから脳性麻痺とは異なるものの,近い環境にあり,IBDの発症に影響する可能性がある.本症例は粘血便消失時の便潜血が陰性である点からIBDを強く疑う経過ではないが,大腸内視鏡検査が行われていないため,その存在を完全に除外することは困難であり,今後も再燃を繰り返す場合には内視鏡検査も検討される.

PCIはX線検査およびCT検査で確認可能であり,いずれも腸管壁に沿った線状や小泡沫状のガス像を呈する1,2).特にCT検査はX線検査よりも検出感度が高く,肺野条件を用いることで腸管壁内の気腫像はより強調される9).本症例のような医療的ケア児では,胃瘻交換時,体調不良時,便秘症や側弯症の評価時等に腹部X線検査を行う機会が多いため,PCIの画像所見を把握していれば無症候性でも早期発見につながる可能性がある.また,腹部超音波検査も壁内ガス検出に有用である.壁内ガスはその量によって,単一の点状高輝度から腸管壁全周性の高輝度まで,見え方は様々である.この時,管腔内ガスとの鑑別が重要になり,壁内ガスは体位変換でも移動しない点で見分けられる10,11).PCIを疑った際には超音波検査は低侵襲かつ有用な検査であり,試みるべきである.

PCI患者の臨床症状は症例ごとに様々であり,画像検査で偶発的に発見されるような無症状の症例から,腸管壊死や腸管穿孔を合併し手術を要するような全身状態の悪い症例まで幅広く存在する12).PCIの特徴的な画像所見を把握しておくことで,原因疾患の早期診断・早期介入につながると考えられる.

結語

PCIを呈したSMA I型の1例を経験した.本症例を含む医療的ケア児では,便秘症や側弯症の合併例や,人工呼吸管理例が少なくはなく,PCIのリスクとなり得る.PCI患者は原病により,無症候例から重症例まで幅広く存在することから,PCIの特徴的な画像所見を周知することが原病の早期発見・介入に寄与すると考えられる.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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