2023 Volume 39 Issue 1 Pages 14-19
川崎病患者に合併する冠動脈瘤や拡張病変は,経時的に血管壁の石灰化,内膜肥厚,壁在血栓の発生,側副血行,無症候性の血栓性閉塞とその後に生じる閉塞後再疎通など,多彩な変化を示す.その診断と管理のためには,形態と機能の両面からの評価が必要である.
従来,形態評価は選択的冠動脈造影によって行われたが,現在はCTによる冠動脈造影(CCTA)が主流である.CCTAによって選択的冠動脈造影に代わる良好な画像を撮影する努力が必要であり,当科ではβ-blocker内服による心拍数コントロールを行っている.
一方,機能評価は心筋血流評価(MPI)として,当科では心筋シンチグラムを行っている.近年,半導体SPECTにより,撮像時間短縮と座位による撮影が可能となり,検査の低侵襲化,低年齢化を図っている.
さらに,今後発展が期待される川崎病性冠動脈病変の評価方法について述べる.
Coronary aneurysms and dilated lesions associated with patients with Kawasaki disease show various changes over time, including calcification of the aneurysm wall, intimal thickening, development of mural thrombi, development of collateral vessels, and asymptomatic thrombotic occlusion followed by subsequent post-occlusive recanalization. Both morphological and functional evaluations are necessary for their diagnosis and management.
Coronary CT angiography (CCTA) has recently superseded selective coronary angiography for morphological evaluation, whereas myocardial scintigraphy is used in myocardial perfusion imaging (MPI) for functional assessment. In recent years, semiconductor SPECT has shortened imaging times and enabled imaging to be performed in the sitting position, thus making the examination less invasive and more tolerable for younger patients.
Various novel imaging modalities might be applied in the future for the evaluation of coronary artery lesions associated with Kawasaki disease.
川崎病は,1967年に川崎富作博士が提唱し世界的に認知された原因不明の小児疾患である1).主に乳幼児で発熱に伴い,発疹や皮膚・粘膜・頸部リンパ節などの炎症による特徴的な臨床症状を認める.1~2週で症状改善するが,一部の例で冠動脈に瘤形成や拡張性病変を合併する疾患として知られる.重症例では,血栓性閉塞によって心筋梗塞を発症し致死性であり,石灰化による狭窄をきたし,慢性的に虚血性心疾患となる場合もある.
世界中で診療されているが,特に東アジア人に多く,なかでも日本の罹患者数は年間1万5千~1万8千人で推移し,小児の発熱の原因疾患として感染症以外で最も多い.
冠動脈病変の合併率は,急性期治療が確立する以前の1980年代までは20~30%と高率であったが,免疫グロブリン製剤とアスピリン内服による標準的治療を主体として治療法が進歩した現在は,合併率2%程度まで改善してきた(Fig.1)3).しかし一方で重症例は,一生にわたって小児期から冠動脈疾患として継続的に病院管理が必要となる.それらの例に対する冠動脈病変の診断と管理には,小児循環器系の放射線診療を専門とする者による検査がきわめて重要であり,この機会に現状と今後の問題についてまとめておきたい.
(文献2より筆者作成)
川崎病の急性期には,すべての例において,2–3日ごとに心臓超音波検査(心エコー)が実施され,冠動脈病変を合併する場合には,Fig.2に示されるように第10病日すぎから,左右の冠動脈が拡大し,時に瘤を形成する.評価基準としては,日本人小児の冠動脈内径の標準値とそのZスコアによる評価のための計算ソフトが研究・作成されており,研究報告Website4)から「Z score計算アプリ」を入手して,漢字の身長,体重,性別と,右冠動脈及び左冠動脈主幹部,前下行枝,回旋枝の内径実測値のZスコアを評価する.2019年改訂の診断の手引き5)では,+2.5以上の場合に拡大性病変と定義され,発病1か月以降も+2.5以上である場合に後遺症として継続的に管理が必要である.
従来,発病1か月以上の冠動脈後遺症については,選択的冠動脈造影(CAG)を行い,心エコーで描出されていない,左右冠動脈の拡大病変を含む全体像を,造影によって十分に可視化して初期の病変を明確にしておくことが必要とされてきた.しかし近年,特に低年齢発症の例では,早い時期の冠動脈造影は侵襲が大きいので,医療安全の面から技術,体制の面で十分整えられた施設で行うことが望ましい.
1990年頃から,成人では経皮的にカテーテルを用いるCGAに代わって,造影CTでも,撮像時の条件設定,画像処理によって,冠動脈形態を十分に描出することができるようになり,現在までに冠動脈の疾患に対してスクリーニング的にCCTAを行って冠動脈評価を行うことが一般化している.CCTAは,1990年代にヘリカルスキャン技術の普及に続いて,多列検出器(multi-slice)による撮像が1998年に開始され,volume rendering 処理によって3次元構築(3D)画像の供覧が可能となり,臨床的に大きな進歩をもたらした.3D画像は,非常に有用であると同時に,画像処理技術によって結果にバイアスがかかることもあるため,補完的・客観的に正確な評価を行うため,Table 1に示すような種々のCT画像処理法を適宜使用して,参照しつつ評価すべきである.特に川崎病症例の場合,冠動脈瘤の壁の石灰化が全周性か部分的か,狭窄の正確な部位や重症度評価を行うために,特に局面変換表示法(curved multi-planner reconstruction; CPR)や冠動脈短軸像が有用である.
問題点としては,放射線被ばくへの留意,説明と造影剤アレルギーの対応が必要になることはあり,十分な監視体制で行うことは必要である.
現在,自施設で使用されているArea detector CTでは,0.5 mm幅で320列の検出器を同時に撮影することで,スキャンの要する時間は1秒以内で終了することができ,被ばく線量が低減できる.また,心拍数65/分以下であれば1心拍の拡張期画像を捉えられるため,小児や緊張状態にある若年成人患者など,心拍数が速い患者の撮像が行いやすく,画像も改善している.被ばく線量低減の利点を活かすため,できれば心拍数85/分以上の患者の撮像時は,β遮断薬によって,脈拍数を抑えた状態で撮像している.使用するβ遮断薬は,血圧低下を避けるために,β1選択性が高く短時間作用のメトプロロールの内服,またはランジオロールの点滴静注を使用しているが,就学以前など幼児期では,鎮静薬の併用が必要な場面もある.
これらの進歩によって,乳幼児が多い川崎病冠動脈病変の例においても,選択的冠動脈造影を行わずに,初回からCCTAによって初回の評価を行う施設が今後増える可能性がある.
CCTAの普及と同時にMRIによっても,川崎病など小児の冠動脈を評価する努力が続けられており,形態診断のみならず造影によって心筋血流もイメージングできる.放射線被ばくがないことは大きな利点である.一般的に空間分解能はCTよりも劣るとされるが,経験の多い施設では撮像と処理時に工夫を重ねて,年長時から成人ではCTと遜色のない画像を得ている6).
問題点としては,それらの技術に関して熟練を要する点と,撮像時間はCTに比べかなり長いため,とくに小児の場合には体動を防ぐ必要があり,十分な鎮静と観察が必要であり,検者・被検者ともに負担があり,検者の熟練と実施体制の確立と普及が課題である.
川崎病の冠動脈病変では,拡大性病変の長期経過後に治癒機転として,内膜肥厚,石灰化を伴う狭窄が進んでくる.急性期の病変の内径がZスコア+5.0未満の小瘤あるいは拡大のみの場合には正常化し固定したと判定されれば,「退縮」として抗血栓療法を終了する場合もあるが,狭窄の進展が懸念される場合には,心筋血流画像(myocardial perfusion imaging; MPI)による評価が求められる.
また中等瘤(Zスコア+5.0以上+10.0未満)や巨大瘤(同+10.0以上または5歳以上では内径8 mm以上)では,高率に血栓形成や狭窄が進み,閉塞もしばしば起こるものの,胸痛や腹痛で心筋梗塞を発症するとは限らず,無症候性閉塞が起こることが多い.その経過中には,なんらかの虚血所見が発生する可能性は高いが,しばしば側副血行の発達や閉塞後再疎通のために,心筋血流は維持されていることも多く,CTも含め,冠動脈造影の形態では正確な病状把握が難しいため,必ず形態評価とほぼ同時にMPIを行うこととしている.
その際に行われる検査法として以前から心筋核医学検査(心筋血流シンチグラム)が中心であり,核種としては201TlやTc-99mを用い,後者が脂溶性でやや解像度に優れるが,被ばく量は前者に比べ多いことには留意しておく必要がある.必要により患児に鎮静を行った上で,点滴ラインから核種を静注してSPECT(single-photon emission computed tomography)撮像を行う.
Fig.3に示すように小児でも201Tl心筋SPECTによって心筋虚血を描出する際に,小児にとって無症候のうちに心拍数の変動や運動などによる血流変化を見逃さないよう,安静時の血流評価に加え,薬物負荷(dobutamineまたはATP)や運動負荷(エルゴメータまたはトレッドミル)を行うことで潜在性の虚血が検出され,学校での運動制限指示などの判断根拠となる.
核医学検査では,被ばくの低減,撮像時間の短縮は重要であり,自施設では現在,半導体検出器を搭載した心筋SPECTによって,分解能,感度が向上しており,核種の投与量の低減,撮像時間の短縮(約20分),また座位での撮影が可能になっている(Fig.4).これらの機器の普及と,川崎病の診療を行う医師にとって核医学検査に習熟した者は非常に少ないので,MRI同様に知識と経験を増やし習熟することが求められる.
現在,自施設の方針では,川崎病性冠動脈病変の管理時,CCTAでの形態評価と心筋SPECTによる機能評価の結果に乖離がある場合には,現在でもカテーテルによる選択的血管造影がgold standardと考えている.
また冠動脈バイパス手術の適応判断に必要になる機能評価の一つとしてcoronary flow reserve測定が重要であるが,成人では近年CCTAのデータから算出された結果を視覚化して示すCTによるfractional flow reserve(FFR-CT)での代用が実用化され始めている.しかし,川崎病の場合には石灰化が強く影響する例が多くまだ課題が残っている.
さらにCT画像を用いた新たな話題として,冠動脈周囲脂肪組織から算出されるFAI(fatty attenuation index)と急性冠症候群の発症および冠動脈瘤の最大内径との相関を示す可能性が示唆されており,その計測方法と指標とするマーカーの扱いについて注目される.
川崎病の複雑な冠動脈病変の組織性状を観察する方法は少ないが,侵襲的検査ではあるが,光干渉断層法(optical coherence tomography; OCT)が用いられて,血管内膜病変を観察した報告があり,MRIでの血管壁肥厚部位に関してさらに詳細が解析可能であるとされ,治療方針の判断に有意義と思われる7).
本論文の内容に関して,筆者に関して特に開示すべき利益相反はない.
また論文中に「ヘルシンキ宣言(以後の改訂を含む)」およびこれに準ずる倫理規定に反する内容はない.
本論文の内容は,第58回日本小児放射線学会総会・学術集会 特別企画1「各分野のプロフェッショナルに聴く」で講演した.