Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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The 58th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Fudan Zenshin - Continuously Moving Forward; Pediatric Radiology for Children
Is the bottom-up approach or top-down approach more appropriate for infants with upper urinary tract infection?
Kazunari Kaneko
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2023 Volume 39 Issue 1 Pages 2-8

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要旨

乳幼児における上部尿路感染症(urinary tract infection: UTI)の反復と,それによる腎の瘢痕化は慢性腎不全への進展リスクである.したがって上部UTIを起こした乳幼児の管理目標は,その反復を防ぎ,腎瘢痕の形成を阻止することである.

近年,上部UTIを起こした乳幼児に対する画像検査の進め方について,ボトムアップアプローチ(Bottom-Up Approach: BUA)とトップダウンアプローチ(Top-Down Approach: TDA)と呼ばれる2つの対照的なアルゴリズムが提唱されている.BUAは上部UTIを起こした乳幼児全例に排尿時膀胱尿道造影(voiding cystourethrography: VCUG)を行い,膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux: VUR)を有する患者を抽出し,管理しようとするものである.一方,TDAは上部UTIを起こした乳幼児全例を対象として急性期に99mTc-DMSA腎シンチグラフィーを実施し,異常を認めた場合のみVCUGでVURの有無を検索するというアプローチである.

BUAとTDAのいずれにも一長一短があるが,筆者はわが国の現状を考慮すると,BUAが現実的であると考えている.

Abstract

Following the diagnosis of upper urinary tract infection (UTI) in infants, a radiographic workup is necessary to identify susceptibility to renal damage. However, there is incomplete agreement regarding whether the emphasis should be on the presence of acute parenchymal damage versus the presence of vesicoureteral reflux (VUR). Voiding cystourethrography (VCUG) was historically used to detect high-risk patients. This method is now referred to as the bottom-up approach (BUA), and relies on VCUG to identify lower urinary tract abnormalities and VUR. Only those patients diagnosed with VUR then undergo 99mTc-DMSA renal scan to assess renal scarring at the convalescent phase. As an alternative method, the top-down approach (TDA) targets the kidney with a 99mTc-DMSA renal scan to diagnose acute renal parenchymal involvement at the acute phase of the upper UTI. Patients with photon defects are subsequently referred for VCUG to assess VUR in addition to a late 99mTc-DMSA renal scan (at 3–6 months) to assess for permanent renal scarring. As each strategy carries advantages and disadvantages, it is difficult to declare the winner between BUA and TDA. Given the unavailability of 99mTc-DMSA renal scans at most local medical institutions in Japan, where infants with upper UTI are managed, the author considers that BUA is more practical for infants with upper UTI.

はじめに

尿路感染症(urinary tract infection: UTI)は腎から尿道にいたる尿路系で発生する感染症の総称であり,小児,特に乳幼児ではよく見られる疾患で,発熱の原因が不明の乳児の約5%がUTI に罹患しているとされる1).乳幼児期のUTIは菌血症をきたしやすく,新生児期は約30%,生後l~3か月の時期は約20%,生後3か月以降の時期でも約5%が合併する2)

UTIは感染部位によって上部UTI,下部UTI,無症候性細菌尿の3つに大別される3,4).膀胱炎,尿道炎など膀胱や尿道といった下部尿路に限局した感染症を下部UTIと呼ぶ.下部UTIは発熱を認めることは少なく,腎実質障害もきたさないため長期的な管理は不要である.一方,急性腎盂腎炎,急性巣状細菌性腎炎,腎膿瘍など腎実質に炎症が生じ,腎実質障害をきたす可能性のあるものを上部UTIに分類する5).上部UTIは臨床所見として発熱を認めるため,有熱性UTI(febrile UTI)とも呼ばれ,多くの英文論文ではこの病名を用いているが,本論文ではすべて上部UTIとする.上部UTIを起こした乳幼児は慢性腎不全に進展する可能性があるため,長期に亘る管理が必要である.慢性腎不全に到るリスク因子としては上部UTIの反復と腎瘢痕形成が知られているので,長期管理においては,それらを予防することが求められる.

近年,上部UTIを起こした乳幼児に対する画像検査の進め方について,二つの対照的なアルゴリズムをめぐって論争が起こっている6,7).そこで本稿では,その論争を紹介するとともに,筆者の考えを述べる.

上部尿路感染症の小児に対する画像診断の選択をめぐる議論

1930年代から1960年代にかけての多くの臨床研究で,上部UTIの乳幼児の30~40%に膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux: VUR)を合併すること8,9),VURが存在する症例は上部UTIを反復するリスクが高いこと10),そして反復性のUTIを起こした症例は腎瘢痕を形成しやすいこと2),などが報告された.これらの事実に基づいて「小児のVURは発見し治療すべきである」として1999年のAAP(American Academy of Pediatrics)のガイドラインでは,生後2か月から2歳までの上部UTI症例には,初回であっても腎膀胱超音波検査(Renal-bladder ultrasound: RUS)に加え,全例に排尿時膀胱尿道造影(voiding cystourethrography: VCUG)を施行してVURの発見に努めることを推奨した1).すなわち「上部UTIを起こした乳幼児のうち,将来,腎瘢痕形成のリスクが高く管理すべき症例は,反復性上部UTIのリスクとなるVUR合併例である」というパラダイムである1,6,7).しかしその後,この考え方に変化が見られる.たとえばTable 1に示すように,2007年の英国の国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)のガイドライン(https://www.nice.org.uk/guidance/ng224. NICE guideline [NG224],2022年10月10日確認)やAAPの2011年のガイドライン2)では,初回の上部UTIを発症した乳幼児全例にVCUGを施行することを推奨していない.これはVURのある症例が必ずしも腎瘢痕を形成するわけではないこと,逆にVURを認めない症例でも腎瘢痕を形成することがあることが明らかとなったためである.そしてVURの有無よりも,むしろ上部UTIの急性期(発熱からおよそ7日以内)に行ったDMSA腎シンチグラフィー(99mTc-dimercaptosuccinic acid renal scintigraphy: DMSA)で異常所見(アイソトープの集積不良像=強い急性局所炎症所見=急性腎実質障害)を認める症例こそがその後,腎瘢痕を形成するリスクが高い,という報告が相次いだ1113).その結果,2005年頃から「上部UTIを起こした乳幼児に対しては,まず急性期にDMSAを実施して異常所見を認めた場合にのみ,VCUGでVURを検索する」というパラダイム,いわゆるトップダウンアプローチ(Top-Down Approach: TDA)が登場した.そして従来からのパラダイム,すなわちVURの検索に重点をおいて初回の上部UTI症例全例にVCUGを施行する方法をボトムアップアプローチ(Bottom-Up Approach: BUA)と呼ぶようになった(Fig.1).

Table 1  上部尿路感染症を起こした小児に対する排尿時膀胱尿道造影の適応:様々なガイドラインにおける違い
学会名(発表年) VCUGの適応
AAP(1999)1) 上部尿路感染症を起こした小児全例に実施
NICE(2007)# 上部尿路感染症を起こした生後6か月未満の乳児のうち,①RUSで異常所見のある場合,②非典型的UTI*の場合,あるいは③上部UTIを2回以上(下部UTIの場合には3回以上)反復する場合に実施
上部尿路感染症を起こした生後6か月から3歳の乳幼児のうち,リスクのある小児$に対して実施
AAP(2011)2) 上部尿路感染症を起こした小児のうち,RUSで異常所見のある場合に実施
EAU/ESPU(2015)& 上部尿路感染症を起こした1歳未満の乳児全例に実施(DMSAでも代用可)
日本小児泌尿器科学会(2016)@ 上部尿路感染症を起こした小児のうち,再発した症例に実施(初発例にも実施を推奨)

・略記:RUS, renal-bladder ultrasound; VCUG, voiding cystourethrography; BUA, Bottom-Up Approach; TDA, Top-Down Approach; DMSA, 99mTc-dimercaptosuccinic acid renal scintigraphy; UTI, urinary tract infection; NICE, National Institute for Health and Clinical Excellence; AAP, American Academy of Pediatrics; EAU/ESPU, European Association of Urology/ European Society for Paediatric Urology.

・NICE (2007)#: https://www.nice.org.uk/guidance/ng224;EAU/ESPU (2015)&: Stein R, et al. Urinary tract infections in children: EAU/ESPU guidelines. Eur Urol. 2015; 67: 546–58;日本小児泌尿器科学会(2016)@:木全貴久.小児膀胱尿管逆流(VUR)診療手引き2016 IV.診断.日本小児泌尿器科学会雑誌 2016; 25: 64–68.

・非典型的UTI*:重症感のある場合,乏尿を認める場合,腹部・膀胱腫瘤を認める場合,血清クレアチニンが上昇している場合,菌血症を合併している場合,抗菌薬に対する反応が48時間以内に認められない場合,病原体が大腸菌以外である場合;リスクのある小児$:RUSで尿管の拡張を認める場合,乏尿を認める場合,病原体が大腸菌以外である場合,あるいはVURの家族歴がある場合

Fig. 1 ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチ(文献7)より改変して引用)

略記:UTI, urinary tract infection; BUA, Bottom-Up Approach; TDA, Top-Down Approach; VCUG, voiding cystourethrography; RUS, renal-bladder ultrasound; DMSA, 99mTc-dimercaptosuccinic acid renal scintigraphy; BBD, bladder and bowel dysfunction.

*BBD(排尿排便異常)は排尿異常(遺尿,夜尿,頻尿,切迫排尿,切迫性尿失禁など)や排便異常(遺糞,便秘)を呈する臨床症候群で,排尿や排便に関する症状を問診表でスコア化して診断する.最近の報告によればBBDは反復性UTIのリスクを高めるため,VURのグレードやUTIの反復回数と並んで腎瘢痕形成に寄与する重要な因子であると考えられている.

以来,20年近く経った今日でも,「上部UTIを起こした乳幼児のうち,将来,腎瘢痕形成や慢性腎不全への進展リスクが高く,管理すべき症例は,VCUGでVURを認める症例なのか,DMSAで急性局所炎症所見を有する症例なのか」という論争は続いており,各種ガイドラインでもVCUGの適応に関する意見が分かれている(Table 1).

ボトムアップアプローチ(Bottom-Up Approach: BUA)とトップダウンアプローチ(Top-Down Approach: TDA)のメリットとデメリット

BUAとTDAの優劣を議論する上でもっとも重要なポイントは,「慢性腎不全に到るリスクのある乳幼児をスクリーニングするための腎瘢痕形成の予測精度」であるが,同時にその他の要因も総合的に検討する必要がある.以下にBUAとTDAの利点と欠点について述べるとともに,その要点をTable 2にまとめた.

Table 2  ボトムアップアプローチ(BUA)とトップダウンアプローチ(TDA)の利点と欠点
画像検査のアプローチ 利点 欠点
BUA
(全例にVCUGを実施)
・わが国の多くの医療機関でVCUGは実施可能である
・VCUGによってVUR以外の下部尿路異常も診断できる
・静脈穿刺が不要である
・相対的に放射線被ばく量が少ない
・腎瘢痕形成リスク症例のスクリーニングとしては偽陰性が多い
・腎瘢痕形成リスクのない症例(軽症VURなど)も発見するため過剰診療となる可能性がある
・侵襲的な尿道カテーテル挿入の必要性があり,患者と保護者のストレスが大きい
TDA
(全例にDMSAを実施)
・DMSAは腎実質の急性炎症性病変を検出できるため,腎瘢痕形成リスクのある症例を高精度で予測可能である
・VURのない症例や軽症VURの症例ではVCUG回避可能である
・わが国の多くの2次医療施設でDMSAは実施不可能である
・DMSAの急性炎症性病変の読影に経験が必要である
・実施にあたって静脈穿刺が必要で放射線被ばく量が多い
・実施にあたって乳幼児は鎮静(3–4時間)が必要である
・腎瘢痕形成リスクのある一部のVURを見逃す可能性がある
・VCUGに比べると経費がかかる

略記:TDA, Top-Down Approach; BUA, Bottom-Up Approach; VCUG, voiding cystourethrography; DMSA, 99mTc-dimercaptosuccinic acid renal scintigraphy; VUR, vesicoureteral reflux.

1. 腎瘢痕の診断予測精度

前述の様に上部UTIを起こした乳幼児全例にVCUGを実施する画像検査アプローチをBUAと呼ぶが(Fig.1),この理論的背景としては,「VURを有する小児は,VURを合併していない小児よりも上部UTIに罹患しやすいこと(リスク比1.5)」,そして「腎瘢痕を形成しやすいこと(リスク比2.6)」があげられる.さらに国際分類でIII度以上の高度なVUR症例ほど,腎瘢痕を形成しやすい(リスク比2.1)10).しかし「VURは自然治癒傾向が強いこと(III–V度の高度VURでも約40%が改善ないし治癒する)14)」,「乳幼児で腎瘢痕を形成した症例の30~40%にはVURが存在しないこと15,16)」,「上部UTIを起こした乳幼児では30~40%にVURが存在する8,9)が,逆に言えば60%以上の症例にはVUR が存在しないこと」,そして「VCUGは患児にも親にもストレスが大きいと考えられること17)」などがBUAに対する主な批判である.こういった批判と同時にDMSAによる腎瘢痕形成の予測精度が高まるにつれ,TDAという画像検査アプローチへとパラダイムシフトが起こった6,7)

TDAは,「VURの有無よりも急性期の腎実質病変によってその後の腎瘢痕形成や腎機能予後が規定される.そしてDMSAは急性期の腎実質病変を最も鋭敏に検出できる」という理論的背景に基づいている.したがってTDAのパラダイムに従えば「上部UTIを起こした乳幼児全例にまずDMSAを急性期(発熱後7日以内)に実施して異常を認めた場合のみ,VCUGでVURの検索を行う」ことになる(Fig.1).一般に急性期のDMSAによって上部UTIの乳幼児の50~80%に異常,すなわち急性局所炎症所見が認められ,そのうち1/3~1/2の症例に腎瘢痕が形成される6).RUSについてはBUAと同様,並行して行うことが多い7)

TDAというパラダイムではVURが見逃されるリスクが必然的に高まるが,「DMSAで異常を認めないVURは軽度(I~II度)であり,そういった症例は腎瘢痕形成のリスクはない」という考えで,「軽度のVURは管理不要」としている13,1821).TDAを支持する代表的な論文によれば,急性期のDMSAの異常の有無によって臨床的に有意な(腎瘢痕形成のリスクのある)高度VURの95%は検出可能で,腎瘢痕形成のリスクのない患児に対するVCUGを35%減らせるとしている22).このTDAに関する批判は2つある.一つはBUAと同様,多くの患者に不要な検査を受けさせることになる点である.すなわち上部UTIの乳幼児のうち,20~50%の急性腎障害のない(急性期DMSAで異常のない)症例にDMSAを実施することになること,さらに急性期DMSAで異常が認められた症例は3~6か月後の回復期に再度,DMSAで腎瘢痕形成の有無を確認する必要があるため,急性期DMSAで異常があっても腎瘢痕を形成しない約半数は無用な2回目のDMSAを受けることになる.したがって2016年のコクランレビューでは,「上部UTIの乳幼児に対する高度VURの発見を目的としたDMSAは,感度は高いが特異度が低いため(感度93%,特異度44%)推奨できない」としている23).もう一つの批判は先天性の低形成腎や異形成腎と腎の瘢痕病変の鑑別がDMSAでは困難なため,急性期DMSAで偽陽性を呈し,過剰な管理を受ける可能性があることである7)

2. 腎瘢痕の予測精度以外の側面から見たTDAとBUAの比較

前述したように,BUAとTDAの優劣を議論する上でのポイントは,「反復性UTIによる腎瘢痕形成の予測精度」であるが,その他の議論点として,医療放射線の被ばく量,医療経済的側面,検査の侵襲性,そしてUTIの再発予防効果などがあげられる.これらに関する議論を以下に紹介する.

1)医療放射線被ばく量に関する比較

かつてはBUAで全例に行うVCUGでの放射線被ばく量がTDAで全例に行うDMSAのそれを上回ると考えられていた24).しかしVCUGの主な透視方法が連続透視からパルス透視になったため,現在ではDMSAの方がVCUGに比べて被ばく線量が多いと考えられている25,26).Routhらの報告によれば,パルス透視によるVCUGでの平均被ばく線量が0.06 mSvであるのに対してDMSAでは平均0.72 mSvと10倍以上の放射線量となるという26)

2)医療経済的側面に関する比較

上部UTIという日常疾患を対象とする画像検査である以上,医療経済的側面も重要である.米国からの報告によれば,BUAで上部UTIの乳幼児すべてにVCUGを行なった場合,患者10万人あたりに要する費用は59,221,000ドル,同様にTDAで上部UTIの乳幼児すべてにDMSAを行った場合,82,900,000ドル(いずれも2009年時点の経費)と,TDAの方がBUAよりも約1.4倍,医療費が高くなるとしている26)

3)検査の侵襲性に関する比較

BUAにせよTDAにせよ,患者である乳幼児も親もストレスにさらされる.すなわち被検者である乳幼児の患者は,物理的ストレス(VCUGでは尿道へのカテーテル挿入,DMSAでは静脈穿刺)を受ける一方,親も自身の子どもが物理的ストレスにさらされるという精神的ストレスを受ける.こういった患児と親のストレスについて表情のイラストを用いたペインスケールによるアンケートを用いてBUAとTDAを比較した報告がある.3~8歳の患者を対象としたその研究によれば,DMSAを行うTDAでは10点満点(10点が痛みが最大)で平均2.99点,VCUGを行うBUAでは平均3.21点と両者の間には有意差がなかったという.一方,親の不安状態を調査したアンケートでは,VCUGを受ける子どもの親のストレスがDMSAを受ける子どもの親のストレスよりも有意に大きかったという17)

4)UTIの再発予防効果に関する比較

BUA,TDAのいずれのアプローチにおいても高度VURを有する小児に対しては上部UTIの再発予防を目的とした内科的治療(少用量の抗菌薬の長期予防内服,continuous antibiotic prophylaxis: CAP),または外科的治療(逆流防止手術)が行われる.特にVURの程度が軽度で,発症年齢が低年齢であるほど自然治癒が期待できることから,自然治癒の可能性が高い2歳頃までは積極的には外科的治療を行わず,CAPが施行されていた.ところが2006年頃から上部UTIの再発予防としてのCAPの有効性に疑問を呈する報告が相次ぎ,その意義についての論争が巻き起こった27).その論争に終止符を打つべく,米国で2007年から2011年にかけて2年間の観察期間で二つの多施設共同前向きコホート研究が実施された28,29).すなわち初回または2回の上部UTIを起こした生後2か月~71か月の乳幼児全例にVCUGとDMSAを行い,VURを有する小児におけるCAPの有効性をプラセボ投与群との比較で評価するRIVUR(Randomized Intervention for Children with Vesicoureteral Reflux)studyと,VURを有する小児と有さない小児をCAPなしで経過観察するCUTIE(Careful Urinary Tract Infection Evaluation)studyである.その結果,VURを有する小児に対するST合剤のCAPはUTIの再発率を半減させること28),そしてCAPをしないとVURを有する小児はVURを有さない小児に比べて再発率が約1.5倍高いこと29)が示された.最近,この二つの研究データを用いて,BUAを実施したと仮定できる患者とTDAを実施したと仮定できる患者におけるUTIの再発率に関する結果が発表された30).すなわちBUAに基づくパラダイム(初回の上部UTI後にVCUGを行い,VURが認められればCAPを,認められなければCAPなしで経過観察:Fig.1)にしたがって管理された患者と,TDAに基づいたパラダイム(初回の上部UTI後にDMSAを行って異常所見を認めた場合にはVCUGを行い,VURがあればCAPを,VURがなければCAPなしで経過観察:Fig.1)にしたがって管理された患者を比較している.その結果,Table 3に示すように,仮想BUAで管理した患者の方が上部UTIの再発率は,わずかながらも有意に低いものの(仮想BUA患者の中央値18.0%,仮想TDA患者の中央値24.4%,p = 0.045),仮想TDAで管理した患者はVCUGの回数やCAPの日数を激減できるため,この論文の著者やエディトリアルコメントでは「臨床的にBUAとTDAの優劣は付けがたく,まだ議論が必要である」としている30,31)

Table 3  既存のコホート研究データによる仮想ボトムアップアプローチ(BUA)と仮想トップダウンアプローチ(TDA)の比較
仮想BUA 仮想TDA P value
症例数 493 478
UTIの再発率(2年間の観察) 中央値18.0%(四分位範囲:16.4–20.0) 中央値24.4%(四分位範囲:22.4–26.0) 0.045
CAPの実施率(2年間の観察) 中央値25% 中央値0.4% <0.001
CAPの実施日数(2年間の観察) 中央値162日 中央値5日 <0.001
DMSA実施率 中央値0%(再発例含めると18%) 中央値100%
VCUG実施率 中央値100% 中央値2.4% <0.001

略記:BUA, Bottom-Up Approach; TDA, Top-Down Approach; UTI, urinary tract infection; CAP, continuous antibiotic prophylaxis; DMSA, 99mTc-dimercaptosuccinic acid renal scintigraphy; VCUG, voiding cystourethrography

おわりに

上部UTIを発症した乳幼児に対する画像検査としてBUAとTDAという二つの対照的なアルゴリズムが提唱され,論争となっている.BUAは上部UTIを起こした乳幼児全例にVCUGを行ってVURを発見しようとするアプローチで,TDAは上部UTIを起こした乳幼児全例に,急性期にDMSAを実施し,異常を認めた場合のみVCUGでVURの検索を行うというアプローチである.いずれにも一長一短があり,優劣を付けるのは難しいが,わが国の現状ではBUAが現実的である.なぜなら上部UTIの乳幼児は,わが国においては大多数がDMSAを実施できない二次医療施設(市民病院など)で診療されており,乳幼児の日常疾患の一つである上部UTIの症例を全例,三次医療施設(大学病院や子ども病院)に紹介することは非現実的だからである.

日本小児放射線学会の定める基準に基づく利益に関する開示事項はありません.

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