Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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The 58th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Fudan Zenshin - Continuously Moving Forward; Pediatric Radiology for Children
Siblings with Wolman disease who died in early infancy prior to approval of enzyme replacement therapy
Ikuo Okafuji
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2023 Volume 39 Issue 1 Pages 30-34

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要旨

Wolman病はライソゾーム酸性リパーゼの欠損が原因で乳児期早期に死亡する予後不良な常染色体潜性遺伝形式をとる代謝性疾患である.現在は,遺伝子組み換えヒトライソゾーム酸性リパーゼによる酵素補充療法が可能となっているが,以前は通常生後6か月以内に死亡する疾患であった.今回,酵素補充療法承認以前にWolman病と診断した兄妹例を経験した.兄は生後2週間より腹部膨満と四肢るい痩が徐々に進行し,日齢51に原因不明のまま死亡した.妹も生後3週間より腹部膨満と嘔吐を呈し,日齢76で撮影した腹部単純CT検査で副腎石灰化を認めたことで,Wolman病の診断にたどり着くことができたが,生後4か月で多臓器不全のため死亡した.兄にも妹と同様に副腎石灰化を認めていたことよりWolman病であることが想定された.我が国において最近20年でWolman病と診断された症例は1例のみという希少疾患だが,治療可能な疾患であり,早期診断早期治療のために疾患啓発が重要と考える.

Abstract

Wolman disease is a metabolic disorder with a poor prognosis. It has an autosomal recessive form of inheritance that causes death in early infancy due to a deficiency of lysosomal acid lipase. Before the availability of enzyme replacement therapy with recombinant human lysosomal acid lipase, the disease usually resulted in death within the first six months of life. We experienced two cases of Wolman disease in siblings who were diagnosed prior to the approval of enzyme replacement therapy. The (older) brother gradually developed abdominal distention and limb emaciation from 2 weeks of age, and died of unknown causes at 51 days of age. The (younger) sister developed abdominal distention and vomiting from 3 weeks of age. Abdominal CT scan taken at 76 weeks of age revealed adrenal calcification, leading to a diagnosis of Wolman disease, but she died at 4 months of age due to multiple organ failure. As adrenal calcification had been found in the brother, it was assumed that he also had Wolman disease. Although only one case has been diagnosed in Japan in the past 20 years, it is important to raise awareness of Wolman disease to enable early diagnosis now that treatment is available.

はじめに

Wolman病は新生児期に発症し,腹部膨満,嘔吐,発育不全,肝脾腫などを呈し,通常6か月以内に死亡する予後不良の疾患である.病因はライソゾーム酸性リパーゼ(lysosomal acid lipase; LAL)の欠損で,ライソゾームへのコレステロールエステルおよびトリグリセリドの著しい蓄積が全身に生じる常染色体潜性遺伝のライソゾーム病である.副腎の石灰化が特徴的で,診断の契機となる重要な所見である1)

今回,乳児期早期より腹部膨満とるい痩があり,腹部CT検査で副腎石灰化を認めたことが契機となり診断に至った兄妹を経験したので報告する.近年,遺伝子組み換えヒトLAL(Sebelipase Alfa)による酵素補充療法が可能になっている2,3)が,本症例は酵素補充療法開発前の症例であり,共に生後半年以内に亡くなった.世界的には50万人に1人とされる希少疾患であり4),特に本邦では最近20年間で本疾患と診断された症例は1例のみである5).本疾患の自然経過を知る上で貴重な症例と思われるため報告する.

症例

症例1

主訴:腹部膨満,哺乳後嘔吐,るい痩.

家族歴:特記事項なし.血族結婚なし.

現病歴:在胎40週,出生体重3,125 gで,頭位吸引分娩で出生した.生後2週間頃より家族は腹部の張りを少し気にしていた.日齢33の1か月検診時に,体重増加は問題なかったが,腹部膨満と哺乳後嘔吐が繰り返しあったため,哺乳後の排気指導を受け,後日再診となった.再診時(日齢37),体重増加は正常範囲内で認められていたが,腹部膨満改善及び哺乳後嘔吐は改善なく,四肢るい痩が顕在化してきたため,精査加療目的にて紹介医に入院した.入院時検査所見では,CRP 8.32 mg/dL,AST 228 IU/L,LDH 1,392 IU/L,Hb 9.0 g/dLと異常が認められた.感染症を疑い抗菌薬投与開始したが改善なく,血液培養検査,便培養検査共に陰性であった.腹部膨満精査目的で腹部CT検査及び下部消化管造影検査を行なったが原因特定できなかった.腹部膨満及び四肢るい痩より何らかの消化器疾患が想定されたため,日齢47に静岡県立こども病院外科に転送となった.

身体所見:意識清明で,呼吸窮迫は認められず,体温36.1度,心拍数152回/分,呼吸数50回/分,血圧100/70 mmHg,酸素飽和度97%(室内気)とバイタルサインは安定していた.腹部膨満が顕著で,腸蠕動音はやや減弱していた.肝臓は右季肋部6 cm触知,脾臓は左季肋部7 cm触知し,四肢るい痩を認めた.

経過:前医の治療継続で,栄養管理は絶飲食で輸液のみとし,抗菌薬静注しながら精査を進めていた.胸腹部X線検査では,胸郭の圧迫,肝腫大,腹部ガス像がみられ(Fig.1a),腹部単純CT検査では日齢37時点では認められていなかった副腎の石灰化を認めた(Fig.1b).上部下部消化管造影検査を行なったが消化管通過障害の所見はなく,ヒルシュスプラング病も否定的だった.一方,CRP高値が持続しており,転院3日目(日齢49)に炎症病態精査加療目的にて小児外科から感染免疫アレルギー科に転科となった.転院後は状態が安定していたため,経口栄養再開を考慮していた.また,入院時の血液検査にてサイトメガロウイルスIgM抗体が陽性だったため,PCR検査を進める予定だったが,転院5日目(日齢51)に心停止し,翌日(日齢52)に死亡した.死亡原因として可能性は低いと思われたが,先天性サイトメガロウイルス感染症の可能性もあったため,次子出産の際には予め精査を進めることとしていた.

Fig. 1 症例1の画像検査

a.日齢47での胸腹部単純X線

b.日齢47での腹部単純CT検査

症例2

主訴:サイトメガロウイルス感染症の除外.

家族歴:兄が日齢52で死亡(先天性サイトメガロウイルス感染症疑い).

現病歴:在胎40週,体重3,105 gで,誘発分娩にて出生した.臍帯血,本人血液,本人尿を用いたサイトメガロウイルスPCR検査は陰性だった.肝逸脱酵素異常を認めたが,腹部超音波検査で肝脾腫は認められなかった.日齢21に腹部膨満と胆汁性嘔吐を認めたため,精査加療目的で静岡県立こども病院感染免疫アレルギー科に入院となった.

身体所見:意識清明で呼吸窮迫は認められず,体温36.6度,心拍数136回/分,呼吸数35回/分とバイタルサインは安定していた.腹部膨満を認め,腸蠕動音はやや減弱していた.肝臓は右季肋部1.5 cm触知したが,脾臓は触知しなかった.

画像所見:胸腹部単純X線像では,腹部ガス像,胸郭圧迫,軽度な肝腫大を認めた(Fig.2a).腹部超音波検査では,腸壁肥厚と腸液充満を認め,胃腸炎に矛盾しない所見だった.

Fig. 2 症例2の画像検査

a.日齢21での胸腹部単純X線

b.日齢76での胸腹部単純X線

c.日齢76での腹部単純CT検査

経過:胃腸炎と暫定診断とし,栄養は絶飲食で維持輸液のみで経過観察することで,症状は軽快傾向であった.しかし,経口摂取を開始すると再び腹部膨満を認め,AST値は100–150 U/Lで推移していた.日齢76に胸腹部単純X線を再検したところ,著明な腸管ガス像を認め(Fig.2b),腹部単純CTにて副腎石灰化を認めた(Fig.2c).日齢52で死亡した兄と同様の経過であり家族歴があること,乳児期早期から腹部膨満とるい痩が遷延する臨床経過,副腎石灰化を認めたことより,Wolman病を強く疑い,遺伝子検査を実施して確定診断に至った.当時はまだ治療薬が無く,骨髄移植での生存例の報告6)があったため,移植準備を進めている過程で,多臓器不全のため生後4か月で死亡となった.

考察

Wolman病の兄妹例を経験した.兄は生後1か月で原因不明で亡くなったが,妹は兄の病歴と副腎石灰化を契機に確定診断に至った.酵素補充療法開発前であったため,妹も生後4か月で亡くなった.酵素補充療法が施行可能となった現在においては,本疾患に特徴的な所見である副腎石灰化を契機に早期診断に至り,酵素補充療法による早期治療ができるような診療体制を整えていく必要があると考える7)

新生児において腹部膨満は非常にありふれた徴候である.多くは便秘など消化管に起因する問題であるが,菌血症,循環器疾患,代謝疾患,悪性疾患,アレルギー疾患と原因は多彩である.実際,症例1はヒルシュスプルング病を含めた何らかの消化器疾患疑いとして小児外科に紹介となった.腹部膨満という徴候でWolman病を想起するのは困難ではあるが,予後不良ではあるが治療可能な疾患であり,乳児期早期の腹部膨満の完全に除外しておきたい疾患,すなわちMust-rule-out疾患として疾患啓発をしていく必要がある.

今回の兄妹例では,副腎石灰化は腹部単純X線では評価不能であり,腹部CT検査にて明らかになった.腹部単純X線や腹部超音波検査でも副腎石灰化の判別可能との報告8)もあるが,多くの場合は腹部単純CT検査で評価されてきた.不必要な被ばくは避けるべきではあるが,原因不明の乳児腹部膨満で,るい痩が目立つ場合は腹部CT検査を実施し,積極的に副腎石灰化の有無を評価する必要があると考える.

近年,Wolman病に対する酵素補充療法治療薬であるセベリパーゼアルファが開発され,使用可能となっている.Jonesらは,Wolman病9例に対し,セベリパーゼアルファを投与した結果,12か月後を超えて生存したのは9例中6例であったと報告している3).また,Vijayらは,Wolman病の2本の臨床試験の長期データをまとめた.対象19例で,5年生存率は68%であった.精神発達は正常で,成長及び血液や肝臓のパラメーターの改善が認められ,安全性にも問題が認められなかった9).Wolman病は乳児早期に死亡し得る疾患であり,治療可能な疾患となった今,乳児期早期の腹部膨満精査で副腎石灰化から診断に至る以外の早期診断のための戦略が必要である.

乳児期発症で予後不良な遺伝疾患を早期診断するための有効な手段として新生児マススクリーニング検査がある.新生児マススクリーニング検査を実施するには多額の費用が発生するため,簡便で費用負担の少ない検査方法の開発が不可欠である.従来,LAL酵素活性を測定するには煩雑な作業が必要であったが,近年,LALに特異的な新規基質が報告され,タンデムマスで簡便に検査可能となった10).副腎石灰化を手がかりに確定診断に辿り着く従来の診断法も重要ではあるが,新生児マススクリーニング検査で網羅的に診断していくアプローチも検討されることが望まれる.

結語

乳児期早期より持続する腹部膨満とるい痩があり,副腎石灰化で診断に至ったWolman病の兄妹例を経験した.当時は治療薬開発が未だであり,共に数か月で亡くなった.現在では疾患特異的治療薬であるセベリパーゼアルファが開発され,日常診療として使用可能となっている.希少疾患ではあるが,治療可能な疾患となった今,早期診断の戦略を整えることが切に望まれる.

謝辞

本症例は著者が静岡県立こども病院感染免疫アレルギー科に所属していた時に経験した.副腎石灰化からWolman病を鑑別疾患として提示していただいた青木克彦先生(元静岡県立こども病院放射線科),本症例の診療に支援をいただいた岡崎任晴先生(順天堂大学医学部附属浦安病院小児外科,元静岡県立こども病院外科)をはじめ,本症例の診療に関わって下さった先生方,また,症例2の骨髄移植及び肝移植を想定した転院を快く受け入れて下さった松原央先生(たんぽぽ小児科院長,元京都大学附属病院小児科),依藤亨先生(伊達赤十字病院総合内科,元京都大学附属病院小児科),中畑龍俊先生(元京都大学附属病院小児科)そして,兄の時は死亡原因不明であったにもかかわらず妹の時も常に著者を信頼して下さっていた本症例のご家族に深謝する.

本論文の要旨は,第58回日本小児放射線学会学術集会で発表した.

本論文の投稿にあたり,患者家族に文書にて同意を得た.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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