2023 Volume 39 Issue 2 Pages 102-106
超音波エラストグラフィーは非侵襲的に組織の弾性を評価でき,その適応は腎臓領域にも広がっている.一方,標準的な急性糸球体腎炎の評価法である腎生検は侵襲性が高く,より低侵襲な方法が求められている.今回,溶連菌感染後急性糸球体腎炎(post-streptococcal acute glomerulonephritis; PSAGN)2例の急性期と回復期をshear wave velocity(SWV)で比較することで,病期とSWVが関連するかを検討した.症例は4歳と6歳の男児で,PSAGNに伴う腎機能低下で入院した.入院中に測定した急性期SWVは,尿所見が改善した退院後の回復期と比較して有意に高値であった.本検討で観察されたSWVの変動は,急性期の腎血行動態や炎症に起因したと推察される.今後,症例の蓄積は必要であるが,エラストグラフィーは急性糸球体腎炎による変化を非侵襲的に評価出来る可能性がある.
Ultrasound elastography is a noninvasive method for evaluating tissue elasticity. The application of this technique has expanded to the kidneys. While kidney biopsy is the gold standard method used for assessing disease activity in kidney diseases, the technique is highly invasive. Hence, less invasive evaluating methods are required. In this study, we compared the acute phase and convalescent phase of post-streptococcal acute glomerulonephritis (PSAGN) by shear wave velocity (SWV) to examine whether disease stage and SWV are related. We compared two cases of PSAGN (two boys aged 4 and 6 years) admitted to our hospital due to PSAGN-associated kidney function impairment. We observed that the acute phase SWV values measured during hospitalization were significantly higher than those measured during convalescence (after discharge from the hospital when the urinary findings improved). It is speculated that the fluctuations in SWV values observed in this study can be attributed to kidney hemodynamics and inflammation occurring in the disease’s acute phase. Although further large sample studies are necessary in the future, our results indicate that elastography may enable noninvasive evaluation of the activity of acute glomerulonephritis.
超音波エラストグラフィーは非侵襲的な組織弾性の測定法で,肝硬変や肝線維化の評価に用いられている.その中で,剪断波(shear wave)エラストグラフィーは,組織の歪みの分布を数値化することで,組織弾性を評価できる.その原理は,生体内の標的に対して音響放射力インパルスで加振を行い,生じたshear waveの伝搬速度分布を計測するものである1).このshear waveが組織内を伝播する速度は,shear wave velocity(SWV)(単位:m/s)と定義され,水平方向に設定した2点間の伝搬時間と距離から求められる.shear wave は線維化などの弾性率の高い組織ほど伝播速度が早い性質を持つため,結果としてSWVは弾性を反映する2).この技術の適応は拡大し,小児腎臓領域においても逆流性腎症,慢性腎臓病,移植腎における線維化の評価法として一定の見解がある3).対照的に,急性糸球体腎炎(acute glomerulonephritis; AGN)に着目した報告は,成人を含めても少ない.近年,AGN患児の腎SWVは,健常児と比較して高値であることが報告された4).しかし,この検討ではAGN群に7疾患が混在し,巣状分節性糸球体硬化症や糸球体に変化のない微小変化型も含まれている.さらに,全例でステロイドを含めた治療開始後に測定が行われているため,健常児と比較して高いSWVが何を表しているかは不明である.この問題を解決するために,典型的なAGNのみに対象を限定し,治療前から経時的に評価することが求められている.溶連菌感染後急性糸球体腎炎(post-streptococcal acute glomerulonephritis; PSAGN)は小児急性腎炎症候群の8–9割を占め,その多くは数か月で自然治癒する5).つまり,PSAGNにおける急性期と回復期のSWVの比較は,AGNの有無による影響のみを評価できる可能性がある.現在,AGNに対する標準的な評価法は腎生検であるが,出血,動静脈廔,感染といった合併症が存在するため,短期間に繰り返し行うことは現実的でない.ここでは,SWV がPSAGNの病期と関連して推移した小児2例を報告する.
2019年4月から2022年6月の期間に当院でPSAGNと診断し入院加療を行った小児を対象とした.SWVは治療前の急性期と退院後の回復期で比較した.急性期は,タンパク尿(尿中タンパク/クレアチニン比 >0.15)と血尿(尿沈渣:赤血球 >5/HPF)が共に陽性である期間と定義し,回復期は尿所見消失を連続して確認した期間と定義した.
モダリティは超音波診断装置(ARIETTA 70®,日立ALOKA,日本),凸型プローブ(1–5 MHz)を使用した.測定は腹臥位で背側からプローブを軽く当て,可能な限り手技による圧排を減らし行った(Fig.1).SWVは検査ごとに50回以上計測し,SWVの信頼性指標であるnet amount of effective Vs(VsN)が50%以上のSWVのみを検討に用いた5).統計手法はpaired t-testを用い,95%を有意水準とした.
体表面に対して垂直にプローブを当て,血管や腎盂腎杯を可能な限り除いた範囲(10 mm × 15 mm)を関心領域とした.
本研究は当施設倫理審査委員会の承認(承認番号:帝倫20-199-2)を得て行い,研究に関するインフォームド・コンセントをSWV測定前に保護者から書面で取得した.同時に自由意思による参加拒否や同意の撤回が可能であることを提示した.
期間中に入院加療を要したPSAGN患児は2名で,4歳と6歳の男児であった.彼らは,腎疾患の既往はなく,家族歴や薬剤歴に特記事項はなかった.Table 1, 2に2名の入院時所見を示す.2名は軽度腎機能障害を呈していたが,支持療法のみで改善し退院した.Table 3に入院後経過を示す.各SWV測定に要した時間は,約10分であった.SWVは急性期と比較して回復期で有意に低値であった(症例1,2.49 m/s vs. 2.22 m/s,P < 0.001;症例2,2.33 m/s vs. 2.05 m/s,P < 0.01)(Fig.2).
症例1 | 症例2 | |
---|---|---|
年齢 | 4歳 | 6歳 |
体重 | 14.6 kg(病前体重+0.6 kg) | 18.2 kg(病前体重±0.0 kg) |
血圧 | 104/62 mmHg | 99/47 mmHg |
浮腫 | なし | なし |
肉眼的血尿 | なし | なし |
症例1 | 症例2 | |
---|---|---|
血液検査 | ||
eGFR | 86.49 mL/min/1.73 m2 | 63.22 mL/min/1.73 m2 |
ASO (正常値:300 IU/mL以下) |
166 IU/mL | 398 IU/mL |
C3 | 21 mg/dL | 27 mg/dL |
C4 | 23 mg/dL | 23 mg/dL |
溶連菌迅速検査 | 陽性 | 陽性 |
尿検査 | ||
潜血 | 3+ | 3+ |
タンパク | 3+ | 3+ |
赤血球 | >100/HPF | >100/HPF |
タンパク/クレアチニン比 (基準値:0.15 g/gCr以下) |
4.9 g/gCr | 0.73 g/gCr |
eGFR: estimated glemerular filtration rate, ASO: anti-streptolysin O, C3: complement 3, C4: complement 4, HPF: high power field
症例1 | 症例2 | |
---|---|---|
タンパク尿消失 | 7日目 | 6日目 |
血清補体価の正常化 | 4週間後 | 4週間後 |
血尿消失 | 4か月後 | 2か月後 |
最終観察時eGFR | 110.2 mL/min/1.73 m2 | 100.6 mL/min/1.73 m2 |
eGFR: estimated glemerular filtration rate
左から症例1,2を提示する.グラフの縦軸はSWV(m/s),横軸は測定のタイミング(左:急性期,右:回復期)を示す.SWVは回復期と比較して急性期で有意な高値を示した.
本検討が示した2症例は,臨床経過,タンパク尿や血尿消失までの期間,低補体血症改善までの期間から,典型的なPSAGNであった.急性期所見が一過性であるPSAGNにおいて,SWVの推移が2症例共に回復期で有意に低下したことは着目に値する.この結果は,超音波エラストグラフィーが従来の線維化といった病変だけでなく,推移を観察することでAGNの評価が可能であることを示唆している.
SWVは線維化より血行動態を強く反映することが知られている6).対象がブタではあるが,腎静脈結紮によって有意に上昇するSWVは,血流うっ滞によるものと考察されている7).一方,PSAGNの急性期では,糸球体毛細係蹄内に好中球,単球,マクロファージの浸潤と増生が起こる8).これにより係蹄内腔の狭小化を呈するため,血流のうっ滞が起きる.本検討では,PSAGNによって生じた血流うっ滞により,急性期にSWV値が高値であったと推察される.
AGNは組織学的変化の少ない糸球体において,代償的に過濾過が起こることで糸球体濾過量が増加する9).以前のMRエラストグラフィーの報告では,飲水負荷により腎臓のトモエラストグラフィーが上昇し,この変化は糸球体に対する過濾過を反映したと考察されている10).本検討で観察された,急性期のSWV高値は,一部の残存糸球体における過濾過を観察していた可能性がある.
AGNと同じ炎症性疾患である急性ウイルス肝炎において,疾患活動性指標(AST, ALT)と剪断波を用いて測定した肝弾性率は相関し,疾患活動性指標の改善と共に肝弾性率は低値を示した11).また,肝細胞における炎症を反映して肝弾性率が上昇することが知られている12).本検討におけるPSAGNの病期と関連して推移したSWV値は,炎症を反映したと考えられる.
本検討にはいくつかの限界が存在する.1つは腎生検による組織学的評価が行われていないため,SWVの推移が線維化といった組織変化を示していた可能性がある.しかし,一般的にSWVは組織の線維化によって上昇する1).今回観察されたSWVは回復期に低値を示していることから,不可逆的変化である線維化を呈していた可能性は低いと考えられる.2つ目は,SWVの基準値やROIを含めた測定法のコンセンサスが存在しないため,測定されたSWVの妥当性が不明である.本検討で用いた超音波装置特有のROIは,小児の腎臓に対して過大である点は否めず,その妥当性は今後も検討されるべきであると考えられる.そのため,単一の測定値のみで病期を判断することや既報の測定値と比較することは議論の余地がある.しかし,本検討で示した同一の測定法による経時的SWVの推移は,一定の信頼性があると考えられる.今後,適切な測定法を含めた更なる報告が待たれる.
典型的な臨床経過を辿ったPSAGN患児における急性期と回復期で測定されたSWVは,疾患の病期と連動して推移した.今後,症例の蓄積は必要であるが,SWVはAGNを非侵襲的に評価できる可能性があり,小児腎疾患の評価法として有用と考えられる.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.