Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
Case Report
A case of pyogenic spondylodiscitis caused by methicillin-resistant Staphylococcus aureus in a 12-year-old girl
Natsuo Nanki Naoya YamaguchiMasami AsaiMihoko Mizuno
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 39 Issue 2 Pages 97-101

Details
要旨

化膿性脊椎椎間板炎は稀な疾患であり,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を起炎菌とする小児例の報告はさらに少ない.今回,MRIで化膿性脊椎椎間板炎と診断し,MRSAが起炎菌と考えられた症例を経験したため報告する.症例は12歳女児.遷延する腰痛と発熱を主訴に受診した.血液検査で炎症反応の上昇を認め,MRIを行ったところ,L1/L2椎体および椎間板に病変を認め,化膿性脊椎椎間板炎と診断した.血液培養でMRSAが検出されたため,バンコマイシン塩酸塩の投与を6週間行った.発熱と腰痛は速やかに改善し,治療終了後も症状の再燃や後遺症はなかった.本症例は保存療法のみで改善が得られたが,成人のMRSA化膿性脊椎椎間板炎では保存的治療が奏功せず,外科的治療を要する症例も存在する.化膿性脊椎椎間板炎は特異的な症状や検査所見に乏しく診断に難渋することもあるが,発熱と腰痛を呈した症例は,本症を念頭に置き早期診断に心がけることが重要である.

Abstract

Pyogenic spondylodiscitis is a rare disease; methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)-associated cases in children are even rarer. We present a case of pyogenic vertebral osteomyelitis diagnosed using magnetic resonance imaging (MRI) in which MRSA was the suspected causative agent. A 12-year-old girl arrived at our hospital complaining of back pain and fever. Blood tests revealed mild inflammation, with MRI revealing lesions of the L1/L2 vertebrae and intervertebral disks, and she was diagnosed with pyogenic spondylodiscitis. MRSA was found in the patient’s blood culture, and vancomycin hydrochloride was administered to the patient for 6 weeks. Her back pain and fever quickly subsided, and the symptoms did not recur. Although the patient was successfully treated with conservative therapy alone, other adult MRSA-related cases are nonresponsive to conservative treatment and therefore, require surgery. Given that the diagnosis of pyogenic spondylodiscitis can be difficult in some cases due to its nonspecific symptoms and blood test findings, it should be considered in the differential diagnosis for patients who present with fever and back pain.

背景

小児の化膿性脊椎椎間板炎は,稀な疾患でありかつ,文献上でも質の高いケースシリーズが少ないため,正確な発症率は未だ不明である.小児における診断時の年齢は4歳以下が多く,また部位は,腰部や腰仙部の病変が大半を占めるが,脊椎のどのレベルでも発症する可能性はあるとされている1,2).起炎菌に関しては,黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌などの報告があるが,培養が陰性で同定されないケースも少なからずある3).本症は治療が遅れると神経障害や脊椎の不可逆性変化などの後遺症を残す可能性があるため,早期の診断と治療が重要となる.今回,我々はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による腰椎化膿性脊椎椎間板炎と診断し,保存的治療を行い,後遺症を残さずに治癒した1例を経験したので報告する.

症例

症例:12歳女児

主訴:発熱,腰痛

既往歴:アトピー性皮膚炎.食物アレルギー(いくら,鮭,さば,キウイ)

家族歴:特記事項なし

現病歴:入院8日前より腰痛,38°C台の発熱あり.入院6日前と前日に近医を受診したが,鎮痛薬の処方をされて経過観察となった.入院5日前より解熱したが,入院当日に発熱の再燃,腰痛の増強を認めたため,当院救急外来を受診した.精査加療目的で当科に入院した.

入院時現症:身長150.0 cm,体重39.0 kg,肥満度−8.7%,体温38.3°C,心拍数134回/分,血圧109/73 mmHg,呼吸数18回/分,SpO2 97%(room air)

意識清明,苦悶様表情なし.眼球結膜に充血なし.口腔内に粘膜疹なし.心音:整,雑音なし.呼吸音:清明,左右差なし.脊椎骨に限局した圧痛・叩打痛あり.肋骨脊柱角叩打痛なし.麻痺なし.歩行時に腰痛の増強あり.皮膚に軽度乾燥ある以外は明らかな外傷や皮疹なし.頸部リンパ節腫脹なし.

入院時検査所見:血液検査(Table 1)では白血球の増多を認めず,CRPの上昇,赤血球沈降速度の軽度促進を認めた以外には明らかな異常は認めなかった.脊椎単純X線写真,心臓・腹部超音波検査では明らかな異常は認めなかった.

Table 1 入院時検査所見

【生化学】 【血算】
AST 20 U/L WBC 8,400/μL
ALT 16 U/L Neutro 73.7%
LDH 282 U/L Lymph 15.2%
CRE 0.45 mg/dL Hb 14.4 g/dL
BUN 12.5 mg/dL PLT 23.1 × 104/μL
CK 45 U/L 【免疫】
Na 141 mEq/L ESR(60分) 18 mm
K 4.1 mEq/L ANA <40倍
Cl 104 mEq/L C3 151 mg/dL
Ca 9.2 mEq/L C4 41 mg/dL
CRP 2.59 mg/dL IgG 948 mg/dL
IgA 160 mg/dL
IgM 94 mg/dL

ESR:赤血球沈降速度,ANA:抗核抗体

入院後経過:入院後,ピペラシリンナトリウム(PIPC)77 mg/kg/dayの点滴静注で加療を開始し,入院2日目より解熱が得られた.入院4日目のMRI(Fig.1a)において,L1/2椎間板の軽度低信号化と椎間板隙の狭小化,同椎間板に接する上下椎体(L1・L2)終板の不整と高信号を認めたため,化膿性脊椎椎間板炎と診断した.その後も解熱は継続していたが,入院5日目にCRP 2.59→4.93 mg/dLと血液検査所見の悪化を認めたため,バンコマイシン塩酸塩(VCM)に変更した.起炎菌に関しては,血液培養採取後14時間で陽性となり,入院6日目にMRSAと判明したため,そのままVCMの投与を継続した.VCMは治療薬剤モニタリングにおけるトラフ値目標を10~15 μg/mLとして投与量を調節した.尚,入院7日目に採取した血液培養は陰性であることを確認した.入院19日目のMRI(Fig.1b)で感染範囲の拡大を認め,L1椎体からL2椎体にかけて膿瘍の形成を認めたが,発熱や腰痛などの臨床症状の改善を認めていたため,外科的介入は行わずに保存的治療を継続した.その後,膿瘍は入院33日目のMRIでは増悪がなく,入院47,55日目のMRIでは改善傾向であった.VCMは有効血中濃度に達したと判断してから6週間投与して入院55日目に終了し,入院56日目に退院した.入院中よりコルセットを装着して,段階的に運動制限を解除した.脊椎単純X線写真は,退院後2週間でL1/2椎骨のMRIにおける膿瘍病変と一致する部位に透過性亢進を認めたが,退院8か月時点では,病変周囲に骨新生を認めた.退院後8か月のMRI(Fig.1c)は膿瘍病変の消失と椎体のリモデリングを認めた.経過中,神経障害や脊椎変形などの後遺症はなく,経過観察を終了した.

Fig. 1 脊椎MRI 脂肪抑制T2強調画像

(a)入院4日目

L1/2椎間板の軽度低信号化と椎間板隙の狭小化,同椎間板に接する上下椎体(L1・L2)終板の不整と高信号を認める.

(b)入院19日目

L1/2椎間板の低信号化と椎間板隙の狭小化はさらに進行し,上下椎体に進展するT2強調像高信号病変の拡大を認める.

(c)退院後8か月

L1/2椎間板に接する上下椎体終板の不整は残存するものの,T2強調像高信号病変の信号は低下している.

考察

化膿性脊椎椎間板炎の原因は,他の感染巣からの血行性感染,近接した感染巣からの直接浸潤,外傷や検査,手術による直接的な到達の3つが考えられる.その中でも血行性感染が最も頻度が高く,成人も含めた報告では,原因となる感染巣が同定される割合は51%とされている4).本症例は,近接組織に明らかな感染巣がないこと,外傷や手術歴がないことおよび血液培養が陽性だったことから,血行性感染が原因と考えられる.尚,本症例はアトピー性皮膚炎の既往があるが,アトピー性皮膚炎は一般的に皮膚バリア機能の破綻から,皮膚炎を生じ,細菌叢の変化が起こることで皮膚および皮下の感染症が生じやすくなる5).また,皮膚に常在する黄色ブドウ球菌の保有数が正常より多く,血行性感染のリスクが高いことが知られている6).ただし既報では小児の感染性脊椎椎間板炎においてアトピー性皮膚炎の既往を有する例は18%程度であった.一般人口における小児のアトピー性皮膚炎の有病率は年齢により異なるが,本症例と同じ学童期は,11.8~14.6%と報告されており5,7),化膿性脊椎椎間板炎で高率にアトピー性皮膚炎を合併するとは言い切れないと考える.本児においても湿疹のコントロールは良好であり,否定はできないものの侵入門戸とは積極的には考えにくい状態だった.血行性感染に関しては,動脈を経由して細菌が椎体に到達する経路と傍脊椎静脈叢(Batson’s plexus)を経由して逆行性に感染する機序が考えられている.脊椎周囲のBatson静脈叢は弁構造を有していないことが知られているため,細菌が静脈内を逆流し椎体に達し,血行性感染をきたしやすいという説もあり8),今後知見が蓄積し,発生機序が解明されることが期待される.また発生部位に関しては,成人を含めた報告では,腰椎,胸椎,頸椎の順に発生頻度が多いとされている9).成人においては悪性腫瘍,糖尿病,肝硬変,免疫抑制状態,腎不全などの基礎疾患を有する患者に多く発症することが知られているが10),小児における高リスク群はわかっていない.

2000年以降の本邦における小児の化膿性脊椎椎間板炎の報告は執筆時点で調べられる範囲では,本症例を併せて20例であった(Table 2).海外での既報では,4歳以下が好発年齢とされているが2),14/20例が10歳以上であり,小児期のどの年齢でも発症しうることが示唆される.本症の診断にはMRIが感度,特異度ともに高く,単純X線写真やエコー,CTに比べ有用であることが知られている1).MRIでは骨髄の浮腫などの信号変化をより検出しやすくするために,脂肪抑制T2強調像あるいはSTIR像などの撮影条件が特に有用とされている1,2,11).単純X線写真やCTは骨破壊像を検出するが,発症早期では異常所見を呈さないこともある.またエコーに関しては低侵襲で被ばくもなく,小児ではよく用いられる検査であるが,膿瘍形成などの所見がある場合に限り有用であると考えられている12).これらを考慮の上,患者の状態などを踏まえた総合的な判断で適切な画像検査を選択することが重要である.本症例の場合は,鎮静の必要もなく,より情報量が多く,診断確率の高いMRIを選択した.そして本症では,画像所見が臨床所見と相関することは少なく,治療により臨床的な改善が得られたにも関わらず,MRIでの異常所見が残存したり,一部の症例では悪化することもあることが示されている11).そのため,本症は頻回や長期の画像フォローアップは不要という報告もされている13)

Table 2 2000年以降の本邦における小児の化膿性脊椎椎間板炎の報告

症例 著者 年齢 性別 部位 起炎菌 外科的治療の有無
1 松本ら 15歳 L3/4 Salmonella O7 なし
2 川崎ら 13歳 L5 不明 なし
3 深野ら 3歳 L4/5 不明 なし
4 和氣ら 15歳 L2/3 MSSA なし
5 國重ら 14歳 L4 MSSA なし
6 土肥ら 12歳 L5/S1 Salmonella O7 なし
7 石神ら 13歳 Th12/L1 Salmonella agona なし
8 相原ら 45日 Th8 MRSA なし
9 飯田ら 15歳 L3/4 MSSA なし
10 両角ら 9歳 L4/5 不明 なし
11 高橋ら 1歳 L4/5 不明 なし
12 星野ら 14歳 Th11/12 不明 なし
13 佐々木ら 11歳 Th11/12 不明 なし
14 佐藤ら 11歳 L3 不明 なし
15 長田ら 12歳 Th8 MSSA 病巣掻爬,骨移植
16 上田ら 14歳 L1/2 MSSA 病巣掻爬
17 森久保ら 9歳 L3/4 MSSA なし
18 清水ら 14歳 Th10 不明 なし(生検あり)
19 清水ら 9歳 S1 MSSA なし(生検あり)
20 自験例 12歳 L1/2 MRSA なし

起炎菌に関しては,成人も含めた本邦および海外の既報では,黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌などが上位を占めるとされている3,4,14).尚,小児に関しては,メチシリン耐性ブドウ球菌(MSSA)が最も多く,次いでサルモネラ,そしてMRSAが本症例以外で1例のみ報告されており,成人とは少し内訳が異なっていたのが特徴的であった(Table 2).抗生剤の治療期間に関しては,4週間未満では高率に感染が再燃されているとされており,IDSA(米国感染症学会)から2015年に発刊された「化膿性脊椎炎ガイドライン」15)では6週間の抗生剤投与が推奨されており,本症例もそれに従い治療を行った.本症例はMRSAが起炎菌であったが,幸いにも後遺症を残さず,保存的な治療のみで改善が得られたが,成人では,MRSAが起炎菌の化膿性脊椎椎間板炎は2椎体以上の罹患が多く,保存的治療の奏効率が低く,ドレナージなどの外科的治療を必要とした症例が報告されており16),注意が必要である.

結論

発熱と腰痛を呈した12歳女児にMRIを施行し,化膿性脊椎椎間板炎の診断に至り,抗生剤による保存的治療で後遺症なく加療できた1例を経験した.化膿性脊椎椎間板炎は稀な疾患であるが,発熱と腰痛を呈した症例は,本症を念頭に置き早期診断に心がけることが重要である.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Pediatric Radiology
feedback
Top