Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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The 59th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Multidirectional approach for pediatric radiology
The new world seen with lymphatic ultrasound (D-CUPS)
Hisako Hara Makoto Mihara
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2024 Volume 40 Issue 1 Pages 36-42

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要旨

我々は,18 MHzのリニアプローブ(Noblus,富士フィルム,旧・日立製作所)を用いたリンパ管エコーの有用性を報告してきた.リンパ浮腫患肢ではリンパ管が変性(拡張,硬化,閉塞)する.エコー検査でリンパ管変性を評価することで,リンパ管静脈吻合術などの手術成績が向上している.

リンパ管を同定する際には,D-CUPSの指標を用いて静脈との鑑別を行う.つまり,Dopplerで色がつかない,Cross(近傍の静脈を素通り),Uncollapsible(プローブの圧迫でつぶれにくい),Parallel(複数本のリンパ管が並走),Superficial fasciaの直下にある,というのがリンパ管の特徴である.

リンパ管エコーはリンパ管機能の診断にも有用である.低侵襲な検査で,コメディカルスタッフも施行可能である.従来リンパ管機能検査としてリンパシンチグラフィ,リンパ管造影などがあるが,いずれも実施できる医療機関は少ない.リンパ管エコーが普及すれば,様々な疾患で,より適切な診断,治療につながる可能性がある.

Abstract

We have reported the usefulness of lymphatic ultrasound using an 18 MHz linear probe (Noblus, Fuji Film). Degeneration of lymphatic vessels through ectasia, sclerosis, and obstruction occurs in lymphedema-affected limbs. Evaluation of lymphatic degeneration using ultrasonography has improved surgical outcomes for procedures such as lymphaticovenous anastomosis.

When identifying lymph vessels, we use the D-CUPS index to differentiate these vessels from veins, rather than use of color Doppler. The characteristics of the lymphatic vessels are defined as “cross” (passing through nearby veins), “uncollapsible” (do not collapse under pressure from the probe), “parallel” (multiple lymph vessels run in parallel), and located under the superficial fascia.

Lymphatic ultrasound is also useful for diagnosis of lymphatic function, as a minimally invasive examination that can be readily performed by medical staff. Conventional examinations of lymphatic function include lymphoscintigraphy and lymphangiography, but few medical centers can perform these methods. More widespread use of lymphatic ultrasound may lead to improved diagnosis and treatment of various diseases.

 はじめに

近年,さまざまな疾患においてリンパ管機能検査が行われるようになってきた.リンパ管は,水分,脂質,老廃物などの輸送や免疫において不可欠な役割を果たしており,その機能を正確に評価することは,疾患の診断や治療において重要である.

現在行われているリンパ管機能検査としては,リンパ管造影法,リンパシンチグラフィ,インドシアニングリーン(indocyanine green; ICG)蛍光リンパ管造影,リンパ管MRI検査などがある.いずれも,放射線や造影剤の使用が必要であり,疼痛やアレルギーのリスクなどがある.さらに,特殊な設備や知識が必要なことから,このような検査を実施している医療機関は全国的に多くなく,一般的に普及しているとは言い難いのが現状である.

われわれは以前より,リンパ浮腫診療におけるリンパ管エコーの有用性を報告してきた.リンパ管エコーは,造影剤が必要ない低侵襲な検査法であり,リンパ管の詳細な構造や動態をリアルタイムに観察することが可能である.この論文では,リンパ管エコーの利点,実際の方法,今後の課題などを総説する.

 リンパ管エコーの利点

リンパ管エコーにはさまざまな利点がある.リンパ管エコーを行うためには,ある程度リンパ管の解剖やエコーでの見え方を知り,慣れることが必要であるため,検査の精度は検者依存性ではあるが,それは他のエコー検査でも同様である.リンパ管エコーにはそのデメリットを超えるメリットがあると考えられる.

1. リンパ管変性の診断

婦人科癌や乳癌の治療でリンパ節廓清を行うと,そこより遠位の四肢にリンパ液うっ滞が生じ,リンパ浮腫を発症することがある.リンパ浮腫の患肢では,リンパ管内圧の異常な上昇から,リンパ管変性が起こることが知られている(Fig. 11,2).正常な四肢では,リンパ管は直径0.2 mm程度の透明な脈管である(Normal Type).リンパ液うっ滞が起こると,リンパ管は膨らませた水風船のように拡張し,0.5~1.5 mm程度になる(Ectasis Type).次第にリンパ管壁の平滑筋層が肥厚し(Contraction Type),最終的にリンパ管閉塞をきたす(Sclerosis Type).この過程を,それぞれの頭文字をとってNECST分類と名付けている.

Fig. 1  リンパ管変性の過程(NECST分類;Normal Type,Ectasis Type,Contraction Type,Sclerosis Type)

上段は手術中に認めたリンパ管の外観,下段はエコー所見である(黄色丸:リンパ管).

リンパ管エコーを用いると,リンパ管の断面を観察することができるため,形態学的にリンパ管変性の度合いを診断することが可能である.Normal Typeでは,リンパ管は小さなイコールマークのように見える.Ectasis Typeではhypo-echoicな内腔が拡張して目立つようになり,Contraction Typeではhyper-echoicなリンパ管壁が厚く目立つようになる.Sclerosis Typeでは,内腔がなくなり,肥厚したリンパ管壁のみが観察できる.

これには2つの意義があり,1つはリンパ管機能不全の診断ができる,つまりリンパ浮腫の診断ができるということである.われわれは以前,リンパ管エコーを用いてリンパ浮腫の診断を試み,感度95%,特異度100%という結果であった.2つ目の意義は,リンパ管静脈吻合術(LVA)の術前検査としての有用性である.LVAは,リンパ液がうっ滞したリンパ管を静脈に吻合することで,リンパ液の排出路を再建し,リンパ浮腫の軽減を図る手術である.拡張したリンパ管を吻合したときに最も効果が高いことが報告されており,リンパ管エコーを用いることで,確実に拡張したリンパ管を同定することができる.従来のリンパ管機能検査では,リンパ管変性を診断することはできず,リンパ管エコーは現時点で唯一のリンパ管変性を診断できる検査である.

2. 造影剤が不要である

造影剤などの薬剤に依存せずに検査ができるため,患者に痛みを与えず,アレルギーのリスクもない,安全な検査である.

従来のリンパ管機能検査(リンパシンチグラフィやICG蛍光リンパ管造影など)は,薬剤に依存してリンパ管を描出するため,薬剤を注射した箇所のリンパ管機能が低い場合,その他の部位に薬剤が到達せず,機能良好なリンパ管があったとしても描出されないということが頻繁に起こっていた.リンパ管エコーは,患部をくまなくスキャンすることできるため,従来の検査ではリンパ管が描出されなかったような患者でもリンパ管を同定することができるようになった.これまでLVAの適応外とされていた重症リンパ浮腫患者でもLVAを行うことができ,良好な結果が得られている(Fig. 23,4)

Fig. 2  リンパ管静脈吻合術(LVA)におけるリンパ管エコーの活用

a:下肢リンパ浮腫患者の臨床写真.b:リンパシンチグラフィ所見.右下肢は,リンパ管機能低下のためリンパ管が描出されていない.c:リンパ管エコー所見.拡張したリンパ管を認める(黄色丸).d:LVAの術中所見.エコー所見通りのリンパ管と静脈を認め,吻合した.

3. リンパ管の太さを評価できる

下肢静脈エコーでは,静脈系の測定や血液の逆流の測定が一般的であるが,リンパ管ではそのような評価が可能な検査がなかった.リンパ管エコーを使うと,リンパ管の直径をリアルタイムに測定することができる.われわれは,これを用いてさまざまな研究を行ってきた.

まず,35人の健常人下肢でリンパ管径を測定したところ,被検者の体位が臥位から座位や立位に変化しても,リンパ管径は変化しなかった5).また,リンパ管の直径は女性より男性で太いという結果であった(大腿部では男性で0.17 mm,女性で0.14 mm).

次に31人の下肢リンパ浮腫患者で下肢リンパ管径を測定したところ,リンパ管径の平均値は臥位から立位になると縮小傾向となった6).一方で,立位になったときにリンパ管径が拡張する患者も存在し,体位変化によるリンパ管径の変化は個人差があることがわかった.

このように,リンパ管は静脈とは異なる生理機能を有している可能性があり,今後も新たな発見が期待できる.

4. 浮腫の度合いも同時に診断できる

リンパ浮腫の標準治療は,圧迫療法,用手的リンパドレナージ(マッサージ),運動療法などの保存療法で,浮腫の症状を改善させることができる.ただし,リンパ節廓清を受けたこと,リンパ管機能不全があることと,リンパ浮腫の治療を受けるべきかどうかは,別問題である.リンパ節廓清を受けたとしても,浮腫がなければこれらの治療を行う必要はなく,これらの治療がリンパ浮腫を予防するというエビデンスもない.つまり,治療の必要性を判断する上で,今浮腫があるかどうかを正確に診断することは重要である.

しかし,特にリンパ浮腫の患部では,脂肪組織の増生や皮下組織の線維化が起こるため,視診,触診のみで浮腫の有無を診断することは,リンパ浮腫の治療経験豊富な医療者であっても容易ではない.

エコー検査を行うと,リンパ管変性とともに浮腫の有無についても正確な診断を行うことができるため,治療選択を行う上で有用である.

5. 誰でもどこでもできる

以上のように,さまざまな点で有用性のあるリンパ管エコーであるが,われわれが用いているのは18 MHzのリニアプローブ(Noblus,富士フィルム,旧・日立製作所)であり,一般的な医療機関に割とよくある程度の超音波装置である.特殊な装置や薬剤は必要ない.医師以外のコメディカルスタッフも実施でき,特に下肢静脈エコーを日常的に行っている血管診療技師(CVT)などは,見方さえわかれば,今日からでもリンパ管が見えるはずである.

ただし,成人でも手背,足背や痩せた患者の上肢などでは,皮下脂肪が薄く,リンパ管が皮膚表面から5 mm以内の浅層に存在するため,33 MHzなどの超高周波エコープローブが有用である7).小児においても,同様のことがいえると考えられる.

下肢浮腫がある患者で下肢静脈機能に問題がない場合,実はリンパ管機能不全があり,視野の中にリンパ管が映り込んでいる可能性がある.拡張したリンパ管は直径0.5~1 mm程度なので,リンパ管の見方を知らないと静脈と混同してしまう.でも,知っていればリンパ管が見えてくる.これから,リンパ管と静脈の見分け方を紹介する.

 D-CUPS

リンパ管と血管は,いずれも内部に液体を含む脈管である.このうち動脈は拍動しているためわかりやすく,問題はリンパ管と静脈の見分け方である.われわれは,エコー検査でリンパ管と静脈を見分けるためにD-CUPS(ディー・カップス)という指標を提唱している8).以下のD-CUPSはリンパ管の特徴である.

D(Doppler):静脈はドプラモードで色がつくが,リンパ管は色が付かない(Fig. 3).ただし,細い静脈では色が付かないこともあるので,あくまでも参考程度に考える.

Fig. 3  リンパ管エコー所見

D-CUPSのD(Doppler).静脈はドプラモードで色がつくが,リンパ管は色がつかない.

C(Crossing):リンパ管は近くの静脈を素通り(cross)する.拍動しない脈管を見つけ,それを近位へ追うと,静脈であれば近くの太い静脈へ合流していく(Fig. 4).リンパ管の場合,近位へ追って静脈に近づいたとしても合流せず,素通りする.当たり前であるが,エコーでリンパ管と静脈を鑑別するには,この指標が最も感度が高い.

Fig. 4  リンパ管エコー所見

D-CUPSのC(Crossing).エコー検査で何らかの脈管を見つけて近位に追ったとき,近傍の静脈に合流すればそれは静脈である.リンパ管は近傍の静脈を素通りする.

U(Uncollapsible):リンパ浮腫の患肢にあるリンパ管は,リンパ液うっ滞のため内圧が上昇しており,静脈内圧より高いことが多い.リンパ管と静脈が横並びになった状態でエコーのプローブで圧迫すると,静脈はすぐにつぶれるが,リンパ管はつぶれにくい.より強い力で圧迫するとリンパ管もつぶれ,プローブの圧迫を解除すると,ゆっくりとしたrefillが見られる.

P(Parallel):2~3本のリンパ管が,合流せずに並走することがある(Fig. 5).動脈と静脈が並走することはあるが,静脈のみで複数本が並走することはあまりなく,拍動しない脈管が並走していた場合はリンパ管の可能性が高い.

Fig. 5  リンパ管エコー所見

D-CUPSのP(Parallel),S(Superficial fascia).a:エコー所見.浅筋膜下に2本のリンパ管を認める.b:aの黄色四角の範囲を拡大したシェーマ.c:リンパ管静脈吻合術の術中所見.エコー所見通り,2本の並走するリンパ管を認める.

S(Superficial fascia):集合リンパ管は,浅筋膜(皮下脂肪層の中間にある薄い膜)の直下を,浅筋膜と水平に走る.一方,静脈がこの層を浅筋膜に水平に走ることは少なく,多くの場合,筋膜上の大伏在静脈などから皮膚に向かって斜めに走る.

 プロトコール

リンパ管エコーでは,リンパ管の走行をイメージしながら,それに直角になるようにプローブをあてる(Fig. 6).まず浅筋膜を同定し,その直下を観察しながらプローブを遠位,近位へ動かす(Fig. 6の両矢印).直径0.2~1 mm程度の構造物を見つけたら,遠位,近位へプローブを動かし,連続性があるかどうかを確認する.連続性があれば脈管(または神経)であるし,連続性がなければ線維組織と思われる.脈管を見つけたら近位へ追い,静脈を素通りしたらリンパ管の可能性が高い.念のため,プローブで強く圧迫してつぶれるかどうか,ドプラモードで色がつかないか確認する.言葉だけではわかりにくいので,実際のリンパ管エコーの動画を動画サイトに掲載している(Fig. 6).

Fig. 6  リンパ管エコーのシェーマ

リンパ管の走行(青線)をイメージしながら,それと直角になるようにプローブをあてる(-・マーク).さらに,近位,遠位へプローブを動かして脈管を観察する(両矢印).QRコード:リンパ管エコーのYouTube動画.

われわれの行っているリンパ管エコーのプロトコールを紹介する.慣れれば,両下肢で5~8分程度の所要時間である(Fig. 7).下肢を,大腿・下腿・足背に分け,大腿と下腿は内側・外側に分けて評価している.上記の一連の動作を,各領域で行い,浮腫の有無,リンパ管変性の有無を評価する.リンパ管変性の有無は,NECST分類に基づいて記録する.大腿内側,下腿内側については,下肢静脈エコーと同様,股関節外旋位にすると観察しやすい.

Fig. 7  当院でのリンパ管エコーのプロトコール

大腿,下腿,足背に分け,さらに大腿,下腿は外側,内側に分けて評価を行っている.N:Normal Type,E:Ectasis Type,C:Contraction Type,S:Sclerosis Type.

 今後の展望

われわれは,リンパ管エコーに大きな期待を持っている.これまでのリンパ管機能検査と異なり,リンパ管エコーは,いつでもどこでも誰でも行うことができ,造影剤も必要ない,安全性と有用性の高い検査である.使うエコー機器は特殊なものではなく,一般的なリニアプローブである.これまでの下肢静脈エコーの中で,一定の割合で拡張したリンパ管が映っていたことは想像に難くなく,おそらく静脈と混同されてきたものと思われる.今後,リンパ管エコーが一般化していけば,これまで原因不明とされてきた浮腫の原因が適正に診断され,これまでわからなかった疾患の病態が解明されていく可能性がある.また,近年ではエコー検査におけるAIの活用も進んでおり,AIを用いたリンパ管の判別や評価ができれば,さらにリンパ管エコーの普及が加速すると思われる.今後,リンパ管エコーの一般化に向け,プロトコールの標準化などに努めていく所存である.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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