Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
Special Feature: Imaging of infectious disease
Acute encephalopathy in childhood associated with COVID-19
Jun-ichi Takanashi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 40 Issue 2 Pages 58-62

Details
要旨

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株が流行の主流となった第6波以降,小児SARS-CoV-2感染症(COVID-19)患者数は急激に増加し,それに伴い重症例も増えている.COVID-19関連急性脳症は2022年11月までに103例が報告され,症候群別ではけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最多(27例,26.2%)であった.出血性ショック脳症症候群(HSES)8例,劇症脳浮腫型脳症(AFCE)6例,急性壊死性脳症(ANE)4例とサイトカインストーム型脳症が18例(17.5%)であり,COVID-19以前の他のウイルスによる急性脳症症候群別頻度ANE 2.8%,HSES 1.7%に比して高頻度であった.重篤な経過を呈するHSES,AFCEが高頻度であることから,COVID-19関連急性脳症の予後は不良(死亡11例,10.7%)であった.

Abstract

The number of pediatric patients with COVID-19 has increased rapidly since the omicron variant became the main cause of the disease. By November 2022, 103 cases of COVID-19-related acute encephalopathy had been reported. Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion (AESD) was the most common syndrome (27 cases, 26.2%). There were 8 cases of hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome (HSES), 6 cases of encephalopathy with acute fulminant cerebral edema (AFCE), and 4 cases of acute necrotizing encephalopathy (ANE); thus, in total, there were 18 cases (17.5%) of cytokine storm encephalopathy. The frequencies were higher than those reported in 2017 for ANE (2.8%) and HSES (1.7%), before COVID-19. The prognosis of COVID-19-related acute encephalopathy was poor (11 deaths, 10.7%) due to the high frequencies of HSES and AFCE, which have a severe course.

 はじめに

新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症(COVID-19)は2023年5月8日に2類感染症相当から季節性インフルエンザと同等の5類感染症に引き下げられられた.それに伴い,小児診療体制はCOVID-19以前に戻りつつある.COVID-19の年代別新規感染者数報告によると,流行初期には10歳未満と10歳代の割合は少なく(第1波で4.1%),COVID-19は成人,特に高年齢者の呼吸器感染症との認識があり,小児臨床現場は比較的落ち着いていた.第2波から第5波にかけて小児(20歳未満)の割合は次第に増加(8.5%, 10.0%, 12.8%, 19.9%)し,オミクロン株(BA.1,BA.2系統)が主流となった第6波では32.7%(最大の週間感染者数:2022/2/2~8,148,923名)と大きな増加がみられた13).BA.5系統が主流となった第7,8波では小児感染者数はさらに増加(週間感染者数:第7波2022/8/17~23,324,421名,第8波2022/12/21~27,312,157名)した3).なお,COVID-19の感染法上の位置づけ変更に伴い2023/5/7以降,年代別新規感染者数の集計は実施されていない.小児におけるオミクロンの臨床的特徴として,咽頭痛・嗄声・クループなどの呼吸器症状,嘔吐があげられる.熱性けいれんはオミクロン株流行期以降に急増(オミクロン14.6%,オミクロン以前1.7%)し,比較的高年齢での発症が多いとされる4,5)

 COVID-19関連脳症の疫学・臨床像

第6波以降のCOVID-19患者数増加に伴って重症化する小児の報告も増えている.20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(以下,死亡例疫学調査)によると,2022年1月1日~9月30日(第6,7波)の期間で62例(うち2022年7月以降に43例)が報告されている6).内因性死亡50例の死亡に至る主な経緯は,中枢神経系異常が19例(38%)と最多であり,循環器系異常9例,呼吸器系異常4例の順となっている.中枢神経系異常19例の年齢中央値は8.0歳であり,急性脳症と考えられた症例が14例,うち臨床的に出血性ショック脳症症候群(HSES)が疑われた症例が5例であった.また,日本集中治療医学会の小児COVID-19重症・中等症例調査によると,2022年6月以降(第7,8波)の入院424件の入院理由は,けいれん(25.9%),肺炎(18.9%),急性脳症(17.9%),心停止(4.0%)の順であり,中枢神経系異常の頻度が高いことが示されている7,8)

小児急性脳症研究班による日本小児神経学会員を対象としたCOVID-19関連脳症の調査が実施された.2020年1月から2022年11月までにCOVID-19関連脳症と診断された小児患者は103人で,そのうちBA.1/BA.2系統流行期(2022年1月~5月)の患者は32人(0–14歳,中央値5歳),BA.5系統流行期(2022年6月~11月)の患者は68人(0–15歳,中央値3歳)であった911).2017年実施の日本における小児急性脳症疫学調査(以下,2017年脳症疫学調査)12)での中央値2歳に比して高年齢であった.BA.5系統流行期はCOVID-19関連脳症の発症時にけいれん発作を起こす患児が多く,68人中50人に発症時にけいれん発作を認めた.急性脳症症候群別の検討では,けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が27名(26.2%)と最多であった(Fig. 1).HSES 8例,劇症脳浮腫型脳症(AFCE)6例,急性壊死性脳症(ANE)4例とサイトカインストーム型脳症が18例(17.5%)であり,2017年脳症疫学調査での症候群別頻度ANE 2.8% + HSES 1.7% = 4.5%に比して高頻度であった.一方で,可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症(MERS)は9名(8.7%)であり2017年脳症疫学調査(19.3%)に比して頻度が低かった.MERSの診断に拡散強調像での脳梁膨大部病変が必須であるが,多くは1週間以内に病変が消失する.COVID-19では感染対策のためMRI検査に制限があり,MERS症例が診断不能の軽症脳症と過小評価されている可能性がある.

Fig. 1  COVID-19関連脳症と他のウイルス関連脳症(2017年全国疫学調査)の症候群別患者数と発症年齢(出典:東京都医学総合研究所,文献11から引用)

COVID-19関連脳症ではANE,HSES,AFCEの頻度が高いことが示される.

AFCE=劇症脳浮腫型脳症,HSES=出血性ショック脳症症候群,ANE=急性壊死性脳症,MERS=可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症,AESD=けいれん重積型(二相性)急性脳症

COVID-19関連脳症の転機(Fig. 2)は完全回復が45人(43.8% vs 56%[2017年脳症疫学調査]),軽度から中等度の神経学的後遺症は28人(27.2% vs 24%),重度の神経学的後遺症は17人(16.5% vs 12%),死亡は11人(10.7% vs 5%)と他のウイルス感染関連脳症に比して不良であった1012).死亡はHSES 6例(8例中),AFCE 5例(6例中)であり,これら2つの症候群の頻度が高いことが関係している.

Fig. 2  COVID-19関連脳症と他のウイルス関連脳症(2017年全国疫学調査)の予後(出典:東京都医学総合研究所,文献11から引用)

AESD,MERS,ANEは各々特徴的な画像所見(Fig. 34)が診断の根拠となる13,14).HSES(Table 115,16),AFCEは時々刻々臨床症状が悪化するためMRIはしばしば実施困難である.CTは初期に正常であっても数時間後には著明な脳浮腫を呈する(Fig. 3)ことが多い17).症候群ごとの画像所見をTable 2に示す,詳細は成書を参考にされたい13,14)

Fig. 3  COVID-19関連脳症の頭部MRI(文献9 図2より転載)

A:AFCEのCT 皮質灰白質の境界は不明瞭,迂回漕は消失し著明な脳浮腫を呈する.

B:HSESのCT A同様に著明な脳浮腫を呈する.

C:AESDの拡散強調像 両側皮質下白質に高信号(bright tree appearance)を認める.中心溝近傍は傷害を免れている(central sparing).

D:AESDの拡散強調像 左皮質下白質,左視床に高信号を認める.

E:MERSの拡散強調像 脳梁膨大部に高信号を認める.

Fig. 4  COVID-19関連AESD

A:5病日の拡散強調像で皮質下白質に高信号(bright tree appearance)を認める.

B:11病日の拡散強調像で高信号は消失.

Table 1 HSESの診断基準

Levinらの診断基準15)

臨床所見:昏睡・けいれん,ショック,下痢,乏尿,出血(またはDIC)

血液検査所見:AST/ALT上昇,BUN上昇,Cr上昇,代謝性アシドーシス,Hb低下(入院時より3 g/dl以上),PLT低下(<150,000/μl),PT/APTT延長・TT低下,Fib低下,FDP上昇

除外:毒素性ショック症候群,Reye症候群,既知の感染症・代謝疾患

Baconらの診断基準16)

1.ショック 2.脳症(昏睡,けいれん) 3.下痢 4.DIC 5.Hb,PLT の低下 6.肝酵素の上昇 7.腎機能低下 8.アシドーシス 9.培養の陰性

Definite 9項目,Probable≧7項目

Table 2 脳症症候群別の画像所見

けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)

AESDの診断基準(①は参考所見)に記載された画像所見は,以下の通りである.

①1,2病日に施行された CT,MRIは正常.

②3–14病日に拡散強調像で皮質下白質(bright tree appearance)ないし皮質に拡散強調画像で高信号を認める.中心溝周囲はその所見を認めない(central sparing).

③2週以降,前頭部,前頭・頭頂部にCT,MRIで残存病変ないし萎縮を,またはSPECTで血流低下を認める.中心溝周囲はしばしばその所見を認めない.

可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症(MERS)

MERSの診断基準に記載された画像所見は,以下の通りである.

急性期に脳梁膨大部に拡散強調像で高信号を呈し,T1,T2信号異常は比較的軽度である.

①病変は脳梁膨大部を含み,脳梁全体ないし対称性白質に拡大しうる.

②2か月以内に消失し信号異常・萎縮を残さない.

急性壊死性脳症(ANE)

ANEの診断の目安として記載された画像所見は,以下の通りである.

頭部CT,MRIによる両側対称性,多発性脳病変の照明.両側視床病変は必発である.しばしば大脳側脳室周囲白質,内包,被殻,上部脳幹被蓋,小脳髄質にも病変を認めることがある.これら以外の領域には病変を認めない.

出血性ショック脳症症候群(HSES)(文献17より抜粋)

CT:発症当日には明らかな異常所見を認めないことが多いが,時間単位に脳浮腫が進行する.

MRI:急性期に皮質(前頭・頭頂・後頭優位)病変を呈し,白質・尾状核・海馬病変は重症例で認められる.フォローのMRI(非重症例のみに施行)で皮質下白質にBTA様の拡散低下を認めうる.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Pediatric Radiology
feedback
Top