2024 Volume 40 Issue 2 Pages 81-89
先天感染症には一般に胎内,周産期の感染が含まれる.TORCH症候群として,先天性トキソプラズマ症,先天性風疹症候群,先天性サイトメガロウイルス感染症,新生児単純ヘルペスウイルス脳炎,先天性HIV感染症や肝炎ウイルスの先天感染がある.他にリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス,ジカウイルスの胎内感染,周産期感染ではヒトパレコウイルス3型,B群溶血性レンサ球菌溶連菌等による中枢神経障害も知られている.
胎内感染では胎児の感染時期で症状・画像所見が異なり,感染時期が早いほど重篤である.脳室拡大,脳実質内の石灰化など共通する画像所見があるが,脳室拡大の原因が水頭症か脳容積減少か,脳内石灰化の部位など疾患により特徴がある.周産期中枢神経感染症は迅速な診断・治療が非常に重要である.確定診断は髄液や血液からの起炎菌検出だが結果に時間を要することもある.画像診断は早期診断の間接的根拠となり,特に拡散強調像を含むMRIは有用である.
Congenital infections generally include infections that occur in utero or perinatally. As part of TORCH syndrome, these infections include congenital toxoplasmosis, congenital rubella syndrome, congenital cytomegalovirus infection, neonatal herpes simplex virus encephalitis, congenital HIV infection, and hepatitis virus congenital infections. Lymphocytic choriomeningitis virus and Zika virus can also cause intrauterine infections, while central nervous system damage due to human parechovirus type 3 and Group B streptococcus can occur in perinatal infections. Intrauterine infections present different symptoms and imaging findings depending on the timing of fetal infection, with earlier infections being more severe. Common imaging findings include ventricular enlargement and intracerebral calcifications, but the etiology of ventricular enlargement (i.e., whether due to hydrocephalus or brain volume reduction) and the location of intracerebral calcifications vary by disease. Rapid diagnosis and treatment are crucial for perinatal infections. Definitive diagnosis involves detecting the causative pathogen in cerebrospinal fluid or blood, but obtaining these results can take time. Imaging diagnostics provide indirect evidence for early diagnosis, with MRI, especially diffusion-weighted imaging, being particularly useful.
先天感染症には一般に胎内,周産期の感染が含まれ生後1か月までに発症する.古典的には代表的な原因微生物の頭文字からTORCH症候群と呼ばれ,TO:トキソプラズマ症(toxoplasmosis),R:風疹(rubella),C:サイトメガロウイルス(cytomegalovirus; CMV),H:単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus; HSV)とされる1).共通の症状(肝脾腫,黄疸,肺炎,血小板減少,網脈絡膜炎,脳脊髄膜炎)を有する他,それぞれ特有の症状がある.Oをothersとしてヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV),帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster; VZV),梅毒,エンテロウイルス,ヒトパルボウイルス,肝炎ウイルスなどを含むこともある1).さらに,リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(lymphocytic choriomeningitis virus),ジカウイルス(zika virus),ヒトパレコウイルス3型(human parecho viruses)の先天感染による中枢神経障害も知られており,いずれも重篤である1–3).
先天感染症は病原微生物によって感染時期,感染経路,病態が異なる.感染経路には在胎中や分娩時の経胎盤感染(CMV,風疹ウイルス,ヒトパルボウイルス,HIV,HBV,HCV),持続感染や潜伏感染の再活性化で産道に排泄されたウイルスが上行性に子宮内に侵入し胎児に感染する上行性感染(CMV, HSV, HIV),分娩時の経産道感染(CMV,HSV,HIV,肝炎ウイルス),さらに母乳を介する経母乳感染(CMV,HIV,ヒトT細胞白血病ウイルス-1型)がある4).
胎内感染では胎児の感染時期によって症状,画像所見が異なり,一般に感染時期が早いほど重篤である.頭部画像所見は脳室拡大,脳実質内の石灰化など共通するものがあるが,脳室拡大の原因が水頭症か脳容積の減少か,石灰化がみられやすい部位など,疾患によってある程度特徴がある(Table 1).水頭症と脳萎縮の兼ね合いにより,頭囲が正常でも重度の脳異常がありうることに留意が必要である1).頭部MRI検査は皮質脳回形成異常や白質病変の評価に有用である.読影の際には正常髄鞘化との比較が必須で,特に生後6–8か月までは髄鞘化が未熟であるために評価が難しい.その後もT2強調像での生理的な高信号域,とくにターミナルゾーン(側脳室三角部背側・上方の白質.10歳代,ときに20歳代まで高信号を示す)に注意する5).先天性HIV感染症など脳血管異常を伴うものがあるためMRAを撮像する.
頭蓋内石灰化 | 皮質脳回形成異常 | 小頭症 | 水頭症 | ||
---|---|---|---|---|---|
頻度 | 分布・形状 | ||||
先天性サイトメガロウイルス感染症 | +++ | 脳室周囲,基底核 | ++ | ++ | NA |
先天性トキソプラズマ感染症 | ++ | 広範囲,粗大結節状 妊娠30週以降の感染では散在性・微細 |
NA | + | +++ |
先天性風疹感染症 | + | 病理学的に血管周囲石灰化 | NA | NA | + |
先天性単純ヘルペス脳炎 | + | 慢性期に散在性石灰化 | NA | + | NA |
先天性ジカウイルス感染症 | +++ | 皮質白質境界・基底核,結節状・粗大,病理学的に脳幹部にも石灰化 | +++ | +++ | NA |
先天性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス感染症 | +++ | 脳室周囲,結節状,粗大 | ++ | +++ | + |
分娩時や新生児期の中枢神経感染症は,児の免疫システムが未熟で感染に対して非常に脆弱であるために迅速な診断・治療が非常に重要である6).病原微生物はウイルスではHSV,細菌ではB群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae, group B Streptococcus; GBS),大腸菌が多く,HSVは脳炎,細菌は髄膜炎,髄膜脳炎,脳膿瘍を起こす7).確定診断には髄液や血液からの起炎菌検出が必要だが結果に時間を要することや偽陰性もありうる.画像診断,特にMRIは早期診断の間接的根拠として有用である.
本稿では,TORCH症候群として先天性サイトメガロウイルス感染症についで頻度の高い先天性トキソプラズマ症,近年急増している先天梅毒,先天性水痘症候群(congenital varicella syndrome; CVS),先天性HIV感染症,新生児HSV脳炎(neonatal HSV encephalitis; NHSE)のほか,頭蓋内細菌感染症として新生児で最も頻度が高く非常に重篤な髄膜炎を呈するGBS感染症を取り上げる.
文献5より許可を得て転載
正期産児.胎児期(30週)の超音波検査で脳室拡大が認められた.
A:頭部CT,B:頭部MRI T1強調像,C:頭部MRI T2強調像.
生後1日のCT(A)にて両側側脳室の著明な拡張,両側側脳室周囲および右基底核の粗大な石灰化が認められる.
MRI(生後20日脳室ドレナージ後の撮像)では石灰化部位が一部がT2強調像で低信号部位として同定できる.脳容積減少がみられる.
温血動物を中間宿主とするToxoplasma gondiiに妊婦が初感染することが原因の人畜共通感染症である.TORCH症候群の中で先天性CMV感染症の次に頻度が高く,日本での発生は10,000分娩あたり1.26人と推計されている8).転帰は不顕性から流死産まで様々で,妊娠初期の感染ほど重症度が高い9).早期の治療開始で予後が改善するので診断が重要である2).HIV感染などに伴う免疫不全による再活性化も先天性トキソプラズマ症の原因となる2).先天性トキソプラズマ症児は70–90%が無症状で,生下時に古典的三徴と言われる両側脈絡膜網膜炎・頭蓋内石灰化・水頭症がそろうのは1割以下であるが9),眼底検査や脳検査では4割に異常が発見される10).網脈絡膜炎は成人まで発症の可能性があり,最終的には8割以上でみられる2,9).確定診断は患児血清や髄液のPCR検査や抗体検査による.
2) 画像診断脳実質内石灰化は3割程度,水頭症は半数以上の患児にみられる11).石灰化は主に炎症・壊死,水頭症は髄膜の炎症による中脳水道狭窄が原因とされている11).小眼球を呈することもある.画像所見は胎内での感染時期により所見・程度に幅がある2).妊娠20週までの感染では脳容積減少・破壊による小頭症や孔脳症,水頭症,広範に分布する粗大な石灰化がみられる.妊娠20–30週では水頭症と脳室周囲石灰化がみられ,30週以降では脳実質内に散在性小石灰化がみられ水頭症は少ない9).先天性CMV感染症との鑑別点は皮質脳回形成異常が稀で,水頭症の頻度が高いことである9).頭部CTは石灰化検出に適する一方,皮質脳回形成異常の有無がわかりにくく,頭部MRIが必要である.MRIでの石灰化検出にはT2*強調像や磁化率強調像が適する.
3) その他:日本におけるトキソプラズマ感染および動物由来感染症Toxoplasma gondiiはネコ・イヌ・家畜(特に豚)などが宿主でヒトには糞,加熱が十分でない食肉に含まれる被嚢接合子(oocyst)の摂食により感染する12).全ての温血動物に感染可能なので,魚介類を除きあらゆる獣肉・鳥肉に注意を要する.また,ガーデニング等により土壌からの感染が起こりうる.
妊婦の抗体陽性率は欧米で50%前後だが日本では2–10%程度と低く,妊娠中の初感染に特に注意する必要がある10).トキソプラズマ感染を避けるには,ヒトは食物(特にジビエ料理などは十分に加熱処理する)や飲料,手指衛生に気を付けること,猫などのペットは室内飼とし十分に加熱処理した食物や既製品のペットフードを与えること,感染動物から排出されたトキソプラズマオーシストが感染能を獲得するまでに約24時間を要するので,動物の糞便処理は毎日(24時間以内の間隔で),妊婦以外が行うことが推奨される13).
先天感染を来す動物由来病原体として,トキソプラズマの他,主にシマカ属の蚊によって媒介されるジカウイルス,げっ歯類を自然宿主としてペットのハムスターや実験動物のマウス(抗体保有率2–6%)の尿を介して人に感染するリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスが知られている.いずれも経胎盤感染して胎児に重篤な中枢神経障害を来し,小頭症,脳実質内石灰化といったTORCH症候群の画像所見を示す(Table 1)5).
日本はこれまで世界的にみて動物由来感染症の少ない国とされてきたが,近年輸入感染症としてのジカ熱14),輸入後に交配維持されていた野生由来近交系マウスや港湾地域のハツカネズミのリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス感染が報告されている15).気候変動や人間の社会環境変化,行動多様化などは動物由来感染症の動向に変化をもたらしており,注意が必要である13).動物由来感染症については厚生労働省から一般向けに各疾患の説明,予防法や注意点などを簡潔にまとめた「動物由来感染症ハンドブック2024」が発行されており,Webサイトより無料で入手できる.
2. 先天梅毒(congenital syphilis)(Fig. 2)単純X線写真 A:左上肢,B:下肢.
胎児期から腹水を指摘されていた低出生体重児.出生後の血液検査でRPR,TPHA陽性となり先天梅毒と診断された.
日齢14日の上下肢単純X線写真(A, B)にて長管骨の骨幹端に幅の広い透亮像が認められ(metaphyseal lucent bands),骨幹端炎の所見である.
先天梅毒はTreponema pallidumの母体からの経胎盤的感染で起こる16).母体の既感染,再感染,初感染ともに原因となり,妊娠週数に関係なく母子感染が起こり17),母体の治療開始が遅れるほど母子感染率が上昇する18).梅毒合併妊婦のほとんどが検査で判明しており,妊婦健診でのスクリーニングは必須である17,19).
先天梅毒は病原体が徐々に身体を障害する後天梅毒と異なり,多量の病原体が胎児循環により侵入するため,多臓器を同時に侵害して臨床症状が多彩となる20).出生時~2歳で発症する早期先天梅毒と,7~14歳で発症する後期先天梅毒があり,前者は骨病変,肝脾腫,鼻炎(鞍鼻),手掌・足底の天疱瘡や斑状丘疹,神経梅毒症状等を認め,後者は上顎の切歯の咬合面に切痕を認めるHutchinson歯,実質性角膜炎,内耳性難聴の「Hutchinsonの3徴」が代表的である19).
生後3か月までに治療を開始すれば遅発型への移行や骨変形を起こさず治癒する一方,無治療だと後期先天梅毒の原因となる18).診断は先天梅毒の臨床症状,血清非特異的検査(RPR titer)が母体の4倍より高値であること,体液の暗視野法またはPCRが陽性のいずれかによる16).臨床上必要な検査として長管骨や胸部の単純X線写真,頭部画像検査などが推奨されており16),画像診断の役割は大きい.
2) 画像診断先天梅毒の胎児では,胎児発育遅延,肝脾腫,心奇形,紫斑,小頭症,水頭症,脳内石灰化がみられる19).出生時から生後1か月までに最も頻度が高いのは骨病変で,単純X線写真で骨軟骨炎,骨膜炎,骨髄炎などの炎症性変化がみられるほか,梅毒性肉芽侵入による骨端線離開,病的骨折がみられることもある20).一方で中枢神経については,脳脊髄液から感染が疑われる頻度が6割程度あるものの21),新生児期に臨床症状がみられることは少ない22,23).
3) その他:日本における先天梅毒梅毒は現在世界中で流行しており,日本国内でも2022年の梅毒感染者数の年間届出数は13,258例と半世紀ぶりの高水準を記録した.先天梅毒は2013年以降の20–30代の女性感染者増加に伴って増加しており,梅毒合併妊婦が年間200例を超え,先天梅毒は年間20例を超えている17).日本では妊娠初期のスクリーニング検査が推奨されており,妊娠早期の母体への治療が可能である.しかし,妊婦健診未受診や不定期受診のためスクリーニング検査を受けていない,検査後来院がない,初期の検査で陰性を確認されたのちに陽性化した,などの例では早期治療が困難で18),今後も先天梅毒には注意が必要である.
3. 先天性水痘症候群(congenital varicella syndrome; CVS) 1) 概要妊婦のVZV初感染は,妊娠早期なら流産,中期以降はCVSの原因となる24).CVSは小頭症,眼球病変(白内障,網脈絡膜炎,小眼球など),発達遅滞を伴う種々の神経障害,頭頸部や四肢躯幹の片側性の萎縮性瘢痕などを呈する多発先天奇形で1,24),VZV初感染妊婦の2%程度に発生する24).妊婦の水痘の治療は,母体の重症化,胎児への感染を防ぐ目的で抗ウイルス薬(アシクロビル)が使用される24).
他のTORCH症候群と異なり,黄疸や肝脾腫,紫斑はみられない23).妊婦が周産期に初感染した状態は周産期水痘と呼ばれ,母体からの移行免疫がない新生児が水痘に罹患し重篤な状態となりやすい極めて危険な状態である24).出生時CVSの症状を呈さない児も,母体からの移行抗体が児の血清中から消失し始める生後4か月から生後6か月前後には胎内感染したVZVの再賦活化により高頻度に帯状疱疹を発症する24).この時,脳炎や脳血管炎を伴うことがあるが,水痘や帯状疱疹から脳炎,脳血管炎までの期間は数週から数年のこともあり,発症時に皮疹がないこともあるので注意を要する25).
2) 画像所見CVSのMRI所見は非特異的である23).先天性トキソプラズマ感染症や先天性CMV感染症とは異なり,頭蓋内に石灰化や皮質形成異常を伴うことは少なく,先天性CMV感染症と異なり皮質形成異常も稀とされる1,26).
VZV脳炎はしばしば画像上異常を検出できない.脳血管炎を伴うと,MRAで前または中大脳動脈など大中血管に狭窄(典型的には数珠状・分節状)や閉塞,時に動脈瘤をきたして梗塞や出血をきたす.VZVによる三叉神経から主幹動脈近位部の血管平滑筋の障害が原因と考えられている25).
4. 先天性HIV感染(congenital HIV infection) 1) 概要HIVの母子感染経路は経胎盤,経産道,経母乳が知られ,経産道感染がもっともハイリスクである27).経母乳感染については母乳1リットル当たりのHIV感染率0.064%とされているものの,対策なく毎日飲み続けると3割以上の乳児が感染する恐れがある4).日本では妊娠初期のスクリーニング検査が実施されており,陽性の場合,母親および出生児の抗HIV療法,選択的帝王切開術,人工哺乳が状況に応じて選択される27).母子感染は適切な対策で0.5%未満に低下させることができるが27),無治療であれば成人よりかなり潜伏期が短く生後数か月~数年にはAIDSを発症する4).
2) 画像所見特徴的画像所見は基底核・皮質下白質の石灰化と脳萎縮である.萎縮は前頭葉優位が多く,石灰化は胎内感染した児にみられる23).脳動脈拡張や紡錘状動脈瘤がみられ,HIVによる凝固能異常と相まって脳卒中やくも膜下出血の原因となる23).(血管障害はHIVのほか,CMVやVZVも原因となる23)).また,思春期までに両側前頭葉,頭頂葉,島,小脳で灰白質容積の減少がみられるとの報告もある28).頸部リンパ節腫大(特に耳下腺内)やリンパ上皮のう胞は高率にみられるので,頭部画像診断においては頭蓋外にも十分注意する23).
5. 新生児ヘルペス脳炎(neonatal herpes simplex encephalitis)(Fig. 3)正期産児 生後11日に発熱,啼泣低下,翌日両側上下肢の間代性痙攣.
上段 発症後5日MRI(A:T1強調像,B:T2強調像,C:拡散強調像)
下段 発症後20日MRI(C:T1強調像,D:T2強調像,E:拡散強調像),G:生後40日CT
発症後5日のMRIでは拡散強調像(C)で両側前頭葉と頭頂葉皮質および白質に高信号域が認められる.このほか両側大脳白質にDWI高信号域も認められる(非表示).T1強調像(A),T2強調像(B)では異常の検出が難しい.発症後20日のMRIでは発症後5日の拡散強調像で高信号を示した白質に一致して脱髄・嚢胞化が認められる.CT(G)では嚢胞化した部分の周囲の皮質に石灰化が認められる.
NHSEは小児や成人の単純ヘルペス脳炎とは臨床像,画像所見とも大きく異なり,予後不良で重篤である.HSVは母体に性器ヘルペス病変がなくとも無症候性に産道に排泄され4),HSV-1型,2型ともに経産道感染すると新生児HSV感染症の原因となる9).日本での新生児HSV感染症の頻度は年間数十例と推察されており,生後3週までに発症する29).全身播種型・中枢神経型・皮膚限局型の3型に分類され,NHSEを認めるのは全身播種型の約半数と中枢神経型である29).
NHSEの臨床症状はけいれんや哺乳不良など非特異的で症状からの診断は非常に困難である.確定診断は血液や髄液のPCR法によるHSV-DNA検出だが,一般に結果に数日を要する上,発症早期には偽陰性となりうる29).拡散強調像を含む頭部MRIは早期診断に有用である9,25,29,30).無治療であれば全身播種型の85%,中枢神経型の50%が1歳までに死亡するが29),早期の治療開始が予後改善につながるため,NHSEが疑われればPCR法の結果を待たずに抗ウイルス薬による治療を開始する29).
2) 画像所見MRIでは拡散強調像が必須である9,29,30).拡散強調像で発症直後から皮質-皮質下優位に散在性に点状・小斑状高信号域が多発し(‘stardust appearance’)31),時間経過につれ深部側に広がる30).出血・壊死を伴うことが多く30,31),しばしば造影増強効果を伴う25).病変は前頭葉底部や側頭極,分水嶺領域,皮質脊髄路に多く,これらの部位に‘stardust appearance’がみられたらNHSEを疑う31).皮質側から白質側に経時的に病変が広がることはHSVが神経親和性をもちcell-to-cellに広がることに関連すると考察される一方32),多彩な病変分布から血行性の要素も示唆される29,31,32).発症2週目以降は白質の嚢胞化・萎縮やそれに伴う脳室拡大のほか,皮質菲薄化,脳実質内の散在性石灰化がみられる9,25,30,31).急性期の典型的画像は文献32を参照いただきたい.
新生児,乳幼児の頭蓋内細菌感染は,髄膜炎,髄膜脳炎,脳膿瘍を来す.免疫システムが未熟なために感染に対して非常に脆弱,特に深刻な状況で迅速な診断・治療が必要である.感染経路は出産時の感染(例えば,羊水感染症),母体からの垂直感染,あるいは出産後の環境からの感染が含まれる.特に早産や低出生体重の新生児は,感染リスクが高くなる.
原因菌診断においては年齢,免疫状態が非常に重要な要素である.出生後から3か月くらいまではGBS,大腸菌が多い.1か月以降はインフルエンザ菌が多くなり,4か月以降はすべての年齢で肺炎球菌が多数を占めるようになる6).この項では新生児において最も頻度が高く,非常に重篤な髄膜炎を呈するGBSを取り上げる.
B群溶連溶血性レンサ球菌感染症(group B streptococcal infection)(Fig. 4)東京大学医学部放射線医学講座 黒川 遼先生のご厚意による.
満期産児 生後20日.6日前に嘔吐,3日前から不活発.発熱・頻脈.
A:造影後T1強調像,B:拡散強調像冠状断像,C:ADC map.
拡散強調像(B)で広範に脳回に沿った高信号域がみられ,同部はADC map(C)で拡散制限を示す.左側円蓋部に拡散低下を伴わない硬膜外液体貯留を認める.
GBSは,健康な成人の腸内や女性の腟内に自然に存在する細菌だが,免疫システムが未熟な新生児期から乳児期早期に侵襲性感染症を引き起こすことがある6).世界的にみて侵襲性GBS感染症は小児期早期で疾病負担が最も高い感染症で死産の増加にも関与している33).発症時期により早発型(日齢0~6),遅発型(日齢7~89),超遅発型(日齢90以降)に分類される.早発型は特に重篤で頻度が高く,経産道感染が主だが上行性感染により胎内で感染して出生することもある33,34).出生48時間以内の発症が多く,感染臓器不明の菌血症や肺炎,髄膜炎を来す33,34).これ以降では日齢14~20の発症が多く,菌血症や髄膜炎,骨髄炎や関節炎,蜂窩織炎を来す34).早発型,遅発型ともにけいれん,意識障害などの中枢神経症状は発熱や呼吸器症状に次いで多く,髄膜炎は後遺症率が高い33).
早期診断・治療開始は予後向上に重要だが,髄膜炎症状が非特異的で神経症状がみられないこともあり診断は困難である35).確定診断は血液,脳脊髄液,関節内液等からのGBSの分離で33),髄膜炎では脳脊髄液からのPCR検査が感度特異度ともに高いが結果に時間を要することが多い35).
2) 画像所見GBSを含む細菌性髄膜炎のMRI所見で多いのは梗塞,髄膜異常造影増強効果,硬膜下膿瘍で35),特にGBS髄膜炎では,梗塞が他より高頻度で複数の血管支配域に及ぶことが多く,「多巣性/広範な梗塞+細菌性髄膜炎所見」はGBS髄膜炎に特徴的である6,35,36).髄膜炎所見としては造影後T1強調像で脳軟膜に広範に肥厚と造影増強効果がみられ,拡散強調像では,脳回に沿った高信号域/ADC mapで拡散制限域を認める6,36).GBS髄膜炎の脳実質外液貯留は拡散制限を伴うことが少ない36).水頭症はみられない6,37).
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.
本稿執筆にあたり沢山の方々にご協力,ご教示をいただきました.多大なご協力をくださった,神戸市立医療センター中央市民病院 放射線診断科 安藤 久美子先生,自治医科大学とちぎ子ども医療センター 小児画像診断部 松木 充先生,東京大学医学部放射線医学講座 黒川 遼先生(順不同)に深く感謝いたします.