Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Special Feature: The 60th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Think globally, Act locally
Aiming to perform child-friendly MRI examinations: Utilizing super-resolution deep learning technology (Precise IQ Engine; PIQE)
Hiromi Hisazumi-Watanabe Yoshiomi SatoHiroya Yamazaki
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2025 Volume 41 Issue 1 Pages 18-23

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要旨

磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)の再構成技術としてPIQE(Precise IQ Engine)が開発された.人工知能(artificial intelligence; AI)であるディープラーニング技術(deep learning technology; DLT)を用いて開発されたDeep Learning Reconstruction(DLR)である.このPIQEを画像処理に用いることにより短時間で高解像度の画像が得られる.短時間で撮像可能であることは検査にあきてしまう小児でもMRI検査が可能になる.撮像中に胎動が起きやすい週数が小さい胎児でも撮像可能になる.高分解能でもあることは小児,胎児特有の小さな臓器の病変も詳細に描出可能になる.

Abstract

A Precise IQ Engine (PIQE) was developed as a reconstruction technology for magnetic resonance imaging (MRI). This is a Deep Learning Reconstruction (DLR) method developed using deep learning technology (DLT), which belongs to the field of artificial intelligence (AI). Using this PIQE for image processing, a high-resolution image can be obtained within a short time. The fact that imaging can be performed within a short time makes it possible to perform MRI examinations even in children who tend to be uncooperative. It is also possible to image fetuses who are only a few weeks old and are prone to movement during imaging. High resolution also makes it possible to image the details of the lesions of small organs in both children and fetuses.

 はじめに

MRIの長所の一つは被ばくなく撮像ができることである.超音波検査も被ばくはないが,骨やエアによる超音波の減衰により,検査できる臓器,病変は制限される.加えてMRIはコントラスト分解能が優れる.組織と病巣が異なる信号を呈することにより,その区別が明瞭になる.また信号により質的診断も可能なことが多い.したがって臨床現場では患児のMRIを撮像したいと願うことは多い.一方,小児では対象となる臓器が成人に比べ小さく,より細かな部分までわかる高画質,すなわち高解像度が必要である.一般的にMRIでは高解像度の画像を撮像するには撮像に時間をかけなくてはいけない.言い換えれば解像度と時間はトレードオフになり高解像度の画像を得るには検査が長くなってしまう.検査時間が長いと小児は検査にあきてしまい体動が生じうる.鎮静下の検査においても安全を担保するには鎮静時間を最短にすることが望ましい.体動が生じると検査は中断されMRIは施行したものの診断に寄与できなくなる.これを解決するには解像度と時間のトレードオフの常識を覆し,短時間で高解像度の画像を得る必要がある.

人工知能(artificial intelligence; AI)のディープラーニング技術(deep learning technology; DLT)を用いて開発されたDeep Learning Reconstruction(DLR)であるPIQE(Precise IQ Engine)が近年登場し,これを画像処理に用いることにより解像度と時間のトレードオフを解決し,小児および胎児のMRIの検査において短時間で高解像度の画像が得られる.

 PIQEとは

使用した装置はキヤノンメディカルシステムズ社製1.5テスラのMRI装置,Vantage Orianであり,PIQEが搭載されている.提示する症例は2024年1月から6月にさいたま市立病院にてMRI検査を施行され画像処理にPIQEを使用した症例(胎児20週から15歳)である.比較としてPIQE非搭載の同社製のVantage Titan 1.5テスラで撮像された画像も含まれる.

PIQEの画像処理は2つの過程を経る1).まずはノイズ低減処理を行い鮮鋭度およびsignal noise ratio(SNR)を向上させた画像を取得する.その後にこの画像に対して,擬似的に見た目の解像度を向上させる手法のzero-fill interpolation(ZIP)2)処理を行った画像を生成し高分解能化を図る.ZIP処理の過程で発生するリンギングアーチファクトに対しDLTを用い低減することで,高SNRかつ高分解能な画像を取得することができる(Fig. 1).最大3倍まで空間分解能が向上し高解像度の画像を得る3)

Fig. 1  PIQEのイメージ

低解像度の画像にDLRのPIQEを使用し高解像度の画像が作成される1)

 頭部MRI

通常,頭部のMRIはT2強調画像(T2-weighted image; T2WI),T1強調画像(T1-weighted image; T1WI),fluid attenuated inversion recovery(FLAIR)を撮像する.検査時間のうち撮像時間は機器の進歩により時間短縮ができる.T2WI,T1WI,FLAIRを撮像した場合,DLRの搭載のない従来の撮像方法では撮像時間の合計は4分33秒であったが,PIQEを使用すると2分56秒に短縮できた.

症例1は4歳,急性リンパ球白血病にともなう可逆性後頭葉白質脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome; PRES)疑いのため頭部MRIを複数回実施している.初回(Fig. 2a)はDLRの搭載のない従来の装置でT2WIは32スライスで1分25秒の撮像時間を要した.途中で体動により斜めの画像となった.PIQEを使用したT2WIは37秒で高解像度の画像が得られた(Fig. 2b).鎮静を用いないMRI検査が次回には望まれるため13秒での撮像を加えた(Fig. 2c).初回のDLRの搭載のない従来の装置で撮像された画像と同程度の画質で診断可能であり,次回の検査は13秒の撮像のみで鎮静なしで検査可能と考えられた.

Fig. 2  症例1 4歳 急性リンパ球白血病にともなうPRES疑いのため経過観察の頭部MRIのT2WI,短軸像

a:PIQEの搭載のない装置で撮像.T2WI 6292/105/1(TR/TE/excitations).撮像時間は1分25秒.撮像中に動き斜めの画像を呈する.b:経過観察で撮像.T2WI 10892/90/1.PIQEを使用.撮像時間は37秒.高解像の画像が得られた.c:より短時間の13秒で撮影だがaと同程度の画質である.スライス厚4 mm,スライス間0.8 mm,32スライス.

症例2は生後25日,新生児低酸素性虚血性脳症の経過観察のため頭部MRIを施行した.T2WIでは大脳白質の両側に多嚢胞性脳軟化症の高信号域がみられる4).PIQEを使用し20スライスを41秒で撮像した(Fig. 3a)が,体動があり,PIQEを使用しsingle shot first spin echo(SSFSE)(Fast Advanced Spin Echo;FASE,キヤノンメディカルシステムズ)で9秒の超短時間で撮像したが高解像度の画像が得られた(Fig. 3b).嚢胞は明瞭に描出されている.撮像時間が9秒と短いため体動による画質低下も防げたとも考えられた.

Fig. 3  症例2 生後25日 新生児低酸素性虚血性脳症 経過観察の頭部MRI 短軸像

a:T2WI 4500/105/1,b:FASE 10892/90/1

スライス厚4 mm,スライス間0.8 mm,20スライス.a,bともにPiQE使用.aは41秒,bは9秒で撮像.

 頸部MRI

症例3は10歳.咽頭後リンパ節炎精査のためMRIが施行された.T2WIで高信号域がみられ化膿性リンパ節炎が考えられた.PIQEを使用しない場合,T2WIは30スライスを2分12秒で撮像された(Fig. 4a).次回の経過観察のためにPIQEを使用し35秒で撮像したが短時間で高解像度の画像が得られた(Fig. 4b).咽頭後リンパ節は超音波検査では描出困難な部位であり造影コンピュータ断層撮影(computed tomography; CT)が適応になる5)が,被ばくのため複数回の撮影は避けるべきである.PIQEによる非造影かつ短時間であればMRIで経過観察が可能となりえる.

Fig. 4  症例3 10歳 化膿性咽頭後リンパ節炎 頸部MRI短軸像

T2WI 5065.0/70.0/1,スライス厚4 mm,スライス間0.8 mm,30スライス.

a:DLRによる画像処理なしで再構成した画像.b:PIQE使用.

PIQEを使用すると短時間で撮影され,高解像の画像が得られた.

 下垂体MRI

症例5は9歳.思春期早発症のため下垂体MRIを施行された.下垂体は臓器が小さく,詳細な構造を描出するためにスライス間に間隙のない3D (three dimensional)-T1WIで撮像する.PIQEを使用すると下垂体の構造が使用していない画像(Fig. 5a)に比べ高解像である(Fig. 5b).このように撮像目的の臓器が小さい場合,高解像度の画像が有用になる.

Fig. 5  症例5 9歳 思春期早発症 3D-T1WI 矢状断像

15/5.5/1,Flip angle 20°,スライス厚1.2 mm,スライス間0 mm,130スライス.

a:DLRによる画像処理なしで再構成した画像.

b:PIQE使用.

PIQEを使用すると高解像度の画像が得られた.

 胎児MRI

胎児の画像検査の第一選択は超音波検査であるが,超音波検査で診断が難しい場合やさらなる情報が必要な場合にMRIが適応になる6).羊水や脳脊髄液が高信号を呈し,組織コントラストが良好なT2WIが基本になる.胎児の体動や母体の負荷を考えると短時間で撮影可能な高速撮像法が必要になる7)

症例7は20週の胎児である.母体の卵巣嚢腫精査でMRIが施行された.20週では羊水は多く,胎児は小さいため,胎動は激しい.このため従来,胎児の内部構造を把握できる高分解能の画像は得られにくかった.PIQEを使用すると短時間の48秒~68秒で撮像ができた.PIQEを使用すると短時間で高SNR,高分解能の画像が得られる.短時間であれば胎児の胎動が少ない間に急いで撮像できる.また撮像の間に胎動が生じてしまい繰り返しの撮像となっても検査時間の延長は少ないため母体に負担が少ない(Fig. 6).

Fig. 6  症例7 胎児 20週 冠状断像 PIQE使用

FASE 17000/91/1,スライス厚3.0 mm,スライス間0.6 mm,62スライス.

20週の胎児は体動が激しい.PIQEを使用すると短時間で撮像できる.適切な画像を得るために複数回撮像しても母体の負担は少ない.

症例8は32週の胎児である.母体の辺縁前置胎盤精査のためMRIが施行された.頭頸部,矢状断では咽頭,喉頭の内腔に貯留した羊水が良好に描出されている(Fig. 7a).腹部,冠状断では胃包,小腸内の液体が明瞭である(Fig. 7b).胎動によるブレが生じると明瞭に描出されない細部がPIQEを使用し短時間で高解像度の画像が得られると明瞭に描出される.これは食道閉鎖や十二指腸閉鎖などの消化管疾患にも応用できると考えられる8)

Fig. 7  症例8 胎児 32週 冠状断像 PIQE使用(a, b),症例9 胎児 31週 PIQE使用(c, d)

a,b:T2WI(FASE) TR/TE 17300/91/1,65スライス.a:頭頸部.咽頭,喉頭の描出が良好である.b:腹部.胃包,小腸内の液体が明瞭である.c:胎児体部冠状断T2WI(FASE) TR/TE 17300/91/1,77スライス.d:頭部 短軸像T2WI(FASE) TR/TE 26000/116/1,36スライス.

a–d:スライス厚3.0 mm,スライス間0.6 mm.短時間で撮像できるため,胎児の体向に合わせた撮像が可能である.

症例9は31週の胎児である.胎児異常精査のためMRIが施行されている.胎児の体幹部冠状断に合わせて撮像された画像では両腎が左右対称に描出され,腎盂の形態が把握できる(Fig. 7c).胎児の頭部の短軸像に合わせて撮像された画像も容易に撮像可能である(Fig. 7d).短時間で撮像できると冠状断や矢状断で撮像した画像を元に,胎児が動かない間に胎向に合わせた断面を加えて撮像できる.胎児の解剖に合わせた画像が得られると診断が容易になると考えられる.

 まとめ

PIQEを用いると短時間で高解像度の画像を撮像できる.成人の検査では検査効率の改善に寄与することが考えられるが,小児,胎児の検査ではそれ以上の恩恵が得られる.検査時間が短ければ,検査にすぐあきてしまう小児,体動が生じやすい小児,胎動がある胎児も検査が容易である.鎮静なしで小児の検査も可能である.高分解能の画像が得られれば小児特有の小さな病変も見つけやすい.これにより小児や胎児のMRI検査に対するハードルが低くなり,幅広い年齢でMRI検査が可能になる.従来,時間分解能を優先しCTが施行されてきた検査がMRIで代用されるならば被ばく低減にも寄与することができると考えられる.

この論文は日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はない.またさいたま市立病院倫理委員会の承認を得ている.

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