Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Special Feature: The 60th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Think globally, Act locally
Current status and future of pediatric liver transplantation
Mureo Kasahara
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2025 Volume 41 Issue 1 Pages 2-8

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要旨

小児肝移植は,重篤な肝疾患を持つ子どもたちにとって命を救う重要な医療手段である.1950年代に開始された臓器移植は,1963年,米国デンバーにて初めて小児肝移植が行われたことで新たな展開を見せた.しかし,当初は技術的な困難や免疫抑制の問題から成功率は低かった.その後,サイクロスポリンやタクロリムスといった免疫抑制剤の導入により移植の成功率が向上し,小児肝移植は広く普及するようになった.本論文では,日本における小児肝移植の歴史,現状,課題,そして今後の展望について詳述する.

Abstract

Pediatric liver transplantation is an important medical treatment that can save the life of a child with end-stage liver disease. Organ transplants began in the 1950s and took a new turn in 1963 with the first pediatric liver transplant in Denver, USA. However, the initial success rate was unsatisfactory due to technical difficulties and lack of immunosuppressive treatment. Later, introduction of immunosuppressants such as cyclosporine and tacrolimus improved the success rate, and pediatric liver transplants became widely available. This manuscript describes the history, current situation, issues, and future prospects for pediatric liver transplantation in Japan.

 小児肝移植の現状

世界初の小児脳死肝移植は1963年,米国デンバーで実施された.これは胆道閉鎖症の3歳の女児に対して行われたが,術中出血を制御できず死亡した.臓器移植の黎明期は移植手術手技などの技術的な問題や,臓器保存の問題,免疫抑制の難しさから,移植の成功率は非常に低かった.しかし,1980年代にはサイクロスポリン,1990年代にはタクロリムスの登場により,移植医療は飛躍的に進歩した.

一方,我が国では1968年に札幌医科大学で実施された心臓移植におけるドナー脳死判定及びレシピエント移植適応の疑義などにより,法的脳死判定下に臓器移植が実施されたのは「空白の30年」を経た1999年であった.脳死法案が整備されたのも遅く1997年10月16日で,改正により家族同意で臓器提供・小児臓器提供が可能になったのが2010年7月17日であった.小児からの脳死臓器提供は2011年4月に実施されたが,小児臓器が小児患者に移植される頻度が少ないため,小児臓器は小児レシピエントに斡旋されるよう選択基準が随時変更され(心臓2015年12月15日,肝臓2018年1月1日,腎臓2018年10月1日,膵臓2020年2月3日,肺2020年6月24日に変更),我が国の小児の脳死臓器移植はやや増加傾向にある.本邦の年間小児臓器移植数は,概ね腎臓60例,肝臓100例,心臓10例,肺移植5~10例,小腸移植2~3例である.日本では脳死ドナーからの臓器提供が少ないため,生体ドナーからの肝移植が主流である.親族から臓器を提供する生体肝移植は,小児患者の救命において重要な役割を果たしている.生体部分移植が可能な臓器には肝臓,腎臓,小腸が含まれ,これらの臓器不全患者に対して移植が行われている.生体ドナー移植にはドナーに対する手術のリスクが常に伴う.ドナーの安全性を確保することは最優先事項であるが,手術後の合併症リスクを完全に排除することはできない.倫理的な課題として,ドナーが精神的・肉体的にどの程度の負担を受け入れることができるかという問題がある.医療者はドナーに対しリスクを十分に説明し,手術の決断を慎重に行う必要がある.

日本の脳死臓器提供が少ないのは文化的,社会的な要因に起因する部分が大きい.脳死に対する社会の理解や受け入れが進まない限り,脳死ドナーからの臓器提供の増加は難しい.この問題を解決するには,社会全体での啓発活動が重要であり,医療者,教育機関,メディアの協力が求められる.生体臓器移植は家族にかかる負担が大きいため,生体ドナーの善意に甘んじることなく,移植医療者が積極に脳死臓器提供の啓発活動を行うべきだと考えている.

 国立成育医療研究センターの臓器移植医療

国立成育医療研究センターの臓器移植医療は,著者が2005年6月に赴任したのち,2005年11月に第1例目の生体肝移植術を開始した.以後,順調に症例数を積み重ね,2024年9月現在までに肝移植症例数は879例となった.腎臓・心臓・小腸などの他臓器移植を含めると,986例の小児移植を実施している.2010年以降は年間の肝移植症例数が約60~70例で推移し,国内で実施されている小児肝移植症例の60~70%を国立成育医療研究センターで実施しており,国際的な小児臓器移植施設として広く認知されている(Fig. 11).先天性代謝性疾患,急性肝不全など重症症例が海外・全国から搬送されてくることも多く,救急診療部・小児集中治療科・内分泌代謝科・消化器内科・感染症科・小児外科・麻酔科・看護部等々の多職種と連携しながら国内小児肝移植施設の最後の砦としての役割を担っている.また先天性代謝異常症(尿素サイクル異常症)に対するES細胞由来の肝細胞移植を2019年に開始し,5例を成功裏に実施した.新生児代謝異常など,予後不良患者へ大きな福音となる革新的治療を,研究所と協力し世界で初めて成功裏に実施した.また2022年5月11日に保険収載後,国内初となる「腹腔鏡下生体ドナー肝採取術」も安全に実施することができた.

Fig. 1  国立成育医療研究センター 臓器移植センター肝移植・肝細胞移植・心移植・小腸移植・腎移植数 合計986例(2005/11–2024/9/1)

 小児肝移植後の合併症とその管理

小児肝移植には血管合併症を含む多くの合併症が伴う.国立成育医療研究センターのデータによれば,肝動脈血栓症(HAT)の発生率は0.2%,門脈合併症の発生率は1.1%である.これらの合併症は移植後の長期的な生存率に大きな影響を与えるため,早期の診断と適切な治療が重要である.

 肝移植の手術

肝移植手術は全肝臓を摘出し,移植肝臓(グラフト)を入れる極めて単純な手術術式である.繋ぐべき脈管はinflowである門脈・肝動脈,outflowである肝静脈と胆汁ドレナージである.成人脳死肝移植では,レシピエントの全肝を摘出した部位に,ドナーの肝臓全部を移植する同所性全肝移植が一般的である.成人脳死臓器提供に比べて,小児脳死ドナー臓器提供は非常に少ない.慢性的な小児ドナー不足を解消する目的で,1984年にフランスのBismuthらが,成人全肝を切除し,サイズを小さくし小児に移植するreduced size移植を開始した.更に,移植肝臓を2つに分割し,外側区域・右葉を小児・成人末期肝疾患患者にそれぞれ移植する分割肝移植(split liver transplantation)が,1990年にシカゴ大学のBroelschにより行われ,小児の慢性的臓器不足を解消する試みがなされた.このような外科手技の発展は,‘肝臓が解剖学的に分割可能であること’,‘切除後に再生すること’,2つの臓器特異性と相俟って,健常者からの移植片摘出を可能にした.

生体肝移植は1987年ブラジルのRaiaによって初めて施行された(Fig. 22).移植肝臓は三親等以内の近親者から,自発的臓器提供の意思に基づいて摘出される.生体肝移植は,脳死肝移植と違い大きく2つの利点がある.第一に生体ドナーからの臓器提供のため,viabilityの良好な臓器を移植できることである.すなわち術前に十分ドナーを評価可能で,摘出から移植までの保存時間(冷保存時間)が短い,良好な状態の肝臓をレシピエントに提供可能である.第二はレシピエントの状態に応じて,至適時期に待機手術が可能なことである.一方欠点は健常者に医学的メリットのない臓器提供のための手術が必要なことである.Fig. 3に典型的な小児肝移植手術写真を供覧する.移植グラフトが右に,筆者の左手指の間に,門脈吻合部が見える(⇒).本症例では胆道閉鎖症による胆管炎で門脈が狭小化していたため,生体ドナーである尊母の卵巣静脈を間置して門脈再建を行った.

Fig. 2  生体肝移植標準術式
Fig. 3  生体肝移植の血流再開後

胆道閉鎖症による胆管炎で門脈が狭小化していたため,ドナー(母親)卵巣静脈(⇒)を間置して門脈再建を行った症例.

 肝移植における術後超音波検査

固形臓器移植においてその血流を日々確認する作業は,合併症を予見し移植臓器の生着率を保持するに大変重要である.腹部超音波検査は非侵襲的に移植肝臓の血流を評価することが可能であり,術後2週間のあいだ1日2回,朝晩で実施される.移植後2週間は肝動脈血栓の発症頻度が高いためである.inflowである門脈・肝動脈,outflowである肝静脈の留意すべき超音波所見を概説する.

1. 門脈

生体肝移植後の門脈合併症の頻度は10~30%と報告されており,比較的頻度の高い合併症である3).特に小児肝硬変症例では手術前に流入血管である門脈が狭小化し,肝動脈血流が優位な場合が多く,術後門脈血流の回復に時間を要する場合がある.さらに狭小化した自己門脈は,移植グラフトとの口径差が大きく,その吻合は技術的に非常に困難なことがある.門脈血栓症・狭窄症は肝機能検査異常を伴わないことが多く,腹部超音波所見が非常に重要である.一般に移植後門脈血流速は一過性に高くなり100 cm/sec以上になることもある.門脈圧亢進症に伴うhyperdynamic stateが改善されるとともに流速20 cm/sec,流量10 ml/kg/min程度に落ち着く.Fig. 4に生後8か月胆道閉鎖症女児の移植後門脈狭窄症例を提示する.Fig. 4Aで一見肝内門脈に微弱な血流を認めるが(⇒),多くは側副血行路からの微小血流であることが多い.門脈流速10 cm/sec以下の場合は門脈吻合部に異常がないか確認が必要である.症例では経皮経肝門脈造影,Balloon拡張を行ったが,再狭窄を認めたためステント(⇒)留置した.ステント留置後(Fig. 4C),門脈合流部から肝内門脈まできれいなC-Loopが観察されている(⇒).

Fig. 4  門脈狭窄症

A:胆道閉鎖症で肝外側領域を移植後,肝内門脈血流が減少している(⇒).

B:経皮経肝門脈造影,Balloon拡張を行ったが,再狭窄を認めたためステント(⇒)留置した.

C:ステント留置後,門脈合流部から肝内門脈まできれいなC-Loopが観察される(⇒).

2. 肝静脈

肝静脈は通常3相波の拍動波で,1相が三尖弁閉鎖に伴う心房収縮期の逆流,2相・3相が心房拡張の時期に相当する波である.肝静脈狭窄は肝移植後12%程度に起こる重篤な合併症である4).移植肝臓は移植後の肝再生に伴う吻合部の圧迫や捻じれなどが原因で狭窄を起こし得る.臨床症状は様々であるが遷延する腹水を認めた場合,静脈狭窄を考えるべきである.腹部超音波検査では腹水の存在,3相波から平坦波への変化,Vmax <10 cm/sec,それに引く続く門脈血流の低下を認めた場合,治療を考慮する.Fig. 5に肝静脈狭窄症例を提示する.生後8か月胆道閉鎖症で肝移植後,肝静脈波形の平坦化を認めた.流速Vmax = 9.6 cm/secと遅く,下大静脈流入部に狭窄を認める(⇒).経皮経肝・肝静脈造影,Balloon拡張を実施し,肝静脈吻合部狭窄は解除され,腹部超音波上も3相波でVmax = 69.0 cm/secに改善した.

Fig. 5  肝静脈狭窄例

A:生後8か月胆道閉鎖症で肝移植後,肝静脈波形の平坦化を認めた.吻合部に狭窄を認める(⇒).

B:経皮経肝・肝静脈造影,Balloon拡張を実施した(⇒).

C:肝静脈吻合部狭窄は改善した(⇒).

D:Baloon拡張後,肝静脈波形の3相波化を認めた(⇒).

3. 肝動脈

肝移植手術後早期の肝動脈血栓症は突然の肝機能上昇,移植肝不全,晩期胆道合併症を併発する重篤な合併症である.腹部超音波検査で肝動脈の最高血流速度・最低血流速度・平均血流速度を計測する.血管抵抗係数であるresistance indexの低下,pulsalatility index低下,systolic acceleration time短縮などが,肝動脈血栓症でのサインである.早期肝動脈血栓症では,interventional radiologyによる血栓溶解または再手術を行わないと,移植肝不全に至る可能性がある.当センターでは小児の細径動脈の吻合を実施しているが,肝動脈血栓症は認めていない.至適動脈血流はVmax >25 cm/sec,Pulsatility index >0.6と報告されている.Fig. 6に肝移植後の肝動脈波形を提示する.移植直後は門脈血流優位なことが多く,門脈臍部のcolorで肝動脈波形が見えにくいことがあるため注意が必要である.

Fig. 6  肝動脈波形

外側領域グラフトにおける典型的な肝動脈波形.

 小児肝移植における医療費と社会的支援の課題

小児肝移植は非常に高額な医療費がかかる治療であり,患者の家族にとって大きな経済的負担となる.日本では公的な医療保険制度が存在するものの,移植後のケアや合併症治療にかかる費用は多大である.このため,社会的支援やチャリティー活動の重要性が増している.移植後のフォローアップケアも長期間にわたり必要であり,社会全体での支援が不可欠である.特に少子高齢化がうたわれている現在,子どもは社会の未来であることを再度啓発し,子どもたちの声を代弁し守ってゆく,そんな医療人で有り続けたい.

 高度肝移植技術を用いた国際協力と技術移転

日本は国立成育医療研究センターを中心に,他国への技術移転や教育活動を積極的に行っている.特に中東や東アジア地域における生体肝移植の技術普及は,現地の医療水準の向上に寄与している.このような国際的な協力は,移植医療の発展に極めて重要であり,日本はそのリーダーシップを発揮し続けるべきである.一方,海外の多くの国々では,依然として移植医療の普及が進んでいない地域がある.特に発展途上国では,移植手術そのものが行われていない場合も多く,医療従事者の育成やインフラ整備が急務である.日本は,このような地域への支援活動を通じ,移植医療の普及に貢献することが求められる.

移植医療における経験は,若手医師にとって重要なキャリア形成の一環である.特に,国立成育医療研究センターでの経験は,若手医師に高度な技術を学び,臓器移植における責任感や高い倫理観を養う機会を提供している.また,国際的な医療支援活動に参加することで,若手医師は異なる文化的背景の中で医療を提供する経験を積むことができ,これが彼らのキャリアにとって大きな資産となるであろう.

 結論

小児肝移植は,多くの子どもたちの命を救うために不可欠な医療技術であるが,日本における脳死臓器提供の不足や生体ドナー手術のリスクといった課題が依然として残っている.これらの課題を克服するため,移植で救命できる患者を集約し,広く移植医療の必要性を啓発してゆく必要がある.

臓器移植が必要な患者さんは少なからず存在し,今この瞬間も患者さん・ご家族は大変苦悩されている.患者さんと家族の悲しみや喜びに寄り添い,移植でしか救命できない子どもたちに必要十分な医療を提供できるよう,今後も医療者として持てる力を集約し謙虚に医療に邁進してゆきたい.

文献
 
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