2025 Volume 41 Issue 1 Pages 32-40
胎児骨系統疾患の診断において超音波検査に続く精査として,骨格全体を容易に把握できることから胎児CTが選択される.CT装置の進歩により放射線量をかなり低減しても胎児骨格の描出が可能となっている.しかし,CTは原理的に被ばく線量をゼロにすることができない.そこで,我々は放射線被ばくのないMRIで胎児骨格の評価ができないかと考え,我々の施設に保管されている胎児標本を使用し,MRIとCTにおける骨描出を比較検討する研究を行ったが,現状のMRIでは3D画像による胎児骨格全体の評価は難しいという結果となった.ただ,MRIのgradient echo(GRE)法による胎児骨形態評価の報告はいくつかある.また,MR bone image(CT like image)も臨床応用されてきており,今後のMRI撮像法の進歩によっては,胎児骨系統疾患の診断においてMRIがCTの代替手段となる日がくるかもしれない.
Fetal CT is the next best examination after ultrasonography for the diagnosis of fetal skeletal dysplasia because it can easily visualize the entire skeleton. Advances in CT devices have made it possible to visualize the fetal skeleton, even with considerably reduced radiation doses. However, CT cannot reduce the radiation dose to zero. Therefore, we wondered whether it would be possible to evaluate the fetal skeleton using MRI without radiation exposure, and thus conducted a study to compare the bone depiction between MRI and CT using fetal specimens stored at our facility. Our findings demonstrated that it was difficult to evaluate the entire fetal skeleton using 3D imaging with the current MRI system. However, there are several reports on fetal bone morphology evaluation using the MRI gradient echo (GRE) method. In addition, MR bone images (CT-like images) have also recently been applied in the clinical setting. Depending on further advances in MRI methods, in the future MRI may replace CT in the diagnosis of fetal skeletal dysplasia.
胎児の骨系統疾患の診断においては,胎児超音波検査に続く精査として胎児MRIではなく,胎児CTが選択されることが多い.これは,CTが骨の描出に優れているため,胎児の骨格全体を容易に把握することができ,さらに各々の骨の形態評価も可能であることが理由である.胎児CTは,1997年にSohdaらにより最初の症例報告1)が行われ,2004年にRuanoらが3D-CTを用いた胎児骨系統疾患の診断能は94.3%と報告した2).高い診断能を有する胎児CTの問題点としては,放射線被ばくを避けることができないことである.国際放射線防護委員会(ICRP)のガイドラインでは,胎児への放射線照射による2つの主な影響がまとめられている.一つは確定的影響で放射線量が50~100 mSvを超えると奇形や精神遅滞のリスクが増加するとされている.もう一つは確率的影響で小児がんのリスク増加は,放射線量が50 mSv未満であれば無視できるとされている.また,胎児期に5 mSv未満の放射線被ばくをした人において,19歳までに一般集団で奇形やがんのリスク増加は観察されていないとまとめられている.よって,胎児CTも5 mSv未満の放射線被ばくとなるように撮影することが望ましい.さらにas low as reasonably achievable(ALARA)の原則から診断能が担保される最低の放射線量で撮影しなければならない.本稿では,まず胎児CTの被ばく線量および被ばく低減について述べる.
胎児CTは原理的に被ばく線量をゼロにすることはできない.よって,被ばくのない胎児超音波や胎児MRIで骨系統疾患を診断できれば理想的である.胎児超音波は,長管骨,脊椎,胸郭,頭蓋冠など部位ごとの形態評価は可能であるが,骨格全体を一度に評価することは難しく,スクリーニングが主な役割である.胎児MRIは,心奇形を除く疾患で有用であり,出生前画像診断において超音波検査に次ぐ地位を確立している.そこで,我々はMRIで胎児の骨格全体の評価ができないかと考え,自施設に保管されている胎児標本を使用し,MRIとCTにおける骨の描出を比較検討する研究を行った.その結果を紹介するとともに今後のMRIによる胎児の骨格全体の評価の可能性について述べる.
2004年のRuanoらの報告2)や2007年のCassartらの報告3)の中でCTDIw(CT dose index weighted)が約3 mGyと記録されている.撮影条件の中でPitchが0.75と記載されていることから,一般的なCT被ばくの指標であるCTDIvol(CT dose index volume)に換算すると,CTDIvol = CTDIw/Pitchの計算式から約4 mGyとなる.初期の段階からかなり低い放射線量で撮影されいたことがわかる.2012年にMiyazakiらは,64列のMDCT装置を用いた胎児CTにおいて,CTDIvolは2.5 mGy,それに対応する胎児の推定放射線量は3.4 mSvであり,この線量は胎児骨系統疾患の診断に十分であったと報告している4).
我々も胎児CTにおいて,さらなる被ばく低減が可能かどうかを検討するための研究を行った.自施設の解剖学教室に保管されている胎児標本を用い,画像ノイズを低減する方法として使用され始めていたhybrid IRを用いたCTで,診断能が担保される画質が得られる胎児CTの最低線量を検討し,2014年に報告した5).この研究の結果では,hybrid IRを用いたCTでは,CTDIvolを1.46 mGyまで低減しても診断能が担保される画像が得られた(Fig. 1).なお,CTDIvolの数値は32 cmファントムでの数値である.
IR使用のない通常の骨盤部CTの条件で撮像した胎児標本のMIP像(a)とVR像(b).この際のCTDIvolは,9.26 mGyであった.hybrid IRを使用して診断能が担保される最低線量で撮像した胎児標本のMIP像(c)とVR像(d).この際のCTDIvolは,1.46 mGyであった.hybrid IRの使用でかなり線量が低減できている.
この結果を臨床例に応用し,当院ではhybrid IRを用いてCTDIvolが1.5 mGyとなるようにシュミレーションし,胎児CTを撮影している.当院でhybrid IRを用いて撮影した在胎30週のタナトフォリック異形成症1型の胎児CT画像を提示する(Fig. 2).CTDIvolは1.49 mGyで胎児骨格全体が明瞭に描出されており,十分に診断能が担保された画像が得られている.
hybrid IRを使用した胎児CTのMIP像.CTDIvolは1.49 mGy.この放射線量でも十分に診断可能な画像が得られている.
画像ノイズを低減する方法として,hybrid IRに続いて,model-based iterative reconstruction(MBIR)が登場した.MBIRは,full IRと呼ばれ,filtered back projection(FBP)やhybrid IRとは異なるアルゴリズムでノイズを低減するIR技術のひとつである.標準的なFBPアルゴリズムを用いたCTの被ばく線量を100%とすると,full IRを用いたCTの被ばく線量は胸部で2.5~25%,腹部で30~50%と報告されている6–10).再構成に時間を要すること,低コントラスト描出能が不十分であることなどの問題点があり,標準的な画像再構成法とはなっていないが,被ばく線量の低減には有用な方法である.2017年にImaiらは,full IRを使用した超低線量の胎児CTにおいて,CTDIvolは0.5 mGy,それに対応する胎児の推定放射線量は0.7 mSvで診断能が担保される画像が得られたと報告している11).これは一人当たりの自然放射線被ばくが2.1 mSvであることを考えると,その3分の1の線量ということとなり,非常に少ない放射線量である.Imaiらの報告以降は,我々が調べた限りでは胎児CTの被ばく低減を試みた報告はない.
2019年以降,革新的な深層学習を応用した画像再構成法(deep learning reconstruction; DLR)が登場し,低コントラストの検出性,ノイズ,空間分解能を改善し,使用される再構成アルゴリズムに関係なく,シャープで鮮明かつ明瞭な画像が提供できるようになった12).DLRは,full IRと比較して再構成時間が短く,hybrid IRにかわるノイズの低減方法として普及しつつある.我々の施設もDLRを使用し,さらなる被ばく低減に努めている.当施設のDLR導入後の胎児CTを示す(Fig. 3, 4).DLRの使用でhybrid IRよりもノイズが除去され画質が向上していることがわかる.提示症例のCTDIvolは1.0 mGyであり,hybrid IRではCTDIvolは1.5 mGyを目標としていたことから考えると33.3%も被ばく低減が可能となっている.今後も症例を重ね,至適撮影条件を検討していきたい.
胎児CTの元画像をhybrid IR(a)とDLR(b)で再構成した画像.DLRの方がhybrid IRよりもノイズが除去されていることがわかる.
Fig. 3のDLR再構成画像を元に作成したVR像やMIP像.診断可能な画像が得られており,CTDIvolは1.02 mGyであった.
2017年のMiyazakiらの報告によると13),日本の胎児CTの診断参考レベルは,IRを使用しなかった場合,2015年の調査ではCTDIvolが4.9 mGyで,2011年の調査(CTDIvolが11.3 mGy)から大幅に低下していた.また,IRを使用した場合の診断参考レベルは,CTDIvolが3.5 mGyであり,IRの使用が被ばく低減をもたらすことがわかる.また,管電圧120 kV撮影での診断参考レベルはCTDIvolが4.8 mGy,管電圧100 kV撮影での診断参考レベルはCTDIvolが4.1 mGyと報告されており,管電圧を下げることも被ばく低減に有用である.胎児CTを施行している施設は,被ばく低減への意識が高く,今後も各施設が被ばく低減に努めていくことで,日本の胎児CTの診断参考レベルのCTDIvolはさらに低下していくものと思われる.
4. Photon-counting detector CT(PCD-CT)への期待最近,photon-counting detector CT(PCD-CT)が登場し,限られた施設ではあるものの臨床で使用されて始めている.PCD-CTは,空間分解能やCT値の定量性,軟部組織のコントラスト等を従来のenergy-integrating detector CT(EID-CT)よりも向上させる可能性,放射線被ばくにおいても従来のEID-CTよりもかなり低減できる可能性が期待されている.PCD-CTの普及はまだまだこれからであるが,普及してくれば,胎児CTへの応用も期待され,さらなる被ばく低減につながっていくものと思われる.
胎児CTの被ばく低減について述べてきたが,CTでは原理的に放射線被ばくをゼロにすることはできない.胎児超音波は,スクリーニング検査としては有用であるが胎児の骨格全体の描出という点では不向きである.胎児MRIは,胎児超音波に次ぐ,出生前画像診断のモダリティとしての地位を確立しており,胎児の骨系統疾患の診断においても有用であり,頭蓋冠,脳,脊椎,軟骨,肺容積などの情報を提供してくれる14).胎児MRIを読影していると,頭蓋骨,脊椎,肋骨,脊椎,骨盤骨などパーツごとの骨は描出されており,形態評価は可能なことに気づく(Fig. 5).2015年にRobinsonらは,susceptibility weighted imagin(SWI)を使用したfetal “black bone” MRIがsingle shot fast spine echo(SSFSE)などの標準的なシーケンスと比較して,すでに骨化している胎児の骨をより明瞭に示すことを報告した15).この報告は,胎児の脊椎の描出を目的としたものであり,スライス厚2 mmのギャップレスで撮像することで,脊椎の3D表示も可能となっていた.胎児MRIによる骨格全体の3D表示の可能性を感じさせる報告であった.
GRE法で撮影されたT1強調像 では,肋骨(a),脊椎(b),上腕骨(b),骨盤骨(c),大腿骨・脛骨(d)など,各々の骨は低信号に描出されている.
2015年のRobinsonらの報告を参考として,我々は「胎児の脊椎の3D表示が可能であれば,骨格全体の評価も可能なのではないだろうか?」と考えた.Fetal “black bone” MRIに注目し,再び自施設の解剖学教室に保管されている胎児標本を使用した基礎的な研究を施行した.まず,撮像条件を決定するために鶏肉ファントムを使用した予備的実験を行い,①正確に骨形態を評価するため,骨と周囲組織との間に高いコントラストが得られるTE(echo time)とFA(flip angle)を検討し,T2*-weighted multiple gradient-echo sequenceを最適化,②骨形態の過大評価を避けるために,化学シフトアーチファクトから生じるblack bandを取り除く,MRI撮影条件を決定した.決定した撮像条件をに示す(Table 1).母体の腹部を模したファントムを作成し,胎児標本の撮影をこの条件下で行った画像を示す(Fig. 6).胎児の骨が非常に明瞭に描出されていることがわかる.胎児標本のCT撮影も行い,MRIとCTの骨描出の程度を比較検討し,その結果を2020年にMatsubaraらが報告した16).各々の骨の描出は,CTと比較しても遜色なく(Fig. 7),胎児の骨格描出に関するMRIのポテンシャルを示すことはできたが,あくまでも胎児標本を使用して行った研究であり,臨床応用するための課題も浮き彫りとなった.
使用装置 | 3T MRI scanner(TRILLIUM OVAL, Hitachi, Tokyo, Japan) |
TR | 12 ms |
TE | Opposed-phase 6.1 ms,In-phase 7.3 ms |
Flip angle | 40° |
Band width | 182 kHz |
FOV | 300 mm |
Frequency matrix | 428 |
Slice thickness | 1.2 mm(axial plane) |
slice space | 0.6 mm |
Number of excitations(NEX) | 1 |
撮影時間 | 10分58秒 |
椎体,肋骨,骨盤骨などが低信号に描出されており,いわゆる“black bone” imageが得られている.
a:Table 1の条件で撮像した胎児標本のMRI画像から抽出した腓骨(矢印)
b:同じ胎児標本を撮像したCT画像から抽出した腓骨(矢印)
胎児MRIでも胎児CTと遜色ない画像が得られている.
本研究は,高コントラストで高空間分解能の画像を取得することを目的としていたため,胎児全体のスキャンに約11分かかってしまった.高速撮影技術(ky-kz circular sampling, compressed sensing),DLRの利用などによりスキャン時間を3分程度までは短縮できるものと考えているが,実臨床では胎動や母体の呼吸による動きもあり,さらなる撮影時間の短縮が必須である.
2) 胎児全身骨格のvolume rendering(VR)画像作成の問題胎児骨系統疾患の診断において,全身骨格を容易に観察できるVR画像は有用であるが,MRIでは,骨盤の部分的なVR画像は作成できたが,骨格系と周辺組織の信号強度の差が十分ではなく,骨格全体のVR画像の作成は容易ではなかった(Fig. 8).CTのような明瞭なVR画像を得るためには,骨格と周辺組織の信号強度差をより大きくするシーケンスや信号強度差が小さくとも目的臓器を抽出する技術が必要と考えられ,今後の技術の進歩が待たれる.
a:胎児標本の骨盤骨の部分的なVR像.まるでCTのような画像が得られている.
b:胎児標本の骨格全体のVR像を作成しようと試みた画像.軟部組織と骨との
コントラスト差が少なく,全体像の作成は困難であった.
近年,MR bone imageが臨床で使用され始めている.高い関心を集めているが,まだ広く認知されているとは言い難い.我々の研究でも使用した“black bone” image,骨のT2*値よりも短いTEを用いて皮質骨からの信号を直接収集するultrashort echo-time(UTE)やzero echo-time(ZTE)といった手法など様々なアプローチがあり,今後の発展が期待されている.この中で,自施設で使用しているfast field echo resembling a CT using restricted echo-spacing(FRACTURE)という方法をご紹介する.
FRACTUREは,3D multi echo fast field echo(3D mFFE)法をベースとして収集したすべてのエコーを合算し,白黒反転することでCT like imageを得る技術で,“black bone” imagingに近い手法である.軟部組織,水,脂肪のコントラストがつかないプロトン密度強度に近いコントラストになるようにパラメータを設定することで,最終的に骨以外を均一な低信号にすることができる.その結果としてCTに近いコントラストの画像を得られる可能性がある.
当院でFRACTUREを使用し撮影した骨肉腫の症例を示す(Fig. 9).CTに近い画像が得られていることがわかる.通常のMRIで得られる腫瘍性状の評価,周囲組織や骨髄への進展の評価に加えて,骨皮質の情報を同時に得ることができ,腫瘍整形外科の先生方からも一定の評価を頂いている.
FRACTURE撮影から作成したMPR像(a)とVR像(b)は,CT画像から作成したMPR像(c)とVR像(d)に近い画像が得られている.通常のMRIから得られる情報に加えて,骨皮質の情報を得ることができるため有用な方法である.
胎児MRIにもFRACTUREのようなMR bone imageを応用したいところであるが,撮影時間が長くなってしまうため,胎動のある胎児MRIへの使用はまだ難しい.ただ,MRIの撮影技術の進歩は目覚ましく,MRI撮影の高速化やDLRを使用した撮影法の開発などが進めば,胎児MRIで胎児CT like imageが得られる未来がくるかもしれない.
胎児CTの被ばく線量は,CT技術の進歩とともに大幅に低減されている.DLR,PCD-CTの登場により,今後,さらに被ばく線量が低減される可能性がある.
胎児MRIで,胎児の骨格全体を3D画像で描出することは,現在のところはまだ難しいが,個々の骨形態評価は胎児MRIでも可能である.ただ,他領域ではMR bone imageが臨床で使用されるようになってきており,今後のMRI高速撮影技術,画像再構成技術の進歩によっては,胎児MRIでも骨格全体を評価できる日がくるかもしれない.