2025 Volume 41 Issue 1 Pages 64-70
FLAIRは日常診療で行われる頭部の撮像にて,多くの施設でルーチンのシークエンスとして使用されている.FLAIRは反転パルスを利用して頭蓋内の生理的な水成分の信号を抑え,T2延長病変の検出がしやすくなるシークエンスである.一方で,脳溝に様々な要因で高信号が認められる.主な要因としては,タンパク濃度の上昇,出血成分,細胞成分(腫瘍性,炎症性を含む)の上昇,アーチファクトなどが考えられており,鑑別は多岐にわたる.FLAIR画像の評価においてはこれらを考慮し,臨床情報を考慮しながら診断を考えることが重要である.
Fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) has become a routine sequence for head imaging in many facilities in daily clinical practice. FLAIR uses inversion pulses to suppress the signals of physiological water components in the cranial cavity, making it easier to detect T2 prolongation lesions. However, various factors can cause high signals in the cerebral sulci on FLAIR images. The main factors include increased protein concentration, presence of hemorrhagic components, elevated cellular components (including tumor and inflammatory cells), and artifacts, which leads to a wide range of differential diagnoses. When evaluating FLAIR images, it is important to consider these factors and to incorporate clinical information into the diagnostic process.
小児頭部MRIはスクリーニングや精査など日常診療で施行される機会が比較的多い.MRIは病変を鋭敏に検出できる一方,さまざまな病態で同じような所見を呈することがあり,解釈に難渋する場合がある.本稿では,小児頭部MRIで観察されるFLAIRでの脳溝の高信号域に関して解説する.いずれもよく知られた所見であり,脳画像の経験が浅い方,もしくは日常診療の復習として参考にされたい.
脳溝には,くも膜下腔,軟膜が入り込む.くも膜下腔は,くも膜と脳表の軟膜間のスペースで髄液,血管網,脳神経,支持組織を含む.FLAIRでの脳溝の高信号はこれらに由来しうる.
FLAIRは,脳MRI画像の基本的な撮像シークエンスとして,広く用いられている.FLAIRは,そのシークエンス名:fluid attenuated inversion recoveryの通り,反転パルスを利用して頭蓋内の生理的な水成分の信号がnullの状態で撮像するシークエンスである.生理的な水信号が抑制され,髄液近傍のT2延長病変が確認しやすいという特徴がある.FLAIRでは,髄液や脳表で何らかの変化が生じた場合,髄液の緩和時間に変化が起こり,髄液や脳溝のT1短縮が認められやすくなる.そのため,FLAIRでは脳溝において様々な病態で高信号が認められる.主な要因としては,タンパク濃度の上昇,出血成分,細胞成分(腫瘍性,炎症性を含む)の上昇,アーチファクトなどが挙げられる(Table 1).以下に代表的な病態に関して解説する.
要因 | 原因 | 病態 |
---|---|---|
病的 | 血液 | くも膜下出血 |
炎症 | 髄膜炎 | |
血管 | もやもや病,急性期の血管閉塞,異常血管 | |
腫瘍 | がん性髄膜炎,髄膜黒色腫症 | |
脂肪 | 脂肪腫,類皮嚢腫の破裂 | |
アーチファクト | 酸素投与 | |
動き | 血管や髄液の拍動,体動 | |
ガドリニウム | 腎機能低下時などの造影剤の排出遅延 | |
磁化率アーチファクト | 金属,空気など |
くも膜下出血は,血管奇形,外傷,動脈瘤,凝固異常などで生じうる.急性期のくも膜下の血液成分はFLAIRで高信号に描出される(Fig. 1).その要因としては,髄液中の細胞増加やタンパク濃度上昇により,T1短縮やT2延長をきたすことによると考えられている1).くも膜下出血のFLAIRでの検出能に関してはCTと比較した動物研究の報告2)によると,FLAIRで89%,CTで39%とFLAIRの方が高い検出能があるとされる.また,臨床のくも膜下出血検出の検討3)では,FLAIRで100%,T2*強調像で35.7%,CTで66.6%とFLAIRで高い検出能があることが示された.よって,CTやT2*強調像で検出されないくも膜下出血が,FLAIRでは検出されることがある.ただし,FLAIRで異常がみられなかった場合,出血が否定できるものではない.また,FLAIRで脳溝の高信号がみられた場合は,下記のような鑑別の可能性も念頭に置く必要がある.
16歳男性.頭部外傷.
くも膜下出血は,FLAIRで高信号(A矢印),T2*強調像で低信号(B矢印),CTで高吸収域(C矢印)として認められる.
亜急性期のくも膜下出血に関しては,ヘモグロビンの変性により信号変化をきたすと考えられている.亜急性期のくも膜下出血の検出は,2D法より3D法の方が検出能が高く,特に3D-double inversion recovery法や3D磁化率強調像の検出能が高いとされる4).
2. もやもや病両側(片側性の場合もある)内頸動脈終末部などのウイルス輪に慢性進行性の狭窄が生じ,側副血行路として異常な血管網が形成される疾患である.異常血管網が「もやもや」とした煙のようにみられることが病名に由来する.もやもや病では,FLAIRにて脳溝に線状の高信号が認められることが比較的高いとされる(80%以上)5).その要因としては,脳軟膜吻合部での膨張した血管,血流の遅延/停滞,脳軟膜の肥厚などが考えられている5).この所見は蔓が這う様子に似ているため,ivy signと名付けられた(Fig. 2A, B).
13歳女性.拍動性頭痛,嘔気あり.
FLAIRでは脳溝に高信号が認められ,ivy signとして知られる(A矢印).MRA(B)では両側内頸動脈終末部から前大脳動脈及び中大脳動脈起始部にかけて狭窄が認められ,基底核領域に異常な血管網が認められる.
右バイパス術後のFLAIRでは脳溝および,皮質の高信号が認められる(C矢印).脳血流SPECT(123I-IMP)ではFLAIRの高信号部位に一致して,血流増加が認められる(D矢印).FLAIRでの高信号域は過灌流を反映したものと考えられる.
もやもや病の外科治療としてはバイパス術が施行された場合,ivy signは術後約6か月で減少するとされる6).すなわち,バイパス術直後にはivy signは消失しない.しかしながら,術後に皮質に沿った高信号が増強して認められることがあり,これは過灌流の所見と考えられている7)(Fig. 2C, D).
3. 急性期梗塞急性期の動脈閉塞などによる動脈血流低下時に,くも膜下腔内を走行する動脈内がFLAIRで高信号を呈する8).脳MRIのFLAIRでは脳溝に高信号域として認められる(Fig. 3).FLAIRの動脈内高信号の要因としては,側副血行路からの逆行性血流,遅い血流,血流のうっ滞,血栓などが考えられている.
16歳男性,外傷後に生じた脳梗塞.
拡散強調像では右頭頂葉に高信号がみられ,急性期梗塞が示唆される(A矢印).FLAIRでは脳溝の中大脳動脈に一致して,高信号が認められ,血流低下が示唆される(B,C矢印).MRAでは右前大脳動脈及び中大脳動脈近位の狭窄がみられ,左側の前大脳動脈及び中大脳動脈近位の軽度狭窄も認められる(D矢印).外傷性動脈損傷もしくはスパスムが疑われる.
軟膜部の静脈奇形は血流が遅くFLAIRにて高信号として認められることがある9).本疾患ではSturge-Weber症候群がよく知られる.Sturge-Weber症候群は,顔面,眼球,脳軟膜の血管腫を特徴とする.頭部では脳軟膜の毛細血管,静脈の異常および近傍の皮質の石灰化を呈する10).Sturge-Weber症候群では脳軟膜の血管腫の遅い血流がFLAIRにて高信号として認められることがある(Fig. 4).
17歳男性,左顔面の母斑,頭痛,右半身の動かしにくさあり.
CTでは左側頭後頭葉の萎縮,皮質に沿った石灰化が認められ(A矢印),Sturge-Weber症候群の軟膜血管腫の所見と考えられる.FLAIRでは左側頭葉の脳溝に高信号が認められ(B矢印),軟膜血管腫の遅い血流を反映したものと考えられる.
髄膜炎は,感染性,非感染性のものがあり,FLAIRで脳溝に高信号域が認められることがある.FLAIRでの高信号は,脳軟膜部のタンパク沈着や細胞増加によるT1短縮を反映したものと考えられている9)(Fig. 5).髄膜炎時のFLAIRでの高信号所見は,造影T1強調像よりも感度が劣る1).ただし,軟膜炎における増強効果は,造影T1強調像よりも,造影FLAIRの方が検出能が高い11).
20歳代女性,頭痛,発熱,嘔吐,せん妄,項部硬直あり.腰椎穿刺による髄液検査ではリンパ球優位の細胞数増多が認められ,ウイルス性髄膜炎と診断された.FLAIRでは脳溝に沿って軽度高信号が認められる(矢印).
がん性髄膜炎を含む軟膜部の悪性腫瘍ではFLAIRで,結節状,線状またはびまん性の高信号として認められることがある.この所見は,肺がん,乳がん,黒色腫,原発性脳腫瘍の播種で認められる頻度が比較的高い.要因としては,髄液中の細胞成分やタンパクの上昇によるものと考えられている.
7. 酸素投与呼吸不全,低酸素血症などで投与される酸素は,髄液中にて常磁性効果を呈し,T1短縮を引き起こす.結果としてFLAIRでは脳表くも膜下腔の高信号として認められる12)(Fig. 6).これは主に高濃度(100%)の酸素投与の場合に認められ,50%の酸素濃度ではFLAIRの高信号は認められないとする報告がある1).
18歳男性,痙攣重積にて挿管,酸素投与がされている(A).治療中の脳MRIのFLAIRでは脳溝のくも膜下腔に一致した部位に高信号が認められる(B矢印).くも膜下出血なども考慮されたが,髄液検査では血液成分が認められなかったことも含め,FLAIRでの脳溝の高信号は酸素投与によるものと考えられた.
FLAIRにて認められる脳溝(脳軟膜部)の高信号においては,その鑑別は多岐にわたる.FLAIRでの高信号がみられた場合は,さまざまな要因で高信号を呈することを念頭に,臨床情報を加味し,鑑別を考えることが重要である.