2026 Volume 42 Issue 1 Pages 38-45
中枢神経系腫瘍の診断体系は,WHO第5版より分子遺伝学的な診断に重きをおいた変革が行われており,特に小児脳腫瘍と成人脳腫瘍は,その分子生物学的基盤が異なることが明確に分離された.本総説では,WHO CNS5の主要な変更点,特に小児型びまん性神経膠腫(pLGG/pHGG)の分類と,小児特有の分子異常(H3変異,BRAF変異など)を概説する.また,予後不良なdiffuse midline glioma(DMG),H3 K27-alteredの画像所見,およびBRAF阻害薬やH3K27M変異を標的としたONC201,CAR-T療法といった分子標的治療の進歩について述べる.最後に,分子診断と治療モニタリングにおいて,画像診断医が担うべきナビゲーターとしての役割,すなわちradio-genomics的アプローチと多職種連携の重要性を概説する.
The diagnostic approach for central nervous system (CNS) tumors is undergoing a transformation, with the WHO Classification of CNS Tumours, 5th Edition (WHO CNS5), placing a strong emphasis on molecular genetic diagnosis. A clear separation has been established through recognition of the distinct molecular biological bases of pediatric and adult brain tumors. This review outlines the key changes in WHO CNS5, particularly the classification of pediatric-type diffuse gliomas (pLGG/pHGG) and the characteristic pediatric molecular alterations (e.g., H3, BRAF mutations). The redefinition of the highly aggressive diffuse midline glioma (DMG), H3 K27-altered, and the latest molecular-targeted therapies, such as BRAF inhibitors, ONC201 targeting H3K27M, and CAR-T cell therapy, are also discussed. Finally, the review emphasizes the crucial role of the diagnostic radiologist as a “navigator of precision medicine” through a radio-genomics approach and multidisciplinary collaboration in molecular diagnosis and treatment monitoring.
中枢神経系腫瘍の診断と治療は,かつてない変革の時代を迎えている.長きにわたり,脳腫瘍の診断は細胞形態や免疫組織学的な所見に依存してきたが,2021年に公開されたWHO中枢神経系腫瘍分類第5版(WHO CNS5)では分子遺伝学的な診断に重きを置いており,診断体系を再構築した.つまり,組織学的には類似していても,分子遺伝学的に異なる腫瘍は別の疾患として扱われるようになり,特に成人と小児の脳腫瘍は全く異なり,それぞれ別の分子生物学的基盤が存在することが明らかになった.本総説では,WHO CNS5の要点,小児脳腫瘍特有の生物学的特徴,画像所見や分子標的治療について,画像診断医が知っておくべき情報を概説する.
分子診断の導入により,脳腫瘍診断はより客観的で生物学的な基盤に基づいた分類となった.WHO分類は第4版までと異なり,他のWHO分類に記載を合わせる形に変更が進められた1).具体的な変更点はTable 1にまとめる.
| 統合診断(Integrated Diagnosis)の確立 |
|---|
| 分類法の刷新(疾患単位をSubtypeに統一) |
| Grade表記の変更(アラビア数字の採用) |
| 腫瘍内Gradeの採用 |
| 分子マーカーによるGrade 4診断 |
| NOS,NECの区別 |
前版までは,anaplastic oligodendrogliomaのように悪性度を示す接頭語があり,この場合はanaplasticがGrade IIIを意味するという他のWHO分類では見られない形式であった.WHO CNS5ではこの接頭語の記載をなくし,astrocytoma,IDH-mutant,CNS WHO Grade 3という記載に変更された.つまり,組織学的所見(核異型,分裂像,微小血管増生,壊死など)や分子マーカー(CDKN2A/2B homozygous deletionやEGFR遺伝子増幅など)の有無に応じて悪性度をCNS WHO Grade 2–4に定め,診断名の後ろにつけることとなった.また,この分子マーカーは前版までは参考情報に留まるものであったが,WHO CNS5からは分子マーカーによりGrade 4をつけることが可能となった.なお,前版まではGradeはローマ数字(I~IV)であったが,WHO CNS5からはアラビア数字(1~4)に変更された.
分子遺伝学的な診断が必須となったことに伴い,診断が不確定な状態を指す用語も厳密に定義されることとなった.NOS(not otherwise specified)は情報不足を意味し,検体設備の都合や検体不足などによって必要な分子遺伝学的な検査が行われていない,あるいは技術的に失敗したため診断が確立できない場合に用いられる.NEC(not elsewhere classified)は分類不能あるいは新規疾患の可能性を意味し,必要な検査が行われたが,臨床的・病理学的・遺伝学的特徴が既存のWHO分類に合致しない場合を指す.例えば,pilocytic astrocytomaにH3 K27 mutantが検出された場合には,既存の分類には該当しないためNECが付けられる.
脳腫瘍の中でも分類が変わったものや新出のものもある.特に目立つものとしては下垂体腺腫はPitNETと名称変更され,神経内分泌腫瘍(NET)であることから悪性腫瘍に分類されることとなった.また,頭蓋咽頭腫もadamantinomatousとsquamous-papillaryが異なる背景の腫瘍であると考えられるため,別の腫瘍として分類されることとなった.上衣腫は発生部位と分子学的な特徴を組み合わせる形で分類され,テント上ではsupratentorial ependymoma ZFTA fusion-positive, or YAP fusion-positive,テント下ではposterior fossa group A or B (PFA/PFB) ependymoma,spinal ependymoma,MYVN-ampliciedが追加されている.新出のものとしては,大脳皮質下の石灰化や嚢胞変性を伴うpolymorphous low-grade neuroepithelial tumor of the young(PLNTY)(Fig. 1),透明中隔や脳梁,脳室周囲から発生するmyxoid glioneuronal tumorのように画像所見や発生部位から診断が可能なものもある一方で,other CNS embryonal tumorsではCNS tumour with BCOR internal tandem duplication(Fig. 2),Cribriform neuroepithelial tumour,mesenchymal,non-meningothelial tumorsではIntracranial mesenchymal tumour,FET::CREB fusion-positive,CIC-rearranged sarcomaなどの多彩な画像所見を呈する稀な腫瘍もある.また,genetic tumor syndromesの記載も大幅に追記されており,特に全身の様々な臓器に腫瘍が発生するDICER1 syndromeは,CNSだけでも4種類(Embryonal tumour with multilayered rosettes, Pituitary blastoma, Pineoblastoma, Primary intracranial sarcoma, DICER1-mutant)あり,これらの腫瘍に遭遇した場合には鑑別として考慮したい.

A:非造影CT,B:T2強調像 20歳代男性,痙攣.左前頭葉皮質下にCT(A)で粗大な石灰化を伴う病変を認め,T2WI(B)では病変の辺縁に嚢胞と思われる高信号を認める.

A:非造影CT,B:T2強調像 5歳男性,頭痛・意識障害.右前頭葉の深部白質を主座とする粗大な腫瘤を認め,CT(A)では病変内には出血や石灰化が混在する病変であり,前方に浮腫と思われる低吸収を伴っている.T2WI(B)では病変は不均一な信号を呈する病変であり,前方に出血を疑う粗大な低信号を認める.術前には高悪性度のmesenchymal tumorやembryonal tumorを鑑別に考えた.MRI撮像後に緊急摘出が行われた.
WHO CNS5における大きな変更点は,びまん性神経膠腫(diffuse glioma)を成人型(adult-type)と小児型(pediatric-type)に明確に分離したことである1).これまで,小児のhigh-grade gliomaは成人のglioblastomaと同様の疾患として扱われていたが,成人型と小児型の膠腫は腫瘍発生の根本原因となる遺伝子異常(ドライバー変異)が異なる.
成人型の神経膠腫では,主にIDH(isocitrate dehydrogenase)遺伝子変異が中心的な役割を果たす.その他,1p/19q共欠失,TERT promoter変異が関与する.これらは加齢に伴う遺伝子変異の蓄積や環境要因が関与していると考えられ,30代以降の成人に好発する.一方で,小児型の神経膠腫では,主にヒストンH3遺伝子(H3F3A,HIST1H3Bなど)の変異や,BRAF遺伝子変異/融合,FGFR変異などが主要なドライバー遺伝子になる.これらは発生・発達過程におけるエピジェネティックな制御異常や,RAS/MAPKシグナル伝達経路の異常が腫瘍化に直結していることを示唆している.
さらに,小児型のびまん性神経膠腫は,予後と分子背景に基づき,low-gradeとhigh-gradeの2つの大きなファミリーに分類される(Table 2).Pediatric-type diffuse low-grade gliomas(pLGG)は一般的に予後良好で,緩徐に進行する.外科的切除に加え,近年ではMAPK経路を標的とした分子標的薬が奏功する例が増えている.Pediatric-type diffuse high-grade gliomas(pHGG)は極めて予後不良であり,成人型のglioblastomaと同等あるいはより早い進行を呈し,従来の化学放射線療法に抵抗性を示す.これらの小児型神経膠腫の診断においては,年齢や発生部位,画像所見などの成人型神経膠腫とは異なる要素を組み合わせて,背景にある特異的な遺伝子変異(H3K27MやBRAFなど)を推論するradio-genomics的な診断アプローチが不可欠となる2).
| Pediatric-type diffuse low-grade gliomas (pLGG) |
| Diffuse astrocytoma, MYB- or MYBL1-altered |
| Angiocentric glioma |
| Polymorphous low-grade neuroepithelial tumor of the young (PLNTY) |
| Diffuse low-grade glioma, MAPK pathway-altered |
| Pediatric-type diffuse high-grade gliomas (pHGG) |
| Diffuse midline glioma, H3 K27-altered |
| Diffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutant |
| Diffuse pediatric-type high-grade glioma, H3-wildtype and IDH-wildtype |
| Infant-type hemispheric glioma |
かつて,びまん性橋神経膠腫(diffuse intrinsic pontine glioma)と呼ばれた小児脳腫瘍の中でも予後不良な疾患は,分子遺伝学的解析によりdiffuse midline glioma(DMG),H3 K27-alteredとして再定義された1).WHO CNS5では,従来のH3 K27M-mutantからH3 K27-alteredへと変更された.これは,ヒストンH3遺伝子の27番目のリシンがメチオニンに置換する変異(=K27M変異)だけでなく,EZHIP過剰発現やEGFR変異によるH3K27のトリメチル化(H3K27me3,PRC2の機能不全により腫瘍化を促進する)を喪失させる場合も本病態に含まれることとなったためである.
DMGは脳正中~傍正中に好発し,視床,脳幹,脊髄の順に多い.その他の部位として松果体部,小脳,傍鞍部などの報告もある3).主に5歳から10歳の小児に発生するが,若年成人での報告も散見される.画像所見はT2強調像やFLAIR像では明瞭な高信号,境界は不明瞭で周囲への浸潤性の発育を呈し,橋発生の場合は橋の腹側への膨隆により脳底動脈を取り囲むような所見(engulfment)を呈する(Fig. 3).DIPGは細胞密度が高くはないため,拡散強調像ではADC値が上昇することが多い.典型的には造影されないあるいはごく軽微な造影効果であるが,しばしば明瞭な増強像やリング状あるいは壊死を反映する増強像を呈することがあり,特にリング状増強像を呈する場合は小児の後頭蓋窩腫瘍で頻度が高いpilocytic astrocytomaと誤認しないように注意すべきである(Fig. 4, 5).

A:T2強調像,B:ADC map,C:造影T1強調像 3歳男性,頭痛.橋は腫大しており,T2強調像(A)では比較的明瞭な高信号であり,前方では脳底動脈を巻き込んでいる(矢印).ADC map(B)では腫瘍は高値であり,造影T1強調像(C)では造影効果はほとんど認められなかった.生検により確定診断された.

A:T2強調像,B:拡散強調像(b = 1000),C:造影T1強調像 30歳代男性,頭痛.左視床から視床後方を主座とする腫瘤を認める.T2強調像(A)では境界不明瞭な高信号,拡散強調像(B)では病変後方に高信号域を認め,ADC(非掲載)は軽度低下していた.造影T1強調像(C)では比較的明瞭な増強像を認める.生検により確定診断された.

A:T2強調像,B:造影T1強調像 10歳代前半男性,頭痛・進行性の右半身の脱力.中脳左側を主座とする境界明瞭な腫瘤性病変を認める.T2強調像(A)では強い高信号を呈し,ADC(非掲載)は著明に上昇していた.造影T1強調像(B)ではリング状増強像を呈しており,進行性の脱力が生じていることからはdiffuse midline gliomaが第一に疑われたが,画像所見からはpilocytic astrocytomaも鑑別に考えられた.生検により確定診断された.
画像所見や臨床経過からDMGが強く疑われる場合は,脳幹部などの手術困難な部位であれば,生検を行わずに放射線治療を開始することもある.しかし,可能な限り生検を行い,組織型の確定およびその他の標的可能な遺伝子変異の有無を確認することが,後述する治験や分子標的治療へのアクセスのために価値はあると考える.
小児脳腫瘍治療は,手術+放射線+細胞障害性抗がん剤という従来の治療法から,その腫瘍の分子異常を標的とする分子標的治療の研究開発が進められている.分子標的治療の実現には手術や生検で得られた検体を用いたがん遺伝子パネル検査が必須であり,遺伝子変異の検出ならびに使用可能な分子標的薬を選択する必要がある.
最近のトピックな治療としては,BRAF変異をターゲットとしたダブラフェニブ(BRAF阻害薬)・トラメチニブ(MEK阻害薬)の併用療法がある4).BRAFはRAS/MAPKシグナル伝達経路の主要な構成因子であり,この経路の異常活性化が腫瘍形成を促進する.この治療は2016年に悪性黒色腫に対して保険適応が開始され,その後に非小細胞肺癌,2023年11月より「標準治療が困難なBRAF遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍(結腸・直腸癌を除く)」に対して保険適応が追加され,小児例への使用にも保険適応となった.BRAF変異はpilocytic astrocytoma,ganglioglioma,pleomorphic xanthoastrocytomaなどで陽性になることが多い.当院ではpilocytic astrocytomaの治療に用いられることが多く,治療開始後に腫瘍の縮小や造影効果の低下が認められる(Fig. 6).ただし,治療初期に嚢胞成分の一時的な増大や,治療中止後に腫瘍の急速再増大(rebound growth)が報告されており,follow upの際には注意しておくべき事項である5).

A:造影T1強調像,B:投与開始4週間後の造影T1強調像 8歳女性.左視路を主座としたpilocytic astrocytomaに対して摘出,化学療法後に増大あり.治療後4週間後のMRIでは病変および増強域の明らかな縮小を認めた.
先述のDMGの標準治療は放射線療法であり,テモゾロミドなどの化学療法を併用するが,予後改善効果は証明されていない.治療により一時的に腫瘍が縮小し症状が改善する,所謂ハネムーン期が得られることがあるが,多くは数か月以内に再増悪し,診断後の生存期間中央値は1年未満である.最近では2025年8月にONC201(ドパミン受容体D2拮抗薬)がH3K27M変異陽性の再発性・進行性DMGに対する治療としてFDAで認可されたが,本邦ではまだ承認はされておらず,臨床研究として提供されている.Natureで2025年に報告された新たな治療戦略として,CAR-T療法がある6).CAR-T療法はキメラ抗原受容体(CAR)を導入したT細胞を投与する治療法であり,B細胞性急性リンパ芽球性白血病や悪性リンパ腫,多発性骨髄腫に適応がある.この論文ではH3K27M変異細胞が高発現するGD2抗原を標的とするCAR-T細胞を脳室内・静脈内に投与しており,CRを含む腫瘍縮小や神経症状の改善が報告されており,治療適応の拡大が望まれる.画像診断としては,CAR-T細胞が腫瘍を攻撃する際に炎症反応が起こるため,腫瘍炎症関連神経毒性(tumor inflammation-associated neurotoxicity; TIAN),サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome; CRS)/Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome(ICANS)の評価が必要であり,腫瘍の真の増大と炎症反応による増大(pseudoprogression)の鑑別を求められる可能性がある7).
WHO CNS5と今後の分子標的治療の時代において,画像診断医に求められる役割は刻々と変化している.
まず,小児脳腫瘍の診療は,“脳腫瘍”という診断をすることから始まる.そのためには脳腫瘍と鑑別となる脳炎脳症,感染症,代謝性疾患などの多彩な疾患を除外することが必要となる.また,脳腫瘍という存在診断や進展だけではなく,それがどのような腫瘍であるのか,つまりはglioma,glioneuronal tumor,embryonal tumor,mesenchymal tumorのどれに分類される可能性が高いかを術前に伝えることには一定の価値があると考えられる.もちろん遺伝子変異を網羅するような診断は現時点では難しいが,脳外科医が全摘出をするのか,機能温存や予後を考えて生検にとどめるのか,生検する場合はどこから採取するのかという判断をする情報となり得るものである.悪性度が高い腫瘍の場合は,メチル化解析を含む最終診断がでる前から化学放射線療法を行うことがあるため,年齢・部位・画像パターンから特定の分類に絞り込む思考プロセスが重要である(鑑別の際には参考文献8)の診断樹形図が有用であるため,一読をお勧めしたい).
手術や放射線治療から,分子標的薬やCAR-T療法による新しい治療が導入される際には,腫瘍径だけではなく,拡散強調像や還流画像などを用いた機能的な評価が必要になることも考えられる.実際に膠芽腫に対してEGFR阻害薬を使用した場合には造影効果の減弱が生じ,pseudo responseを考慮した読影が必要になっている.状態が悪化した場合にも,薬剤に関連した合併症,CRSやTIANなどの免疫反応などの合併症を早期に発見し,臨床医に警告を発することも重要な責務である.
最後に,小児脳腫瘍の治療方針は小児科や脳神経外科だけではなく,放射線治療医,病理診断医,画像診断医などの多職種が集まるキャンサーボードで決定される9).当院のキャンサーボードでは前医の画像を確認し,今後の必要な検査やMRIのシーケンス,検査の前処置について来院前に事前に検討し,迅速な診断・治療に進むことができるように対応している.画像診断医として,必要な検査を過不足なく行うようにマネージメントをすることは特に小児の検査においては非常に重要であり,前向きに対応することには一定の価値があると考えられる.
小児脳腫瘍診療では,画像診断医は単なる腫瘍の組織診断ではなく,適切な分子診断へと臨床医を導く役割を担うべきであり,常に最新の知見を捉え,多職種と密に連携することが肝要である.