The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
Original Articles
Relationship between physical activity and self-management in patients with stable COPD
Masashi ShiraishiYuji HigashimotoYuko SawadaRyuji SugiyaHiroki MizusawaTisato KamadaOsamu NishiyamaTamotu KimuraYuji TohdaKanji Fukuda
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 28 Issue 1 Pages 103-107

Details
要旨

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)は,呼吸困難により身体活動量(以下PA)の減少をきたす.近年,COPD患者において自己管理の重要性が注目されている.本研究の目的はCOPD患者における自己管理能力とPAの関係を検討することとした.

【方法】当院にて外来呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)を実施した,GOLD stage 2~4期の安定期のCOPD患者30例を対象とした.自己管理能力はLINQで評価し,PAは3軸加速度計で計測した.評価は呼吸リハ介入時と介入後12週以降に実施した.呼吸リハ前後でLINQの項目に改善が見られた群を改善群とし,改善が見られなかった群を非改善群とした.

【結果】改善群・非改善群ともに,6MWDに改善を認めた(p<0.05).改善群ではPAに改善を認めた(p<0.05)が非改善群ではPAが改善しなかった.

【結論】身体活動を改善するためには運動療法のみではなく,自己管理能力を獲得させ,生活習慣を変えていくことが重要である.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)は,動的肺過膨張のため,運動時呼吸困難が惹起される1.進行すると息苦しさのために日常生活も制限される.その結果,身体活動の低下から廃用症候群などの身体機能の失調を招き,社会的孤立,うつなどの影響もあり,さらに呼吸困難を増していく悪循環を生じる2,3

身体活動(Physical activity:以下PA)は最も強いCOPD患者の予後予測因子であり4,運動耐容能の改善に加えてPAを増加させることがCOPD患者の重要な治療目標であるとされている3.COPDに対する呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の効果は確立されており,呼吸困難の軽減,運動耐容能の改善,健康関連QOLの改善効果が明らかになっている5.しかし,呼吸リハプログラムによりPAが改善しないという報告もある6.我々はうつ症状がCOPD患者のPAと呼吸リハの効果に関連があることを報告しているが7,どのような介入でCOPD患者のPAを改善できるかは分かっていない.

呼吸リハにおいては運動療法と患者教育が中心的な構成要素である.患者教育はCOPDの予防,診断,管理のすべてのプロセスにおいて,重要な位置を占める.特にCOPD患者の自己管理能力と疾患・理解は呼吸リハの効果に影響することは知られている5.しかし,COPD患者の自己管理能力がPAにどのように影響するかは十分検討されていない.そこで本研究の目的としては自己管理能力の変化と身体活動との関連を検討することとした.

対象と方法

研究デザインは疫学研究(観察的探索研究)である.近畿大学医学部附属病院の外来呼吸リハに通院中の安定期COPD患者を対象とし,日常生活に支障をきたす運動器疾患や心疾患,精神疾患などの合併があるものは除外した.本研究は近畿大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号25-248).倫理的配慮としてすべての対象者に本研究の評価の趣旨や方法,個人情報保護に関して説明し,同意を得た後に実施した.

自己管理能力の評価にはThe Lung Information Needs Questionnaire(以下LINQ)を用いた.LINQは,COPD患者が必要としている情報を定量的に測定する自己記入式の質問票である.評価は主要6項目(病気・薬・自己管理・運動・栄養の理解・禁煙)より構成(0~25点)され,点数が高いと患者の情報が不足しているとされる8

PAの測定は呼吸リハ介入前と介入後12週以降に,3軸加速度センサー(アクティマーカーEW4800 P-K,Panasonic社製)を用いて測定した.アクティマーカーは,1週間以上装着し,入浴時以外の24時間腰部に装着するように指導した.1日の総消費エネルギー/基礎代謝量を身体活動指数(Physical activity level: PAL)とした.PALは平日3日間以上の平均値を用い,天候や季節性に配慮し雨天の日や平均気温が2.5°C未満あるいは27.0°C以上の日のデータは除外とした.

外来呼吸リハ開始時に年齢,BMIなど基礎情報の聴取を行い,併せて呼吸機能(FVC,FEV1.0),PAL,運動耐容能(6分間歩行距離:6 minutes walk distance:以下6MWD)の計測を行った.また,質問紙による健康関連QOL(St. George’s Respiratory Questionnaire:以下SGRQ),うつ・不安(The Hospital Anxiety and Depression Scale:以下HADS)の評価を実施した.外来呼吸リハプログラムは胸郭のモビライゼーションとストレッチ運動と運動訓練からなるセッションを週2回12週間(24セッション)実施した.

患者教育としては自己管理に特化した多職種での介入は行っておらず,運動の重要性や継続に対する指導を行った.

運動療法は,自転車エルゴメータあるいは,トレッドミルにて,高強度負荷法9である最大負荷の60~80%で30~60分間を実施した.

呼吸リハ実施前後のLINQ(合計)をもとに,LINQの改善群(1 point以上の改善)と非改善群に分けた.改善群,非改善群の2群間の比較にはMann–Whitney U検定を,呼吸リハ実施前後の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定にて分析した.また,LINQ(合計)の改善が各項目にどのように影響するかを検討するため,呼吸リハ実施前後のLINQの変化量と各指標の変化量との関係を,Spearmanの順位相関係数を求めた.さらにLINQを従属変数とし,相関を認めた項目を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)にて分析を行った.統計解析は,統計解析ソフトウェアSPSS(ver 22 J for windows)を使用し,統計的有意水準は5%未満(p<0.05)に設定した.

結果

中等症から最重症(GOLD 2~4期)のCOPD患者30名が対象となった.

呼吸リハ介入により6分間歩行距離(前 376±97 m,後 411±97 m,p<0.05)が有意に改善した.しかし,PAL(前 1.33±0.08,後 1.35±0.09,p=0.12),SGRQ合計(前 37.81±14.29,後 35.05±15.37,p=0.14),HADS不安(前 5.6±2.9,後 5.5±3.0,p=0.09),HADSうつ(前6.7±2.7,後5.8±3.1,p=0.07)の項目に有意な変化は見られなかった.

全症例における呼吸リハ実施前後のLINQの項目では合計(前 10.3±3.7,後 8.6±3.7,p=0.09)やその他の項目には有意な改善を認めなかった.

LINQスコアの改善群,非改善群における呼吸リハ実施前の比較を表1に示す.両群に基本属性,呼吸機能ともに有意差は認めなかった.6MWDにおける呼吸リハ実施前後の変化は,改善群・非改善群ともに有意な改善を認めた(図1).PALにおける呼吸リハ実施前後の変化では,改善群に改善を認めたが,非改善群では有意な改善を認めなかった(図2).改善群における呼吸リハ実施前後のLINQの項目では,自己管理(前 3.7±1.6,後 2.5±1.3,p<0.05)と運動(前 2.5±1.3,後 2.1±1.6,p<0.05)に有意な改善を認めた.

表1 患者背景
項目改善群(n=17)非改善群(n=13)p value
年齢(歳)75(74-75)74(72-78)0.16
BMI(Kg/m221.7(21-26)22.5(19-24)0.39
FVC(L)3.00(2.89-3.29)2.66(2.07-2.89)0.29
FEV1.0(L)1.27(0.79-1.73)1.29(0.86-1.34)0.98
COPD
stageII/III/IV
7/7/35/6/2

中央値(四分位範囲)

Mann-Whitney U検定

図1

呼吸リハ前後の6分間歩行距離

Wilcoxonの符号付き順位検定

図2

呼吸リハ前後の身体活動量

Wilcoxonの符号付き順位検定

また,改善群において LINQ(運動)の項目の変化量と,PALの変化量(r=-0.46,p<0.05)に有意な相関を認めた.呼吸リハ実施前後のLINQ(合計)と各項目の変化量の関係を表2に示す.LINQ(合計)の変化量と,6分間歩行距離の変化量(r=-0.43,p<0.05),PALの変化量(r=-0.57,p<0.01),HADS・うつの変化量(r=-0.38,p<0.05)に有意な相関を認めた.さらにLINQ(合計)を従属変数とし,6分間歩行距離,PAL,HADS(うつ)の項目を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.その結果,PAL(R=0.48,標準化係数=0.49,p<0.01)が有意な項目として抽出された.

表2 呼吸リハ実施前後のLINQ(合計)と各項目の変化量の関係
rp value
PAL-0.55p<0.01
HADS(不安)0.140.18
HADS(うつ)0.38p<0.05
6MWD-0.43p<0.01
SGRQ Total score0.120.53

Spearmanの順位相関係数

PAL: Physical Activity Level

HADS: The Hospital Anxiety and Depression Scale

6MWD: 6 minutes walk distance

SGRQ: St. George Respiratory Questionnaire

考察

本研究では,外来通院中のCOPD患者の呼吸リハ実施前後において自己管理能力とPAの関連を検討した.LINQ 変化量と6分間歩行距離,PAL,HADS(うつ)の変化量に有意な相関を認めた.LINQ(合計)を従属変数として重回帰分析を行った結果,PALが有意な項目として抽出され,LINQ改善群・非改善群の2群での比較では,運動耐容能は両群で改善した.しかし,PALにおいてはLINQ改善群のみ向上した.

患者教育の目的は,患者自身が疾患に対する理解を深め,安定期,増悪期における自己管理能力を獲得し,医療者と共同で疾患に取り組む姿勢を向上させることである5とされている.そのためには患者自身に自己管理に関する自信やスキルを向上させる意欲を持たせることが重要であり,知識や技術の習得のみにとどまらず,薬剤の管理,感染予防や運動療法などの自己管理を行うためのアドヒアランスを高める必要がある.

さらに,COPD患者のPAを改善するためには単純な運動療法のみではなく,自己管理能力を獲得させ,生活習慣を変えていくことが重要である.

LINQの変化量と6分間歩行距離の変化量に有意な相関を認めた.COPD患者において運動耐容能や呼吸困難は予後規定因子とされ,これらは,呼吸リハによって改善できることは知られている10.COPD患者に対して,呼吸リハで改善した運動耐容能をどのようにPAの向上につなげるかが重要である.

Niciら11は,様々な自己管理技法の知識と方法を身につけることで,自己効力感が向上することにより行動変容が促されるとしている.このことから運動に対する意識を高め,運動行動の変容(行動変容)を支援することが必要である.よって,COPD患者のPAを改善するためには単純な運動療法のみではなく,自己管理能力を獲得させ,生活習慣を変えていくことが必要である.本研究では患者教育として自己管理に特化した多職種での介入は行っておらず,運動の重要性や継続に対する指導を行ったのみであったが改善群では運動・自己管理の項目に改善を認めていた.このことから,患者教育に対する理解度がよい症例ほどPAに関する自己管理へのアドヒアランスを高める可能性があるのではないかと考える.しかし,Sauroら12は,COPD患者は,疾患に関する知識が不十分と指摘しており,自己管理能力の向上に対して成功している報告は少なく,自己管理能力の獲得に対して有効的なアプローチ方法は確立されていない.本研究においても,自己管理能力には有意な改善を認めなかった.患者教育は,理解力,生活環境,社会状況などを評価する必要があり,自己管理能力の向上,患者自身の行動変容が重要な課題であるとされる13.このことから自己管理能力を向上させるためには,様々な専門職が関与した包括的アプローチが重要であると考える.健常者と比較してCOPD患者は2倍近くの割合で軽度の認知症を伴っているとされており14,認知機能がセルフマネジメント能力の向上に影響している可能性があると考える.よって今後,患者教育に影響する認知機能についても検討する必要があると考える.

またLINQ(合計)変化量とHADS(うつ)に関連を認めた.うつはCOPDを含む慢性疾患において高頻度に認められる症状で15,抑うつ症状は安定したCOPD患者において,その後の死亡率を増悪させる16と報告されており,我々の報告9においてもPAを改善するには,さらに長期のリハ介入やうつ症状を改善できるような介入が必要であることを述べた.このことから,COPD患者にうつ・不安の評価を行ったうえで,患者教育や治療プログラムへつなげることが重要である.本研究の限界として症例数が少なく,重症度が一定ではなく,重症度別でのPAの評価が実施できていない.また在宅酸素療法を導入されている症例も含まれているため,PAに制限が生じる可能性がある.本研究は12週間のプログラム前後の評価にとどまっており,実施後の長期的な行動変容の実態を明らかにすることはできておらず,患者教育に関しては運動や継続に対する指導のみにとどまっており,多職種による包括的な介入が行われていない.今後,多職種による介入による効果や,運動耐容能の変化を行動変容に結び付けていく方法の検討が必要であると考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top