The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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2017 Society Award-Winning Articles
Construction of comprehensive respiratory care system coordinated by nurse
Yuka Mitsuzuka
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 11-15

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要旨

COPD患者の長期管理のためには,複数の専門スタッフで構成されるチームによる多面的な介入,すなわち包括的呼吸リハビリテーションの構築が必要である.当院の包括的外来呼吸リハビリテーションプログラム導入当初は,看護師が主体となって患者教育や自主トレーニングに重点を置き,療養日誌や歩数計を用いた管理を中心に行った.これが結果的に患者の身体活動性を維持することにつながり,QOLを向上させることができた.患者教育においては,増悪時アクションプランの指導を強化することで,増悪への早期対応が可能となり,早期回復および重症化の予防効果を認めた.東日本大震災時には,酸素供給維持への行動のない患者が酸素中断となったことが判明したため,災害時の対応をあらかじめ設定しておく災害時アクションプランの必要性が示された.これらのアクションプランは,現在患者指導プログラムに組み込まれているが,地域連携で活用されることが効果的と考え,地域連携システムを構築している.

緒言

当院では2000年に慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する包括的外来呼吸リハビリテーションを導入した.設立当時は診療報酬算定対象外で,医療スタッフの確保や指導時間の確保もままならず,ゼロからの体制作りであったが,実現可能なことから開始し,徐々に医療チームの構成員を増やし,現在では院内ほぼすべての職種が関わる充実したプログラムとなった.さらに効果的な呼吸ケアシステムとするために,地域の医療施設や介護福祉施設も巻き込んで,地域連携システムの構築を進めている.連携ファイルを用いた病診連携,介護福祉施設との連携,「連携の会」「在宅ケアカンファランス」などの開催も呼吸ケアシステムの一環として行っている.

患者の身体活動性維持・向上の一つの手段としてのフライングディスク大会開催,看護外来にて,増悪時アクションプラン・災害時アクションプラン指導や,非侵襲的陽圧換気(Noninvasive Positive Pressure Ventilation)療法・経鼻的持続陽圧呼吸(Continuous Positive Airway Pressure)療法指導なども行なっている.今回は,以下の代表的な活動を紹介する.

当院の包括的呼吸リハビリテーションと継続性向上へのアプローチ(図1

慢性呼吸器疾患,特にCOPDに対する呼吸リハビリテーションは国内外のガイドラインで推奨されており,その有効性についても多くの報告がなされている.ただし,医療チームの時間的および人的制約,また患者の通院困難などの社会的制約などの問題点は,多くの一般病院と同様に当院でも抱えていたため,まず当院で実現可能なプログラムを設定した1.看護師がコーディネーターとなり,包括的呼吸リハビリテーションプログラムを作成し,月1回の患者教育より始め,教育終了後,月2回の指導に重点においた運動療法を中心とする外来呼吸リハビリテーションに移行した.自主トレーニングについては,高齢者でも容易に実施可能な歩数計を用いての歩行と療養日誌の記入を重点的に指導した.運動療法開始6ヶ月後で,HRQOL,ADL,運動耐容能,平均1日歩数は有意に改善し,特に歩数増加群では高いHRQOL改善度がみられた.低頻度の外来介入であっても,教育の重点化,特に歩数計を用いた歩行と療養日誌によるフィードバックを併用することにより有効なプログラムとなり得ることを示唆した1

図1

包括的呼吸リハビリテーションの流れ(文献7より改変引用)

呼吸リハビリテーションは継続実施することでその効果が維持されることが知られており,継続性向上へのアプローチが重要である.当院ではその工夫として,1.在宅呼吸リハビリテーション達成度チェック表,2.全体会の開催,3.表彰状配布(教育プログラム終了者・長期継続者),4.個人経過表作成・配布(参加者が自己レベルを知り,セルフケア能力を高める目的),5.フライングディスク大会,5.患者懇談会などを実施している.なかでも個人経過表は,これまで医療者側だけに示されたデータを患者側にフィードバックするもので,このシステム導入後は継続率の向上が認められた2.現在では,その工夫内容を療養日誌に取り入れて配布している.

増悪時アクションプランと災害時アクションプラン(図2)(図3

COPD増悪の予防は,COPDの疾患管理において,最も重要な管理目標の一つである.当院では自己管理教育の主要項目として増悪時のアクションプランの指導を強化しており,その成果を検証した3.アクションプラン設定前後1年間の療養日誌が確認可能であった群においては,予定外受診回数および入院回数の有意な減少を認めた.アクションプラン設定前後ともに増悪がみられた群において,治療開始までの日数および回復までの日数ともに短縮効果を認めた.アクションプランを強化した自己管理指導は,COPD増悪への早期対応を可能とし,早期回復および重症化の予防効果を期待できると考えた3.しかし,療養日誌の記載ができてない症例において,予定外受診回数や入院回数の減少がみられず,療養日誌を記載している症例においてさえ,不適切な対応を示す例(服薬の遅れ,服薬の中断,抗生剤使用目的の無理解で未服用等)を認めた.当院ではCOPD増悪時の不適切な対応への対策として,アクションプランに電話連絡による指導をとり入れた4.電話指導はアクションプラン開始時から増悪の軽快が確認されるまで連続して実施した.電話指導を併用できたアクションプランは,できなかった場合より有意に適切に実施され,行動も速やかであった.不適切な行動であっても電話で直接指導できた症例は,次の増悪時には全例適切な行動となっていた.電話指導群に適切な行動をとっている例が多いこと,電話指導で適切な行動がとれるようになった症例を認めたことより,アクションプランに電話指導を取り入れることの有用性が示された4

図2

アクションプランに電話連絡を取り入れた例(文献7より改変引用)

図3

療養日誌とその記載例(文献7より改変引用)

東日本大震災では宮城県のほぼ全域で停電し,多くの在宅酸素療法(HOT)患者が酸素吸入の困難な状況に陥った.今後の災害発生時の適切な対応を検討するため,震災発生時におけるHOT患者の行動とその問題点を調査した5.早期に安否確認できたケースに酸素吸入の中断はなかった.震災後に酸素供給維持への行動のない患者に,酸素中断の傾向がみられた.今回の調査からは,訪問看護ステーションやHOTプロバイダーのタイムリーな介入により適切な対応がなされ,酸素中断を阻止することができたケースがあったことから,平常時からの密な地域連携の構築が,非常時におけるHOT患者の救済に生きてくると考えた5.その連携内容として,患者一人一人に,災害時に酸素が中断しないためにどう対応するかを患者と共に設定する災害時アクションプランも共有している.

地域連携の取り組み(図4

呼吸リハビリテーションの継続や,増悪時アクションプランの対応が効果的に行われるためには,患者と病院スタッフだけでなく,訪問看護ステーションやデイサービスをはじめとする地域連携のスタッフとも情報共有が必要である.そのため,地域連携が円滑になるよう連携システム構築を行った.入院中の情報共有は退院前訪問や退院カンファレンスの場などで行い,退院後は電話や療養日誌のコメント欄でタイムリーに連携スタッフと情報交換を行うようにした.増悪があっても患者本人は息切れなどの症状を訴えない場合もあるが,バイタルなどの客観的なデータに変化がある場合などの兆候に気が付いた地域連携のスタッフから相談をもらうことで,見落としを防ぎ早期に対応することも可能となった.また,当院と地域連携スタッフで症例を検討する「在宅ケアカンファレンス」や,地域の医療施設や介護福祉施設との「呼吸リハビリ連携の会」毎年数回企画し,地域連携を密にしていく機会を設けている.

図4

医療連携の考え方と現状(文献7より改変引用)

在宅酸素療法中の重症COPD患者が,キャンピングカーでお遍路に行くという目標達成のために,呼吸ケアチームで介入した事例がある6.その患者は四国のお遍路にいきたいという希望をもっていたが,在宅酸素療法が必要な重症呼吸不全となってあきらめていたという.そこで呼吸ケアチームの介入が始まり,患者・家族および酸素業者とチームで繰返しミーティングを行った.問題点を一つずつ明らかにして安全で効率的な対策を講じ,お遍路開始から4年掛けて高野山までの目標達成を果たすことができた.COPD患者は重症になるにつれ達成目標の設定が困難となるが,一見実現不可能と思われる達成目標でも,呼吸ケアチームの介入によって達成可能となる場合があることを示したものである.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は,大変名誉ある学会奨励賞を受賞できたことを大変光栄に思います.看護師がコーディネーターとして立ち上げた包括的呼吸リハビリテーションでありましたが,呼吸ケアサポートチームとともに今日まで,試行錯誤を繰返しながら継続してきたことを評価していただいたものと理解しております.今後も呼吸器疾患の患者のために,さらなる呼吸ケアシステムの構築に尽力していきたいと考えております.

最後に,今回の日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞の受賞は,私個人だけの受賞ではなく,当院の呼吸ケアサポートチームの仲間と積み上げてきた成果であり,今までの取り組みにご協力いただいたすべての皆様にささげるものであります.特に本ケアシステムのディレクター役として日々の臨床や研究においてご指導いただいた高橋識至先生,そしてご推薦いただきました黒澤一先生に心より感謝申し上げます.

著者のCOI(Conflict of Interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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