2019 Volume 28 Issue 1 Pages 120-125
【背景】一般人の肺への健康意識を高めるために肺年齢の普及が進められているが,測定には最大努力呼気が必要である.
【目的】安静換気中に測定可能な強制オシレーション法(Forced Oscillation Technique: FOT)を用いて肺年齢を推定する.
【対象と方法】2017年4月から2018年5月までにFOTとスパイロメトリーを行った18歳以上の男女114例を後ろ向きに検討した.84症例で肺年齢と実年齢の差(実測肺年齢差)とFOT測定値との相関を求めてFOT測定値から肺年齢の推定式を作成し(開発研究),別の30症例で作成した肺年齢推定式を検証した(検証研究).
【結果】開発研究において実測肺年齢差は呼吸リアクタンス,共振周波数および低周波数面積との間に有意な相関を認めた.開発・検証の両研究において,推定肺年齢と実測肺年齢に強い相関を認め,推定値と実測値の一致度も高かった.
【結論】FOTを用いて肺年齢を推定出来ることが示唆された.
肺年齢は,一般人の肺の健康意識を高め,呼吸器疾患の早期発見・早期治療に役立てる目的で普及が進められている概念である1).スパイロメトリーで求められる1秒量(FEV1)と身長をFEV1の標準回帰式に代入して求められ,同性・同世代と比較して自分の呼吸機能がどの程度であるかを年齢という身近な指標を用いて確認できる.しかし,スパイロメトリーは検査値が一般人にわかりにくいだけでなく,最大努力呼気が必要なため,高齢者や重症呼吸器疾患患者などで施行困難なことがある2).非侵襲的に肺年齢が推定できれば肺年齢延いてはスパイロメトリーの普及が期待できる.
強制オシレーション法(FOT)は簡便で非侵襲的に呼吸インピーダンスを測定できる手技である3).最大努力呼気を必要としないため,小児やスパイロメトリーを施行できないような成人でも施行可能である3,4,5,6).また,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する気管支拡張薬の効果を測定するのにFEV1よりも鋭敏であったり7,8,9),スパイロメトリーが正常な患者でもFOTで異常を検出できたり10,11),測定値がびまん性肺疾患の重症度と相関したりすることが報告されている12).
最近,我々はFOT測定値から肺活量(VC),努力肺活量(FVC),FEV1を推定しうることを報告した13).この結果から,肺年齢もFEV1と同様に推定できる可能性がある.しかし,これまでにFOT測定値と肺年齢との関連について研究した報告はない.
今回我々は,健常人と呼吸器疾患を有する患者を対象にFOT測定値と肺年齢との関連について検討し,FOT測定値を用いた肺年齢推定式を作成したので報告する.
三瀬医院において2017年4月から2018年5月までに総合呼吸抵抗測定装置(MostGraph-02; CHEST)を用いてFOT測定とスパイロメトリーを同時に行った連続した18歳以上の日本人の男女を対象に後ろ向きに検討した.開発研究には2017年4月14日から2018年1月6日までのデータ,検証研究には2018年1月7日から同年5月14日までのデータを用いた.
診療録から年齢,性別,身長,体重,診断名,喫煙歴,FOT測定値:呼吸抵抗(Rrs),呼吸リアクタンス(Xrs),共振周波数(Fres),低周波数面積(ALX),およびスパイロメトリーの測定値:VC, FVC,FEV1,一秒率(FEV1/FVC)を収集した.ALXは計算で導き出される指標でありインピーダンス値ではないが,気流閉塞との関連が報告されているため検討に加えた14).
性別,身長,FEV1を日本呼吸器学会による肺年齢の計算式1)に代入し,得られた値を年齢,FEV1による補正を行わずに実測肺年齢とした.実測肺年齢から実年齢を差し引いた値を実測肺年齢差とした.開発研究では実測肺年齢と各FOT測定値との相関を検討した.身体測定値とFOT測定値からp値に基づくステップワイズ法を用いて重回帰分析を行い,実測肺年齢差の推定式を作成した.この推定式から算出された値を推定肺年齢差とし,推定肺年齢差に実年齢を加えて推定肺年齢とした.推定肺年齢差と実測肺年齢差との相関と一致度,および推定肺年齢と実測肺年齢との相関について検討した.検証研究では開発研究で作成した推定式を用いて推定肺年齢差と推定肺年齢を算出し,実測値との相関,一致度について検討した.
FOT測定はスパイロメトリーより先に行われた.被験者は座位でノーズクリップを着用し,頬を被験者自身で用手的に圧迫した.測定は安静呼吸が安定したところで開始し,安静呼吸5回の平均値を解析した.安静呼吸はコヒーレンス0.7以上を採用した.スパイロメトリーは呼吸機能検査ガイドラインに基づいて実施され15),検査が正しくできていることをスパイログラムとフローボリュームカーブを目視で確認した上で,再現性のある症例のみ採用した.
測定結果は平均値±標準偏差で表記した.変数の相関にはPearsonの積算相関係数,一致度の評価にはCohenのκ係数を用いた.全ての検定は両側でp<0.05を統計学的に有意とした.統計解析にはR version 3.2.2(The R foundation for statistical computing)を使用した.
本研究内容は,三瀬医院倫理委員会で承認され,被験者にはオプトアウト法で同意を得た(承認番号:201801,2018年1月17日).
開発研究において,症例は84例(男性48例,女性36例),平均年齢63.3歳,疾患の内訳は気管支喘息が58.3%を占めていた(表1).実測肺年齢差はXrs,FresおよびALXとの間に有意な相関関係を認めた(表2).性別,身長,体重,呼気相と吸気相におけるRrs,Xrs,FresおよびALXを独立変数,実測肺年齢差を従属変数として重回帰分析を行ったところ,性別,身長,Rex5,Rex10,Rex25,Rin20,Rin25,Xin10,Xin15,Xin30,ALXinが独立した規定因子となり(表3),以下のように推定肺年齢差と推定肺年齢の計算式が求められた.
開発研究 | 検証研究 | |
---|---|---|
症例数,n | 84 | 30 |
性別,n,男性/女性 | 48/36 | 18/12 |
年齢(歳) | 63.3±17.2 | 59.9±16.8 |
身長(cm) | 159.4±9.5 | 159.3±8.2 |
体重(kg) | 61.1±9.5 | 60.4±10.2 |
喫煙状況,非/既/現 | 37/31/16 | 19/8/3 |
診断,n | ||
健常者 | 7 | 1 |
感染性咳嗽 | 7 | 5 |
気管支喘息 | 49 | 19 |
慢性気管支炎 | 3 | 3 |
COPD | 8 | 2 |
間質性肺炎 | 10 | 0 |
スパイロメトリー | ||
VC(L) | 2.98±0.79 | 2.98±0.92 |
FVC(L) | 2.88±0.84 | 2.84±0.86 |
FEV1(L) | 2.14±0.72 | 2.23±0.76 |
FEV1/FVC | 0.74±0.12 | 0.74±0.27 |
広域周波オシレーション法 | ||
R5(cmH2O/L/s) | 3.80±1.78 | 3.95±1.57 |
R20(cmH2O/L/s) | 3.17±1.35 | 3.25±1.16 |
X5(cmH2O/L/s) | -0.78±1.04 | -0.88±0.95 |
Fres(Hz) | 9.79±5.00 | 10.17±4.94 |
ALX(cmH2O/L) | 5.27±9.16 | 5.67±7.66 |
実測肺年齢(歳) | 77.1±27.0 | 73.6±26.8 |
COPD, chronic obstructive pulmonary disease; VC, vital capacity; FVC, forced vital capacity; FEV1, forced expiratory volume in 1 second; R5, Rrs at 5 Hz; R20, Rrs at 20 Hz; X5, Xrs at 5 Hz; Fres, frequency of resonance; ALX, low-frequency reactance area
r | p | |
---|---|---|
Rex5 | -0.058 | 0.599 |
Rex10 | -0.080 | 0.470 |
Rex15 | -0.107 | 0.333 |
Rex20 | -0.139 | 0.208 |
Rex25 | -0.167 | 0.129 |
Rex30 | -0.188 | 0.086 |
Rex35 | -0.200 | 0.068 |
Rin5 | 0.113 | 0.306 |
Rin10 | 0.083 | 0.451 |
Rin15 | 0.041 | 0.715 |
Rin20 | -0.005 | 0.967 |
Rin25 | -0.054 | 0.628 |
Rin30 | -0.097 | 0.382 |
Rin35 | -0.133 | 0.228 |
Xex5 | -0.292 | 0.007 |
Xex10 | -0.324 | 0.003 |
Xex15 | -0.346 | 0.001 |
Xex20 | -0.363 | <0.001 |
Xex25 | -0.370 | <0.001 |
Xex30 | -0.380 | <0.001 |
Xex35 | -0.391 | <0.001 |
Xin5 | -0.317 | 0.003 |
Xin10 | -0.401 | <0.001 |
Xin15 | -0.455 | <0.001 |
Xin20 | -0.482 | <0.001 |
Xin25 | -0.491 | <0.001 |
Xin30 | -0.489 | <0.001 |
Xin35 | -0.476 | <0.001 |
Fresex | 0.323 | 0.003 |
Fresin | 0.421 | <0.001 |
ALXex | 0.267 | 0.014 |
ALXin | 0.287 | 0.008 |
実測肺年齢差は呼吸リアクタンス,共振周波数および低周波数面積との間に有意な相関関係を認めた.
β | se | t | p | |
---|---|---|---|---|
性別 | 11.40 | 3.515 | 3.242 | 0.0018 |
身長 | 0.8614 | 0.1628 | 5.291 | <0.0001 |
Rex5 | 114.1 | 34.12 | 3.344 | 0.0013 |
Rex10 | -165.6 | 46.28 | -3.578 | 0.0006 |
Rex25 | 53.69 | 13.14 | 4.086 | <0.0001 |
Rin20 | 62.23 | 17.65 | 3.525 | 0.0007 |
Rin25 | -58.07 | 18.53 | -3.135 | 0.0025 |
Xin10 | -117.8 | 19.34 | -6.091 | <0.0001 |
Xin15 | 98.92 | 21.06 | 4.696 | <0.0001 |
Xin30 | -25.29 | 5.943 | -4.255 | <0.0001 |
ALXin | -3.541 | 0.7456 | -4.749 | <0.0001 |
身体計測値と呼気相と吸気相における広域周波オシレーション法測定値を独立変数,実測肺年齢差を従属変数として重回帰分析を行ったところ,性別,身長,Rex5,Rex10,Rex25,Rin20,Rin25,Xin10,Xin15,Xin30,ALXinが独立した規定因子であった.
推定肺年齢差=11.40×性別(男性なら1,女性なら0)+0.8614×身長(cm)+114.1×Rex5-165.6×Rex10+53.69×Rex25+62.23×Rin20-58.07×Rin25-117.8×Xin10+98.92×Xin15-25.29×Xin30-3.541×ALXin-125.1
推定肺年齢=推定肺年齢差+実年齢
上記の式で得られた推定肺年齢差と実測肺年齢差および推定肺年齢と実測肺年齢に強い相関関係が認められた(図1A,B).一方,肺年齢差20歳以下を基準範囲とすべきとの報告から16),肺年齢差を20歳以下と20歳超過の2群に分けて推定値と実測値の一致度を検討したところ,κ係数は0.6491と良好な一致度であった(表4).
肺年齢差および肺年齢に対する実測値と推定値の相関
開発研究において推定肺年齢差と実測肺年齢差(A)および推定肺年齢と実測肺年齢(B)に強い相関関係が認められたことに加えて,検証研究においても推定肺年齢差と実測肺年齢差(C)および推定肺年齢と実測肺年齢(D)に強い相関関係が認められた.
推定肺年齢差 | |||
---|---|---|---|
20歳未満 | 20歳以上 | ||
実測肺年齢差 | 20歳未満 | 50 | 5 |
20歳以上 | 8 | 21 |
肺年齢差を20歳以下,20歳超過の2群に分けて推定値と実測値の一致度を検討したところ,κ係数は0.6491と良好な一致度であった.
検証研究の症例は30例(男性18例,女性12例),平均年齢59.9歳であり,疾患の内訳は気管支喘息が63.3%を占めていた(表1).開発研究で作成した計算式から求めた推定肺年齢差と実測肺年齢差および推定肺年齢と実測肺年齢に強い相関が認められた(図1C,D).また,推定肺年齢差と実測値の一致度はκ係数0.6000と良好であった(表5).
推定肺年齢差 | |||
---|---|---|---|
20歳未満 | 20歳以上 | ||
実測肺年齢差 | 20歳未満 | 14 | 5 |
20歳以上 | 1 | 10 |
肺年齢差を20歳以下,20歳超過の2群に分けて推定値と実測値の一致度を検討したところ,κ係数は0.6000と良好な一致度であった.
本研究において,実測肺年齢差とFOT測定値の相関関係は軽度から中等度であったが,FOT指標を用いて推定肺年齢の計算式を作成したところ,算出された推定肺年齢と実測肺年齢には良好な相関関係が認められた.
肺年齢は性別,身長およびスパイロメトリーで求められるFEV1から算出される1).肺年齢を用いることで,一般人が呼吸機能を把握しやすくなる効果が期待される.しかし,開発から10年以上経過するにもかかわらず肺年齢の認知度は3割にも満たない17).これはスパイロメトリー結果の解釈が難しいだけでなく,被検者が検査努力を嫌がったり,医師側も被検者に努力が必要なため検査を積極的に行わなかったりすることも関与していると考えられる18).非侵襲的に肺年齢を推定出来れば,それをきっかけに肺年齢やスパイロメトリーの普及が期待できる.
これまでに,FOTの指標とスパイロメトリーの指標との相関は,軽度から中等度であると報告されている12,13,19,20,21).本検討でもFOTの指標は肺年齢と軽度から中等度の相関関係しか認めなかった.一方,我々はスパイロメトリーの指標であるVC,FVC,FEV1の実測値が,FOTの指標を用いた線形回帰式で求められる推定値と良好な相関関係を示すことを報告している13).本検討では開発・検証の両研究において,FOT測定値を用いて算出した推定肺年齢と実測肺年齢に強い相関関係が認められ,肺年齢差の一致度も良好であった.今回の結果をもって推定肺年齢は実測肺年齢の代替にはならないが,この方法を発展させることで,FOTによる肺年齢の推定が,患者や医師に対するスパイロメトリーの動機付けになると期待される.
本検討では肺年齢の推定方法としてFOT測定値から肺年齢差の推定式を作成したが,別の方法としてFEV1推定値を求めてから肺年齢の計算式に代入する方法がある.開発研究の84症例から重回帰分析を用いて推定FEV1の推定式を作成し,肺年齢の計算式に代入して推定肺年齢と推定肺年齢差を算出したが,いずれも実測値との相関係数は本検討結果よりも低かった(補足図1).さらに,我々は以前MostGraph-01で1,089例を対象に身体計測値とR5,R20,X5,FresおよびALXからFEV1の推定式を作成したが13),その推定FEV1で求めた肺年齢と肺年齢差の推定値のいずれも実測値との相関係数が本検討結果より低かった(補足図2).直接肺年齢差の推定を行わなかったことや推定式開発時に重回帰分析に投入した独立変数が少なかったことなどが精度低下の原因と考えられる.
推定1秒量から算出した肺年齢
文献13の1秒量予測式から算出した肺年齢
本研究にはいくつかの限界が存在する.単施設で行われた小規模の後ろ向き研究であり,開発研究における肺年齢差の重回帰分析で,使用した独立変数が症例数に比べて多かった.作成された肺年齢推定式は別集団による検証でも有効だったが,症例数を増やし多施設で前向きに検討する必要がある.また,市販されているFOTを用いた呼吸抵抗検査装置には,MostGraph-02,MostGraph-01(CHEST)およびMaster Screen IOS-J(フクダ電子)の3機種があるが,今回の検討にはMostGraph-02を使用しており,MostGraph-01あるいはMaster Screen IOS-Jによる検討は行っていない.装置間で測定値は必ずしも一致しないため22),MostGraph-01やMaster Screen IOS-Jによる検討も必要である.推定肺年齢の計算式に含まれるFOT測定値に正負の符号が含まれているが,個々の意義や根拠は不明である.今後の検討事項と考えられる.
今回の検討で,実測肺年齢差とFOT測定値に軽度から中等度の相関関係があること,FOT指標から算出した推定肺年齢に実測肺年齢と良好な相関関係を認め,両者の一致度は良好であることが明らかになった.正確,低侵襲で一般人にも理解しやすい呼吸機能の評価法を確立するためにさらなる検討が必要である.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.