The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Perception of the uncertainty in illness in chronic obstructive pulmonary disease
Yasuko IgaiNaoya TanabeJun NoharaToshiki WatanabeKoichi Nakatani
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 130-134

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要旨

背景:慢性閉塞性肺疾患(COPD)において在宅酸素療法の施行は,生活を強制的に変容させる出来事である.在宅酸素療法の施行が精神面に与える影響を,患者の認知する病気の不確かさの指標を用いて検証した.

方法:非増悪期COPD患者98名を対象に属性及び療養の場を問わず使用できる病気の不確かさ尺度(UUIS,26項目6下位尺度,高値ほど不確かさが高い)を調査し,在宅酸素施行症例と非施行症例を比較した.

結果:在宅酸素療法施行群におけるUUISの総得点(98.4±19.1)は,非施行群(81.7±22.4)より高値であった.重回帰分析の結果,在宅酸素療法の施行は,修正MRCスコアで評価した呼吸困難の程度や過去1年間の増悪歴,喫煙指数とは独立してUUISの下位尺度である【病気回復予測不能性】の上昇に関与していた.

考察:在宅酸素療法の施行は,回復が見通せないという【病気回復予測不能性】の不確かさの認知に影響を与えており,生活の変化に適応するための心身の援助が必要と考えられる.

I 緒言

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は身体面のみならず,うつなどの精神疾患を合併する慢性疾患であり1,その療養生活において禁煙や在宅酸素療法など患者にとって半ば強制的に日常生活行動を大きく変容しなければならない場面が生じうるが,行動変容を受容できず,結果として疾患に対する適切な療養支援が困難になることも多い2.特に在宅酸素療法は,慢性呼吸不全に至った重症COPDの予後を改善する重要な治療にもかかわらず,30~55%の患者が処方指示通り酸素吸入をしていないのが実情である3.在宅酸素療法の継続を妨げる要因として,在宅酸素療法に対する社会からの偏見及び患者の羞恥心,心理的混乱などのストレス4や,一見して病人の姿となると感じ更なる苦しみを創り出すこと5などが報告されている.また,併存する不安やうつ6による情動面の不安定化の関与も推察される.従って,安定した情緒を保ちながら必要に応じて行動変容を行い,病いとの生活に適応していくために必要な患者の支援のより一層の向上が必要とされている.

患者が日常生活において,病気と向き合う際に生じる問題への対処行動に影響する因子に,患者自身が認知する病気の不確かさがある7.病気の不確かさとは,同じ疾患に罹患していても,個人により経過や治療効果などが異なるという不確実性を示す.また,患者が病気の存在を認知しているが,生じている出来事に明確な価値を見出すことができない時や,出来事の成り行きを正確に予測できない時に起こる7,9.不確かさと似た概念に不安があるが,不安は感情を表す概念であり,その感じやすさは個人の資質にも影響されるため,不確かさとは異なる概念である.病気の不確かさは,Lazarusのストレス・コーピング理論8に基づいて構築された概念であり,「病気に関連する様々な出来事に対して明確な意味を見いだせず,その出来事を構造化し分類するための十分な手がかりが得られない時に生じる認知的状態」と定義される.COPD患者においては,在宅酸素療法が必要であると理解しているものの,カニューラ装着の煩わしさや,世間から病人とみられることによりボディ・イメージが揺らぎ,使用を控えることが考えられる.その一方で,在宅酸素療法は薬と同じである,もしくは,自己そのものは揺るがされない,と思い替えることにより,指示通りに使用することが考えられる.このように,病気の経過や治療に関して生じている不確かさに対して,意識や行動を修正する等の対処行動を用いることは,発生している困難な出来事に適応するために重要である.

また,Mishelは,患者が不確かさを認知した際に,その出来事を「危機」と評価すれば不確かさを減じるために感情調整などの対処行動をとり,「好機」と評価すれば不確かさを保持するための対処行動をとり,その結果が有効であれば適応に向かうという概念モデルを提唱している7.COPD患者が実際に遭遇する場面として,在宅酸素療法により人目が気になり外出できない,また,やりたくないのにやらなければならないことへの怒りで情緒が不安定になる等の「危機」と評価すれば,不確かさを減じるために人との交流を断つ,ならびに呼吸困難感を感じにくい安静時には,在宅酸素療法を使用しないことにより気持ちを安定させる,などの対処行動をとる.一方,在宅酸素療法により,呼吸困難感が改善し,生活行動が自立し,楽に行えるようになる等の「好機」と評価すれば,今後の見通しは不確かで,人目が気になるとしても,在宅酸素療法を継続し,生じている出来事への適応に向かう,という状況が考えられる.そして,不確かさへの遭遇は,人間を成長させる機会にもなりえる10

以上より,在宅酸素療法の施行などの大きな行動様式の変更を求められる状況に直面した患者において,病気に対する不確かさは,情動の不安定化と精神的困難の克服の過程に大きな影響を与えていると考えられる.実際,慢性疾患のひとつである炎症性腸疾患患者を対象とした不確かさの特徴に関する検討では,否定的な心理状態,食生活や社会生活の困難さ,生活満足度の低下が病気の不確かさの増強,例えば,長い人生を病いと共に生活をしていけるのかといった不確かさと関連することが示されている11.この結果より,同じく慢性疾患であるCOPDにおいても病気の不確かさが,病状の進行や在宅酸素療法の施行などにより変化し,患者の情動面に大きな影響を与えていると推測されるが,不明である.COPD患者の長期療養において,どのような因子が病気に対する不確かさを規定するかを理解することは,精神面からの支援を行うべき症例の抽出や,個々の患者の心理面に即した支援の充実に役立つと考えられる.

そこで,本研究では,在宅酸素療法の施行という療養生活上の大きな転換点を経験した重症COPD患者では,在宅酸素非施行のCOPD患者に比べ,病気の不確かさが高いという仮説を検証した.この仮説を検討するために,外来通院中の安定期COPD患者を対象に「COPD患者が病気に関連した出来事の意味を解釈できない時に生じる認知状態」を病気に対する不確かさとして調査し,臨床指標や経過との関連を検討した.

II 研究方法

1. 研究デザイン

横断的研究.

2. 対象

滋賀県立成人病センター呼吸器内科外来に通院中で40歳以上のCOPD患者を非増悪期に登録した.坦癌患者,認知症患者,気管支喘息が主たる症状の患者は除外した.

3. 調査方法

同意の得られた症例に対して,年齢,性別,喫煙指数,併存症,呼吸機能,病期,罹病期間,在宅酸素療法施行の有無,同居家族の有無,過去1年間の増悪歴を確認した.呼吸器症状の程度を,修正MRC(Medical research council dyspnea scale)スコアとCOPDアセスメントテスト(CAT)を用いて評価した.病気の不確かさの評価は,日本人を対象に野川9が開発した26項目6下位尺度で構成される「療養の場を問わず使用できる病気の不確かさ尺度(Universal Uncertainty in Illness Scale: UUIS,以下UUIS)」を用いて評価した.本尺度の得点範囲は26から130点,5段階リッカート尺度で得点が高いほど不確かさの認知が高く,信頼性と妥当性が確保されていることが報告されている9.【不確かさ総得点】,【生活予測不能性】,【情報解釈の複雑性】,【病気意味の手がかり欠如】,【病気性質の曖昧性】,【病気回復予測不能性】,【闘病力への自信の揺らぎ】を以下,【総得点】,【生活予測】,【情報解釈】,【病気意味】,【病気性質】,【回復予測】,【闘病力】と記載した.

4. 調査期間

2012年10月~2014年12月.

5. 解析方法

データは平均±標準偏差で示した.UUISと年齢,CATスコア,過去1年間の増悪歴,修正MRCスコア,罹病期間の相関をSpearmanの順位相関係数を算出し解析した.また,在宅酸素療法,修正MRCスコア,罹病期間,喫煙歴,過去1年間の増悪歴,年齢,予測値に対する1秒量(%FEV1.0)を用いたステップワイズ変数選択重回帰分析を実施した.

6. 倫理的配慮

調査に先立ち,本調査の目的及び方法,調査に同意した場合でもいつでも辞退できること及び匿名性の保障に関し患者に口頭と文書で説明し,調査参加について文書で自由意思による同意を得た.滋賀県立成人病センター倫理委員会にて承認を得た(承認日:平成24年10月17日).

III 結果

対象者98例の年齢,性別,喫煙歴,併存症などに関する背景は表1のとおりであった.1秒量は予測値の62.5±19.3,2以上の修正MRCスコアを44%の症例で認めた.在宅酸素療法は13例(13.3%)で施行されており,17例(17.4%)に過去1年以内の増悪歴を認めた.

表1 患者背景
COPD(n=98)
年齢(歳)73.5±7.7
性別(男性:女性)92:6
喫煙指数(pack-year)60.6±35.2
併存症(%)
 心疾患38.0
 GERD3.0
 うつ0
 骨粗鬆症0
FEV1(L)2.5±8.1
%FEV1(%)62.5±19.3
修正MRC(0/1/2/3/4)23/32/31/11/1
CAT13.8±8.7
病期(I/II/III/IV)21/49/27/1
罹病期間(年)4.1±5.5
在宅酸素療法 (%)13.0
家族と同居(%)97.0
増悪歴(過去1年間)(%)17.4

MRC; modified medical research council dyspnea scale,CAT; COPD assessment test,FEV1; forced expiratory volume in one second,%FEV1;予測値に対する1秒量,GERD; gastroesophageal reflux disease.

症例数(%),もしくは平均値±標準偏差で記載.

病気の不確かさの【総得点】は83.9±22.7であった(表2).在宅酸素療法施行症例では非施行症例に比べて,【総得点】と下位尺度である【生活予測】,【病気性質】,【回復予測】が高値であった.単変量解析(表3)において,過去1年間の増悪歴は【闘病力】と,修正MRCスコアは,【総得点】,【生活予測】,【病気意味】,【病気性質】,【回復予測】,【闘病力】と,CATスコアは【総得点】および6つの下位尺度すべてと正の相関を認めた.

表2 慢性閉塞性肺疾患患者の認知する病気の不確かさと在宅酸素療法の有無
不確かさ
得点範囲
COPD在宅酸素療法
非施行群
在宅酸素療法
施行群
p-value
(n=98)(n=85)(n=13)
不確かさ総得点26-13083.9±22.781.7±22.498.4±19.10.02*
生活予測不能性8-4026.7±7.325.9±7.231.3±6.00.02*
情報解釈の複雑性4-2012.7±4.712.6±4.813.0±4.70.93
病気意味の手がかり欠如4-2011.5±4.811.2±4.713.7±4.80.09
病気性質の曖昧性4-2013.9±3.913.6±3.816.3±3.60.03*
病気回復予測不能性3-159.5±3.79.0±3.612.8±2.9<0.01**
闘病力への自信の揺らぎ3-159.7±3.59.4±3.511.2±3.10.09

COPD;慢性閉塞性肺疾患

*; p<0.05,**; p<0.01

平均値±標準偏差で記載,Mann-WhitneyのU検定

表3 慢性閉塞性肺疾患患者の認知する病気の不確かさと関連要因との相関
年齢CAT増悪歴修正MRC罹病期間
不確かさ総得点0.190.45**0.140.37**0.13
生活予測不能性0.22*0.39**0.130.36**0.13
情報解釈の複雑性0.150.22*0.160.100.06
病気意味の手がかり欠如-0.010.42**0.050.31**0.03
病気性質の曖昧性0.110.27**0.070.24*0.07
病気回復予測不能性0.190.49**0.190.39**0.12
闘病力への自信の揺らぎ0.27**0.38**0.24*0.31**0.10

CAT; COPD assessment test,増悪歴;過去1年間増悪歴HOT; Home oxygen therapy,MRC; Modified Medical Research Council dyspnea scale

*; p<0.05,**; p<0.01

Spearmanの順位相関分析

多変量解析(表4)では,修正MRCスコアの増加は【総得点】,【生活予測】,【病気意味】,【病気性質】,【回復予測】,【闘病力】の上昇に,喫煙指数は【生活予測】の上昇に独立して関与していた.また,過去1年間の増悪歴は【闘病力】の上昇に,在宅酸素療法は【回復予測】の上昇に独立して関与していた.%FEV1.0,罹病期間,年齢の各変数は,選択されなかった.

表4 UUISを従属変数,在宅酸素療法,修正MRC,罹病期間,喫煙指数,過去1年間の増悪の有無,年齢,予測値に対する1秒量を独立変数としたステップワイズ変数選択重回帰分析
不確かさ総得点βP value
 修正MRC0.4<0.01**
R2=0.15
生活予測不能性βP value
 修正MRC0.3<0.01**
 喫煙指数0.30.03*
R2=0.18
情報解釈の複雑性βP value
 過去1年増悪歴0.20.05
R2=0.04
病気意味の手がかり欠如βP value
 修正MRC0.3<0.01**
R2=0.10
病気性質の曖昧性βP value
 修正MRC0.30.01*
 喫煙指数0.20.05
R2=0.15
病気回復予測不能性βP value
 在宅酸素療法0.3<0.01**
 修正MRC0.30.02*
R2=0.204
闘病力への自信の揺らぎβP value
 修正MRC0.4<0.01**
 過去1年増悪歴0.30.02*
R2=0.17

修正MRC, modified medical research council dyspnea scale; UUIS, uncertainty in illness

R2:調整済み決定係数,β:標準偏回帰係数

*; p<0.05,**; p<0.01

ステップワイズ変数選択法による重回帰分析

各モデルにつき,在宅酸素療法,修正MRC,罹病期間,喫煙指数,過去1年間の増悪の有無,年齢,予測値に対する1秒量の7項目よりステップワイズ変数選択による重回帰分析を施行した.

IV 考察

安定期COPD患者98例を対象とした今回の横断研究により,COPD患者の認知する病気の不確かさに,呼吸困難感,過去の増悪歴や喫煙歴とともに在宅酸素療法の施行が関与することが明らかにされた.また,疾患の重症度を示す%FEV1.0は選択されず,説明因子とはいえなかった.この結果は,COPDの長期管理において,疾患の重症度によらず,呼吸困難感の増悪,在宅酸素療法の施行,増悪歴ならびに喫煙歴が患者の情動面を不安定化しうることを示唆している.従って,本検討は心理面への支援や日常生活活動(Activities of Daily Living, ADL)に応じた生活環境の調整などをどのように構築していくかについての検討の第一歩となると考えられる.

在宅酸素療法施行群では非施行群に比べCOPD患者の認知する不確かさは高値であった.さらに多変量解析において,在宅酸素療法の施行は増悪歴ならびに喫煙歴や呼吸困難感などとは独立してCOPD患者の認知する【回復予測】の不確かさの増強に関与していた.Goldbartら12は,在宅酸素療法中のCOPD患者16名を対象とした質的研究において,社会活動の増加や健康状態の改善,及び自己管理の改善など在宅酸素療法による利益と,在宅酸素療法への依存や健康状態の低下,及び他者から負のレッテルを押し付けられることなどへの懸念を報告している.従って,医療者側は,在宅酸素療法による慢性呼吸不全を有するCOPD患者の予後改善効果といったメリットの説明だけでなく,在宅酸素療法を使用して生きていかなければならないことへの精神的な苦痛や,すでに回復は見込めないと考え絶望している可能性について配慮し,病状の進行に向き合う患者が,生活の変化に適応していくための精神的な支援を行う必要があると考えられる.

UUISの下位尺度のひとつである【闘病力】の不確かさの増強に,過去1年間の増悪歴や呼吸困難感が関与していた.重症COPD患者を対象としたEkらの報告では13,在宅酸素療法や呼吸困難感により生活空間が制限されたCOPD患者では,社会的孤立感や人生に対する無意味感が問題となると示されている.【闘病力】の不確かさの増強は,COPDと共に生きていく自信の揺らぎを意味することを考えると,増悪歴があり呼吸困難感の強い症例では,呼吸リハビリテーションを土台とした呼吸困難感を軽減するための身体的・心理的支援を通じて,病いを抱えながら充実した人生を生きられるようにする必要がある.

本研究の対象者の平均年齢は74歳と比較的高齢であった.COPDの管理において加齢,フレイルとの関連が注目されている14.また,高齢になると,肺機能低下のみならず,心身の機能低下や生活を営む能力自体の低下が問題となる.在宅酸素療法は,高齢者の生活の質の改善などの効果を認める15ことから,患者の今後を見据えて援助することが重要であると考えられる.

本研究の限界として,症例数が100例に満たなかったこと,および単一病院での調査のため一般化は難しいことがあげられる.しかし,本研究ではCOPD患者の認知する不確かさを知ることにより,患者が潜在的に抱える問題を尺度調査により検討できた点で,今後の患者の援助には有益であると考えられ,適応を促進するための援助の開発が必要である.

V 結論

安定期COPD患者では,在宅酸素療法の施行,呼吸困難感,過去の増悪歴ならびに喫煙歴が,病気への対処や受け止めに影響するといわれている「病気の不確かさ」の認知に関与していることが明らかにされた.医療者は,COPDの経過中に患者らが向き合わざるをえない療養生活の変化に関心を払いながら援助し,生活の質の向上に努める必要がある.

謝辞

本研究にご協力頂いた患者の皆様及び尺度の使用をご許可くださいました北海道医療大学看護福祉学部特任教授野川道子先生に深謝申し上げます.

備考

本研究の要旨は,第26回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2016年10月,神奈川)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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