The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Report
A case of lymphangioleiomyomatosis with maintained muscle strength by rehabilitation during lung transplantation standby period
Yui TakagiKeiko WakaharaTakayuki InoueSatoru ItoYota MizunoYoshinori HasegawaMotoki Nagaya
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 140-143

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要旨

肺移植に至るには移植待機期間における身体機能の維持が重要であるが,移植待機患者の身体機能の経過やリハビリテーション(リハ)の影響についての報告はない.今回,肺移植待機期間にリハを行った肺リンパ脈管筋腫症症例を経験したので身体機能や日常生活動作(ADL)の推移などについて報告する.40歳代女性.肺移植登録後に複数回の入退院を繰り返し,その度に包括的なリハ介入を行った.初回入院時より重度の呼吸機能障害,身体機能の低下を認めた.移植待機期間中,経過とともに病態は進行し,運動耐容能や筋力は低下した.一方,骨格筋量,栄養状態は維持され,各退院時のADLは自立した状態にあり,最終的には肺移植に至った.また,入院期間の前後で膝伸展筋力は維持および向上する傾向が認められ,リハ介入の有効性が推察される.

緒言

本邦における肺移植症例は増加傾向にある1が,移植登録後に移植に至らず死亡する割合は全体の38%2と報告されている.また,間質性肺炎の肺移植待機患者において,待機期間の平均日数(462日)に至らずに死亡した患者の6分間歩行距離(6-minute walk distance; 6MWD)やPerformance statusは,平均日数を越えて生存した患者より低かったとの報告があり3,肺移植待機患者の生存には移植待機期間での身体機能の維持が重要であると考えられる.

リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis; LAM)は慢性進行性の腫瘍性疾患で,重症例では肺移植が唯一の確立された治療法となる4,5.脳死肺移植施行患者の中でLAM患者は50%を占めている1が,待機期間での身体機能の推移に関する報告はない.また,LAM患者に対するリハビリテーション(リハ)についての報告は少なく6,7,肺移植に至るまでの経過についての報告はない.

今回,肺移植待機期間にリハ介入を行ったLAM症例を経験したので,リハ介入の詳細,ならびに身体機能や日常生活動作(activities of daily living; ADL),健康関連quality of life(QOL)の推移について報告する.

症例

【症例】40歳代女性,喫煙歴なし.

【既往歴】虫垂炎手術後,子宮腺筋症.

【現病歴】X-9年頃より息切れが出現,X-3年11月に息切れが強くなり,他院を受診した.吸入ステロイド,サルブタモール吸入を使用していたが,労作時呼吸困難の悪化傾向と胸部X線でのびまん性陰影を指摘されて当院を紹介受診し,X-2年2月に孤発性LAMと診断された.同年12月に近医でサルメテロール/フルチカゾン吸入を処方され,継続使用していた.X年2月に他院で在宅酸素療法が導入されたが,修正Medical Research Council(MRC)息切れスケールにてグレード3の呼吸困難感を認め,適正な酸素流量の設定を含めた呼吸リハを行う目的で同年4月に当院に初回入院(入院①)した.入院前のADLは自立し,仕事への従事も可能であった.入院時の肺機能検査では重度の肺機能障害を認めた(表1).胸部X線画像では肺野の透過性亢進,肺血管陰影の拡大を認め,胸部Computed Tomography(CT)画像では両側肺に多発する薄壁囊胞と肺動脈の拡張を認めた(図1).

表1 肺機能,身体機能,QOL,ADL,不安・抑うつの推移
入院①入院②入院③入院④入院⑤入院⑥
入院日数17日間21日間33日間36日間32日間23日間
入院からリハ室での
リハ実施までの日数
2日2日9日3日21日12日
評価時期入院
2病日
入院
15病日
入院
2病日
入院
16病日
入院
12病日
入院
24病日
入院
7病日
入院
34病日
入院
21病日
入院
30病日
入院
12病日
入院
23病日
FVC, L(%predicted)1.53(59.9%)1.59(60.9%)0.98(38.3%)
FEV1, L(%predicted)0.34(15.6%)0.25(11.4%)0.25(11.4%)
FEV1/FVC22.4%15.8%25.1%
DLco, mL/min/mmHg
(%predicted)
1.89(12.8%)1.79(11.8%)0.71(5.2%)
修正MRC333333334444
体重,kg38.137.941.240.840.539.838.839.037.136.535.234.7
骨格筋量,kg14.614.414.414.814.113.9
体脂肪量,kg10.210.67.97.06.76.9
Alb, g/dL4.04.04.24.13.83.84.14.04.03.63.6
6MWD, m87147163241198240231不可不可不可不可
握力,kgf17.219.219.717.718.518.116.216.214.814.6
膝伸展筋力,kgf15.616.913.516.214.811.613.511.813.6
BI,点909090909090
SF-36
身体機能-14.4-3.5-7.1-14.4-10.7
日常役割機能(身体)29.135.819.215.822.5
体の痛み54.635.435.439.850.1
全身性健康感27.132.540.527.129.8
活力17.733.830.624.127.4
社会生活機能31.224.818.411.924.8
日常生活機能(精神)39.443.622.818.622.8
心の健康49.143.854.530.441.1
PCS5.210.69.111.311.7
MCS46.845.759.844.851.2
RCS47.046.923.019.828.2
HADS
不安,点119101081012119
抑うつ,点101012121012151213

リハ開始時と介入後の各項目の測定値を示す.

肺活量(vital capacity; VC),努力性肺活量(forced vital capacity; FVC),一秒量(forced expiratory volume in one second; FEV1),一酸化炭素肺拡散能(diffusing capacity of the lung for carbon monoxide; DLco),血清アルブミン値(albumin; Alb),修正息切れスケール(modified medical research council dyspnea scale; 修正MRC),Barthel Index(BI),SF-36[身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全身性健康感,活力,社会生活機能,日常生活機能(精神),身体的健康をあらわすコンポーネント・サマリースコア(PCS),精神的健康をあらわすコンポーネント・サマリースコア(MCS),役割/社会的健康をあらわすコンポーネント・サマリースコア(RCS)],Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)

不可:測定できなかった評価項目を示す

図1

初回入院時の胸部X線ならびにCT画像

X線画像では両肺の過膨張と肺血管陰影の増強,CT画像では両側肺に多発する薄壁囊胞を認めた.

X+1年2月に脳死肺移植登録を行った.X+2年2月に入院(入院②)しmammalian target of rapamycin(mTOR)阻害剤シロリムスを導入したが,同年6月に肺多発性結節影の増大を認め中止となった.同年7月に肺結節陰影の精査加療目的にて入院(入院③)した際,喀痰から非結核性抗酸菌(M. aviumおよびM. fortitum)が検出され,同年10月に非結核性抗酸菌症の治療のため37日間入院(入院④)し,その後は抗菌薬治療により抗酸菌感染症は制御されていた.しかし,X+3年1月に呼吸困難感が増強,CO2ナルコーシスに陥り他院に緊急入院し非侵襲的陽圧換気療法が導入され,同年2月に当院に転院(入院⑤),在宅での非侵襲的陽圧換気療法を導入して退院となった.同年9月にはリハ目的に入院(入院⑥)した.

X+4年2月に京都大学医学部附属病院にて脳死両肺移植を施行され,同年4月には独歩可能,ADL自立で同院から自宅へ退院した.

【倫理的配慮】本報告について本人に口頭にて説明し,紙面にて同意を得て,名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認を得た(承認番号:2015-0413).

【リハ介入】

1)リハプログラム

計6回の当院入院中に各種評価と包括的なリハを行い,各回とも病棟内での歩行が自立となるまでは,ベッドサイドや病棟にてストレッチングやリラクゼーション,呼吸および動作の方法,日常生活上での注意点についての指導や練習,自重での上下肢の運動,歩行練習を中心に実施した.その後,リハ室で上下肢の筋力増強運動,リカンベント型エルゴメータ駆動運動による運動療法を,1回の時間が40分程度で,1日1回,週5-6回実施した.筋力増強運動は10 repetition maximumを目安に重錘0.5-2.0 kgを用いて実施し,エルゴメータ駆動運動は10-15 Wで5-10分間実施した.入院⑤からはエルゴメータの連続駆動中の呼吸困難感,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の低下により,10 Wで2-3分間の駆動を2-3セット実施する方法に変更した.運動中はSpO2が85%以上となるように酸素流量を調整(経鼻 3-5 L/min)しつつ,呼吸困難感,下肢疲労感が修正Borg Scaleで4程度になるように負荷を調整した.病棟スタッフと連携し食事やケアとリハの間隔を空けて休息時間を設けることで,運動療法が効率良く進むように努めた.また,各入院期間中に以下に示す各種評価を行った.

2)経過(表1

表1に各入院期間における評価結果を示す.リハ評価として初期評価(リハ介入初日から4日目以内)および介入後評価(初期評価から9-27日)を行った.6MWD(酸素吸入経鼻 5 L/minで測定)は入院④までは 87-241 mで推移していたが,入院⑤より呼吸困難感(修正Borg Scaleにて安静時1-2,動作後1-6),SpO2の低下が顕著(歩行後の最低SpO2 が66%)となり,測定が困難となった.握力,膝伸展筋力は経過とともに低下したが,膝伸展筋力は入院中のリハ介入前後で向上する傾向を認めた.体重,骨格筋量,体脂肪量(インボディ・ジャパン社In Body 720で測定)は経過とともに低下したが,入院⑥退院時の体重が入院④入院時の89%であったのに比べ,骨格筋量は95%と減少率が少なかった.血清アルブミン値は 3.5 g/dl以上で栄養状態は比較的保たれていた.Barthel Index(BI)で評価したADLは,入院時には入浴や排泄に介助を要する場合があったが,退院時には階段昇降以外は自立に至った.健康関連QOLはSF-368が全期間にわたって国民標準値より低値を示し,特に身体的健康をあらわすコンポーネント・サマリースコアについては同年代女性の国民標準値(50.3)8と比べて著しく低下していた.Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)9で評価した精神状況については,不安,抑うつともに8点以上で疑診を呈していた.

考察

本症例は移植登録から3年後に肺移植が施行され,待機期間は本邦の平均肺移植待機期間(約2年半)3と同程度であった.一方,本症例の初回入院時の肺機能は,肺移植施行前のLAM患者の平均肺機能(%FVC 70.3%,FEV1 0.85 L,%FEV1 32.8%,FEV1/FVC 40.2%,%DLco 24.7%)10と比べて低値だった.また,各身体機能指標の値は経過とともに低下したが,著しい低下は回避できた.本症例は急性増悪での入院が1回に留まっており,それにより身体機能の著しい低下を回避できた可能性が考えられる.加えて,骨格筋量も経過とともに低下したが体重と比べて維持され,栄養状態が維持されていたことも一因として推察される.肺移植術前患者に関する過去の報告では,血清アルブミン値は平均 3.7 g/dlと報告されており,術後1年の生存率に影響する因子として血清アルブミン値 3.0 g/dl以下であることが報告されている11.本症例は,経過の中で体重減少が認められたが,血清アルブミンは 3.5 g/dl以上であり,移植を控えた進行LAM症例としては栄養状態が維持されていたと考えられる.重症LAM症例の身体機能や栄養状態の推移や維持に関しては,今後さらなる症例の集積が必要である.

本症例ではADLが低下した状態で入院していたが,呼吸法および動作についての指導や練習,身体状況にあわせた離床,運動療法を行い,BI評価で90点までADLが回復できた状態で退院に至っていた.本症例の入院前および直後のBIは評価されていないが,肺移植術目的で入院したLAM患者の入院時平均BIは64.6点と低値であることが報告されている12.また,肺移植待機中のLAM患者を対象とした後方視的研究13の結果と同様に,本症例は身体面でのQOLの顕著な低下や,不安・抑うつ傾向を示していたが,経過に伴う低下や増強は認められなかった.さらに,本症例は運動耐容能や筋力は低値であったが,各退院時における骨格筋量や栄養状態,ADLは維持され,最終的に肺移植に至っている.肺移植に至るには身体機能や生活動作能力の維持が必要であるとの報告3があるが,本症例のような身体機能の低下が著しい患者では,骨格筋量や栄養状態,ADLの維持も重要と考えられる.本症例においては,栄養状態を維持するための特別な介入は行わなかったが,栄養状態および骨格筋量は概ね維持されたことが,日常生活内での活動性維持に影響した可能性が推測される.また,ADLが自立することを優先に入院中のリハ介入を行い,活動や強度の詳細は不明であるが,入院中および在宅にて屋内活動が行えていた.今回,骨格筋量や栄養状態,ADLを維持出来た一因として,日常生活への介入も含めた包括的なリハの効果がうかがわれるものの,さらなる検討と症例の経験が必要である.

本症例は入院期間中に膝伸展筋力の維持および向上を認め,その一因としてリハ,特に運動療法の有効性がうかがわれるものの,詳細は明らかではない.肺移植術後患者の身体機能の回復には待機期間の筋力が影響する14との報告があり,肺移植待機期間にある重症LAM患者に対するリハ介入は重要であると考えられるが,運動療法における推奨される運動の種類や強度,頻度については今後検討すべき課題である.

謝辞

診療情報をご提供頂いた京都大学医学部附属病院の関係者の皆様に深謝致します.本報告は,日本学術振興会科研費(井上貴行,16K21081)の助成を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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