2019 Volume 28 Issue 1 Pages 144-150
【目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における6分間歩行距離(six-minutes walking distance:以下6MWD)と日常生活の低活動性動作との関連性を検討する.
【対象および方法】対象は3軸加速度計A-MESTM(ソリッド・ブレインズ社製,熊本)を用いて,在宅生活の1日における姿勢・動作時間の平均値を求めた安定期高齢COPD患者30例(年齢74±7歳,%FEV1: 55.9±26.1%)とした.対象者を低運動耐容能群(6MWD<357 m,LEC群)と高運動耐容能群(6MWD≧357 m,HEC群)に群分けし,それぞれの姿勢・動作時間を比較し,さらに全対象者における各種運動機能指標との関連性を検討した.
【結果】LEC群における1日の座位+臥位時間はHEC群に比べ有意に多く(548±100分/日 vs 454±118分/日,p<.05),座位+臥位時間は6MWD(r=-0.451,p<.05)および膝伸展筋力(r=-0.487,p<.05)と有意な負の相関関係が得られた.
【まとめ】日常生活における座位+臥位時間の延長は運動耐容能の低下と有意な関連性があり,COPD患者の予後改善に向けて重要な因子となることが示唆された.
近年,身体活動量(physical activity;以下,PA)は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive lung disease;以下,COPD)患者の予後に影響する因子として,重要な評価項目の一つとされており,COPDの国際ガイドラインであるglobal initiative for chronic obstructive lung disease(以下,GOLD)においてもPAの増加を促す介入方法の検討が推奨されている1).活動性の評価方法は書面による質問紙表に加え,加速度計などの汎用により,多種多様な指標が抽出可能となっており,加速度計の精密な感知能力により,日常生活の微小な加速度を伴う低強度のPAやSedentary behavior(以下,SB)とされる座位以下の生活様式に伴う低活動性動作も測定可能となっている2,3).近年SBはあらゆる疾患の有病率や死亡率,入院率と関連するとされており4),COPD患者の生存率にも関連していることが報告されている2).しかし,座位や臥位時間といったSBとしての特有な指標と運動機能との関連性を検討した報告は少ないことが現状である5,6).一方,COPD患者における運動耐容能は予後に関連する因子とされ,Andrianopoulosらによる前方視的なコホート研究であるECLIPSE studyでは,6分間歩行距離(six-minutes walking distance:以下6MWD)が 357 m未満のCOPD患者では3年以内の入院率が1.72倍となるとされる7).運動耐容能はPAを規定する因子の一つとされるが,PAと運動耐容能は異なる要素の評価指標であり,その関連性についての明確な見解は得られておらず8),SBと運動機能指標との関連性を探ることは活動性が予後に影響を与える機序の解明にも寄与すると考える.以上より,本研究では先行研究で報告された運動耐容能の指標を基準に日常生活の活動時間の特徴を探ること,さらにSBを含めた活動時間に関連する因子を検討することで,COPD患者のPA増加を図るアプローチの一助とすることを目的とした.
対象は,市立秋田総合病院呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハビリ)外来通院中の安定期COPD患者であり,2009年6月から2013年4月の間にPAの測定を行った30名(平均年齢:74±7歳,男性:29名,女性:1名)とした.対象者は,少なくとも過去4週間以内に急性増悪といった入院歴はなく,GOLD分類1)においてI~IVの軽症から重症のCOPD患者(stage I;14名,II;11名,III;5名,IV;0名)であり,また呼吸困難の指標であるmodified British Medical Research Council息切れスケール9)(以下,mMRC)を用いた分類による内訳は,I;9名,II;7名,III;9名,IV;5名であった.対象者には,在宅酸素療法適応患者は含まれておらず,自立歩行が可能であり,本研究で使用する測定機器の取り扱いが可能である者とした.また,歩行に支障をきたすほどの整形外科的疾患や不安定な心疾患を伴う者,その他運動を妨げる脳卒中,脊髄損傷といった神経系疾患,うつ病,統合失調症といった精神疾患を含む重篤な障害がある者は除外している.
なお,本検討に用いたデータ測定は秋田大学大学院医学系研究科の承認を受けており,対象者には研究内容を十分に説明し,書面同意を得て行った.(承認番号:平成22年度 658)
2. 方法 1) 評価項目と方法: a) PAの測定PAの測定は生活活動度計(Solid Brains, activity monitoring and evaluation systemTM;以下,A-MESTM)を用いて行った.A-MESTMは,体幹および大腿部に装着する2つの3軸の加速度センサーから成っており,各センサーの位置と加速度の組み合わせにより,臥位,座位,立位,歩行の4つの姿勢・動作時間,起き上がりや立ち上がりといった姿勢変換回数を判別することが可能である10).A-MESTMによるPA測定の妥当性や再現性については,先行研究においても確認されている11,12).
対象者には,A-MESTMの取り扱いについて,十分理解したことを確認した上で,貸与し,自己管理にて測定を依頼した.測定期間は平日と週末を含む最大1週間とし,1日の測定時間は,起床時から開始し,夕方の入浴もしくは就寝するまでの日中の在宅生活の約12時間とした.最低2日間測定できた対象者の一日のPAの平均値を採用した5).また,季節によるPAへの影響を考慮し,12月から翌年2月までの3か月を省いた冬期間以外の期間に測定を行った13).PAの測定項目は,1日の歩行・立位・座位・臥位時間,さらに歩行と立位を合わせた歩行+立位時間,座位と臥位を合わせた座位+臥位時間を採用した.
b) 各種呼吸・身体機能指標対象者において,身体組成(body-mass index;以下,BMI),呼吸機能,呼吸筋力,6MWD14)を測定した.さらに予後予測因子の1つであるBODE index(BMI, airflow obstruction, dyspnea, and exercise capacity index)15)に加え,大腿四頭筋筋力(quadriceps force;以下,QF)16),健康関連quality of life(以下,QOL)として,慢性呼吸器疾患質問表(chronic respiratory disease questionnaire;以下,CRQ)17)の評価を行った.
呼吸機能の測定には,小型電子スパイロメーター(チェスト社製,CHESTGRAPH-HI 701)を使用し,努力性肺活量(forced vital capacity;以下,FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second;以下,FEV1),1秒率(以下,FEV1/FVC),対標準1秒量(以下,FEV1%pred)を採用した.少なくとも3回測定し,FVCが最大値を示したときの各々の値を採用した18).FEV1%predにおいて,標準値は日本呼吸器学会肺生理専門委員会によって報告された日本人の標準値を利用した19).
呼吸筋力の測定としては,最大吸気圧(maximum inspiratory mouth pressure;以下,PImax)および最大呼気圧(maximum expiratory mouth pressure;以下,PEmax)を測定した.測定には,呼吸筋力計(チェスト社製,VITALPOWER KH-101)を使用し,American Thoracic Society(以下,ATS)とEuropean Respiratory Societyのガイドラインに沿って測定した20).呼気および吸気はそれぞれ3回ずつ測定し,それぞれの最大値をPEmax,PImaxとして採用した.
6分間歩行試験(six-minute walk test;以下,6MWT)は,先行研究21)と同様,段差や障害物のない1周 88 mの院内通路で実施し,各被験者が6分間で歩くことのできる最大距離を6MWDとして採用した.測定方法については,ATSの実施基準14)に準じて行った.
QFの測定は,下肢筋力測定装置(OG技研社製,HYDRO MUSCULATOR GT-160)を用い,対象者は椅子座位の姿勢において70°膝屈曲位とし,大腿四頭筋の等尺性最大膝伸展収縮力を計測した22).
2) 統計処理対象者を先行研究7)で報告された運動耐容能の指標(6MWD)を基準に,低運動耐容能群(6MWD<357 m;以下,LEC群)12名と高運動耐容能群(6MWD≧357 m;以下,HEC群)18名に群分けし,それぞれの呼吸・身体機能指標とPAを比較した.さらに全対象者におけるPAとその他検査指標との関連性を検討した.各群の呼吸・身体機能指標およびPAを比較するために,パラメトリックな指標(Age,BMI,FVC,FEV1/FVC,FEV1%pred,PImax,PEmax,6MWD,QF,CRQ)には対応のないt検定,ノンパラメトリックな指標(mMRC,FEV1,BODE index)にはMann-WhitneyのU検定を行った.また,有意差がみられた PAと各検査指標との相関関係をみるために,パラメトリックな指標にはPearsonの積率相関係数を求め,ノンパラメトリックな指標(mMRC,FEV1,BODE index)にはSpearmanの順位相関係数を求めた.さらに関連性が確認されたPAへの影響因子を明らかにするために,多変量解析としてStepwise法による重回帰分析を行った.年齢とBMIを調整因子として,独立変数は有意な単相関関係がみられた各種検査項目とし,多重共線性の影響を排除するために,各因子間の拡大分散要因(Variance Inflation Factors: VIF),および回帰式の条件指数が10未満である回帰式を採用した.統計ソフトはSPSS 21.0 J for Windowsを用い,いずれも危険率5%未満(p<.05)をもって有意差ありとした.
2群間における各検査指標を比較した結果を表1に示す.
mean±SD | |||
---|---|---|---|
LEC群 (n=12) | HEC群 (n=18) | p-value | |
Gender, M/F | 12/0 | 17/1 | - |
Age, years | 75±8 | 73±6 | n.s. |
BMI, kg/m2 | 20.4±3.7 | 22.3±2.8 | n.s. |
mMRC$ | 2.2±0.8 | 1.4±0.6 | 0.011 |
FVC, L | 2.4±0.8 | 3.2±0.7 | 0.011 |
FEV1, L$ | 0.9±0.4 | 1.7±0.7 | 0.002 |
FEV1/FVC, % | 39.5±14.6 | 53.6±18.1 | 0.032 |
FEV1, % predicted | 39.7±19.4 | 66.7±24.7 | 0.004 |
BODE index$ | 4.7±2.8 | 1.7±1.1 | 0.004 |
PImax, cmH2O | 57.6±27.4 | 75.6±20.1 | n.s. |
PEmax, cmH2O | 87.7±30.4 | 116.3±43.1 | n.s. |
6MWD, m | 271.3±94.6 | 520.9±63.7 | <0.001 |
QF, kg | 27.4±13.6 | 41.5±8.4 | 0.001 |
CRQ(total) | 106.4±14.3 | 106.1±15.9 | n.s. |
$; Mann-Whitney U test
SD, standard deviation; BMI, body-mass index; mMRC, modified British Medical Research Council; FVC, forced vital capacity; FEV1, forced expiratory volume in one second; PImax, maximum inspiratory mouth pressure; PEmax, maximum expiratory mouth pressure; 6MWD, six-minute walking distance; QF, quadriceps force; CRQ, chronic respiratory disease questionnaire.
HEC群と比較しLEC群では,各呼吸機能指標(FVC,FEV1/FVC,FEV1%pred)に加え,6MWD(LEC群;271.3±94.6 m,HEC群;520.9±63.7 m,p<.001),QF(LEC群;27.4±13.6 kg,HEC群;41.5±8.4 kg,p=.001)において,有意に低値を示した.また,mMRC(LEC群;2.2±0.8,HEC群;1.4±0.6,p=.011),BODE index(LEC群;4.7±2.8,HEC群;1.7±1.1,p=.004)では有意に高値を示した.その他の指標には有意な差はみられなかった.
さらに,PAの指標である各姿勢・動作時間においては,HEC群と比較し,LEC群の歩行時間(LEC群;104±62分/日,HEC群;179±81分/日,p=.011),歩行+立位時間(LEC群;172±107分/日,HEC群;266±118分/日,p=.031)が有意に少なく,座位+臥位時間(LEC群;548±100分/日,HEC群;454±118分/日,p=.031)は有意に多い結果となった.その他の姿勢・動作時間には有意な差は認められなかった(図1).
LEC群とHEC群における各姿勢・動作時間の比較,*p<0.05
有意な差がみられた歩行時間,歩行+立位時間,座位+臥位時間とmMRC,FVC,%FEV1,BODE index,6MWD,QFの各指標との関連性を表2に示す.歩行時間と歩行+立位時間においては,6MWD(歩行時間;r=0.478,p=.025,歩行+立位時間;r=0.451,p=.014),QF(歩行時間;r=0.643,p=.001,歩行+立位時間;r=0.551,p=.008)との有意な正相関がみられ,mMRCとは有意な負の相関がみられた(歩行時間;r=-0.458,p=.010,歩行+立位時間;r=-0.427,p=.022).座位+臥位時間においては,6MWD(r=-0.451,p=.014),QF(r=-0.487,p=.018)との有意な負の相関関係がみられ,mMRC(r=0.427,p=.022)とは有意な正相関がみられた.その他の項目との間には有意な相関係数はみられなかった.
歩行時間 | 歩行+立位時間 | 座位+臥位時間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
r | p-value | r | p-value | r | p-value | |
mMRC$ | -0.458* | 0.010 | -0.427* | 0.022 | 0.427* | 0.022 |
FVC, L | 0.014 | 0.941 | -0.014 | 0.942 | 0.014 | 0.941 |
FEV1, % pred | -0.153 | 0.419 | 0.153 | 0.419 | -0.153 | 0.419 |
BODE index$ | -0.328 | 0.060 | -0.228 | 0.156 | -0.228 | 0.156 |
6MWD, m | 0.478* | 0.025 | 0.451* | 0.014 | -0.451* | 0.014 |
QF, kg | 0.643* | 0.001 | 0.551* | 0.008 | -0.487* | 0.018 |
$; Spearman’s lank correlation coefficient, *; p<0.05
r, correlation coefficient; mMRC, modified British Medical Research Council; FVC, forced vital capacity; FEV1, forced expiratory volume in one second; 6MWD, six-minute walking distance; QF, quadriceps force.
歩行時間,座位+臥位時間それぞれを目的変数とし,独立変数に年齢,mMRC,6MWD,QFを投入した重回帰分析を行った.その結果,歩行時間,座位+臥位時間共に有意な標準偏回帰係数(β)として,独立変数からQFが抽出された(歩行時間;β=0.591,p=.011,座位+臥位時間;β=-0.475,p=.011,表3).
目的変数 | 独立変数 | β | p-value | R2 | ANOVA |
---|---|---|---|---|---|
歩行時間 | QF | 0.591 | <0.001 | 0.569 | p<0.001 |
座位+臥位時間 | QF | -0.475 | 0.011 | 0.225 | p=0.011 |
β,標準編回帰係数;R2,決定係数;ANOVA, analysis of variance
調整因子,年齢;BMI, body mass index;独立変数,mMRC, modified British Medical Research Council; 6MWD, six-minute walking distance; QF, quadriceps force.
本研究の目的は運動耐容能の高低による日常生活のPAの特徴を検討し,さらにPAに関連する因子を検討することである.結果としては,運動耐容能が低下している(6MWD<357 m)群は,低下していない(6MWD≧357 m)群と比較して,歩行時間が短いだけでなく,SBが長い結果となった.さらに,Pearsonの相関係数においては,6MWDと歩行時間の間には正の相関係数が得られたことに対し,座位+臥位時間の間には有意な負の相関係数が得られ,6MWDとSBにも関連性が示された.さらに,多変量解析では歩行時間,座位+臥位時間に影響する因子としては下肢筋力の指標が抽出され,歩行時間の増加やSBの減少には下肢筋力が重要な要素を占めることが伺える.
各種呼吸・身体機能指標の比較においては,呼吸機能やmMRC,QF,BODE indexに有意差がみられていた.病期の進行に伴い,6MWDが低下していくことは報告されており23),呼吸機能の低下に伴い,呼吸困難が増強していくことで,低活動な生活様式となり,下肢骨格筋機能や運動耐容能の低下につながっていることが示唆される.BODE indexはCOPD患者の生存率と関連する重症度を示す指標であり15),その構成要素には6MWDやmMRC,FEV1%predが含まれていることから有意差につながっていると考えられる.PAの比較においては,歩行時間や歩行+立位時間のみならず,SBを示す座位+臥位時間にも有意差が認められた.歩行や立位時間といった立位姿勢に伴う活動時間には6MWDとの関連性も報告されている5).Furlanettoらは生存の有無で群分けし,後方視的に姿勢・動作時間を指標としたPAを比較しているが,座位・臥位時間単独の指標には有意な差はみられず,座位+臥位時間に有意差が認められたと報告している2).本研究において確認された2群間の有意差からも,歩行距離で表される運動耐容能には,立位以上のPAが関連すると考えられ,結果として,座位,臥位時間単独の指標よりも,両者を合わせた座位+臥位時間において有意差が認められたと考えられる.Waschikiらによると,PAはCOPD患者の生命予後の最も強い予測因子と報告しており24),Flurlanettoらは 1.5 METs未満のSBを指標として生存率との関連性を検討しており,SBが510分/日以上では5年後の死亡率が4.09倍高くなると報告している2).一方,運動耐容能もCOPD患者の死亡率に影響する因子の一つとされ24),Andrianopoulosらの報告に加え,予後に関する最近の検討では,6MWDが 350 mをcut offとして5年以内の死亡率が3.28倍となると報告されている25).本検討でも生命予後と関連する運動耐容能を基準に群分けした低運動耐容能群では,平均の座位+臥位時間が548分/日であり,Fluelanettoらのcut off値を上回っている結果となっており,先行研究の報告からも運動耐容能低下とSBの延長は生命予後に寄与する因子として,相互に関連していると考えられる.
PAとmMRCとの関連性に関しては,呼吸困難が強まることで,日常生活の活動強度が低下していくことが報告されており23,26),本研究の結果でも同様の関連性が示唆された.6MWDとPAとの関連性については,Gimeno-SantosらのPAと関連する因子を検討したシステマティックレビューによる報告によると,エビデンスの質としては低いながらも運動耐容能はPAを規定する因子の一つとして抽出されており,その機序にはCOPD患者における筋量の減少や筋形態の変化が関与しているとされる27).それらを裏付けるようにPAとQFとの有意な相関関係が認められ,多変量解析では年齢や6MWDの因子を投入した上でもQFがSBの有意な説明因子として抽出されていた.Shrlkrlshnaらは,COPD患者の病期分類が初期の段階から,身体活動レベルの低下は大腿直筋横断面積の減少に影響すると報告しており28),さらに膝伸展筋力に関連する大腿四頭筋内の筋内脂肪量の増加も身体活動レベルの低下に関連するとも報告されている29).COPD患者の主症状である呼吸困難の増強を根底として,座位・臥位姿勢よりも下肢の筋活動を要する立位・歩行時間といった抗重力位での活動が減少し,SBが増加している生活様式は筋量や質の低下を背景とした下肢筋力の低下からも予測される可能性が示唆された.以上より,本検討では運動耐容能低下の背景に存在する下肢筋力低下がsedentaryな生活様式を導いている可能性も示唆された.
活動性に関しては歩行やそれ以上の運動強度を伴った活動に注目されがちであるが,実際の臨床現場では高い活動性を保つ症例だけではなく,sedentaryな生活活動が主体となる症例を目にする機会も多い.先行研究においても,COPD患者は健常者よりも低活動な生活様式になると報告されており5),主症状である呼吸困難が発端となって形成される悪循環が根底にあると考察されている.中等度から高強度のPAが不足するinactiveと座位もしくは臥床姿勢が中心となるsedentarismは異なる状態を意味しており,座位・臥位時間といったsedentaryなPAの指標に関連する因子についての検討は十分に行われていない5,6).ACSMによる身体活動のガイドラインでは,3 METs以上の運動強度のPAを1日30分以上行うことを推奨しているが30),Cavalheriらは,その基準を満たす一方,SBも多くなりすぎる症例も存在し,COPD患者の特異的な運動制限(呼吸困難や酸素療法)を考慮し,強度の高いPAを増加させるよりもSBを減少させる戦略を推奨している31).先行研究においては,呼吸リハビリテーションにより,歩行時間が有意に増加し,臥位時間の有意な減少が得られていたが,運動機能指標と臥位時間の間には有意な関連性は認められなかった32).本検討の結果からは,下肢筋力の改善が臥位時間に座位時間を加えたSBを減少させ,抗重力位の姿勢・動作時間を増加させることに寄与する可能性が示唆された.
本検討の結果については,サンプルサイズは十分ではなく,単一施設における検討であることを考慮する必要がある.また研究デザインとしては後方視的な横断研究であり,低活動に陥っている症例の下肢筋力や運動耐容能の改善がSBの減少に影響を与えるかの縦断研究や,座位もしくは臥位中心な生活から,立位・歩行といった抗重力位での活動に切り替えていく事で実際に予後にどのような影響を与えうるかの検討は今後の課題である.
本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.
本研究の実施にあたり,CRQ日本語版の使用を許可していただいた,国立健康長寿医療センター,西村浩一先生に深く感謝申しげます.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.