The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Coffee Break Seminar
Six minute walk test and incremental shuttle walking test in COPD patients
Shinichi ArizonoYuichi Tawara
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 51-56

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要旨

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の運動耐容能は強い予後予測因子であり,評価することは重要である.運動耐容能の評価には6分間歩行試験や漸増シャトルウォーキングテストなどの歩行試験や心肺運動負荷試験などの精密な機器が必要な運動負荷試験などがある.歩行試験は,運動耐容能の把握の他にCOPDの重症度の評価にも用いられ,また呼吸リハビリテーションや気管支拡張剤,酸素療法などの効果判定,運動処方にも用いられる.COPD患者における歩行試験は,エルゴメータを用いた心肺運動負荷試験や定常負荷試験より,運動終了時の呼吸困難感や下肢疲労感は弱いが,運動中の低酸素血症はより強くあらわれる.6分間歩行試験の歩行距離の低下や低酸素血症の悪化は,COPD急性増悪のリスクの増加や生存率の低下に強く影響する.COPD患者の長期酸素療法の適応判定や酸素流量の調節も,歩行試験を用いて評価していくことは重要である.

はじめに

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者の運動耐容能は強い予後予測因子であり,評価することは重要である.運動耐容能の評価は6分間歩行試験(six-minute walk test: 6MWT)や漸増シャトルウォーキングテスト(incremental shuttle walking test: ISWT)などの歩行試験や心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test: CPX)などの精密な機器が必要な運動負荷試験などがある.運動耐容能はエネルギー産生や酸素輸送などが強く影響し,筋機能と呼吸機能,循環機能に左右される.筋機能は筋細胞レベルでのガス交換機能やエネルギー産出(有酸素代謝,嫌気性代謝)機能であり,呼吸機能はエネルギー産出に必要な酸素の摂取,産出で生じる二酸化炭素の排出であり,循環機能は酸素と二酸化炭素,栄養の運搬である.呼吸器疾患患者は,呼吸機能の低下だけでなく,ディコンディショニングから骨格筋機能の低下を起こす.その両者の機能低下を代償するように循環機能に負荷が掛かってしまう.その結果,酸素と二酸化炭素の運搬を循環機能で補おうとするため,心拍数が早くなるなど心負荷がかかる.また,低酸素性肺血管攣縮により肺高血圧症,そして右心不全に至ってしまう.そのため,COPD患者の運動耐容能を歩行試験で評価する際,呼吸機能と骨格筋機能だけでなく,循環機能も評価を行うことが重要である.

6MWTとISWT

COPD患者に一般的に用いられる歩行試験は,6MWTとISWTである.6MWTは,6分間に出来るだけ長く歩行した距離を測定する試験で,その距離(6分間歩行距離)により運動耐容能を評価する.片道 30 mの直線歩行路を往復させて測定を行う,わが国で最も広く用いられている歩行試験である.測定された歩行距離は,呼吸・循環器疾患において,治療効果判定や予後予測の指標となるため,重要な評価項目となっている1.ただし歩行速度が自己のペースであり,測定方法に注意しないと結果がばらついてしまうため,標準プロトコルが推奨されている.6MWTの前後には,経皮的酸素飽和度(SpO2),心拍数,修正ボルグスケールを用いて息切れの強さや下肢の疲労感を評価する.試験中には検査者の判断に応じて,心電図モニターやSpO2を測定することが望ましい.

ISWTは,規則的な間隔の信号音に合わせて歩行することで負荷量を定量化した試験である.この歩行試験は,スポーツ選手の評価法である 20 mシャトルランテストをCOPD患者用に改変した試験である.試験方法は,10 mの歩行路(両端の 0.5 m手前にコーンを設置)で,対象者は信号音に合わせてそのコーンの周囲を歩行する.標準化を図るためオリエンテーションもCDに収録し,プロトコルはレベル1(時速 1.8 km)から最大はレベル12(時速 8.4 km)となる.中止基準は,過度の呼吸困難などが出現した場合や,対象者が信号音についていけない場合などである.測定項目は合計の歩行距離を記録し,歩行前後で,SpO2や心拍数,修正ボルグスケールを用いて息切れの強さや下肢の疲労感を評価する.

歩行試験からの V ˙ O2 推定式とMets

歩行試験から得られる歩行距離は,運動耐容能の指標として用いられ,最高酸素摂取量(peak V ˙ O2)の推定式が多く報告されている1.我々も日本人のCOPD患者160例を対象にした推定式を開発した2,3.6MWTからの推定式は,peak V ˙ O2(ml/min/kg)=0.014×6分間歩行距離(m)-0.127×年齢(歳)+0.049×%一秒量(%)+12.477,ISWTからの推定式は,peak V ˙ O2(ml/min/kg)=0.012×歩行距離(m)-0.091×年齢(歳)+0.036×%一秒量(%)+12.589である.この推定式を用いて,歩行試験から得られた歩行距離から最高酸素摂取量を求め,METsを算出することができる.その患者のMETsで表される運動強度は,患者自身が耐えられる運動強度であり,ADL指導や運動処方の基準値となる.METsを算出する簡易版である図1を用いて,6MWTとISWTの歩行距離から大体の運動強度(Mets)を概算し,患者自身がADL制限を受ける運動強度や運動処方の参考にすることが可能である.

図1

6分間歩行試験と漸増シャトルウォーキングテストの歩行距離からのMETsの概算

COPD患者の4種類の運動負荷試験の比較

COPD患者100例に対して,6MWTとISWTの歩行距離とCPXで得られる最高酸素摂取量との関係性を検討した(図2図3).両試験ともに歩行距離と最高酸素摂取量との間には強い相関関係を認めたが,図2で示すように6MWTの歩行距離が 650 m程度で頭打ちになるデータ分布になっている.ISWTは頭打ちするデータになっておらず,運動耐容能が高い患者を評価する場合は,ISWTの方が良いと考えられる.ISWTの利点として,歩行距離から運動処方することが可能である.COPD患者で運動耐容能が高い,もしくはADL上の息切れが軽く,運動療法を積極的に進めていきたい場合は6MWTよりISWTの方が適応しやすい.6MWTは再現性が良いデータを得るためには2回測定する必要があるが,非常に一般的な測定方法である.COPD患者以外の呼吸器疾患患者や心疾患患者,フレイルな患者などのデータが多く報告されており1,運動療法や薬物療法の効果判定にも良く用いられている.

図2

6MWTの歩行距離とpeak V ˙ O2との相関関係(文献2より引用)

図3

ISWTの歩行距離とpeak V ˙ O2との相関関係(文献2より引用)

我々は4種類の運動負荷試験(6MWT,ISWT,CPX,定常負荷試験)の試験終了時の呼吸困難感と下肢疲労感の程度を,COPD患者104例で比較した4.その報告では,定常負荷試験,CPX,ISWT,6MWTの順に終了時の呼吸困難感と下肢疲労感が強く現れている(図4, 5).COPD患者の場合は,エルゴメータを用いた運動負荷試験よりは歩行試験の方が終了時の症状は軽く済んでいる.一方,運動中の低酸素血症は,歩行試験の6MWTとISWTの方が,エルゴメータを用いた運動負荷試験より強く現れている(図6).運動中の低酸素血症の基準をSpO288%未満とした場合は,定常負荷試験は18.3%,CPXは20.2%の検出率であるが,6MWTは49.0%,ISWTは48.1%と歩行試験の方が運動中の低酸素血症の状況を評価する場合は鋭敏な試験であり,有用性が高いと考える.COPD患者で日常生活上の呼吸困難感が強い場合は,試験終了時の症状が比較的軽めで評価できる歩行試験の方がエルゴメータによる運動負荷試験より適応しやすい.

図4

4種の運動負荷試験の運動終了時の呼吸困難感

測定値:平均値±SD. Cardiopulmonary exercise test: CPX, incremental shuttle walking test: ISWT, Six minutes walking test: 6MWT,すべての群間で有意差を認める(p<0.01).(文献4より引用)

図5

4種の運動負荷試験の運動終了時の下肢疲労感

すべての群間で有意差を認める(p<0.01).(文献4より引用)

図6

4種の運動負荷試験の最低SpO2

*: p<0.01 compare with ISWT, #: p<0.01 compare with 6MWT.(文献4より引用)

minimal important differenceと生命予後

COPD患者の運動療法や気管支拡張薬などの薬物療法の効果判定に,運動負荷試験を用いる研究論文が多く報告されている5.その効果判定の基準に,臨床的に意味の有る効果量(minimal clinically important difference:MCIDまたはminimal important difference: MID)が用いられ,6MWTの歩行距離は 25-33 mで,ISWTの歩行距離は 47 mと報告されている5.Puente-Maestu Lらのレビュー5では,運動療法の効果を報告した13論文中11論文がISWTのMID 47 mを超える効果を得ており,ISWTを効果判定に用いることも有用である.

運動耐容能と生命予後の関係は様々な疾患で検討されており,COPD患者に関しても強い関係が示されている.特に6MWTの歩行距離はCOPD患者の強い予後予測因子であり,Body-mass index, airflow Obstruction, Dyspnea, and Exercise(BODE)indexにも用いられている6.6MWTの歩行距離が短くなると死亡率が高くなり,歩行距離のカットオフ値が 200 mから450mまで報告されている.近年Singh Sらがレビューした報告1では,6MWTの歩行距離のカットオフ値を 317 mとしている.COPD患者の安定期に経時的に6MWTを測定し,歩行距離が減少していく,もしくは 317 mを下回るようになると,様々な治療介入を再検討する必要がある.維持期の呼吸リハビリテーションプログラムを行っている場合は,再度集中的なプログラムに切り替えることや薬物療法の変更,睡眠時の低酸素血症などの評価を検討すると良い.

6MWTと肺高血圧症

6MWTなどを実施する際,心拍数や血圧などの測定も重要である.特に心拍数の上昇や試験終了後の心拍数低下なども評価すべきである.COPD患者の呼吸機能低下や骨格筋機能低下の代償で運動時は心拍数が容易に上昇しやすく,この際の心拍数上昇は左心系の負荷になる.また,COPD患者の場合は労作時低酸素血症に伴う肺血管攣縮による肺血管抵抗の上昇で右心系の後負荷が上昇し,右心不全を来たし易くなる.我々は右心カテーテル検査を実施したCOPD患者155例のうち,長期酸素療法を受けていない症状が安定したCOPD患者84例を対象に,平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure: mPAP)と6MWT,肺機能,血液ガス,身体組成の関係を検討した7.その結果,COPD患者のmPAPには,6MWTの歩行距離とSpO2の低下が強く影響していた(r2=0.602).6MWT終了時のSpO2が80%を下回る場合は,多くの症例でmPAPが 20 mmHg以上であり,SpO2が75%未満であればmPAPは 25 mmHgを超えてくる.この報告では,6MWTのSpO2が81%を超えていれば,97%の確率で肺高血圧症の可能性を除外できるという結果が得られた.SpO2の低下から右心系の負荷の有無を推定できる可能性が示唆され,循環系のリスクマネジメントに有用である.留意すべき点は,医療機関によっては6MWT時にある程度のSpO2の低下が起きた時点で試験を中止する場合がある.しかしこれではどこまでSpO2が下がるのかというリスクマネジメントができないため,SpO2が80%を下回る低酸素血症を容認して評価する必要がある.また,6MWTでSpO2の著しい低下が起きた場合は,心拍数の上昇や,頸静脈怒張といった右心系の負荷による症状を確認し,リスクマネジメントを行うことが重要である.

まとめ

COPD患者の6MWTとISWTなどの歩行試験は,運動療法を介入するためだけの運動耐容能の評価だけでなく,運動制限因子を評価し,効果判定にも用いられる.歩行試験の歩行距離は生命予後にも影響しており,低酸素血症の評価も同時に実施することで,COPD患者の右心系の負荷などのリスクマネジメントも可能となり,COPD患者における歩行試験の重要性は高くなっている.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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