The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Coffee Break Seminar
Assessment of exercise induced hypoxemia and home oxygen therapy for patients with interstitial pneumonia
Takeshi InagakiJiro Terada
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 57-61

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要旨

間質性肺炎(IP)は,運動時低酸素血症,労作時呼吸困難を主症状とする進行性の慢性呼吸器疾患である.その運動中の病態評価には,6分間歩行試験(6MWT)が安全かつ簡便であることから日常臨床でよく用いられている.一般的に6MWTの結果のうち,6分間歩行距離(6MWD),最低SpO2の値が生命予後と関連することからも重要視されているが,近年は心拍数上昇やSpO2低下のパターンに着目した報告が散見される.本稿では,当院のIP患者における6MWT中のSpO2の変化と肺機能との関連性,重症度によるSpO2,心拍数の変化パターンの違いについて報告する.またIP患者に酸素を処方する際には,酸素流量やデバイス(鼻カヌラとオキシマイザー,リュックとカートなど)なども運動時低酸素血症に影響することを経験するため,各々の条件下での6MWTを用いた最適な在宅酸素療法の処方・デバイスの選定など当院の工夫についても紹介したい.

はじめに

間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)は,肺胞隔壁に炎症・線維化病変をきたす疾患の総称である1.発症には薬剤,健康食品,粉じん吸入,膠原病やサルコイドーシスなどの全身性疾患に付随するものが存在するが,原因が特定できない例も多く,代表的な疾患として特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)がよく知られている1.IPは,拘束性障害と拡散障害を主な病態とし,重症化すると肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)を合併する慢性進行性疾患であり日常生活を送る上で,労作時の低酸素血症が問題となることが少なくない.そのため運動中の評価は,診療上においてもリハビリテーション(リハ)を行う上でも重要である.実際に,運動耐容能や労作時低酸素を評価する方法として,6分間歩行試験(6-min walk test: 6MWT)2,3がよく用いられており,結果のうち歩行距離(6-min walk distance: 6MWD)は臨床試験の主要評価項目としても頻用されている.しかし,近年は6MWD以外にも6MWT中のSpO2や心拍数(heart rate: HR)の変化に着目した報告が散見され,当院でもSpO2とHRをグラフ化して確認している.本稿では,IP患者を中心とした6MWTの先行研究に触れた上で,当院における6MWTの実際,在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)導入の際の取り組みについて述べる.

慢性呼吸器疾患における6分間歩行試験

慢性呼吸器疾患における6MWTの報告は多数存在し,特に6MWD4,最低SpO2の値5は生命予後との関連が示されている.また,6MWDと最低SpO2の積であるDistance saturation product(DSP)が 200 m%未満では生存期間が短縮することが示されており6,両者を確認することが重要と考えられている.一方,近年は上記以外に,6MWT中のHRやSpO2の変化に注目した報告が散見される.Chuangら7は,COPD患者における6分間歩行試験中のSpO2の低下には3つのパターンがあること,またそのパターンは呼吸機能(一秒率)と関連することを報告している.その他,IP患者では,歩行中のHR上昇や歩行終了後のHR回復などの心拍応答が低下することが報告されており8,6MWTのパラメーターとして注目されている.特に,IP患者における6MWT終了後1分のHR回復の低下(Heart rate recovery 1 minute after completing 6MWT: HRR1<13拍)は死亡率,6MWD低下,更にはPH合併と関連すると報告されており9,6MWT中のHR上昇の制限(Chronotropic response[ΔHR;最大HR-安静時HR]<20拍)も同様に死亡率,6MWD低下と関連することが知られている10.上記を踏まえて,当院におけるIP患者2例(軽症1例,重症1例)の6MWT中のHR,SpO2の推移のグラフを見てみると,重症IPF患者は,SpO2低下が顕著で,心拍応答も不良で,運動耐容能も低下していることがわかる(図1).

図1

特発性肺線維症患者の代表的な心拍数・SpO2のグラフ

特発性肺線維症(IPF)の重症例は,最低SpO2が低く,6MWT終了後もなお低下し続ける.また,重症例では6分間歩行距離(6MWD)が短縮し,心拍数(HR)上昇・回復共に不良である.

当院における6分間歩行試験の取り組み

当院では,6MWTを実施する際,PULSOX 300i(コニカミノルタ,東京)を用いて脈拍数(不整脈,脈波の測定エラー症例を全例除外しているため,以下HRと表記する),SpO2を測定し,それぞれ1秒毎のサンプリングタイムでデータを収集し,解析を行っている.そのデータを元に,今回我々はIP患者における6MWTの検討を行った.対象は,2012年2月から2016年12月までに当院で6MWTを施行されたIP患者のうち,後述する検討項目が解析可能であった36例(年齢71.1±5.9歳,男性17例,女性19例,身長 158.7±8.4 cm,体重 56.7±10.3 kg,HOT導入例5例[14%])とした.評価項目は,6MWD,HR(安静時HR,最大HR,ΔHR,6MWT開始からΔHRの75%に到達するまでに要した時間[HR上昇時間],HR傾き[ΔHR/HR上昇時間],HRR1),SpO2(安静時SpO2,最低SpO2,6MWT開始からSpO2変化量[最低SpO2-安静時SpO2]の75%に到達するまでに要した時間[SpO2低下時間],6MWT終了からSpO2変化量[終了時SpO2-安静時SpO2]の75%に到達するまでに要した時間[SpO2回復時間],息切れ(修正Borg scale)とし,解析としては軽症群(%DLco>60% and %FVC>70%:10例)と重症群(%DLco<60% and/or %FVC<70%:26例)の2群間の差を統計学的に検討した.その結果,重症IPは,軽症IPと比較し,最低SpO2が有意に低く,SpO2低下時間,SpO2回復時間共に有意に長かった(表1).実際に軽症群と重症群を比較したグラフにおいても,重症群はSpO2の低下が著しく,6MWTの最後までSpO2が低下し続けるパターンを呈していた(図2).

表1 軽症群と重症群の比較(間質性肺炎患者)
CharacteristicsMild(n=10)Severe(n=26)P value
6MWD(m)541.1±72.3429.0±93.0<0.01
安静時 HR(bpm)79.8±11.080.4±9.20.86
最大HR(bpm)132.5±17.9125.4±12.80.09
ΔHR(bpm)47.1±16.038.1±12.20.19
HR上昇時間(秒)111.9±32.5140.2±62.70.08
HR傾き0.5±0.20.3±0.20.09
HRR1(beats)22.3±9.315.6±8.00.04
安静時SpO2(%)95.9±1.495.2±1.90.21
最低SpO2(%)88.9±2.881.5±7.8<0.01
SpO2低下時間(秒)121.7±26.3165.5±59.20.04
SpO2回復時間(秒)62.2±26.089.6±36.90.04
修正Borg scale2.3±1.44.0±2.10.03

平均±標準偏差.

6MWD:6分間歩行距離,HR:心拍数,HRR1: Heart rate recovery 1 minute after completing 6MWT

図2

間質性肺炎患者における軽症群と重症群の比較

平均±標準偏差.間質性肺炎(IP)の重症群の方が,軽症群と比較してSpO2の低下(矢印①)およびSpO2の回復(矢印②)に時間を要する.また,6MWT終了後のHRの回復(HRR1)も少ない(矢印③).

FVC:努力肺活量,DLco:一酸化炭素肺拡散能.

さらに当院では,IV群PHである慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)患者31例においても,同様の検討を行った(軽症~中等症群12例:平均肺動脈圧[mean pulmonary arterial pressure: mPAP]<40 mmHg vs 重症群19例:mPAP≥40 mmHg).その結果,重症CTEPH患者は,軽症~中等症CTEPH患者と比較してHR上昇に時間を要し,HR上昇も緩やか(HR傾きの低下)であった(図311.CTEPH以外のPH患者でも,重症例における心拍応答の低下が報告されており12,その理由としては,βアドレナリン受容体の調節機能低下の関与が考えられている13.上記を踏まえ,当院で経験したPH合併IP症例(III群PH)のHRとSpO2のグラフを確認すると,SpO2は著明に低下し続け,HR上昇は緩徐であった(図4).したがって,SpO2,HRの変化のパターンを確認することは,疾患の病態や重症度を知る上で重要であると考えられる.

図3

慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における軽症~中等症群と重症群の比較)

平均±標準偏差.慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の重症群の方が,軽症~中等症群と比較して,HRの上昇に時間を要し(矢印①),HRの上昇の傾きも緩徐である(矢印②).また,6MWT終了後のHRの回復(HRR1)が少なく(矢印③),SpO2 の回復にも時間を要する(矢印④).

mPAP:平均肺動脈圧,PVR:肺血管抵抗.

図4

間質性肺炎+肺高血圧症合併例の心拍数・SpO2のグラフ

特発性肺線維症(IPF)に肺高血圧症(PH)を合併した症例(III群PH).SpO2低下が顕著で,6分間歩行試験(6MWT)終了後まで低下し続け,心拍応答も不良である.

VC:肺活量,DLco:一酸化炭素肺拡散能,mPAP:平均肺動脈圧,PVR:肺血管抵抗.

在宅酸素療法について

1. 在宅酸素療法(HOT)導入時の評価

HOTを導入する際,患者の運動中の酸素需要及び労作時低酸素血症の程度に関する評価が重要である.当院では,慢性呼吸器疾患患者に対しては,可能な限り6MWTを用いた評価を行っている.自由歩行での6MWTを,異なった条件下(例:1 L 鼻カヌラ,2 L 鼻カヌラのそれぞれの条件で6MWTを行う)で行い,歩行距離や息切れ,最低SpO2,SpO2低下に要した時間等を評価する.その結果を踏まえて,担当理学療法士が安全かつ実用的な酸素流量を主治医と相談し,酸素流量の決定に役立てている.SpO2低下に要した時間の評価は,日常の労作中の休息のタイミングを患者に指導する上でも有用である.実際の臨床では,6MWTだけでなく,日常生活動作の評価も併せて実施し,総合的に判断することが重要である.

2. 酸素吸入デバイスと呼吸同調装置

酸素吸入デバイスは,鼻カヌラ,オキシマイザーカヌラ,リザーバーマスクなど複数種類が存在する.また,在宅用の酸素ボンベには呼吸同調装置があり,同調式は連続式と比較してSpO2が低下しやすい14.特に頻呼吸を有している患者では,その違いが顕著であり呼吸困難が増強することを臨床上経験する.したがって,これら酸素吸入デバイスや呼吸同調装置の有無も踏まえて動作の評価を行い,外出時間や患者の認知機能等も加味して,その患者に応じた最適な物品・設定を決定することが望ましいと著者は考えている.

3. 酸素ボンベ運搬デバイスと携帯用酸素濃縮器

酸素ボンベを運搬するデバイスは,携帯用カート(図5-A),リュック(図5-B),ショルダーバッグなど数種類存在する.それぞれを使用した状態で歩行の評価を行い,患者の活動範囲や身体機能に応じて最も適したデバイスを選定することが重要である.また,高齢の患者や歩行障害を有している患者にはシルバーカータイプの酸素ボンベ運搬デバイスもあり(図5-C),荷物を入れたり,外出途中でもシルバーカーに座って休憩したりできる.さらに,近年,携帯用濃縮器(図5-D)も徐々に普及しつつある.携帯用濃縮器は,コンセントとバッテリーによって駆動するため,ボンベのように小まめな補充が不要である.そのため,車移動が多い患者や,オフィスでデスクワークをするような患者に適している.

図5

酸素ボンベ運搬デバイスと携帯用濃縮器

A)携帯用カート,B)リュック,C)シルバーカー,D)携帯用酸素濃縮器

上記のように,在宅酸素療法のデバイスも含めた物品選定を行うことは,患者が少しでも安全かつ安楽に日常生活を送り,さらには患者の身体活動と生活の質を可及的に向上させる上で重要である.

おわりに

6MWTは比較的簡便かつ低侵襲で行えることから,多くの施設で実施されている.6MWT中の連続パルスオキシメーターは,運動時低酸素や循環応答の把握,HOT導入時の酸素流量調節に有用である.しかし,重症例に6MWTを施行する機会は少なくなく,有害事象に十分注意して検査を行う必要がある.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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