2019 Volume 28 Issue 2 Pages 161-166
肺高血圧症(PH)に対するリハビリテーション(リハ)は,失神,心不全増悪,突然死が危惧されることから,これまで積極的には推奨されてこなかったが,近年,欧州を中心にPH患者に対するリハに関する報告が散見され始め,その効果と安全性が示されている.しかし,PHは希少性難治性疾患であることから,本邦におけるPH患者に対するリハの報告は非常に少ない.我々は,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するリハの効果,さらには6分間歩行試験(6MWT)によって評価される運動中の心拍数(HR),SpO2の変化のパターンとCTEPHの病態・重症度との関連について興味を持ち,検討を重ねてきた.
その結果,CTEPH患者に対する3ヶ月間の外来リハにより,運動耐容能,健康関連QOL,身体活動量等が改善し,特に有害事象を認めなかった.また,本症における6MWT中のHR,SpO2の変化のパターンは,肺血行動態と関連することが明らかになった.
肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH),慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)が代表的な疾患である肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)は,何らかの原因により肺動脈圧が異常に上昇する病態の総称であり,右心カテーテル検査(right heart catheterization: RHC)で測定した安静臥位の平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure: mPAP)≧25 mmHgと定義されてきた1).しかし,2018年にフランスのニースで第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムが開催され,診断基準はmPAP≧20 mmHgに変わりつつある2).本症は,肺動脈圧の上昇とそれに伴う相対的心拍出量(cardiac output: CO)低下を主病態とし,その結果呼吸困難や運動耐容能低下,失神,心不全等が生じる難治性疾患である3).CTEPHに対する治療は,外科的治療や,カテーテル治療の技術の発展に伴い,治療成績も著しく向上してきた.その一方で,手術適応にならない末梢型の症例や,術後の遺残肺高血圧に対して薬物療法が用いられるが,それ以外の確立した治療法はない.近年,欧州を中心にPH患者に対するリハビリテーション(リハ)の報告が散見されるようになり,その効果と安全性が認められているが,希少性疾患であることから本邦における検討は少ない.更には,在宅での自主トレーニング(Home-ex)を主体とした外来リハのように,日本国内でも実施可能なリハの方法論や安全管理方法の確立が望まれる.
また,CTEPHをはじめとする呼吸・循環器疾患に対する運動耐容能の評価や臨床試験の評価項目として,6分間歩行試験(6-min walk test: 6MWT)が頻用されている.近年,6分間歩行距離(6-min walking distance: 6MWD)や最低SpO2の実測値のみでなく,6MWT中の心拍数(heart rate: HR)やSpO2の変化のパターンに注目した報告が散見され始めている.我々は,間質性肺炎患者における6MWT中のSpO2の変化パターンが,肺機能から見た疾患重症度と関連することを報告した4).しかし,肺循環障害を呈するCTEPHについては不明な点が多い.
上記から我々は,①本邦のCTEPH患者に対するリハの効果と安全性について,②CTEPH患者における6MWT中のHR,SpO2の変化を確認し,それが疾患の病態・重症度を予測する因子になりうるか,更には6MWT中のHR,SpO2の変化のパターンが治療後に変化するか検討を行った.
2006年,Merelesら5)によって,PH患者に対する運動療法,呼吸リハに関する初めてのランダム化比較試験が報告された.その報告では,薬物治療の変更がない重症PH患者に対して,低負荷の筋力増強運動,呼吸訓練,自転車エルゴメーターを使用したインターバルトレーニング等を実施し,6MWD,心肺運動負荷試験時の最大負荷量,最高酸素摂取量,健康関連QOL(Health-related quality of life: HRQOL)などの多項目において有意な改善を認め,大きな有害事象を認めなかった.その後もPH患者におけるリハの報告が散見されるが,本邦におけるエビデンスの蓄積が急務である.そこで我々は,CTEPH患者に対して,Home-exを主体とした外来リハを実施し,その効果を検証した6).対象は,当院呼吸器内科に外来通院中の中等症~重症のCTEPH患者8例で,3ヶ月以上治療を変更していない,症状が安定している患者とした.評価項目として6MWD,HRQOL,大腿四頭筋筋力,呼吸機能,息切れ,身体活動量などを挙げ,3ヶ月間のリハの前後で比較検討した.その結果,3ヶ月間のリハ実施後,6MWD,大腿四頭筋筋力,息切れ,HRQOL,身体活動量が有意に改善した(表1,図1).運動療法実施中,1例のみ血圧低下を生じたが,全例が完遂し,その他大きな有害事象も認めなかった.以上から,リハは薬物療法の効果に上乗せして,運動耐容能や筋力,HRQOLを更に改善させ,安全に実施できることが示唆された.
| Characteristics | Baseline | After 12 weeks |
|---|---|---|
| 6-min walking distance, m | 382.1±45.4 | 415.4±57.0** |
| Dyspnea | ||
| BDI score | 8.3±1.6 | 8.1±1.1 |
| TDI score | 1.9±1.5 | |
| Muscle force | ||
| QF, kgf | 15.1±4.3 | 16.9±5.1* |
| QF/body weight, kgf/kg | 0.27±0.08 | 0.31±0.09* |
| ADL | ||
| NRADL score | 65.6±11.1 | 69.6±11.4 |
| SGRQ score | ||
| SYMPTOM | 41.5±11.1 | 37.5±20.3 |
| ACTIVITY | 65.0±10.6 | 52.9±14.2* |
| IMPACT | 22.4±9.7 | 22.2±12.7 |
| Total SGRQ | 38.4±9.5 | 34.1±12.1 |
| Physical activity | ||
| Intensity of activity, EX | 6.4±3.7 | 8.6±5.6* |
| Steps per day | 2,377.4±1,041.8 | 2,883.8±1,801.2 |
| Cardioechography | ||
| esPAP, mmHg | 49.4±13.4 | 49.5±18.2 |
| TRPG, mmHg | 45.1±11.9 | 44.0±15.7 |
| BNP | 76.9±76.7 | 75.3±85.0 |
*P<0.05; **P<0.01 compared with baseline.
Values are mean±SD. BDI, baseline dyspnea index; TDI, transition dyspnea index; QF, quadriceps force; NRADL, Nagasaki university respiratory ADL questionnaire; SGRQ, St George’s Respiratory Questionnaire; esPAP, estimated systolic pulmonary artery pressure; TRPG, tricuspid regurgitation pressure gradient; BNP, brain natriuretic peptide.

CTEPH患者に対するリハビリテーションの効果
在宅中心のリハビリテーション(12週間)を行い,6分間歩行距離(6MWD)(a), 健康関連QOL スコア(St. George’s Respiratory Questionnaire: SGRQ)(b), 大腿四頭筋筋力(Quad Force)(c),身体活動性(d)の改善を認めた(文献6より引用).
PHの運動療法による肺血行動態への効果ついては,Ehlkenら7)が,安静時のmPAP,肺血管抵抗(Pulmonary vascular resistance: PVR),運動中の心係数の改善を報告している.その他,骨格筋のガス交換,代謝,筋萎縮の改善など末梢効果についても報告されているが8,9),前述した心機能や肺血行動態の改善(中枢効果)の詳細な機序については,未だ不明な点が多い.また,PHラットモデルに対する運動療法の効果に関する報告では,重症肺高血圧ラットに対する運動により,右室の炎症細胞浸潤や肺動脈のリモデリングが生じ,生存率が低下したとされている10).運動療法の肺循環動態や生命予後への長期的影響については,重症度別での検討を待つ必要がある.
CTEPH患者における6MWT中のHR,SpO2の変化を確認し,それが疾患の病態・重症度を予測する因子になりうるか検討した11).対象は,当院で6MWT,RHC,心エコー,精密肺機能検査を同時期に施行されたCTEPH患者54例のうち,測定エラーおよび歩行障害を生じる基礎疾患やその他の肺疾患を有している患者を除外した31例とした.6MWTは米国胸部学会のガイドラインに準じて行い,6MWD,ΔHR(最大HR-安静時HR),6MWT開始からΔHRの75%に到達するまでに要した時間(HR上昇時間),HRの上昇の傾き(HR傾き[ΔHR/HR上昇時間]),6MWT終了後1分のHRの回復(Heart rate recovery 1 minute after completing 6MWT: HRR1),6MWT開始からSpO2変化量(最低SpO2-安静時SpO2)の75%に到達するまでに要した時間(SpO2低下時間),6MWT終了からSpO2変化量(終了時SpO2-安静時SpO2)の75%に到達するまでに要した時間(SpO2回復時間)を測定した.更に,RHC(mPAP,PVR,CO,mixed venous oxygen pressure[PvO2]),心エコー(left ventricular ejection fraction [LVEF]),精密肺機能検査(percent predicted forced expiratory volume[%FEV1],percent predicted lung diffusion capacity divided by alveolar volume[%DLco/VA],percent predicted total lung capacity[%TLC])の結果を後方視的に調査し6MWTとの関連について検討した.その結果,軽-中等症群(mPAP<40 mmHg:12例)と重症群(mPAP≧40 mmHg:19例)の2群間の比較では,6MWD,ΔHR,HR上昇時間,HR傾き,HRR1,SpO2低下時間,SpO2回復時間で有意差を認めた(図2).また,6MWD,ΔHR,HRR1は,%FEV1などの肺機能と正の相関を認め,SpO2回復時間は%DLco/VAと負の相関を認めた.また,これらはいずれもmPAPと正の相関を認めた.一方,HR上昇時間は肺機能と相関せず,HR上昇時間とSpO2低下時間はmPAPと正の相関を,HR傾きはmPAPと負の相関を認めた(表2).相関関係を認めた項目に対して重回帰分析を行い,HR上昇時間とHR傾きは純粋にmPAPと関連する因子だった(表3).

CTEPHにおける6分間歩行試験中の心拍数とSpO2の変化:軽症~中等症群と重症群の比較
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の重症群の方が,軽症~中等症群と比較して,HRの上昇に時間を要し(矢印①),HRの上昇の傾きも緩徐である(矢印②).また,6MWT終了後のHRの回復(HRR1)も少なく(矢印③),SpO2の回復にも時間を要する(矢印④).
mPAP,mean pulmonary artery pressure; 6MWD, 6-minute walking distance; HR, heart rate.
| 6MWD | ΔHR | HR 上昇時間 | HR傾き | HRR1 | SpO2 低下時間 | SpO2 回復時間 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| mPAP | -0.61** | -0.39* | 0.47** | -0.67** | -0.56** | 0.43* | 0.61** |
| PVR | -0.30 | -0.26 | 0.45* | -0.55** | -0.52** | 0.50** | 0.31 |
| CO | 0.08 | 0.11 | -0.41* | 0.37* | 0.30 | -0.42** | -0.14 |
| PvO2 | 0.52** | 0.31 | -0.36* | 0.44* | 0.35 | -0.23 | -0.33 |
| LVEF | 0.00 | 0.15 | 0.01 | 0.06 | 0.30 | -0.45* | -0.20 |
| %FEV1 | 0.62** | 0.36* | -0.33 | 0.48** | 0.40* | -0.39* | -0.38* |
| %DLco/VA | 0.20 | 0.28 | -0.02 | 0.16 | 0.47** | 0.16 | -0.43* |
| %TLC | 0.69** | 0.29 | -0.23 | 0.43* | 0.34 | 0.02 | -0.47** |
Data are expressed as r value. * P<0.05, ** P<0.01 compared with baseline.
mPAP, mean pulmonary artery pressure; PVR, pulmonary vascular resistance; CO, cardiac output; PvO2, mixed venous oxygen pressure; LVEF, left ventricular ejection fraction; FEV1, forced expiratory volume; DLCO/VA, lung diffusion capacity divided by alveolar volume; TLC, total lung capacity.
| 6MWD | HR 上昇時間 | HR傾き | HRR1 | SpO2 低下時間 | SpO2 回復時間 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| mPAP | 0.383 | -0.501 | -0.514 | 0.484 | ||
| CO | -0.396 | |||||
| LVEF | -0.424 | |||||
| %DLco/VA | 0.354 | -0.385 | ||||
| %TLC | 0.270 |
Data are expressed as β value.
mPAP, mean pulmonary artery pressure; CO, cardiac output; LVEF, left ventricular ejection fraction; DLCO/VA, lung diffusion capacity divided by alveolar volume; TLC, total lung capacity.
PAH患者のCOは,PVR上昇に伴って一回拍出量の増加が制限されるため,主にHR増加にて代償されるが12),PAHが重症化するとβアドレナリン受容体の調節機能が低下するためHR上昇も制限されると報告されている13).CTEPHにおいても同様の機序が考えられ,重症CTEPHの方がHR上昇に時間を要し,COの増加も制限されるため,6MWDの減少を来たしやすいと推察された.
前述の結果を踏まえ,本症の治療に伴って6MWT中のHR・SpO2の応答が変化するか検討した.全31例のうちCTEPHの根治術である肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy: PEA)を施行された患者10例を対象に,治療前後の6MWTのパラメーターの変化を解析した結果,術後6MWDの有意な改善を認めたが,その他HR,SpO2は有意な変化を認めなかった11).そこで我々は,当院で薬物療法(Riociguat)を開始したCTEPH患者9例についても同様の検討を行った.その結果,mPAP(38.2±10.3 mmHg→31.7±9.8 mmHg;p=0.02),6MWD(384.2±60.5 m→441.3±91.3 m;p=0.02),HR上昇時間(163.8±86.7秒→110.6±31.2秒;p=0.04)が有意に改善し,HR傾き(0.3±0.2→0.5±0.2;p=0.09)に改善の傾向を示した(図3).

CTEPHにおける6分間歩行試験中の心拍数とSpO2の変化:Riociguat導入前後の比較
Riociguat導入前と比較し,導入後の方がHRの上昇に要する時間が短縮し(矢印①),HRの上昇の傾きも急になる傾向を認めた(矢印②).
mPAP,mean pulmonary artery pressure; 6MWD, 6-minute walking distance; HR, heart rate.
Claessenら14)は,PEA施行後のCTEPH患者における心拍応答の低下は残存し,それは運動耐容能改善に影響すると報告している.その心拍応答低下が残存する理由として,長期の右心負荷によって生じる右心房・洞結節のリモデリングや15),血栓部位16),その他薬剤や酸素療法の減量,手術侵襲,術後の低活動,廃用症候群など様々な要因が関与している可能性がある.薬物療法における先行研究では,PEA施行後のSildenafilの使用が,運動時のmPAPを低下させ,右心機能を向上させると報告されているが14),重症PAH患者に対する薬物療法は導入後の心拍応答に変化を認めなかったとする報告も存在する12).したがって,本研究の対象患者のように,PHが重症化する前に肺血管拡張薬を導入し,長期間投与できた場合は,運動耐容能・心拍応答の改善が得られる可能性が示唆された.
以上から,6MWTは,6MWDだけでなく,HR,SpO2の変化が肺血行動態と関連する可能性が示唆され,その中でもHR上昇時間とHR傾きはCTEPHの重症度を反映し,肺血行動態の変化を簡便かつ安全に評価する上で有用な可能性がある.
この度は,平成30年度日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞という大変栄誉ある賞をいただきまして,誠にありがとうございました.受賞にあたり,私の大学院在学中の指導教員である千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学の寺田二郎先生,研究を進める上で多くのご指導をいただきました巽浩一郎教授,田邉信宏教授,秋田大学の塩谷隆信名誉教授,研究にご協力いただきました被験者の方々をはじめ,私を支えてくださった皆様に深謝申し上げます.
今後も,肺高血圧症に対するリハビリテーションのエビデンスの蓄積,呼吸リハビリテーションおよび本学会の更なる発展に少しでも寄与できるよう,精進して参ります.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.