The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
2018 Society Award-Winning Articles
Clinical implication of accelerometer-based gait and physical activity assessments and interventions into pulmonary rehabilitation in patients with COPD
Masahiro Iwakura
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 28 Issue 2 Pages 167-173

Details
要旨

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸リハビリテーションにおいて,客観的な身体活動(PA)の評価・介入を目的とした加速度計機器の臨床応用が進んでいる.しかし,加速度計を用いたPAの評価では,歩行以外の移動の評価が不可能であった.COPD患者のPAに関連する因子や,PA向上プログラム(PA-P)の効果的な条件とその効果も十分に明らかにはなっていない.また,COPD患者における加速度計機器を用いた歩行やバランスの評価を行った報告は非常に少ない.そこで,我々は①加速度計を用いた四つ這い位・移動と自転車駆動時間の測定方法の開発,②COPD患者において加速度計にて測定したPAと歩行・バランスの関連の検討,③COPD患者を対象としたPA-Pと栄養療法の併用効果の検討,④加速度計によるCOPD患者の歩行の評価を中心に,COPD患者を対象とした呼吸リハにおける加速度計機器の臨床応用の可能性を検証してきた.今後は加速度計機器とその活用法の普及が必要になると考えられた.

はじめに

現在,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)において,客観的な身体活動(PA)の評価・介入を目的とした加速度計機器の臨床応用が進んできている1.しかし,加速度計を用いたPAの評価では,歩行以外の移動の評価が不可能であった.また,COPD患者のPAに関連する因子や,PA向上プログラム(PA-P)の効果的な条件とその効果のエビデンスは不十分である2,3

一般高齢者や神経筋疾患では加速度計機器を用いた歩行やバランスの評価は盛んに行われているが4,5,COPD患者における加速度計機器を用いた歩行やバランスの評価を行った報告は非常に少ない6.COPDでは歩行速度や歩行パラメータの変化が生じること7,バランスが低下すること8が明らかにされている.さらに,歩行やバランスはPAを支える主要な身体機能であり,これらを客観的かつ簡易的に計測する方法を確立することは重要な課題の一つである,

そこで,①加速度計を用いた歩行以外の移動の測定方法の開発,②COPD患者において加速度計にて測定したPAと歩行・バランスの関連の検討,③COPD患者を対象としたPA-Pと栄養療法の併用効果の検討,④加速度計によるCOPD患者の歩行の評価を中心に,COPD患者を対象とした呼吸リハにおける加速度計機器の臨床応用の可能性を検討した.

3軸加速度計による歩行以外のPAの評価法の開発

歩行以外の移動の測定方法の開発は,健常大学生を対象に体幹部と大腿部に装着した2つの3軸加速度計から構成される加速度計システムを用いて行った(図1a).歩行以外の移動として,四つ這いと自転車駆動に着目し,図2に示した判定アルゴリズムを組み立てた.測定の妥当性と測定誤差の検討はビデオ撮影した動画から判定した動作時間を比較対象とし,Bland & Altman分析を用いて行った.

図1

本報告にて用いた加速度計機器の構成と装着位置

図2

四つ這い位・移動と自転車駆動の判定方法

四つ這い位の判定は,体幹部センサーが水平,大腿部が垂直と設定し,同条件で加速度が生じたときに四つ這い移動と判定した.自転車駆動は体幹部が垂直,大腿部が水平の状態で大腿部の加速度が生じている際に自転車駆動と判定した.

加速度計で測定した四つ這い位・四つ這い移動,自転車駆動時間はビデオ判定の結果と0.9以上の相関を示し,測定誤差は10%未満と高精度で実施時間の測定が可能であった9,10.今後は,歩行が困難な重症または,活動性が高く自転車駆動が可能な軽症なCOPD患者への臨床応用が期待される.

COPD患者における加速度計を用いて測定したPAと歩行・バランスの関連の検討

COPD患者を対象に加速度計を用いて測定したPAと歩行・バランスの関連を検討した.PAはライフコーダGS4(図1b)を用いて計測し,1日の平均歩数と中強度以上のPA時間(MV-PA)を算出した.34名の安定期COPD患者(年齢:71±8歳,FEV1:57±28%pred)を対象に歩行の指標として快適歩行速度を11,22名の安定期COPD患者(年齢:72±7歳,FEV1:53±21%pred)を対象にバランスの指標としてShort Physical Performance Battery(SPPB)の合計点12を取得した.快適歩行速度は平均歩数とMV-PAと有意に相関した(r=0.548,r=0.469)(図2).SPPB合計点は平均歩数とMV-PAと有意な相関を示した(r=0.563,r=0.621).

次に,12名の安定期COPD患者(年齢:71±6歳,FEV1:57±31%pred)を対象に,歩行速度とPAの関係を縦断的に検討した13.評価項目は快適歩行速度,平均歩数,MV-PAに加え,除脂肪量指数(FFMI),6分間歩行距離(6MWD),大腿四頭筋筋力(QMVC),modified Medical Research Council dyspnea scale(mMRC),COPD assessment testの合計点とした.フォローアップは3ヶ月間とし,初期と3ヶ月時点にて計測を行った.各項目の変化量と平均歩数・MV-PAの変化量の関連を相関分析にて検討した.

快適歩行速度の変化量のみが,平均歩数とMV-PAの変化量と有意に相関した(r=0.853,r=0.726)(図3表1).PAと歩行は密接に関連する可能性が示唆され,COPD患者のPAを考える際に,歩行の評価・介入を行う重要性を示した.

図3

COPD患者における快適歩行速度と平均歩数,MV-PAの横断的・縦断的な関連性

上段2つは快適歩行速度と平均歩数・MV-PAの横断的な関連を示している(n=34).下段2つは3ヶ月の呼吸リハビリテーション前後の快適歩行速度と平均歩数・MV-PAの変化量同士の関連を示している(n=12).

表1 呼吸リハビリテーション前後の各種アウトカムと平均歩数・MV-PAの変化量同士の関連
n=12Δ平均歩数ΔMV-PA
Δ歩行速度(m/s)0.853*0.726*
ΔBMI(kg/m20.17-0.237
ΔFFMI(kg/m20.1910.084
ΔMMRC-0.175-0.049
Δ6MWD(m)0.2720.284
Δ体重支持指数(kg/kg)-0.316-0.08
ΔCAT(点)0.039-0.162

Δ:変化量,MV-PA:中強度以上の強さでの身体活動時間,BMI: body mass index,FFMI: fat free mass index,MMRC: modified Medical Research Council dyspnea score,6MWD: 6-minute walk distance,CAT: COPD assessment test.

*: p<0.05.

COPD患者を対象としたPAのフィードバックを中心としたPA-Aと栄養療法の併用効果

安定期COPD患者13名を対象に加速度計によるPAのフィードバックを中心とした3ヶ月間のPA-Pと栄養療法の併用の効果を,無作為化比較試験にて検討した14.対象者をPA-P+栄養療法群(摂取群)とPA-Pのみの群(対照群)の2群に2:1の割合(摂取群:11名,対照群:5名)で振り分けた.評価項目は筋肉量と握力,QMVCとした.PAの指標として平均歩数とMV-PAを取得した.PA-Pは個別のPAの目標設定と歩行を中心とした運動指導,外来受診時のフィードバックで構成した.PAの目標設定,各週の漸増量の方法を表3に示した.栄養療法は栄養補助食品(リハサポート,株式会社明治)を,1日2本を毎日摂取してもらった.結果,摂取群は8名,対照群は5名が試験を完遂した(表2).対照群と比較して,摂取群では握力が有意に改善し(p=0.048),前後の変化量も摂取群で有意に高値を示した(図4).また,対象者全体で平均歩数とMV-PAは有意に増加し(図5),全員が介入前後で改善が得られた.

表2 身体活動向上プログラムの目標値と漸増負荷プロトコル
ベースラインの身体活動量目標値(3ヶ月後)プロトコル
平均歩数(歩/日)・平均歩数は1週毎にベースラインの5%ずつ歩数を漸増するように指導した.
 平均歩数<4,000ベースライン+2,000歩・上記の漸増方法で目標値を達成できない場合はプラス分の目標値(2,000歩,2,500歩,3,000歩)を12で除した値を1週毎の漸増負荷量とした.
 4,000≦平均歩数<6,000ベースライン+2,500歩・MV-PAの1週毎の漸増負荷量はベースラインが10分未満では1分,10分以上では2分とした.
 平均歩数≦6,000ベースライン+3,000歩・3ヶ月以内に目標値を達成した場合は,そのまま1週毎の漸増負荷量を目標値に上乗せして目標値を再設定した.
MV-PA(分/日)
 MV-PA<10ベースライン+5分
 10≦MV-PAベースライン+10分

表3 介入前の対象者の特性
COPD患者摂取群 n=8対照群 n=5
年齢(歳)69.5(63.5, 74.5)74.0(72.0, 78.0)
%IBW(%)96.9(87.6, 109.0)86.4(84.9, 91.6)
FFMI(kg/m218.4(16.9, 19.3)17.2(17.1, 18.5)
FVE1(% pred)41.6(27.0, 60.8)44.8(40.0, 112.2)
握力(kg)33.5(33.0-40.4)36.9(32.0, 44.2)
大腿四頭筋筋力(kg)43.4(36.4, 53.8)43.1(31.4, 56.1)
6MWD496(428, 537)511(410, 575)
平均歩数(歩/日)4,487(3,003, 5,821)3,259(2,284, 8,329)
MV-PA(分/日)12(4, 15)14(6, 39)

摂取群:身体活動向上プログラムと栄養療法,対照群:身体活動向上プログラムのみ,%IBW: % ideal body weight,FFMI: fat free mass index,FEV1: forced expiratory volume in 1-sec,6MWD: 6-minute walk distance,MV-PA:中強度以上の強さでの身体活動時間.

中央値(25,75パーセンタイル)で示している.全項目間で有意差は確認されなかった

図4

身体活動向上プログラム+栄養療法群(摂取群)と身体活動向上プログラムのみの群(対照群)における介入前後の握力と大腿四頭筋筋力の変化量の比較

*: P<0.05.

図5

全対象者(n=13)での介入前後の平均歩数とMV-PAの変化

*: p<0.05.

COPD患者では握力の低下が急性増悪のリスク因子であることが明らかにされており,PA-Pと栄養療法の併用が急性増悪のリスクを軽減し得る可能性が示唆された.一方,本研究では筋肉量やQMVCの有意な改善が得られなかった.原因としては,PA-Pの強度が不足や,介入前のQMVCが高い患者が対象であったことなどが考えられ,今後さらなる検証が必要である.また,全対象者にて平均歩数とMV-PAの有意な改善が得られており,一人も初期よりもPAが低下した対象者はいなかった.これは,PA-Pでは個別の目標設定や漸増負荷量の設定,フィードバック,運動指導などを組み合わせが重要であるという先行研究2を支持する結果であった.

加速度計によるCOPD患者の歩行パラメータの評価

34名の安定期COPD患者(年齢:71±8歳,FEV1:57±28%pred)と16名の健常高齢者(年齢:72±6歳,FEV1:102±19%pred)を対象に,3軸加速度計システム(図1c)を装着して10m歩行試験を快適速度で行なってもらった11.計測した様々な歩行パラメータを比較し,さらに各歩行パラメータと臨床的なアウトカムとの関連を検証した.歩行パラメータとして歩行速度,歩幅,歩行率,歩行比(歩幅と歩行率の比),歩行中の加速度の強度,1ステップにかかる時間のばらつき(step time SD)を算出した.同年代の健常高齢者と比較して,COPD患者では歩行比を除いた全ての項目が悪化していた(表4).歩行速度,歩幅,step time SDはQMVCの低下(QMVCとBMIの比が120%未満),6MWDの低下(350m未満),平均歩数の減少(5,000歩/日未満)の予測に有用であった(表5).

表4 歩行パラメーターの群間比較
平均(SD)COPD患者(n=34)健常者(n=16)
歩行速度(m/s)1.09(0.22)*1.53(0.23)
歩幅(m)0.60(0.08)*0.71(0.09)
歩行率(steps/min)109(10)*129(7)
歩行比(mm/(steps/min))5.53(0.69)5.50(0.65)
加速度強度(g)0.23(0.08)*0.40(0.12)
Step time SD(s)0.03(0.01)*0.01(0.01)

*; p<0.05,g ≒ 9.8 m/s2

表5 歩行速度,歩幅,Step time SDによる6MWD,QMVC,平均歩数低下の予測とカットオフ値
変数予測因子AUCカットオフ値感度特異度陽性的中率陰性的中率
6MWD<350m歩行速度(m/s)0.750.9489565789
歩幅(m)0.810.670868670
Step time SD(s)0.860.0471937193
QMVC<120%歩行速度(m/s)0.870.871008080100
歩幅(m)0.940.511008080100
平均歩数<5,000歩/日歩行速度(m/s)0.770.981005050100
歩幅(m)0.820.6379858579

BMI, body mass index; 6MWD, 6-minute walk distance; QMVC, quadriceps isometric maximum voluntary contraction(kg)to BMI(kg/m2)ratio.

また,安定期COPD患者16名(年齢:71±9歳,FEV1:58±20%pred)と健常高齢者26名(年齢:68±7歳)を対象に,3軸加速度計を用いて,10m快適歩行中の歩行の左右対称性(Lissajous Index:LI)(図6)を算出した15.LIを群間で比較し,さらにLIと各種身体機能の指標(SPPB合計点,開眼片足立ち時間,QMVCの体重比,6MWD)との関連を検討した.COPD患者は健常高齢者と比較して,LIが有意に高値を示し,歩行の左右非対称性を有していた.LIは片足立ち時間と有意な負の相関関係(rs=-0.530,p<0.05)を示した.結果から,3軸加速度計を用いた歩行評価はCOPD患者において,簡便な身体機能とバランス,PAのスクリーニングとして有用である可能性が示された.

図6

COPD者と健常者の10m快適歩行試験中の前額面上の加速度推移とリサージュインデックス

a)Lissajous index(LI)の算出はYamaguchi R(2012)の報告に基づき行なった.LIは数値が低いほど前額面上の左右対称性が高く,高いほど左右対称性が低いことを示す.b)COPD者では健常者と比較してLIは有意に高値を示した(p<0.05).*:p<0.05.

研究の限界点と展望

今回報告した研究結果の限界点としては,症例数が不足していること,ほとんどの結果が横断研究による結果であり,因果関係は不明であることが挙げられる.しかし,加速度計機器を用いたPAや歩行の評価は,簡便かつ客観的で詳細な情報を得ることが可能であり,患者負担の軽減や詳細な評価の必要性の判断に有用である.また,介入においても,客観的な数値を用いた明確な目標設定やフィードバックを可能とし,介入効果を高める可能性を秘めている.ただし,加速度計機器の臨床での活用は未だに十分であるとは言えず,機器自体とそれらの活用法の普及に関する活動が必要である.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は2018年度日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞という栄誉ある賞を頂き,誠に嬉しく思います.

私は学部生時代の卒業研究から大学院進学後も,塩谷隆信秋田大学名誉教授の下で主に加速度計機器を用いたPAや歩行に関する研究を行って参りました.学部卒業後は市立秋田総合病院へ入職し,COPD患者を対象にPAと歩行に関する研究に携わっております.今回の研究結果が,COPD患者のPAを維持・向上させる一助となれば幸いです.

このような賞を頂けましたのも,多大なご指導・ご鞭撻を賜りました,塩谷隆信秋田大学名誉教授をはじめ,リハビリテーション科の高橋仁美技師長,リハビリテーション科スタッフの皆様,研究に参加していただいた皆様,いつも支えてくれる家族のおかげであると存じております.この場をお借りして,謹んで御礼申し上げます.今後も呼吸器疾患を有する方の生活が少しでも良い方向へ向かう一助となる研究を行えるよう精進して参ります.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top