The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Special Educational Lecture
Rehabilitation for visceral impairments with special reference to cardiopulmonary disabilities
Masahiro Kohzuki
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 200-205

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要旨

わが国は世界一の超高齢社会である.超高齢社会では重複障害という新たな課題に直面している.その中でも呼吸器機能障害と心臓機能障害のような内部障害の重複が多い.呼吸リハビリテーションと心臓リハビリテーションで共通して得られる改善効果は,運動耐容能,息切れや易疲労感,QOL,筋血流量の増加,筋肉の酸化代謝能,筋力,自律神経機能,血管内皮機能などがある.重複障害時代のリハビリテーションを担うには,各臓器に特異的な問題とともに,脳・心・肺・骨関節などの臓器連関を考慮することが必要である.

本稿では特に呼吸・循環の重複障害を中心にリハビリテーションの意義と注意点に関して概説した.

はじめに

わが国は世界で最も高い高齢化率27.7%という世界一の超高齢社会になった1.超高齢社会では多疾患患者が増えるため,重複障害という新たな課題に直面しており,リハビリテーションの果たす役割はますます大きくなってきている.本稿では特に呼吸・循環の重複障害を中心にリハビリテーションの意義と注意点に関して概説する.

重複障害とリハビリテーション

「重複障害」は視覚障害,聴覚または平衡機能障害,音声・言語または咀嚼機能障害,肢体不自由,内部障害,知的障害,精神障害,高次脳機能障害のうち2つ以上をあわせもつ場合,あるいは,内部障害の中の7つの機能障害である心臓機能障害,腎臓機能障害,肝臓機能障害,呼吸機能障害,膀胱・直腸機能障害,小腸機能障害,ヒト免疫不全ウィルスによる免疫機能障害のうち2つ以上をあわせもつ場合をいう2,3.その中でも呼吸器機能障害と心臓機能障害のような内部障害の重複や,呼吸器機能障害と脳卒中のような内部障害と肢体不自由の合併が多い.

一方,「重複障害リハビリテーション」は,多疾患による重複障害に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,メディカルチェック,臓器連関や障害連関への対応,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムである2,3.重複障害者の特徴とリハビリテーションのポイントを表1に示す2

表1 重複障害者の特徴とリハビリテーションのポイント(文献2)より引用)
1)1つの疾患の治療が他の疾患に影響を与えやすい
 ■臓器障害に関する十分な知識をつけておく
 ■常に臓器連関や全身状態を考慮し,全人的医療を行う
 ■薬剤や食事メニューの変更,栄養状態や脱水の有無などに最新の注意をはらう
2)疾患の病態が多様で個人差が大きい
 ■一人ひとりテーラーメイドされた対応が求められる
 ■重篤な疾患があるのに明瞭な臨床症状を欠くことが多いので,自覚症状の有無を過信しない
 ■体重,血圧,脈拍数,酸素飽和度,心電図,血液生化学検査結果,尿検査結果などを参考にする
 ■運動負荷試験を厳密におこなう
 ■高強度運動よりも低~中強度運動で,時間と頻度を漸増する
 ■認知機能低下,聴覚障害,視覚障害合併例には,大きな声で,はっきり,ゆっくり,丁寧に対応し,教材に工夫をして「わかりやすさ」を徹底する
 ■患者に加えて,家族にも教育を徹底する
3)本来の疾患と直接関係のない合併症を起こしやすい
 ■ウォームアップやクールダウンを長めにとる
 ■運動強度の進行ステップには時間をかける
4) 廃用症候群を合併しやすい
 ■加齢に伴う基礎体力の低下に対して早めにリハビリテーションを開始し,継続する工夫をこらす
5)疾患の完全な治癒は望めないことが多く,いかに自宅・社会復帰させるかが問題となることが多い
 ■完璧なADL改善のために長期間入院を強いるのではなく,入院によりある程度ADLの改善がみられた段階で,在宅でいかにリハビリテーションを継続させるかのシステム作りを行う
6)疾患の発症・予後に医学の要素とともに,心理,社会(環境)の要素がかかわりやすい
 ■心身機能・構造(機能障害)のみならず,健康状態,個人因子,環境因子,活動(能力低下),参加(社会的不利)を考え,それぞれに対応策を練る
7)治療にあたりQOLに対する配慮がより必要となる
 ■インフォームドコンセントを十分行うことはもちろん,患者の現在の生活習慣とその生きがいなどを十分聴取し,さらに,正しいこととできることのギャップを常に念頭において,落とし所を考える
 ■目標を“Adding Life to Years”と” Adding Life to Years and Years to Life”のどちらにするのかを考えた個別プログラムを作成・対処する

このように,重複障害者が今後さらに増加することが確実であり,内部障害リハビリテーションや重複障害リハビリテーションが,呼吸リハビリテーション従事者を含めたリハビリテーション関連職種が精通すべき基本領域になったことを意味している2,4

心臓リハビリテーションと呼吸リハビリテーションのエビデンス

1)心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションは,心血管疾患患者の身体的・心理的・社会的・職業的状態を改善し,基礎にある動脈硬化や心不全の病態の進行を抑制あるいは軽減し,再発・再入院・死亡を減少させ,快適で活動的な生活を実現することをめざして,個々の患者の「医学的評価・運動処方に基づく運動療法・冠危険因子是正・患者教育およびカウンセリング・最適薬物治療」を多職種チームが協調して実践する長期にわたる多面的・包括的プログラムである5.運動療法は心臓リハビリテーションで中心的な役割を担っており,運動耐容能の増加,冠動脈硬化・冠循環の改善,冠危険因子の是正,QOLの改善など,さまざまな身体効果が証明されている(表26.しかもそのエビデンスレベルA,クラスIと極めて高く,様々な循環器疾患の治療ガイドラインに「極めて有効な治療」の1つとして収載されている6.心臓リハビリテーションの適応疾患は,心筋梗塞,狭心症,開心術後に加えて,大血管疾患(大動脈解離,解離性大動脈瘤,大血管術後),慢性心不全,末梢動脈閉塞性疾患,など拡がっている.

表2 心臓リハビリテーション運動療法の身体効果(文献6)より引用)

A:証拠が充分であるもの,B:報告の質は高いが報告数が充分でないもの,CAD:冠動脈疾患

エビデンスレベルA:400 例以上の症例を対象とした複 数の多施設無作為介入臨床試験で実証された,あるいはメタ解析で実証されたもの

エビデンスレベルB:400例以下の症例を対象とした多施設無作為介入臨床試験,良くデザインされた比較検討試験,大規模コホート試験などでで実証されたもの

2)呼吸リハビリテーション

運動療法は呼吸リハビリテーションの中心的な役割を担っており,さまざまな身体効果が証明されている.これまでさまざまな呼吸リハビリテーションのガイドラインが発表されたが,その効果の検討はCOPDを中心に行われてきた.そのエビデンスレベルの変化を表3にまとめた7.2001年のエビデンスはA~Dの4段階で評価され,呼吸困難の軽減,運動耐容能の改善,健康関連QOLの向上,不安と抑うつの軽減,および入院回数と入院日数の減少が最も強いAレベルであった.生存率の改善のエビデンスについては,ACCP/AACVPRではCレベルであったのが,Bレベルにランクが上がった.2011年のGOLDのガイドラインでは,増悪による入院後の回復を促進することがエビデンスBとして加えられ,さらに2013年にはエビデンスAランクに上がり,GOLDのガイドラインのA評価は6項目となっている.

表3 COPDに対する運動療法のエビテンスの変化(文献7)より引用)
ACCP/
AACVPR
(1997年)
GOLD
(2001年)
ACCP/
AACVPR
(2007年)
GOLD
(2011年)
GOLD
(2013年)
下肢のトレーニングA1A
上肢のトレーニングBB1ABB
呼吸筋トレーニングBC1B*CC
呼吸困難改善AA1AAA
運動耐容能改善AAAA
健康関連QOL改善BA1AAA
抗うつ・不安の改善AAA
入院回数と入院日数の減少BA2BAA
増悪による入院後の回復BA
生存率改善CBBB
*  吸気筋トレーニングをルーチンに行うことは支持しない.

エビデンスの強さ A:高い, B:中等度, C:弱い. 推奨レベル 1:高い,2:低い.

重複障害と廃用症候群

重複障害者や高齢者は総じてもともとの運動耐容能が低いため,廃用症候群の影響をとくに受けやすく,数日の臥床継続で起立困難となることは珍しくない.重複障害患者ではとくに早期にリハビリテーション介入を行い,廃用症候群にならないようにすることが重要である4.廃用症候群は,廃用,すなわち安静臥床や不活動状態が持続することにより引き起こされる病的状態の総称である.廃用症候群には,筋萎縮,骨萎縮,起立性低血圧,運動能力の低下をはじめとして種々の症候が含まれる(表44

表4 低活動によって引き起こされる身体諸器官における廃用症候群(文献4)より引用)
1 筋肉筋萎縮,筋力低下(1日2%,月50%),酸素摂取能低下
2 関節腱・靭帯・関節包の硬化・拘縮・屈伸性低下
3 骨骨粗鬆症,易骨折
4 心臓心筋萎縮,心収縮力低下,心拍出量低下,心負荷予備力低下
5 血管毛細管/組織比の低下,循環不全,浮腫,褥瘡
6 血液・体液血液量減少,貧血,低タンパク
7 内分泌・代謝ホルモン分泌低下,易感染,肥満,カルシウムバランス負,インスリン抵抗性の増悪,脂質異常症
8 呼吸器呼吸筋萎縮,無気肺,肺炎,換気血流不均等
9 腎・尿路腎血流減少,感染,結石,失禁
10 消化器消化液減少,吸収不全,便秘
11 神経・精神心理平衡感覚低下,認知症,幻覚,妄想,不安,不眠,うつ状態,QOL低下,起立性低血圧

一般的に,低体力者ほどリハビリテーション効果が大きく出やすいので,特にリハビリテーションがそれまできちんと行われてこなかった重複障害者ほど,リハビリテーションの効果が大きく出る可能性が高い.筆者らは,本邦初の脳死肺移植症例の術前および術後1年間の経過を報告しているが,肺機能の改善だけでは運動時の在宅酸素使用を中止できず,下肢を中心とした全身持久力トレーニングを行うことで酸素中止を成功できた8.また,肺移植待機患者に下肢を中心とした全身持久力トレーニングを行うことで,肺移植を一時回避できた症例も経験している9.これらは,呼吸機能障害に重度のフレイルが加わっていたものの,リハビリテーションがその改善に大きな効果を発揮した典型例である.

心臓リハビリテーションと呼吸リハビリテーションの相違点,類似点

COPD患者に対する呼吸リハビリテーションと心不全患者に対する心臓リハビリテーションで共通して得られる効果を表5に示す10.呼吸リハビリテーションと心臓リハビリテーションで共通して得られる改善効果は,運動耐容能,息切れや易疲労感,QOL,筋血流量の増加,筋肉の酸化代謝能,筋力,自律神経機能,血管内皮機能などがある.COPD患者のリハビリテーションでは,「下肢を中心とした運動療法」を行う比率をできるだけ高めるようにしないと,運動療法の効果をあまり期待できない11.この点は,心臓リハビリテーションでも同様である.

表5 COPD患者に対する呼吸リハビリテーションと心不全患者に対する心臓リハビリテーションで共通して得られる効果(文献10)を一部改変)
1.運動耐容能の改善
2.息切れや易疲労感の改善
3.QOLの改善
4.筋血流量の増加
5.筋肉の酸化代謝能の改善
6.筋力増強
7.自律神経機能の改善
8.血管内皮機能の改善

COPDのリハビリテーションにおける運動療法の際には,胸痛,動悸,疲労,めまいなどの自覚症状や,SpO2が90%未満,あるいは年齢別最大心拍数が85%,呼吸困難感が修正Borgスケールで「7(とても強い)~9(非常に強いの少し前)」になったら運動を中止する必要がある11.この点は,「楽である~ややきつい」強度で行う心臓リハビリテーションとは大きく異なる.

COPD患者や心疾患患者では,運動療法だけでは,禁煙効果はほとんどないため教育が必要である.教育は呼吸リハビリテーションや心臓リハビリテーションの必須要素であり,教育内容には自己管理や病状悪化の予防と治療に関する情報を含める12.また,減塩や適切な摂取カロリー量などの食事療法も呼吸リハビリテーションや心臓リハビリテーションの重要な因子となっている.また,運動時の息切れなどによりうつ状態になるため心理的ケアが必要となることがある.このように,呼吸リハビリテーションや心臓リハビリテーションでは運動療法のみならず,多要素的に包括的リハビリテーションとして行われる必要がある.

呼吸・循環の重複障害を有する患者に対するリハビリテーションの進め方

COPD患者は心臓機能障害を合併する場合が少なくない.Incalziらは,COPD患者の27%に冠動脈疾患,25%に慢性心不全を合併していたと報告している13.また,Griffoらは,COPDの12%に慢性心不全を合併し,慢性心不全患者の32%にCOPDを合併していたと報告している14

Beenocchiらは,心不全にCOPDを合併した高齢患者に対する4カ月にわたるリハビリテーションによる対照群との無作為比較試験により,リハビリテーション介入群では対照群に比較して,有意に運動耐容能,QOLが改善し,再入院例数+死亡例数を減少させたことを報告している15.リハビリテーションにおいては,当然“生活の質や生活機能の改善(Adding Life to Years)”を優先して考えるべきであることは論を待たない.しかし,内部障害者や重複障害者など対象によっては,リハビリテーションによってP-ADL16などの改善で示される“Adding Life to Years”のみならず“生命予後の延長(Adding Years to Life)” も達成できる事実も認識すべきである(図117

図1

新しいリハビリテーション医療のパラダイムシフト(文献17)を改変)

運動療法はFITT,すなわちF(Frequency:運動の頻度),I(Intensity:運動の強度),T(Time(duration):1回の運動時間,期間),T(Type:運動の種類)を考慮した運動処方に基づいて行われる.COPDの運動療法は心不全の運動療法と相反するものではない.ただし,その際には心不全の運動療法の中止基準に従い幾分マイルドな運動にとどめる必要がある2

COPD患者や心不全患者の生命予後は,退院後いかに活動的であるかで決まる18.厳密には,最大酸素摂取量が,年齢,BMI,心機能,呼吸機能,腎機能などよりも大きな決定因子であり(図2),最大酸素摂取量自体は,心臓,肺,腎臓,筋肉,血液の5因子の総合的な機能で規定される(図319,20.つまり,リハビリテーションで得られた効果は在宅でも長続きしなければならない.重複障害患者は高齢の場合が多く,長年の人生から得た生活習慣に執着し,新たな指導になじめない場合も少なくない.リハビリテーションプログラムは患者や医療者の願望に極端に左右されることなく,患者の状態や環境などを考慮した現実的なものでなければならない.つまり,患者自身あるいは患者と家族が自立・継続してリハビリテーションを行えるように,無理のないメニューにすること,最低限何が必要かを的確に患者や家族に伝えること,患者があきらめない内容にすることが必要である4.その上で重要なことは,スタッフの熱意と患者さんの行動に対する賞賛である2

図2

ヒトの寿命は何で決まりますか?

図3

運動耐容能(最大酸素摂取量)に影響を与える5つの因子(心,肺,腎,筋,血液)(文献19,20)より引用)

おわりに

呼吸・循環障害など重複障害患者に対するリハビリテーション従事者は,臓器連関や内部障害リハビリテーションなどの知識と経験を有する必要があるとともに,多くのリハビリテーション関連職種や他分野と連携が重要である.自らが幅広い視野を持つとともに,患者の長期予後の改善を見据えた対応が期待されている.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

上月正博;講演料(協和発酵キリン,中外製薬),原稿料(医歯薬出版,医学書院),研究費・助成金(科研費),奨学(奨励)寄付(健育会)

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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