The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Educational Lecture
Medical care to accompany aging in place
Hiroko Utsunomiya
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 212-216

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要旨

疾病の構造・概念も大きく変化し,病院という環境下で治療し,治癒を目指してきた20世紀の医療から,高齢少子化の時代は,治癒しない病気や,加齢に伴う晩期退行性病変と呼ばれる認知症を抱えながら,生きていく事に伴走し,暮らしを支える医療への転換が求められている.

病院から在宅療養への移行支援を,実践値をもとに,可視化した3段階のプロセス,そして,病院機能・規模に応じて院内・地域支援者との早期から連携・協働について紹介する.

Aging in place(本人が望む場所で,暮らし・生活が継続できて,その延長線で人生の最期を迎えることができる)を実現するために,病院に求められる退院支援・外来での在宅療養支援とは,どのようなことなのか.そして,病気・患者の状況から,大事な分岐点に,一歩先を予測してこれからのことへ備え,心づもりをする.ACPは,主語は患者自身であるが,一緒に考える場を作り,地域支援者とともに,思いをつなぎ,紡いでいく事であると考えている.

はじめに

我が国は,世界に類を見ないスピードで超高齢社会を迎えている.

病院という場所で,医療を提供して,治癒を目指してきた20世紀の医療から,転換が求められている.治す医療から,治し支える医療へ転換する.それは,病院という箱から,地域,暮らしの場へと,生活の場所に,必要な医療・看護・ケア・リハビリが提供されることで,生活を継続し,その延長線で人生の最期を迎えることまでを支えていく.

地域包括ケアシステムが目指す社会は,「尊厳の保持」と「自立生活の支援」の理念のもと,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることである.

2012年,独立起業してから,目指す社会のために,日本のあちこちの地域で,研修会や事業アドバイザーとして活動している.

退院支援は,人生の再構築を支援すること

退院支援は人生の再構築を支援すること.退院支援が必要になる患者は,入院医療を受けたけれど,入院前とは,生活・暮らしが変わる人,医療処置や管理が退院後も必要で,暮らしの場に医療のサポートがないと暮らせない人たちである.

これまで医療機関では,メディカルソーシャルワーカー(以下MSW)が,様々な相談援助の一つとして,退院困難になった患者への転院調整や,社会保障制度を活用しながら,退院調整をおこなっていた.

しかし,前職で,MSWとともに取り組んでいく中で,患者が,外来・入院早期から,自分のからだに起きていることを知る,そして,折り合いをつけながら,住み慣れた地域,暮らしの場へ帰ろうと,患者が受けとめ,(意思決定支援),その上で,最大限に残存能力を引き出し(自立支援),在宅医療やケアサポート,生活支援を整えていくこと(在宅療養コーディネート)が,提供されることが,可能になること.そして,急性期病棟でも提供できるように仕組み・教育が必要であると考え,看護部を中心に取り組んできた.

2002年着任当初,福祉の専門家であるMSWが,支援を行いやすいと感じている病棟看護師チームが,神経内科病棟,消化器外科病棟であった.病棟看護師たちの看護記録・医師やリハビリの記録から,退院支援に関連する看護・支援を時間軸で整理していく中で,在宅療養コーディネートの前に,「疾患の軌道に沿った医療・看護,そして意思決定支援」が丁寧に実践されていること,病棟チームとして,方向性が見えないときに,第3者の立場である退院調整部門に適時に相談をして,協働する姿があった.実践値から支援を可視化し,3段階システムが誕生したのである.

退院支援(意思決定支援と自立支援)という大きな概念の一部に,退院調整(在宅療養コーディネート)を位置づけることで,外来・病棟,そして調整部門がチームで支援するというシステム構築(カンファレンス・電子カルテ・看護記録の整備),そして実践につながる教育システムを看護部教育担当者とともに開始していった.

語らない患者意思決定支援の3つの視点

在宅の現場や,病院において,医師からの病状説明(医学的判断)場面が,意思決定支援を行うための,重要な分岐点になる.過去の本人の意思表明はあったのか,これまでの本人の価値観や,医療との向き合い方,死生観等もかんがみながら,未来の姿がどうなることが,本人の意向にそえるのか?医師からの説明を受けて,本人に関わる支援者があつまり,本人にとってどうあることがより良きことかを,話し合い,方向性を共有していく.

治療方針を決める場面や,退院に向けた多職種カンファレンス,(院内・地域関係者),在宅でのサービス担当者会議といった現場で,ACP的なアプローチの場を意識的に持つことである.

しかし,病院では,患者は語らない.医療者の意識も問題もあるが,患者自身,「病院では,自分の事は話してはいけない.わがまま言ってはいけない」と思ってしまう.

「先生の話を聴いて,いかがでしたか?〇〇さんが,考えている事,こうしたいと思われている事,聴かせてください」と,看護師やMSW等が,病状説明の後で,ゆっくり話を聴くなど,工夫はできているだろうか?すでに病気を持ちながら療養していた患者の場合,入院する前に,在宅支援チームや施設関係者と,どのような方向性を共有できていたのだろうかと,悩む緊急搬送高齢者が増えていないだろうか?

西川ら※は,意思決定支援をするうえで考慮しなければならいない視点は,「患者の意思」「医学的判断」「家族の意向」の3点であると述べている1

また,「患者の意思」は,時間軸でとらえ「過去」「現在」「未来」の順に考え,患者の意思を最優先とし,医学的判断,家族の意向にも配慮しながら,「最善の医療とケア」は何かを,患者・家族も含めたチームで話し合いを繰り返していく.救急搬送時は,本人が意思表明できない事も多く,家族やそれまでの支援者に,代理決定を求めてしまうが,それまでの本人の思いや,ライフレビューを家族や支援者とともに行い,「本人はどう願うだろうか」と「推定意思」を皆で話し合って,すり合わせ(合意形成)を行うことである.

意思表明できなくなる時に備えて(アドバンス),長い信頼関係の中で,患者が,いずれ訪れる終末期に望む場所で穏やかに過ごす事ができるよう,疾患や病態ごとの終末期の軌道を考え,早い時期からの本人の意思を確認し始める事が重要である.自宅・病院・介護施設,あらゆる場面で,病気や老いのプロセスで,最期の時までをどう生きるか,生きたいかという事を,それぞれの立ち位置にいる専門職が,本人,家族に寄り添いながら,投げかけ,一緒に考えるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の場を持ち,療養場所が変わっても,継続して支援していくことが,「本人の願いを遮断しない医療・ケアの選択」につながると考えている.

大事な4つの場面の連携・協働

高齢者の占める割合が着実に増えている.若年患者と違い,入院環境によりADLが低下しやすく,認知症の発生率が高い高齢者にとって入院環境は,非日常であり,デメリットが大きい.治療と同時に暮らしを取り戻すリハビリ・ケアが要である.そして,病気や障害と付き合いながらも,aging in placeを実現するためには,一つの病院だけでは不可能である.

日常の療養時(普段の外来),入退院時,急変時そして,看取り期の4つの場面において,医療関係者とケアマネジャーを含む在宅支援チームとの連携・協働が必要である.また入退院時には,退院直後も含まれている.非日常の病院ではなく,暮らしの場である在宅や住まいの空間で集中的にリハビリ・看護・ケアが提供されることで,「安定在宅着地」を目指す移行期ケア実践して欲しい.病気の節目や老いの経過には,大事な分岐点がある.疾患の軌道の節目,入退院支援の時期,そしてエンドオブライフ期である.適時・適切なIC(インフォームドコンセント)に,ちょっと先を見据えた心づもり(ACP)について話し始めていく.医師からの疾患レビューと,看護師等多職種とともに,生活しやすさ,住まい方の工夫をしながら,どこで暮らし続けるかを,本人と共に一緒に考えていく.必要な療養指導や生活支援,暮らし方の再構築を在宅支援チームと協働しながら進めていく事が,望む暮らしの場で生ききることを可能にできるのではないか.

退院支援・退院調整のプロセスのポイント

退院支援の過程の大事なポイントを紹介する.

退院支援とは,患者が自分の病気や障害を理解,受けとめ(折り合いをつけながら),どのような生活を送るか,どこで療養するのかを,自己決定するための支援

(受容支援・自立支援)⇒意思決定支援

退院支援の過程の中に,退院調整がある.患者の自己決定(願い)を実現するために,患者,家族の意向もふまえ,必要な環境,ヒト,モノを,社会保障制度や社会資源へつなぐ在宅療養へのコーディネートである2

第1段階は,入院患者の中から退院支援が必要になる患者をアセスメントする時期である.

入院早期に,必要性が見える患者ばかりではなく,継続してチームでアセスメントしていく.これまでの暮らし,病気との向き合い方などを知ることが目的であるが,入院時の患者・家族の状況(病状だけではなく,気持ちの面でも)を配慮していく.骨折・脳血管障害等の場合,住環境も合わせて聞いていくが,リハビリチームとも共有していく.

がん・慢性疾患(糖尿病・呼吸器疾患・難病等)は病気をどう聞いて,どう受けとめたのだろうか.病いと向き合って,どのような思いで生活していたのか,思いを語れる空間の工夫,対話ができるように配慮していく.

第2段階は,医療チーム間,患者・家族と方向性を共有し,在宅移行に向けたチームアプローチの場面である.主に多職種カンファレンスという方法で実践するが,普段から多職種で情報共有し,方向性が共有できるようなチーム作りが必須となる.

現在,医療機関では,急性期病棟でさえ,多くのカンファレンスが開催されている.リハビリカンファ,緩和ケアチームカンファ,NST,認知症ケアカンファ,もちろん毎日看護師チームカンファも開催している.一人の患者のケアプロセス全体を共有し,方向性を検討するのが退院支援カンファレンスである. 病棟看護師を中心に,退院後の生活を見据えて,下記の二つの視点でアセスメントを行い,患者・家族や,在宅支援チームであるケアマネジャーや訪問看護師へと継続して実践できるようにチームアプローチを行う.

医療情報から考える医療・看護上の視点,ADL・IADLから考える生活・ケア上の視点に整理してマネジメントを展開する事で,第3段階(退院調整)で,必要になる社会資源についてもイメージしやすくなる3

●病状・病態から考えられる医療上の検討課題

①病状確認,治療状況,今後の予測

②本人・家族への説明内容,どう理解しているか,どう受け止めているか

⇒疾患理解・受容にずれがあったり,方向性が共有できていない場合,病状説明の場を設定し,意思決定支援が必要である

適切・適時なIC設定と意思決定支援が重要な分岐点で,可能な限りそれまでの在宅支援者が同席できるような工夫をしていく.在宅支援者と医学的状況判断を共有し,方向性検討する場面にしていく.病気や老いによる人生最終段階に近いと判断される場合(エンドオブライフ期),は,本人・家族の意向も踏まえ,看取りに向けた支援が必要である.

③退院後継続する医療管理,医療処置

自己管理できる方法,生活の場で継続可能な方法へアレンジする.

④本人への指導,在宅医療(訪問看護・在宅医)へサポート依頼を行う.

退院支援担当者が主導し,病棟医療チーム(医師・看護師・薬剤師・栄養士等)と協働する.

❶患者・家族への教育・指導~服薬・療養生活・医療処置など

❷生活の場で実施可能なシンプルケア~投薬の簡素化・カテーテル抜去など

❸症状緩和ができているか

❹在宅医・訪問看護の必要性判断

❺現実と希望のすり合わせ(合意形成)

●ADL・IDLから考えられる生活・ケア上の検討課題

i食事/ii排泄・排尿・排便/iii移動に介助要/iv保清/v家屋評価の視点でアセスメント

入院前の状態⇒現在の状態⇒退院時にめざせる状態を,時系列にマネジメントする.

排泄・食事・保清(入浴)・移乗,移動は,自宅環境をイメージしてリハビリスタッフと早期から協働していく.

退院支援は,究極のチーム医療であると考えている.院内にとどまらず,在宅支援者も含め,チームで継続して,マネジメントする.そして,退院は終わりではなく,患者にとっては,生活が再開することである.退院後,集中的に医療・ケア・リハビリが提供されることで,在宅療養への安定着地を目指す.特に医療依存度が高い患者に対して,在宅療養や訪問看護師への連携を目的に,病院看護師が自宅へ訪問することを評価した「退院後訪問指導料:580点」を活用していく.入院中の看護・ケア計画を退院後2,3週間までを視野に入れて,退院直後を支える.

ある地方の病院では,特別養護老人ホームからの褥瘡患者に対して,病棟看護師やWOCナースが,施設へ出向き,ケアワーカーや,特養看護職に,処置方法を指導するだけではなく,限られた資源(マットの種類や衛生材料)で,ケアを提供する方法を一緒に考え,ケアを提供し,看護・ケアの質を上げる事にも貢献している.

外来で行う在宅療養支援

看護師が退院支援・退院調整に取り組み始めた医療機関では,入院する前の暮らし続けるための予防・重度化予防のための看護や,早い段階での意思決定支援ができていない事に気づく.

退院支援ではなく,外来通院時から今の暮らしを継続できるように支援すれば,入院回避につながる.

支援が必要な分岐点は,病気がわかった診断時,告知の時,治療過程,その過程で,生活・暮らし方を再構築していく場面(食べる事や排泄の方法等),そして,エンド・オブ・ライフ期,最期をどこで,どう生きるかを考え始める時期である.

高齢者の在宅療養のキーマンになる介護支援専門員(ケアマネジャー)が福祉系専門職であることからも,診療所・病院,そして訪問看護や地域の看護職が,キュアとケアのマネジメントを行い,ケアマネジャーへ発信し,協働していく必要がある.

今後は,病院外来看護師,そして診療所看護師の果たす役割が大きいと私は考えている.

外来通院時の医師による「疾患レビュー」と,看護師による「生活療養支援」の実践が,悪化・重度化予防につながり,ケアマネジャーと協働する事でケアプランの調整や変更につなげていく.

そして人生最終段階(エンド・オブ・ライフ期)に向けて,患者・家族への合意形成,心構えを支援し,適切な時期に訪問看護導入,在宅医療への移行を支援していく.

おわりに

退院支援は,目の前にいる患者を,人生という物語を生きる人として捉え,疾患の軌道,そして老いによる変化も踏まえて,必要な医療・ケアを考え,コーディネートすることと,何より重要なことは「これからをどう生きるか,どこで,誰とどんな暮らしを続けていくか」,人生の再構築を支援することであると確信し,普及活動を続けている.

そして,それは,本来,入院・退院という場面だけではなく,地域で暮らしている時期,外来通院時から,生活・暮らしを整え,一歩先を予測して,心構え・心づもりを患者・家族とともにすり合わせていくことへと進化する時代がきているのではないか?

退院支援から,在宅療養支援へ.ケアをつなぎ,意思決定を地域で支えていこう.

著者の COI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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