2019 Volume 28 Issue 2 Pages 217-222
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の身体活動性に対し,客観性の高い加速度計を用いて評価しその向上を目指すことは,患者管理の上で重要である.しかし,評価を行う上でいくつかの注意を払うべき点が存在する.まず,加速度計非装着状態のデータの除外,雨天の日の除外,最低必要解析日数を確保しデータの再現性を高める必要がある.次に,種類別活動時間,強度別活動時間,平均活動強度,歩数等,身体活動性の指標毎の差異についても考慮すべきである.また,身体活動性改善のためには,薬剤,呼吸リハビリテーション,モチベーション向上などを組み合わせた複合的介入が重要である.さらに,新たな指標としてのSedentary時間(座位相当時間)にも着目し,その短縮を目指す努力も必要である.これらの点に注意することで,より精度の高い身体活動性評価が可能になり,医療介入の身体活動性改善効果をより正確に評価しうると考えられる.
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において,身体活動性の低い患者では予後が有意に不良であり1,2,3),COPD死亡の最大の危険因子とも報告されている(図1)2).したがって,身体活動性を維持・向上させることはきわめて重要な管理目標のひとつとされている.身体活動性の評価方法はまだ確立されているとはいえないが,再現性のある評価に基づき,医療介入による改善効果の評価を行うことが重要である.身体活動性の評価には,従来質問票が用いられていたが過大評価する欠点が指摘されており4),近年では客観性の高い歩数計や加速度計,中でもより精度の高い3軸加速度計を用いた評価の報告が増加している.しかし,3軸加速度計による評価法には,いくつかの注意を払うべき点が存在する.本稿では,データの再現性確保,身体活動性の指標の差異,医療介入の方法,座位相当時間の4点を取り上げ,それぞれの重要性について近年の報告に基づき解説する.
COPD死亡の予測因子
身体活動レベルは,COPD死亡の最も重要な危険因子である.文献2)より引用.
身体活動性の評価法として従来頻用されてきた質問票は,概して過大評価する傾向があり,信頼性の低さが示されている.これに対し,近年では歩数計や加速度計などによる客観的評価法が用いられるようになってきている.しかし,客観的測定方法を用いても,計測されたデータを適切に扱わなければ再現性の乏しい結果となる危険性が含まれている.実際,加速度計を用いて身体活動性を数日間測定すると,身体活動性は日により大きなばらつきがみられる.日常生活の中で,気分や他の因子による活動性の変動は当然生じうるが,記録された値が真に被験者の身体活動性を反映したものかどうかの検証が必要である.すなわち,得られた値から再現性のある代表的な値を抽出する必要がある.これには,加速度計非装着データの処理,天候や季節の影響の対応,最低必要日数の決定などを行う必要がある.
まず,最大の注意点は,患者が加速度計を指示通り装着していたかどうかの問題である.どんなに客観性の高い機種を用いたとしても,患者が加速度計を装着していなければ,あたかも全く活動していないような値が得られてしまい,本来の患者の身体活動性を誤って評価してしまう.近年加速度計を用いたCOPDの身体活動性に関する報告数が急速に増加してきているが,既報告論文の88%は非装着の状態を考慮されていないと報告されており5),従来のデータの信頼性がまだまだ高くない可能性が考えられる.現存の加速度計では,安静座位の時のエネルギー消費量を1.0 metabolic equivalents(METs)とし,それに対する相対的強度で様々な活動の強度を表すことが多い.その結果,何らかの活動を行っている場合は 1.0 METs以上の値として記録される.しかし,逆に1.0 METs未満の状態,すなわち臥位やリクライニングでの安静状態では記録上 0 METsと表示される.測定の結果 0 METsの値が得られた場合,実際に 1.0 METs未満の状態で過ごしているのか加速度計非装着なのかの厳密な区別は困難となってしまう.これに対し,実際に行われている対策方法としては,0 METsの時間が60分あるいは90分間連続した場合を非測着と判断する方法や6),1.0 METs以上の記録が8あるいは10時時間未満の場合は非装着時間が長いと判断する方法が用いられている7).いずれも決して完全な方法ではないものの,少なくとも何らかの形での非装着データの除外処理が必要と考えられる.
天候も身体活動性に大きな影響を及ぼしうる.雨天の日では身体活動性が低下していることから(図2)8,9),雨天を除いたデータを抽出することで,天候の影響を受けない再現性のあるデータ抽出が可能と考えられる.その他,季節や大気汚染なども活動性に影響を及ぼしうるが10,11),これらの影響をどのように処理すべきかについては,今後さらなる検討が必要である.
身体活動性に対する天候の影響
雨天の日では雨天以外の日に比べ,身体活動時間は有意に短縮している.METs: metabolic equivalents.文献9)より引用.
計測日数に関しては,少なくとも2~7日間のデータが必要との報告が多く,我々の検討では,加速度計の種類により多少の差はあるものの,2.0 METs以上の時間の評価には2日以上,3.0 METs以上の評価には3日以上のデータを解析することで反復性のあるデータが得られることを確認している8,9).このように,再現性確保のために,得られたデータのブラッシュアップの処理が必要と考えられる.
加速度計には,主に活動種類別時間を測定する機種と活動強度別時間を測定する機種とが存在する.種類別時間の評価機種では,臥位,座位,立位,歩行など毎の時間が指標となるが,COPD患者では,立位や歩行時間が有意に短縮し,座位や臥位の時間が有意に延長している12).一方,強度別時間の評価機種では,METsあるいはvector magnitude unit(VMU)などを単位とする活動強度毎の活動時間が指標となるが,COPD患者ではいずれの強度においても,活動時間が健常者より有意に短縮しており(図3),例えば 3.0 METs(健康成人の平均歩行速度である 4 km/hrでの平地歩行時の活動強度)以上の強度の活動時間は,健常者の約半分に短縮している13).その他,1日平均活動強度や総歩数なども指標として用いられているが,いずれもCOPD患者では健常者より有意に低下している.
COPD患者の強度別活動時間
いずれの強度においても,COPD患者では健常者に比べ活動時間は短縮している.METs: metabolic equivalents.文献13)より引用.
このように,いずれの指標を用いてもCOPD患者では健常者に比べ身体活動性の低下は確認できるが,指標間の差異については考慮しておく必要がある.例えば,活動種類別時間と活動強度別時間を比較すると,安静座位が 1.0 METs,座位が 1.0~1.5 METs,立位が 1.5~2.0 METs,歩行はほぼ 2.0 METs以上の強度となるが,座位や立位でも四肢の比較的強い活動を伴うと活動強度はこれらの範囲より高くなる.さらに,歩数と活動強度別時間や平均活動強度を比較すると,たとえ同じ歩数でも,速度の早い歩行の場合と緩徐な歩行の場合では,強度別活動時間や平均活動強度は大きく異なることになる(図4).従来の報告では,報告により指標は様々であり,指標毎の意味合いの差異についても考慮したうえで結果を評価することも重要であると考える.
身体活動性の指標の関係図
活動種類別時間,活動強度別時間,平均活動強度,歩数の4指標の相互関係.METs: metabolic equivalents.
気管支拡張薬の身体活動性に対する効果は,報告により様々で,有効性の結論は得られていない.我々は,気管支拡張薬追加投与前後での身体活動性の変化に対し,天候や必要測定日数を加味して評価したところ,比較的高い強度(3.0 METs以上, 3.5 METs以上)の活動において改善効果が認められることを確認している(図5)14).さらに,チオトロピウム/オロダテロール配合剤とチオトロピウム単剤各6週間投与を二重盲検クロスオーバー様式の多施設共同研究を実施し,各期間最後の2週間の加速度計による身体活動性の平均値を比較した結果,身体活動性には有意な差はみられなかった.しかし,サブ解析において,非装着の多いデータの除去作業を加え,有効データが2日未満の患者は除外してデータ再現性を高めた場合,2.0 METs以上の活動時間において,配合剤で有意な活動時間の延長が確認されている(図6)7).
気管支拡張薬投与前後での身体活動時間
3.0 METs以上,3.5 METs以上の強度において,気管支拡張薬により身体活動時間は有意な延長を示す.文献14)より引用.
LAMA単剤とLAMA/LABA配合剤の身体活動性改善効果
A:2週間のデータの平均値を使用.B:2週間のデータのうち 0 METsの時間が8時間未満の日を除き,有効データが1日分のみの患者は除外し,有効データのみの平均値を使用.全データでは有意差はみられないが,有効データのみを使用するとLAMA/LABA配合剤ではLAMA単剤より 2.0 METs以上の活動時間の有意な延長を示す.LAMA:長時間作用型抗コリン薬,LABA:長時間作用性β2刺激薬,Tio:チオトロピウム,Olo:オロダテロール,METs: metabolic equivalents.文献7)より作図
呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の身体活動性に対する効果も結論には至っていない.しかし,気管支拡張薬と呼吸リハの併用により身体活動性が向上した報告もみられる15).さらに,都市観光マップの提供により1年後の歩行時間が著明に増加した報告16)や,歩数計を提供して自己記録を促すことで歩数が有意に増加した報告17)など,モチベーションを向上させる工夫によりCOPDの身体活動性が向上する報告もみられている.すなわち,身体活動性の向上には,薬剤,呼吸リハ,モチベーション向上等,複合的な介入が重要であることが示唆されている(図7)18).
身体活動性向上に向けた取り組み概念
薬物療法,運動トレーニング,モチベーション向上,環境整備等複合的介入が重要である.文献18)より引用.
近年,覚醒時のエネルギー消費量が 1.5 METs以下の活動(座位相当の活動,Sedentary behavior)が注目され,実際には,1.0~1.5 METsの時間として抽出される.これは,年齢,呼吸機能,運動耐容能,中等度以上の強度の活動時間に関わらず,座位相当時間の長い患者では有意に予後が不良である報告にもとづき(図8)19),これまで主として用いられてきた 3.0 METs以上の活動時間とは独立したCOPD死亡の危険因子であることが示されたためである.しかも,高強度の活動で歩数を増やすよりも低強度の活動で歩数を増やす方が,COPD患者の入院の危険度が低いことも報告されている20).すなわち,座位の時間を極力短縮させ少しでも立位や緩徐な歩行の動作を行うことの重要性が示唆されている.18歳以上の成人に対する活動性向上に対する介入の効果に関するメタ解析において,比較的強度の活動増加を目指した介入では有意な効果が示されないのに対し,座位相当時間の短縮に対する介入では有意な改善効果が示されており21),座位時間短縮の指導の方が改善は得られやすい可能性も考えられる.したがって,COPD患者に対する座位相当時間を短縮させる指導は,今後重要となっていく可能性が示唆される.
Sedentary時間と生存率
性別,年齢,BMI,教育レベル,%FEV1,6MWD,3.0 METs以上の活動時間で補正後,sedentary時間の長いCOPD患者では生存率は有意に低値である.文献19)より引用.
COPDの身体活動性評価のための加速度計使用のポイントと介入時の着目点を概説した.加速度計で得られたデータは,再現性を高める処理が必要であり,活動性の指標の差異にも注目する必要がある.医療介入には薬剤,呼吸リハ,モチベーション向上を含め複合的介入が必要で,高強度の活動増加のみではなく座位相当時間の短縮にも注目して介入をおこなうことも重要である.今後,COPD患者の身体活動性向上のための有効な介入法が開発され,ひいては予後の改善がもたらされることを期待する.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.