2019 Volume 28 Issue 2 Pages 224-229
COPDはいまやCommon diseaseであるため,COPD呼吸ケアに長けた医師やチームが担当するわけではない.ガイドラインが出版されても診断されなければ,適切な気管支拡張薬も呼吸リハビリテーションも処方されず,呼吸器悪液質に陥ってしまった患者に出会う.また診断されてもCOPDの多様性ゆえ病像は複雑で,生活の場で実際伴走し多職種で関わるからこそ把握でき,多面的にケアできれば,呼吸困難なく活動性高く,質の高い生活が可能となる.急性増悪は呼吸機能,QOL,生命予後を低下させる.急性増悪を回避させることこそ最優先に行うべきことである.急性増悪は日常生活の中で起こる.だから生活の場にいき伴走し急性増悪のパターンを把握し,早期発見早期介入すれば回避できるのだ.そして患者自らがセルフマネジメントできるまでに育てること,ここが在宅呼吸ケア・リハビリテーションのゴールである.
COPDの急性期に占める医療費は実に慢性期の4.5倍と言われる1).COPD急性増悪の頻度が高い群では生存率が有意に低く2),一秒量の低下が有意に大きい3)という報告もあり,急性増悪の回避に最大の力を注ぐべきである.しかし,急性増悪してやってくる患者を診ていた病院勤務時代は,COPD急性増悪の回数が多い群は1年後も2年後も急性増悪を頻回に繰り返す4)という論文が示すごとく,重症だから急性増悪を繰り返し起こすのはしかたないと思っていた.しかし,急性増悪を繰り返すと言うことは,急性増悪を起こす原因が解決されていないと言うことである.訪問診療を行うようになり,患者の日常生活の場に行き,多職種で日常を伴走して,初めて急性増悪に至る一歩手前で早期発見し早期介入でき,急性増悪を繰り返さなくなり,慢性期が安定化できることが分かった5)(図1).患者は呼吸困難を感じずに有効な呼吸リハビリテーションが行え,栄養療法も併用し筋肉が増え,重症COPDでも高負荷な運動療法が可能となり,身体活動性高く生活しえている.今後喫煙率が高い団塊の世代の高齢化で,COPD急性増悪の患者が救急外来に押し寄せ,病院機能も麻痺するのではないかと懸念されている.患者サイドからすれば,すぐ急性増悪を起こすような病状では安心して在宅療養はできないし,入退院を繰り返していれば,入院の度に筋肉が弱りADLが低下してしまう.患者の呼吸困難はまさに溺れるほどで,救急車を呼び,救急外来に決死の覚悟でやってくる.しかし「SpO2 98%,採血結果ではCRPもWBCも問題なし.胸部単純X線で肺炎,気胸もありません.特に問題ないので,家に帰っていいですよ.」患者は病院に来たという安心感で呼吸回数が減り,動的肺過膨張が少し改善し,少し楽になったと自覚でき家に帰る.でも翌日少し動いたら,また苦しくなった.自分でどうやっても苦しさが治らない.救急車を呼んで,また病院へ.「昨日も来た患者さんだ.SABA(短時間作用性β2刺激薬)+喀痰溶解剤の吸入をしましょう.」患者も楽になり帰宅.翌日は,低気圧の接近で肺内の空気が少し膨らみ,気道の閉塞が強まる.エアートラッピング,少し動いただけで苦しくて頻呼吸,自分の呼吸で動的肺過膨張,口すぼめ呼吸しても苦しさがとれない.不安,さらに頻呼吸,もっと動的肺過膨張強まる,救急車で救急外来へ.「また来た.採血しても,ECG,胸部単純X線,胸部CTまで撮影しましたが,特に変化はないし,自宅に帰りましょう.」あまりにも不憫である(図2).救急外来受診までの経過を文章で描くからこそ,病態の変化が分かるが,患者にとっては突然襲われる呼吸困難に,死の恐怖に苛まれ,救急車を呼ぶことを責めることはできない.まさに病院依存型の生活となる.これでは喫煙率の高い団塊の世代の高齢化で,COPD急性増悪の患者が病院の救急外来に押し寄せ,病院機能は麻痺してしまうであろう.さて,上記の下線の病態にどう介入したら良いか?今日は低気圧が近づいているから,動的肺過膨張を起こしやすいので,動く前にはSABAのアシストユースを行い,気道を開いてから動くようにする.自分の病態を理解してセルフマネジメントできれば,動的肺過膨張も自己コントロール内に治まる.急性増悪を回避できるのだ.在宅ケアチームの介入により,COPD急性増悪のアセスメント,急性増悪の早期発見早期介入,慢性安定期の確立により,有効な呼吸リハビリテーションができる.患者は病状が安定し,セルフマネジメントで自己解決ができるようになり,病院依存ではなく在宅中心になれる(図3).
COPD急性増悪
重症になればなるほど自己制御可能域幅が狭くなり,急性増悪を頻回に起こすようになる.しかし,多面的包括的呼吸ケアにより早期発見早期介入で未然に防ぐことができし,どうしても防ぐ必要がある.文献5改変
病院依存型
急性増悪がアセスメントされずに急性期を過ぎれば即退院となれば,急性増悪は繰り返され,不安定な病状に患者は不安で救急外来の不定期受診が増える.
在宅中心型
在宅ケアチームの介入により,COPD急性増悪のアセスメント,急性増悪の早期発見早期介入,慢性安定期の確立により,有効な呼吸リハビリテーションができる.患者は病状が安定し,セルフマネジメントで自己解決ができるようになる.病院依存ではなく在宅中心となれる.
患者毎のCOPDの病像を捉えることはとても重要である.COPDは実にユニークな疾患で,その病像は多様である.閉塞障害の程度×増悪様式×併存症×生活様式・筋力・理解力・栄養状態など個別の修飾因子が加わる.この患者のCOPDの多様性を理解するには,呼吸機能だけでなく,急性増悪のパターンを捉え,生活の場をみて日常生活を知り,繰り返しセルフマネジメント教育を行いその理解度を確認すること.これは医師の外来診療のみでは不十分であり,訪問看護師や訪問リハビリテーション,管理栄養士などチームでの介入が不可欠である.病像が分かれば,患者おのおのにTailor-made careが可能となる.
GOLD 2019でも,COPD急性増悪のリスクと徴候のアセスメントとしてABCDに分類し,薬物療法を推奨している6)(図4).2017年の改訂から閉塞の程度がY軸から外され,急性増悪の回数や入院回数のみとなった.注目すべきはBやCはDに増悪しうる可能性をはらんでいる.つまりBやCをAに戻すように介入すべきである.Bは症状が強く,身体活動性が低い状況である.Bには,十分に気管支を開き呼吸困難を軽減させ,身体活動を上げられるよう徹底した呼吸法,共に歩きSABAのアシストユースのタイミングを確認するなど,呼吸リハビリテーションに力を入れ,同時に栄養療法も行い,抗炎症を意識した運動療法を行うことで,BからAに戻す.またY軸の過去の急性増悪の回数がそのままFuture riskとされているが,CからAに戻すことは可能である.日常生活の場で起こる急性増悪をアセスメントし,急性増悪を起こさないように改善させる.
急性増悪のリスクと徴候 文献3改変
図5が示すごとく,COPD急性増悪にはフェノタイプがあり,細菌感染,ウイルス感染,好酸球増多などがみられたと報告された7).実はこの三つ以外がアセスメントできるかどうかが,一番重要であると感じている.患者が頻呼吸になるだけでエアートラッピングを起こし,動的肺過膨張が起こる.食後胃が膨らむ,または,少し便秘する.すると横隔膜が腹部から圧迫され,浅い頻呼吸になる.エアートラッピングが起こり,動的肺過膨張が起こる.この単なる食後,または単なる便秘がCOPD患者に死の恐怖を感じるほどの呼吸困難感,自分では元に戻らない急性増悪を起こしうる.この急性増悪のメカニズムを知っているだけで,患者はこの悪循環に入らないよう,未然に呼吸を整えたり,SABAをアシストユースするなど,セルフマネジメントとしてアクションプランが行えるのだ.このその他の領域として,COPDの右心不全について特筆する.フランスパンを連日食べ,それに含まれる塩分で,うっ血性心不全を起こすなど,些細なことで心不全が増悪する.喫煙により肺胞が破壊されるとき,肺胞に分布する毛細血管も同時に破壊消失する.気腫が著明な肺は,血管床の破壊も高度である.全身を循環した血液はすべて,肺を通らなければ左心系に循環し得ない.つまり減少した血管床に減少する前と同じ血液量が流れれば,肺動脈圧は高くなる.かつ,低酸素血症になれば肺動脈の攣縮も起こり,さらに肺動脈圧は上がる.つまりこのような状況で,少々塩分を摂り循環血液量が少々増えるだけで,循環系に負荷がかかり急性増悪を起こしうる.心原性の慢性心不全は心胸郭比が70%以上でも患者は症状無く日常生活を送れる.しかし肺性の慢性心不全は,心陰影が 2~3 mm拡大したり,肺動脈が 1 mm拡大するだけで呼吸困難が生じ,利尿剤の投与など治療介入が必要となる.かつ栄養指導を行い,塩分制限を行うようにする.患者個々のCOPDの多様性を捉え,かつ急性増悪のパターンを把握し,なるべく在宅で治療介入し,同じ急性増悪を起こさないように日常生活を改善する.
COPD急性増悪の生物学的フェノタイプ 文献4
1年間で86人が起こした182回の急性増悪を4つに分類し得た.細菌感染や好酸球性,ウイルス感染による急性増悪以外の急性増悪のアセスメントと介入が一番重要と思われる.
十分気道を開いて,呼吸困難を十分に解決しなければ,「呼吸リハビリテーションは苦しくてとても無理です.」と,拒否されるであろう.図6にあるCOPDの呼吸困難へのアプローチ8)が示すように,呼吸困難が高度であっても,即モルヒネではなく,まず1st Step,ガイドラインに基づいた最適な気管支拡張薬を処方すべきである.低酸素血症があるなら,最適な在宅酸素療法は呼吸困難を軽減させる.運動療法も呼吸困難へのアプローチに含まれる.少々動いても心肺の負担にならないような身体を作ることで呼吸困難感の軽減になる.しかし長時間作動性気管支拡張薬を用いて気道を開き,SABAのアシストユースで運動時の呼吸困難,動的肺過膨張を防ぎ,効果的な運動療法を行いたいものである.また,NPPVの至適PEEPの設定で呼気時の気道閉塞を開き呼出努力をとり,閉塞せず十分呼気を吐き出せれば動的肺過膨張の予防になる.かつ必要十分なIPAPの設定で運動時の吸気努力をとれば,呼吸困難は軽減し,より強度が高く持続時間の長い運動療法が可能になることを実感している.筋肉量の少ない患者では運動により分泌される炎症性サイトカインがさらに全身性炎症を惹起させるが,NPPVを装着しながら運動を行うことで炎症性サイトカインの分泌が低下する9)との報告もあり,NPPVは抗炎症戦略にもなる.また運動療法と栄養療法との併用10)やスタチンなどの抗炎症薬の併用は,抗炎症戦略として重要である.さらに呼吸困難が強い患者には,1st Stepに加え2nd Stepを行う.呼吸リハビリテーションとしてコンディショニングやADLトレーニングを行う.コンディショニングは身体的な介入(リラクゼーション,呼吸筋マッサージなど)ばかりでなく,精神面への介入(パニックコントロール,モチベーションの維持・向上,アドヒアランスの向上,運動による不安感の軽減など)も含まれる.まさにアスリートに伴走するコーチのようである.それでもさらに呼吸困難が強いときには,時にモルヒネなどの使用も推奨される.
COPDにおける呼吸困難へのアプローチ
文献5の図を改変.
入院環境そのものがフレイルをうむ.ある患者が冠動脈造影検査のため入院した.院内でインフルエンザに罹患し,個室に隔離され,心電図モニターなどを装着され,ベッド上安静を強いられた.二泊三日の検査入院の予定が,2週間の入院となり,体重は 3 kg減少し,筋力も落ちてしまった.退院後,「あ~ゼロからのやり直しだ」とがっかりしていた姿が印象的であった.その後,胃癌の内視鏡的治療のために入院したが,入院中ベッド上での筋力トレーニング,ベッドサイドや院内での運動療法などをプログラミングし,かつ栄養補助食品も持ち込み,入院によるフレイルを防ぐようにしたところ,筋力の低下を感じずに在宅に戻れた.病院依存型から在宅中心にすることは,大変重要なことと思われる.
図7は本来Y軸にCOPDの重症度が描かれた呼吸リハビリテーションプログラムであったが,多面的包括的呼吸ケア・リハビリテーションにより,重症でも高負荷なリハビリテーションが可能となるため,Y軸の重症度は省いた.急性増悪を予防し,慢性安定期を確立すれば,効果的な呼吸リハビリテーションが行え,動けるようになり,筋力が付き,少々動いても苦しくない.このような効果が実感できれば,患者のモチベーションは向上し,生活習慣化し行動変容が起こる.そして益々高負荷な運動療法ができるようになる.また,腰痛が生じたときには腰痛に対するメニューを日々の自主トレーニングの中に組み込み,マッサージ師にも随時指示し,身体状況に応じたマッサージを行ってもらうなど,まさに個々の現状にあったTailor-madeなプログラミングを行っている.
呼吸リハビリテーションのup-grade
急性増悪を回避し,慢性安定期の確立しなければ,より有効でかつ効果を実感できる呼吸リハビリテーションは行えない.また,たとえ重症なCOPDでも,多面的包括的呼吸ケア・リハビリテーションにより,高負荷なプログラムが可能となる.
また,こんなエピソードがあった.冬になり外出時息苦しさを感じるようになった.「SABAのアシストユースをいつものように行ってから出かけているのに,このところなんだか苦しくて.」PTに患者が相談した.「それでは一緒に出かけてみましょう.」患者はジャンパーを着込み,いつものようにリュックサックに酸素ボンベを入れ,背中に背負った.苦しい原因は一目瞭然であった.冬になり厚手のジャンパーを着たため,リュックの背負い紐が相対的に短くなり,呼吸運動を拘束していた.そこでリュックの背負い紐を緩めたところ,患者は苦しくなく外出することができた.こんな些細なことで生じた呼吸困難で外出することを控えてしまい,下肢の筋力低下につながってしまう.共に歩かなければ分からなかった.生活の場に訪問することで小さな問題でもすぐに解決し,呼吸困難なく日常生活が営んで行けたらと願う.このようなケアのup dateと個別化は,すべての職種で求められる.
シンクロナイズドスイミング(新アーティスティックスイミング)では,有名な井村雅代ヘッドコーチの他に,2人のコーチ,2人のトレーナー,スポーツドクター,スポーツトレーナー(マッサージ師),管理栄養士,和の作曲家,水着デザイナー・制作者がチームとして,マーメイド達が最高の演技ができように支え,伴走している.まさに私たち在宅ケアチームは,患者様が地域で生き抜くことを支える伴走者=コーチ陣であると自負している.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.