The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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International Symposium
Home cares for patients with mechanical ventilators by clinical engineers
Shirou Akamine
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 238-241

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要旨

医療機器は現在の高度先進医療を支える重要な役割を担っており,在宅医療においても多種多様な医療機器が使用されている.しかし,現状として医療機器の取り扱い専門職である我々臨床工学技士(Clinical Engineer:以下CE)の業務においては,在宅医療に関する業務指針やガイドラインなどがまだ示されていない.そのためCEの在宅医療への関わり方について,対応すべき事項や今後の活動展開などを検討した.さらにCEの専門性を活かした多職種連携により,在宅領域におけるチーム医療に貢献することを目的とした.

緒言

当院臨床工学部には現在15人が在籍しており,業務内容は,血液浄化センター,MEセンター,高気圧酸素治療室,ICU,内視鏡センターの主要5部門のほか,手術室(人工心肺など),心臓カテーテル室,外来(ペースメーカー・睡眠時無呼吸),離島・グループ施設応援となっており,業務範囲は多岐にわたる.院内の人工呼吸器管理(NPPV含む)は導入から使用中の安全管理および操作・設定管理において宿直体制下のCEが中心的な役割を担っているが,在宅人工呼吸療法(Home Mechanical Ventilation:以下HMV)についてはまだ十分ではない.近年,在宅医療の推進により,当院においてもHMV・NPPV・CPAP・HOTなど,これまで業者に一任していた在宅医療関連の業務がCEに求められるようになっていることから,HMVを中心により専門的に対応できるよう業務確立に向けた取り組みを開始している.

表1 臨床工学部の在宅医療関連業務(2017年11月現在)
項 目登録(人)主な疾患業 務 内 容
HMV:在宅人工呼吸療法2ALS・導入および入退院時(台風直撃や状態悪化など)の救急
患者搬送(ポータブル人工呼吸器使用)
・定期訪問(1回/月)時の呼吸回路交換および使用中点検
・導入前の自宅環境調査
・機器トラブル時の対応
在宅NPPV(ASV含む)2COPD
CHF
・専用プログラマーによるデータ解析および設定変更
・電子カルテ記載
・消耗品交換(随時)
・機器トラブル時の対応
CPAP:持続陽圧呼吸療法151OSAS
HOT:在宅酸素療法37COPD
CHF
※. 統一事項に準じる
超音波骨折治療器4骨折

方法:在宅医療におけるCEの業務内容

1) 医療機器使用時の関連部署に対する窓口

在宅での医療機器使用時は,(図1)に示す手順で臨床工学部へ連絡が入る.通常,医療福祉相談室のソーシャルワーカーからの連絡となるが,睡眠時無呼吸外来でのCPAPについては医師から直接臨床工学部へ導入指示がある.

図1

在宅用医療機器導入時の連絡体制

2) 使用機器・機材の選定および手配

連絡を受けた臨床工学部MEセンター担当者は,速やかに在宅医療機器業者へ手配し,電子カルテへ導入予定日や担当業者名などを記載する.

在宅使用の医療機器については全てレンタル対応としており,退院前に在宅使用機種へ機器交換を実施する.

3) 導入時の患者(家族含む)指導および導入指示書の作成

在宅で使用する医療機器については,使用機種や治療モード選択など,院内呼吸療法委員会において条件設定の標準化が図られており,マニュアル類も整備されている.各在宅医療の導入時はマニュアルに沿って指示書の作成を行うが,機種や条件設定など変更が必要な場合,主治医の指示を確認した上で担当業者へ機器・機材類の発注を行う.作成後の指示書は医事課へ提出し,最終的に資材課を通して担当業者へ機器レンタル料が支払われる.

【HMV】

退院前トレーニングとして,入院中(病棟個室)に在宅用人工呼吸器や付属機器(パルスオキシメータ・喀痰持続吸引器など)一式を導入し,患者家族に対する取り扱い説明(人工鼻交換・操作方法・アラーム対応など)のほか,停電や機器トラブル時の対応(バックバルブマスク使用方法や緊急時連絡先など)についての指導も実施する.

退院や転院後にかかり付け医が変更になる場合など,希望する機種があれば事前に変更し,人工呼吸器との同調性や加温加湿器の有無など条件設定調整を行うほか,退院前には自宅へ訪問し,設置場所や電気容量などの自宅環境調査を実施し,CEとして対応した事項については必ず電子カルテに記載する.

写真1

CEによる退院前の自宅環境調査

導入後の自宅への定期訪問(月1回)においては,呼吸回路交換や使用機器の動作確認および物品類の補充のほか,予備バッテリー充電状態や電気配線の分配状況確認などを行っている.

【CPAP】

毎週水曜日・木曜日の午後からの睡眠時無呼吸外来において,データ解析や設定変更および消耗品交換などの対応のほか,CPAP導入時の機器・機材類の取り扱い説明やマスクフィッティングおよび機器トラブル時対応について患者(家族含む)指導を行い,導入後は指示書作成および電子カルテ記載を行う.

写真2

睡眠時無呼吸外来:CPAP導入

【HOT】

退院前に酸素濃縮器や携帯用酸素ボンベなど機器・機材一式の取り扱い説明を行うことにより,入院中の移動やリハビリテーションの際に使用することで在宅への移行がスムーズになっている.

4) 機器・機材トラブル時の対応(災害対策含む)

在宅での医療機器・機材類のトラブル時は,(図2)に示す手順で臨床工学部へ連絡が入る.日勤帯においてはMEセンター担当者の対応となり,夜間帯は当直者へ連絡が入る体制になっている.

図2

在宅用医療機器トラブル時の連絡体制

不定期に開催されるHMV担当者会議(主治医・訪問看護・理学療法士・CE・ソーシャルワーカー・ケアマネージャー・ホームヘルパーなど)において,各在宅医療機器の使用状況や問題点などの報告を行っているが,行政の障害福祉課職員や難病支援NPOも参加することもあることから,災害時の対応についても協議を行っている.

体調不良やレスパイト以外にも,沖縄県では頻繁な台風直撃時においては,トラブル回避のため前日入院を義務付けており,ソーシャルワーカーが日程調整し,患者搬送チーム(ER医師・ER看護師・CE・救急車の運転含む地域医療連携室職員2人)によるHMV送迎を行っている.

写真3

HMV救急車患者搬送

CEは,搬送先までの所要時間確認および使用機材(ポータブル式人工呼吸器・酸素ボンベ・酸素流量計・レギュレータ・バックバルブマスク・手動式吸引器・携帯用パルスオキシメータ)の準備を行い,搬送中の人工呼吸器管理を担当する.

5) 関連スタッフに対する取り扱い指導・教育

院内使用中の人工呼吸器の取り扱い指導は定期的に実施しているが,在宅用人工呼吸器の取り扱いについては慣れていないため,入院後に必ず対象病棟において,院内使用機種との違いやアラーム対処方法などについての講習会を実施しており,病棟スタッフで対応できない場合は速やかに宿直体制下のCEへ連絡が入る体制となっている.

人工呼吸器装着下の患者搬送については,臨床工学部においてもまだ全員が対応可能ではないことから,救急患者搬送マニュアルに沿った形でシミュレーション教育(年1回)を行っている.

写真4

救急車患者搬送シミュレーション

考察

1) 在宅使用機種の標準化

すでにHMVを行っている患者(家族含む)や転院先施設の希望により,機種変更による状態悪化を懸念し,入退院時に院内で採用していない機種を指定するケースがある.この場合,未使用の機種に対する看護部の不安が大きく,また,院内の予備器が充足していても機器レンタルを行う必要があるため,機器レンタル料が増加するといった問題がある.

その他にもHMVとHOTの業者が異なるなど,業者連絡先が複数となっているケースもあるほか,「他の施設ではこうなので」といった普段CEとの関りが少ない業者担当者との見解の相違もみられる.

2) マンパワー不足

当グループ組織においては各業務量に応じた人員算定基準が定められているが,CEの在宅医療についての算定はないことから,他の業務との兼任になることは否めず,今後もシフトによる人員配置は不透明である.睡眠時無呼吸外来の予約が多い日や救急車患者搬送およびHMVトラブル対応については,日勤当直明け後の残業や,休日のスタッフが出勤して対応(日勤帯のONコールも有り)することもある.

3) ハードとソフトの共有

行政や難病支援NPOからの支援により,在宅用人工呼吸器の予備バッテリーや非常用電源が支給されているが,取り扱い方法について理解しておらず,充電用コンセントもなく,新品のまま倉庫に保管されている(有事の際には使用できない)など,ハードは整備されているものの,使用者側への指導・教育について,継続的なフォローアップが図られていない.

結語

在宅医療においては使用する機器・機材の選定や取り扱い方法などについて,院内だけでの検討ではなく,実際の療養環境を知ることにより実状を把握することが必要である.患者(家族含む)においては精神的な負担も大きいため,機器トラブル時には「必ず助けに行く」ことを説明しており,実際に対応することにより信頼を得ることは重要であり,在宅医療スタッフに対しても同様に,継続的に関わっていく姿勢を示すことが必要である.医療機器取り扱いの専門職であるCEの業務範囲は,「院内」と「院外」に大別されている訳ではなく,在宅医療においても医療機器は必要不可欠であるため,在宅医療におけるCEの業務として,対応すべき事項や将来的な業務展開などを検討しながら,今後も積極的に取り組んでいく.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

 
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