The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
Workshop
Pulmonary rehabilitation intervention for a chronic obstructive pulmonary disease patient with severe exercise-induced dyspnea
Haruno OshimaHideaki NagahamaChiho KobayashiAtsuhiro TsubakiSatoshi Ogawa
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 28 Issue 2 Pages 254-258

Details
要旨

呼吸困難感が強い慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者のリハビリテーション介入は難渋することが多い.今回,動作時に呼吸困難感が生じるCOPD患者に対して,外来のリハビリテーションを行ったが,症状のコントロールが難しく,運動療法や身体機能維持に向けての支援に難渋した事例を報告する.外来でのリハビリテーション介入当初より動作時呼吸困難感の訴えがあり,筋力トレーニングや有酸素運動は積極的にできず,身体機能維持,呼吸困難感軽減のために動作や呼吸法の指導を中心におこなった.しかし,日常生活動作のみの身体活動では呼吸困難感軽減,身体機能維持は困難であった.ワークショップでは,多職種から意見を頂き,運動療法だけでなく吸入,栄養療法,心理面も含めた介入やその方法など幅広くディスカッションをすることができ,患者と共に目標を設定し,支援していく必要性を再確認した.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,身体を動かしたときに息切れを感じる労作時呼吸困難が特徴的な症状である1.Joint ACCP/AACVPR Evidence-Based Clinical Practice Guidelines2において,呼吸リハビリテーションはCOPDの息切れを軽減する(エビデンスA1)とされている.また,運動療法は呼吸リハビリテーションの中核として位置づけられ3,Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)の報告4においても,運動療法は運動耐容能の改善,呼吸困難感の改善,健康関連QOL,入院回数・日数の減少,不安・抑うつの軽減,増悪による入院後の回復促進がそれぞれエビデンスレベルAとされている.しかし,呼吸困難感が強いCOPD患者のリハビリテーション介入は難渋することが多く,症状の緩和に繋がらない場合もある5.今回,動作時に呼吸困難感が生じるCOPD患者に対して外来でのリハビリテーションによる介入をおこなったが,症状のコントロールが難しく,運動療法や身体機能維持に向けての支援に難渋した症例を担当した.

症例

1. 倫理的配慮

症例を報告するにあたり,匿名性の保証,自由意志であること,不利益を生じさせないこと,個人情報の厳重な管理を行うことを下越病院倫理委員会に承認を得た.

2. 症例

70代男性でBMI: 14.7 kg/m2と痩せ型である.喫煙歴は10~20本/日×50年間で70歳の時に禁煙をした.家族構成は妻と二人暮らしで,次男夫婦,孫1人が同区内に居住している.長男は他界している.介護度は要介護1である.日常生活動作(ADL)は入浴以外の自宅内ADLで自立しており,入浴はデイサービスを利用している.

診断名はCOPDで,重症度は慢性閉塞性肺疾患のためのGOLDの基準でStageIVであった.気管支炎,うつ病の既往があった.

現病歴:2014年にCOPDと診断され,他院より当院呼吸器内科へ紹介された.当科医師より呼吸リハビリテーションを勧められたが,本人がこれを拒否した.2016年に当院呼吸器内科へ再度紹介をされ,同年3月に呼吸リハビリテーションのため2週間入院された.同年5月に食欲不振,呼吸困難感の増強があり再入院された.この入院時に主治医より在宅酸素療法(HOT)の導入を勧められたが,本人が拒否したため導入には至らなかった.1ヶ月間入院し,2016年7月より退院後に外来でのリハビリテーションを開始した.

医学的情報(2016年3月):呼吸機能検査では%VC: 58.7%,FEV1.0/FVC: 31.78%,%FEV1.0: 27.6%で混合性障害が認められた.胸部X線では肺過膨張による樽状胸郭,滴状心が認められた(図1).血液ガス分析検査(室内気)ではpH: 7.463,PaCO2: 44.7 mmHg,PaO2: 65.3 mmHg,HCO3: 29.4 mmol/L,BE: 4.5 mmol/Lであった.血液検査ではWBC: 5,400/μl,アルブミン:3.7 g/dl,CRP: 0.03 mg/dlであった.吸入薬はシムビコートタービュヘイラー60,メプチンエアー 10 μg,スピリーバ 2.5 μgを使用している.吸入薬については以前に残量がなくなっているにも関わらず使用し続けていた経緯があり,自己管理はできていなかった.また吸入方法を遵守できていなかったため,薬剤師より症例と症例の妻に吸入指導をおこなってもらった.指導後は妻が吸入薬の管理をし,症例は吸入操作のみおこなっていた.

図1

2016年3月入院時の単純胸部レントゲン写真

肺過膨張による樽状胸郭,滴状心を認める.

理学療法評価:全体像は,表情が暗く,言葉や感情の表出が少ない.視診および触診では,呼吸補助筋の緊張が亢進し,頚静脈怒張がみられ,胸郭の可動性が低下していた.握力は右23.1 kg,左21.5 kgであり,下肢筋力は大腿四頭筋筋力/体重比で右0.31,左0.28だった.COPD Assessment Test(CAT)は25点,Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)は12点(不安5点,抑うつ7点)であった.改訂長谷川式認知症評価スケール(HDS-R)は17点であり軽度~中等度の認知機能低下を認めた.ADLはFunctional Independence Measure(FIM)97点(減点項目:階段昇降,入浴動作,問題解決,記憶)で,動作全般に呼吸困難感が生じていた.連続歩行距離は 24 mで,SpO2歩行前95%→歩行後92%,心拍数歩行前 82 bpm→歩行後 87 bpm,修正Borgスケール歩行前1→歩行後4,呼吸困難感増強し測定終了した(表1).

表1 初回入院時の連続歩行評価
安静時終了時
SpO2(%)9592
HR(bpm)8287
修正Borgスケール14

初回入院時の連続歩行距離は 24 mであった.呼吸困難感が増強したため測定終了した.

主訴:苦しいから動きたくない.在宅酸素はしたくない.

3. 介入内容

2016年7月から2017年5月までの介入について報告する.外来でのリハビリテーションの目標として呼吸困難感の軽減,身体機能維持,ADL維持を挙げ,週1回,1回2単位の理学療法士の介入による外来リハビリテーションを行っていた.

【身体機能維持について】 Joint ACCP/AACVPR Evidence-Based Clinical Practice Guidelines6では,呼吸困難の改善には,下肢を中心とした運動療法が呼吸リハビリテーションの各手技の中でも十分な科学的根拠のある有効な治療法とされている.しかし,症例は介入当初より「筋力トレーニングはしたくない.苦しいからできない.」と訴え,運動療法は拒否し,自宅や週2回通っていたデイサービスでもほぼ臥床して過ごしていた.まずは離床時間の増加を図るために,座位時間を作ること,呼吸困難感が修正Borgスケール4以上にならない程度に徐々に座位時間を延長することを症例と症例の妻に提案し,妻には頻回に症例に声をかけるよう依頼した.また担当のケアマネージャーに連絡をし,デイサービスでも座位時間を作ること・増やすことを依頼した.約1ヶ月後,症例や症例の妻からは「疲れたら休んでいるけど起きる時間が増えた.」「起きてテレビを見るようになった.食事も食べられるようになった気がする.」と前向きなコメントが聞かれた.実際に自宅では午前に2時間,午後に3時間と離床時間が増加し,デイサービスでも食事以外の時間に車椅子に乗車して過ごす時間を作ることができた.離床時間が増加したため,疲労の出現しにくい安楽座位や良姿勢保持を提案し実践した.これを継続していくために,理学療法士や看護師,医師が取り組みによる成果を称賛したり7,言語的説得を繰り返して自己効力感向上の支援を行った.また,呼吸困難感を増強させないような運動プログラムとして,実施が簡単なボールの掌握運動提案をした.これらによって自宅での離床時間は増加し,外来のリハビリテーションではコンディショニングやストレッチまではおこなえるようになった.しかし呼吸困難感が増強してしまう恐怖感から筋力トレーニングや歩行訓練には消極的であった.

【ADL維持について】症例からは,一人でトイレに行きたい,ポータブルトイレは使いたくないと希望があった.外来のリハビリテーション時に,症例と症例の妻に居室からトイレまでの動線を確認した.居室からトイレまでの約 8 mの移動においては,伝い歩きが可能な環境であった.次に自宅での生活に必要とされる歩行距離を聴取し,その距離を歩行した際の呼吸困難感やSpO2,心拍数,自覚的運動強度の変化を,歩行前後で評価した.SpO2は,歩行前に94%であったが歩行後には88%まで低下した.歩行前心拍数は 90 bpmであり歩行後には 105 bpmまで上昇した.自覚的運動強度は修正Borgスケールを用いて評価し,歩行前には2であったが歩行後には5まで増加した.外来のリハビリテーション介入当初にトイレ動作中の呼吸法8を呼吸リハビリテーションマニュアルに記載しているように指導していた.しかし,歩行中や動作中の呼吸法を観察すると,口すぼめ呼吸が行えず頻呼吸になってしまい徐々に呼吸困難感が増強していた.今回の評価結果をもとに,頻呼吸にならないように口すぼめ呼吸の再確認と動作スピードが速くなりすぎないように再指導した.また,トイレ動作終了後には,便座に座って呼吸を整えてから帰室してもらうよう指導をしたが,認知機能が低下していることもあり,指導した内容を覚えることができなかった.そこで呼吸法や動作法を記載したパンフレットを作成し,症例と症例の妻に説明し,外来のリハビリテーションの時に練習をおこなった.しかし,自宅での実際のトイレ場面では呼吸困難感が増強し,焦りも加わり指導した呼吸・動作法を実践することは困難だった.

4. 経過(図2

2016年3月の教育入院の際は 24 mの連続歩行が可能だったが,10月頃から徐々に離床時間が短縮した.それに伴い,運動耐容能,身体活動量,歩行距離が減少,歩行でのトイレ移動も困難となったため2017年1月に車椅子を導入した.その後も徐々に歩行距離は減少し,同年5月に再入院した際にHOTを導入することとなった.以前にHOT導入を勧められた際は,酸素療法をしても呼吸困難感に変化がなく,症例が必要性を感じていなかったため導入を拒否した.しかし,酸素の吸入により呼吸困難感が軽減し,症例自身が必要性を感じたため導入するに至った.

図2

2016年3月から2017年5月までの経時的変化.

歩行距離は徐々に短縮し,歩行後SpO2も低下した.

検討点をふまえた考察

本症例では,徐々に全身状態が悪化していく状況に対して,身体機能やADLの維持,環境調整を中心に介入していた.しかし,呼吸困難感が強く,外来のリハビリテーションでの身体機能維持やADL維持は困難だった.どのタイミングでどの職種が何を提供していけばよかったのかを中心に考察していく.

【身体機能維持に関して】COPD患者は動作に伴う呼吸困難の出現によって運動を回避するようになり,身体活動量が減少する.その状態が続くことによって必然的に運動不足となり,廃用状態を引き起こしてしまう3.したがって身体機能を維持するためには,身体活動量の維持が必要であると考えられる.症例は呼吸困難感が増強してしまう不安感や恐怖感があり,筋力トレーニングや歩行訓練には消極的であった.このような場合は筋力トレーニングや歩行訓練としておこなうのではなく,本人の趣味や外来のリハビリテーションでの会話などから身体活動量を維持するために動機づけられるものを模索していくことが重要である7.そして,これらを多職種で情報共有し,自己効力感を高めるための意図的な介入を行い,身体活動量を維持していくと良いと考えられる.その際は,症状の有無や程度を評価する必要がある.

【吸入に関して】本症例は軽度の認知低下や筋力の低下があり,吸入薬の残量管理や吸入方法を正しく実施できていなかった.軽度認知症によるアドヒアランスの低下は起こりやすく,簡単な服薬方法に工夫したり,継続的な吸入指導が重要である9.また,手指筋力や触覚の低下によりデバイスを確実に押せない,蓋が開かない,細かい作業ができない,手が震えるなどの影響で正確な吸入手技を行えない場合もある10.そのため,補助器具の使用や介助者が蓋を開けてデバイスを押し,患者は吸気のみを行うこと,内服への変更なども必要であると考えられる.また,吸入が可能かどうかを自己管理能力や身体機能評価に基づいて多職種で共有して問題解決していくことが必要である.

【栄養に関して】本症例はBMIが14.7 kg/m2と痩せ型であり,食事量の減少がみられていた.そのため,腹部膨満など消化器症状に注意して,分食を勧める3必要がある.また,少量で高エネルギーな栄養を補給するためには,中鎖脂肪酸で作られているMedium Chain Triglyceride(MCT)オイルやMCTパウダーを普段の食事に取り入れたり,分岐鎖アミノ酸(BCAA)をサプリメントなどで摂取したりするなど,栄養補助食品を利用することも有用であった可能性が考えられる.MCTとは中鎖脂肪酸100%の油のことで,MCTは,一般的な油よりも4~5倍も速く分解され,短時間でエネルギーになりやすいという特長があり,医療現場やスポーツ分野における栄養補給や,生活習慣病予防など,様々なシーンで利用されている11.本症例は食事量が減少していたため,高エネルギーになるように嗜好品を栄養補助食品で工夫したり,栄養士による栄養指導を早期に受けてもらうことも必要であったと考えられる.また,自宅で体重を計測し,体重の増減を多職種で共有して,運動プログラムの調整や栄養補助食品の調整等ができるよう考えていかなければならない.

【心理面に関して】COPD患者は呼吸困難感が増強していくことに対して不安感や恐怖感を感じ,これらによってさらに呼吸困難感を増強させてしまう.このような悪循環はCOPD患者をうつ傾向に陥れやすく3,症例にもうつ病の既往がある.うつ合併COPDの治療としては呼吸リハビリテーションの活用や,患者とのコミュニケーションアップ,多職種の介入によるサポートが挙げられる12.まずは,外来でのリハビリテーション介入時に患者の考えや気持ちを傾聴し,多職種で共有しながら,患者ができることや目標を共に探すことが必要であると考えられる.そして,できていることに対しての効果を感じてもらいながら3,言語的説得を継続し成功体験を重ねることで,自信をつけていけるよう支援したい.

結語

動作時に呼吸困難感が生じるCOPD患者に対して,外来のリハビリテーションを行ったが,症状のコントロールが難しく,運動療法や身体活動維持に向けての支援に難渋した事例を報告した.今回の症例に対しては,医療者側からの一方的な提案や指導が多かったように感じた.生活状況や身体機能を評価した上で呼吸リハビリテーション目標を患者と共に決定することで,患者にとって意義のある呼吸リハビリテーションになると考えられる.また,呼吸困難感による動作制限や生活制限がある症例に対し,多方面からのアプローチをしていけるよう多職種と連携をしながら,症状コントロールしていけるように取り組んでいきたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top