The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Workshop
Early mobilization for weaning from mechanical ventilation in acute respiratory failure with chronic kidney disease; a case report
Yutaka FurukawaKazuyuki ShibataKazuki OkuraMasahiro IwakuraKeiyu SugawaraHitomi TakahashiKeiji EnzanTakanobu Shioya
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 259-261

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要旨

近年,重症患者の生命予後の改善に伴い,集中治療室(Intensive care unit: ICU)滞在中のICU関連筋力低下(ICU-acquired weakness: ICU-AW)を代表とした運動機能障害の合併が問題となり,短期および長期機能予後に悪影響を及ぼすことが報告されている1.ICU患者に対する早期介入の有効性については人工呼吸器期間,ICU在室日数,入院期間の短縮,せん妄の発症減少と期間短縮,運動機能や日常生活動作の早期獲得,加えて生活の質の向上や長期機能予後の改善が得られるとして十分なEvidenceが確立されている2.本症例は,全身状態が重篤かつ不安定であった重症患者で,人工呼吸器,透析器などの多数のメカニカルサポートを要した.呼吸器合併症の予防と早期離床,体位管理を実践したことでweaningに成功し,独歩で退院に至った一例を経験したため報告する.

症例提示

症例は50歳代女性,喫煙歴は20本/日×30年間であった.入院前のADLは自立していた.他院にて下肢の浮腫が増強していることから,血液透析導入を示唆されていた.入院3日前からむくみがひどくなり,発作的な息苦しさも感じたため,近医を受診し吸入薬を処方されていた.しかし,呼吸困難感および発熱が増強したため当院を受診し,急性腎不全に起因する急性呼吸不全の診断でICUに入室となった.

入院時検査所見(表1)より,CRPが高値であり著明な炎症所見が認められた.左室駆出率は保たれていたが,右心機能低下,腎機能低下が認められたため,心腎連関による両者の機能不全と診断され,持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration: CHDF)による除水が開始となった.右大腿静脈よりVA(vascular access)が確保され,除水量は 150 ml/hで開始された.胸部単純X線写真(図1)より両側下肺野の湿潤影,肺過膨張,心陰影の拡大が著明であり,動脈血液ガス分析により著明な高二酸化炭素血症と低酸素血症が認められたため,非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)も同時に開始となった.設定は,吸気気道陽圧(inspiratory positive airway pressure: IPAP)が10 cmH2O,呼気気道陽圧(expiratory positive airway pressure: EPAP)が6 cmH2O,吸入酸素濃度(FiO2)が0.6,呼吸数が12回/分であった.NPPV開始時のPaO2/FiO2(P/F)は70と著明な酸素化障害が認められていた.NPPV装着後,状態は改善がみられ,FiO2を0.35と漸減させるも,呼吸困難感などの訴えが出現することなく経過していた.しかし,第2病日夜間にCO2ナルコーシスを呈し,呼吸状態の悪化から気管内挿管が行われ人工呼吸器管理となった.人工呼吸器はBIPAP(bilevel positive airway pressure)モード(EPAP: 15 cmH2O,IPAP: 5 cmH2O,FiO2: 0.6,換気数:15回/分)であり,ミタゾラムによる鎮静管理と腎血流量改善を目的にイノバンも開始された.モニタリングの結果,EtCO2が 78 cmH2O,PaCO2が 102 mmHgとギャップがあり,ガス交換の低下が認められていた.理学療法は第5病日から開始した.介入時のRASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)は-3と中等度鎮静であった.左右大腿静脈からはそれぞれ中心静脈カテーテル,CHDFのVAが確保されており,経鼻胃管カテーテルも挿入され厳重な全身管理が行われていた.理学療法は換気改善手技,関節可動域運動,Early mobilizationとしての体位管理を行った.体位変換は主に,①荷重側にある肺胞から重力の影響を除して,肺胞のリクルートメントを促進させることによる荷重側肺障害の予防,②不均等にあった換気血流比の是正を図ることによる酸素化能の改善,③気道分泌物のクリアランス効果を目的に行った.腹臥位療法はCochrane Libraryのsystematic review3や,3学会合同ARDS(acute respiratory distress syndrome)診療ガイドライン4において効果や適応が解明されつつあり,ARDSなどの急性呼吸不全患者,特に重度の酸素化障害を有する患者の生命予後を改善させる可能性があるとされている.本症例においては,VAの閉塞や接続不良などの有害イベントを懸念し,腹臥位の代用体位になり得る前傾側臥位の実施を試みた5.実施中の血圧低下などの循環動態の急変もなく,P/Fは110と改善が認められた.第7病日に全身状態に改善がみられたため,人工呼吸器設定をCPAP(continuous positive airway pressure)+PS(pressure support)に変更した(PS: 12 cmH2O,PEEP: 5 cmH2O,FiO2: 0.4,EtCO2: 55 cmH2O,P/F: 223).同日より早期のweaningを目指し,自発呼吸下での呼吸練習を開始した.最低限の鎮痛薬(デクスメドトミジン)を残して鎮静薬を中断し,管理困難な場合のみフェンタニルを投与した.PSを漸減させながら,30分間を目標に自発呼吸練習を行った.2回/日以上の頻回な理学療法を行い,自発呼吸練習中もICU-AWの予防を目的に上下肢の抵抗運動を実施した.また,CPAP+PS導入初期はCO2の貯留と呼吸困難感の出現もみられたため,夜間のみBIPAPを併用した.第12病日にてCr: 1.83 mmHg,BUN: 13.4 mg/dLと腎機能の改善が認められCHDFが終了した.同日にはPSが 6 cmH2Oで1時間の自発呼吸を呼吸数の増加,過度な血圧上昇などのトラブルなく実施可能となっていた.第14病日にてEtCO2とPaCO2とのギャップが減少し,ガス交換効率の改善が認められたことから,抜管を行いNPPVへと移行した.weaning時は血圧が 134/58 mmHg,心拍数が75回/分,呼吸数が22回/分,PaCO2が 48.2 mmHg,PaO2が 69.9 mmHgであり,異常呼吸様式と意識レベルの悪化を認めなかった.NPPVはAVAPS(average volume assured pressure support)モードで設定された(IPAP: 12 cmH2O,EPAP: 5 cmH2O,TV(tidal volume):450 ml,FiO2: 0.3,呼吸数:10回/分).入院から抜管までの経過を表2に示す.その後,有害事象なく経過し,第19病日には,NPPVから経鼻酸素 2.0 L/minへと変更になった.理学療法は端座位保持練習,呼吸練習を呼吸困難感の聴取を行いながら15分間を目標に実施した.MRC(Medical Research Council)scoreを用いた筋力評価は上下肢合計で48点と早期からの予防介入の効果が認められる結果であった.その後座位足踏み練習,立位練習と漸増的に運動負荷を向上させ,全身状態の安定が得られたことで第25病日にICU退室となった.第33病日からリハビリテーション室で下肢筋力増強運動・歩行練習を開始し,最終的に独歩・ADL一部介助の状態で第77病日に退院された.

表1 入院時現症と検査所見
入院時現症入院時検査所見
BMI(kg/m221.4BNP(pg/mL)1,136
BP(mmHg)156/98Cr(mmHg)2.97
HR(回/分)143BUN(mg/dL)42.5
SpO2(%)78WBC(/μL)13,200
RR(回/分)43CRP(mg/dL)18.3
BT(°C)38.2CTR(%)71.0
LVEF(%)72.2
IVC(mm)25.8
RVP(mmHg)52.1
PaCO2(mmHg)91.1
HCO3(mmol/L)18.8
PaO2(mmHg)41.8
pH7.27
図1

入院時単純X線写真

図2

入院から抜管までの呼吸管理と理学療法介入の経過

結語

本症例は全身状態が重篤かつ不安定な重症患者であり,多数のメカニカルサポートを要した.ルートトラブルやバッキングなどの有害事象が懸念された中で,多職種の連携により厳重な体位管理が実施され,ICU-AWと呼吸器合併症の予防に繋がり抜管に至った.合併症,全身状態により介入に制限がある重症患者においても個別化・工夫が図られた早期からの呼吸理学療法が,重要な役割を担うことが示唆された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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