The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Workshop
The effect of continuous-flow oxygen on stair climbing in patient with idiopathic pulmonary fibrosis: A case report
Mio KoizumiAkira TamakiKazuma NagataGen NawaKeisuke Tomii
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 262-265

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要旨

症例は73歳男性,特発性肺線維症に気胸を合併していた.公営住宅3階に独居で,ポータブルタイプの酸素濃縮器を使用し,同調式 3 L吸入下で歩行と階段昇降を行っていた.理学療法開始時には下肢筋力低下および運動耐容能の低下を認め,同調式吸入下での階段昇段時に低酸素血症と著しい呼吸困難,呼吸数増加を認めていた.3週間の介入によって下肢筋力,運動耐容能は改善したものの,同調式吸入下では階段昇降時の呼吸困難,低酸素血症は改善しなかったため,同調式から連続式に切り換え可能な呼吸同調器付きの酸素ボンベへ変更した.その結果,連続式吸入下で20段の階段昇段と1回の立位休憩で目標であった階段昇段40段を獲得し,本症例は自宅退院に至った.本症例のような階段昇段時に低酸素血症,呼吸困難,呼吸数増加を呈する患者に対しては,一時的に連続式を使用する指導の検討が必要と考えられた.

緒言

間質性肺炎とは肺間質を炎症や線維化病変の場とするびまん性肺疾患の総称であり,原因を特定できる間質性肺炎と,原因を特定できない特発性間質性肺炎に2大別される.特発性間質性肺炎の中でも,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)が最も多くの割合を占め,不可逆的で一般的に予後不良な疾患である1.IPFの主要な症状としては労作時の著しい低酸素血症と呼吸困難,そして肺容量低下から代償的に呼吸数増加を呈する場合が多く,そのような患者に対しては酸素投与を行いながら呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)を行う必要がある.

呼吸リハを行う際,院内で使用される医療用の酸素ボンベは吸気・呼気を問わず酸素供給を行う連続式であるのに対し,在宅で使用される携帯型酸素ボンベは使用酸素量の節約および酸素供給時間を延長する目的で呼吸同調器を併用し,吸気に合わせて酸素を供給する同調式が一般的である.臨床上,運動療法を行う際に同一酸素流量であっても経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は連続式よりも同調式で低くなることを経験する.高尾らはCOPD患者を対象に,呼吸同調器の使用有無が6分間歩行試験中のSpO2値に与える変化を検討し,連続式よりも同調式を使用した際にSpO2値が有意に低下した2と報告している.また,間質性肺炎患者においても同調式では安静時SpO2値は低値を示し,呼吸数が増加した3という報告もある.

今回,連続式よりも同調式での歩行,階段昇段時に呼吸困難と低酸素血症,著明な呼吸数増加を認めたため,自宅復帰を目標に呼吸同調器の変更の検討を行った症例を経験したので報告する.

症例

1. 症例

73歳男性.身長;156.2 cm,体重;43.3 kg.

BMI;17.9 kg/m2

【診断名】IPF,気胸.

【現病歴】X-1年より在宅酸素療法を開始.定期的な呼吸器内科外来の検査にて徐々に増大する右下葉背側の結節影を指摘され,X年5月にCTガイド生検を施行するも手技中に気胸が生じた.3回の自己血癒着術にて気胸は改善したものの,治療のため2週間の安静臥床が続き日常生活動作(activities of daily living: ADL)低下を認めたため,リハビリ継続目的で当院へ転院となった.

【入院前ADL】本症例は独居でキーパーソンは友人.自宅は公営住宅3階でエレベーターは無く,40段の階段昇降が必要であった.酸素流量は,安静時は室内空気,労作時は 3 L(同調式)に設定されていた.酸素濃縮器はポータブルタイプであり,同調式は 1~3 L,連続式で 0.5 Lの送気が可能であり,軽量で肩に背負い屋内外で持ち運んで使用していた.移動は独歩で 50 m程度の歩行が可能で,長距離移動や通院時は原付バイクや,友人の支援で車を使用していた.階段昇降は右下肢優位な2足1段で自立していた.

【患者HOPE】階段を上った時の息苦しさを軽減したい.

【服薬】ステロイド,免疫抑制剤,肺線維化抑制剤,降圧薬,抗凝固薬.

2. 初期介入時のフィジカル・アセスメント

酸素流量は連続式吸入下で安静時 1 L,労作時 3~4 Lに設定され,安静臥位での呼吸数は24回,座位時には32回と浅速呼吸を認めていた.上部,中部,下部胸郭の拡張性は周径でそれぞれ 1.0 cm,0.8 cm,2.9 cmと上部と中部の胸郭拡張性が低下していた.安静座位より吸気時に頸部の呼吸補助筋(胸鎖乳突筋,斜角筋,僧帽筋上部線維)の収縮を認め,大胸筋,小胸筋,腰方形筋に圧痛を認めた.呼吸音は肺野全体と特に左肺野に捻髪音を認めた.視診上,四肢および体幹の痩せは顕著であった.

3. 評価項目および方法

6分間歩行距離(six-minute walk distance: 6MWD),下肢筋力,握力,修正MRC息切れスケール,生活の質(quality of life: QOL),ADLを評価した.加えて,階段昇段時と歩行時における酸素流量,SpO2値,呼吸数,呼吸困難および下肢疲労感の修正ボルグスケール(modified Borg Scale: mBS)を連続式,同調式吸入下で評価した.下肢筋力は膝関節90°屈曲位の端座位で4,徒手筋力測定器にて最大等尺性膝伸展筋力(kgf)を測定した後,体重(kg)で除した数値を体重支持指数(weight bearing index: WBI)として算出した.ADL評価は長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(The Nagasaki University Respiratory ADL questionnare: NRADL)を用い,QOL評価はCOPDアセスメントテスト(CAT)を用いた.

4. 理学療法初期評価(表1

初期評価では6MWDは 80 mと運動耐容能の低下を認め,WBIは右下肢で0.36 kgf/kg,左下肢で0.14 kgf/kgであった.6分間歩行試験後の呼吸困難感と下肢疲労感はmBSでそれぞれ7,4であり,NRADLは31点とADL低下を認めていた.また,階段昇段と歩行評価において,連続式よりも同調式吸入下の方が低酸素血症および呼吸困難感は著明であった(表2表3).

表1 理学療法初期評価・最終評価(3週間後)
初期評価最終評価(3週間後)
身体計測
 体重(kg)43.145
 Body mass index(kg/m217.818.6
膝伸展筋力(kgf/kg) 右0.360.47
            左0.140.27
握力(kg)      右1825
            左1220
下腿周径(cm)2626.2
修正MRC息切れスケール44
6分間歩行試験
 総歩行距離(m)80166
 酸素吸入量(L)33
 最低酸素飽和度(%)8585
 試験前呼吸数(回)3130
 終了時呼吸数(回)5248
 終了時呼吸困難感mBS74
 終了時下肢疲労感mBS44
日常生活動作・生活の質
 NRADL(点)3138
 CAT(点)2521

mBS: modified Borg Scale(修正ボルグスケール)

NRADL: The Nagasaki University Respiratory ADL questionnare(長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール)

CAT: COPDアセスメントテスト

表2 酸素 3 L吸入下での階段動作における初期,最終評価時の変化および連続・同調式の投与方法の変化
連続式同調式
初期評価最終評価(3週間後)初期評価最終評価(3週間後)
連続昇段数(段)10201010
最低酸素飽和度(%)90908588
動作後呼吸数(回)50505050
終了時呼吸困難感mBS4365
終了時下肢疲労感mBS3343

mBS: modified Borg Scale(修正ボルグスケール)

表3 酸素 3 L吸入下での歩行動作における初期,最終評価時の変化および連続・同調式の投与方法の変化
連続式同調式
初期評価最終評価(3週間後)初期評価最終評価(3週間後)
連続歩行距離(m)40703050
最低酸素飽和度(%)88908590
動作後呼吸数(回)48505050
終了時呼吸困難感mBS4363
終了時下肢疲労感mBS4333

mBS: modified Borg Scale(修正ボルグスケール)

5. 問題点および呼吸リハプログラム

本症例における問題点として,胸郭拡張性低下による呼吸仕事量および酸素消費量の増大と,呼吸補助筋活動が亢進することで生じる酸素消費量およびエネルギー消費量の増大,浅速呼吸による換気効率の低下と酸素消費量増大が複合し,呼吸困難感を増強していると考えられた.よって,運動療法前にコンディショニングとして胸郭可動域練習,呼吸補助筋のリラクセーション,動作前後における呼吸介助をプログラムとして取り入れた.

IPF患者の運動制限因子には運動中の低酸素血症5や大腿四頭筋の筋力低下6があり,これらの改善によって運動耐容能の改善が期待できると考えられている.本症例は6分間歩行試験時の呼吸困難感が強く,運動耐容能の低下の原因は労作性の低酸素血症から起因する呼吸困難の影響も考えられた.本症例の目標として,自宅復帰に必要な階段昇段40段獲得を目指したが,同調式吸入下での階段昇降と歩行練習は低酸素血症と呼吸困難感が強かった(表2表3).そのため,呼吸困難の軽減と低酸素血症予防のために,連続式酸素を吸入し,膝関節伸展運動を中心とした下肢筋力トレーニング,上肢筋力トレーニング,持久力トレーニングとして階段昇降と歩行練習を行った.全ての呼吸リハプログラムは『呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法-第2版』7および呼吸リハビリテーションに関するステートメント8に則り,理学療法は1日40分~60分を週7日実施した.

6. 最終評価(表1, 表2, 表3

6MWDは 80 mから 166 mに歩行距離が延長し,6分間歩行試験後の呼吸困難感がmBSで7から4に軽減した.WBIは両下肢とも増加を認め,NRADLでも若干の改善を認めた.また,階段動作は連続式で20段昇段可能となったが,同調式では10段で呼吸困難が強くなりSpO2値も88%まで低下した.

考察

本症例に対する3週間の介入によって,6MWD,下肢筋力に改善が認められた(表1).IPFの6分間歩行試験の臨床的に意義のある最小変化量(Minimal Clinically Important Difference: MCID)は 24~45 mと報告されている9.本症例は最終評価時の6MWDは初期評価と比較し 86 mの改善を認めたため,運動耐容能は有意に増加したといえる.健常な70歳代のWBIは 0.56±0.09 kgf/kg10とされ,本症例は右下肢のWBIが 0.47 kgf/kgと初期評価時より改善を認めたが,基準値は下回っていた.しかし,0.4 kgf/kgを上回る場合は立ち上がり動作,院内歩行,階段昇段動作で自立度が高いとの報告11もあり,本症例の目標である階段動作自立のための必要な筋力は獲得できたと考える.等尺性膝伸展筋力低下はIPF患者の運動耐容能低下の要因6でもあるため,下肢筋力の改善が運動耐容能改善に寄与したと推察される.運動耐容能が改善したことにより,院内での活動性が改善し,日中の移動時の息切れ,階段昇段時の息切れが改善したため,ADLが向上したと考えられた.

最終評価において,同調式で階段を10段昇段するとSpO2値は88%まで低下し,呼吸困難のmBSは5と,連続式よりも呼吸困難が増強した(表2).酸素吸入濃度(FIO2)へ影響を及ぼす要因としては上気道の解剖学的死腔,呼吸様式,酸素流量が挙げられ,呼吸数の少ない連続式での酸素投与では,上気道の解剖学的死腔がリザーバーの役割を果たし,酸素濃度が高くなるとされている12,13,14.一方で,同調式では呼気相では酸素の供給を停止し,吸気相のみに送気を行うため呼気時の解剖学的死腔への酸素貯留がなく,肺胞内への供給の大部分が吸気時の酸素となり連続式と比較するとFIO2は低下する2.また,本症例では階段昇段時の呼吸数は連続式,同調式ともに50回と著しい呼吸数増加を認めていた(表2).連続式吸入下で呼吸数が増加すると,吸気時間は短くなり室内空気と酸素が混合した結果,FIO2はより低くなる12と言われている.同調式では解剖学的死腔への酸素貯留も少ないことから,呼吸数増加時は連続式よりも更にFIO2が低下することが予測され,本症例での階段昇段時のSpO2値の違いには,解剖学的死腔と呼吸数による影響が考えられた.よって,本症例には自宅前の階段昇降時においては低酸素血症の予防と呼吸困難の軽減を図るため,一時的に連続式に切り替える必要があると考えた.そのため,入院前より使用していた小型なポータブルタイプの酸素濃縮器を連続式・同調式に切り換えができる呼吸同調器付きの酸素ボンベへの変更を検討し,本症例に提案を行った.本症例の受け入れもあり,最終的には呼吸同調器付きの酸素ボンベでの階段昇降練習を行い,連続式吸入下で20段の階段昇段と1回の立位休憩で本症例の目標であった階段昇段40段を獲得し,本症例は自宅退院に至った.

わが国ではエレベーターやエスカレーターが設置されず,階段を使用しなければならない場所はまだ多い.本症例のように労作時に呼吸数が増加し,連続式と比べ同調式で動作時の低酸素血症や本人の自覚的呼吸困難の増強を認める場合は,階段昇段時に同調式から一時的に連続式に切り替えることで,呼吸困難の軽減や低酸素血症の予防,ADLの向上や外出時の活動制限の緩和に繋がると考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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