The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Special Report
Long-term high flow nasal cannula oxygen therapy
Keisuke TomiiToru KadowakiTakamasa KitajimaMotonari FukuiKazuma NagataTakeo HorieHiroki AbeMiyuki OkudaYayoi JojoTomomasa TsuboiTorahiko JintaNaohiko Chohnabayashi
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 291-297

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要旨

慢性呼吸不全に対する在宅長期ハイフローセラピーは,解剖学的死腔の洗い出し,相対湿度100%の加湿,呼気時陽圧換気,低侵襲のインターフェイス,高流量システムによる安定したFIO2供給などにより,COPD,気管支拡張症,拘束性換気障害などで有効性が期待される.特にCOPDに関しては夜間就寝中の使用で夜間及び日中のPaCO2低下,QOL改善,増悪抑制などがランダム化比較試験で示されており,PaCO2が 45 mmHg以上 55 mmHg未満,もしくは 45 mmHg未満でも夜間低換気を認めるような場合が適応と考えられる.臨床試験における長期ハイフローセラピーの有害事象は軽微なもののみであったが,導入にあたっては入院の上,動脈血ガスや経皮酸素飽和度,経皮CO2分圧,バイタルサインなどをモニターしながら適切な流量とFIO2,加湿温度を設定し,さらに鼻カニュラの装着や加湿用水,機器の管理教育などを十分に行う.

はじめに

ハイフローセラピーは「高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)」や「ネーザルハイフロー」と呼ばれることもあるが,本稿では「ハイフローセラピー」という用語で統一した.ハイフローセラピーは通常の酸素療法とは異なり,その様々な生理学的機序に基づいて各種呼吸不全の病態改善を期待できる有用な新しい治療手段である.病院内ではすでに広く使用され呼吸不全の予後改善や挿管回避などの有効性を示すエビデンスが蓄積されつつあるが,さらに在宅での使用が可能になると慢性呼吸不全患者にとっても大きな福音となる可能性がある.ただし有効性が期待される一方,現時点では限られたデータしかなく,その使用法や対象疾患などについて一定の留意が必要である.これらの問題点の整理と今後の課題,さらには効果の期待できる疾患,病態などにつき,臨床試験等でハイフローセラピーの在宅使用経験のある呼吸不全エキスパートによって「在宅ハイフローセラピーの現状」として解説し,今後見込まれる在宅使用に備えることとした.

ハイフローセラピーが慢性呼吸不全に対して有効である生理学的機序

ハイフローセラピーは単なる酸素療法ではなく,低換気状態がもたらす高二酸化炭素血症を伴ういわゆる慢性II型呼吸不全の治療手段として使用できる下記のような生理的効果を有している.

1. 解剖学的死腔の洗い出し

20~60 L/分の高流量ガスを鼻カニュラから吹き入れることによりガス交換に与らない気道内の空気が洗い出される.このような死腔換気量減少は一回換気量が同じならばガス交換に有効な肺胞換気量を増やすこととなり,PaCO2の低下をもたらす.あるいは同じ肺胞換気量ないしPaCO2を維持するのに必要な一回換気量や呼吸数,ないし呼吸仕事量の低下が得られる1,2,3,4,5.したがってハイフローセラピー使用中は肺胞換気量低下が招く低酸素血症もしくは高二酸化炭素血症は改善の方向へ働く.また夜間睡眠中であってもハイフローセラピーは同様の機序で呼吸努力を低下させ4,6,夜間長期使用による日中PaCO2低下1,2,3,4,5,7は睡眠の質や呼吸筋疲労の改善に伴うCO2調整のリセッティングによるものと推測される.すなわち非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)同様,夜間睡眠中にハイフローセラピーを在宅で継続的に使用することで慢性II型呼吸不全の改善が期待される.

2. 相対湿度100%の加湿

高流量ガスの鼻カニュラからの吹き入れは上気道粘膜障害をもたらす恐れがあるが,ハイフローセラピーを可能にする重要な機器構成要素である高度加湿機能により,粘膜障害防止のみならず,粘膜線毛機能の最適化,気道分泌物の排出促進による気道浄化作用がもたらされ,喀痰量の多い慢性呼吸器疾患の増悪抑制や肺機能,QOLの改善8,9,10が期待できる.

3. 呼気時陽圧換気

鼻カニュラから吹き入れられるガスと呼気ガスの拮抗により呼気時に軽度ながら陽圧が発生する11,12,13.それによって肺胞虚脱防止のリクルートメント効果が得られ急性1型呼吸不全のV/Q比の改善,肺の動的コンプライアンス改善がもたらされる11,12,13.また慢性閉塞性肺疾患(COPD)では内因性PEEP拮抗に加え,口すぼめ呼吸のような呼気延長の呼吸パターン変化が生じ,洗い出しとは異なる機序で換気の改善をもたらす11,12,13

4. 侵襲性の低いインターフェイス

使用するインターフェイスである鼻カニュラは皮膚と密着させる必要はなく,むしろカニュラと鼻腔の隙間が洗い出し効果を生じさせる重要な役割を持つ.リークをなるべく少なくするよう密着して使用するNPPV用マスクと比べると患者の受け入れがよく,長時間の使用に耐えやすい14,15.さらに通常の酸素吸入に用いるマスクと比べても患者不快やインターフェイスのずれが少なく14,15,会話や経口摂取など使用中のQOL面でも優れていて,在宅でも継続しやすいと考えられる.事実,在宅における臨床試験においても6週間の継続率は100%であった1,2,3,4,5

5. 高流量システムによる安定したFIO2供給

ハイフローセラピーは総流量 30 L/分以上で使用するといわゆる高流量酸素投与システムに相当する.すなわち患者の吸気流速によらず(通常 30 L/分以下と仮定して)周囲の空気で希釈されることのない一定酸素濃度(FIO2)のガスを提供できる.慢性II型呼吸不全では通常の酸素カニュラなどの低流量システムによる酸素投与の場合,呼吸状態の変化による予想外の高いFIO2に起因するCO2ナルコーシスのリスクがあり,ハイフローセラピーは在宅におけるより安全な酸素投与法である.

対象となる病態におけるハイフローセラピーの有用性

1. COPD

COPDの安定期の管理としては気管支拡張剤を中心とした薬物療法や呼吸リハビリテーション・酸素療法・換気補助療法などを含む非薬物療法があり,閉塞性障害が進行すると呼吸不全状態となってHOTやNPPVが必要となることがある16

一方ハイフローセラピーについては,前述した生理学的機序があり一部NPPVにも匹敵する効果が急性期において得られていることから,慢性安定期においても研究が進んでおり,臨床応用が期待されている.

①慢性安定期COPDに対するハイフローセラピーの現状

国内では在宅ハイフローセラピーが保険未収載のため,保険診療での使用が2018年現在は行えない.そのため2018年9月現在慢性安定期COPD患者に対する在宅ハイフローセラピーの国内のデータはNagataらのパイロット研究のみである5. これまでの諸外国のデータとともに表1に主なデータを示す.

表1 慢性安定期COPDにおけるハイフローセラピー臨床研究のまとめ
筆者/発表年Bräunlich/201517Nagata/20185Storgaard/20187
患者数11合計:29
A群13/B群 16
合計:200
HFT群100/LTOT群100
研究デザインHFT後
NPPVへ切り替え
ランダム化
クロスオーバー
ランダム化
並行群間比較
FEV1.0% pred.29.7%A群:29.44%
B群:29.43%
FEV1.0/FVC45.3%A群:40.98%
B群:29.43%
HFT群:37.5%
LTOT群:40.2%
治療期間6週間6週間1年間
使用時間(/日)5時間以上8時間以上平均6時間
総流量(L/分)20A群:29.2
B群:30.3
20
導入前PaCO2(mmHg)53.7HFTにより
4.1低下
HFT群で
30分後:2.17
6か月後:2.10
1年後:1.95低下
導入後PaCO2(mmHg)45.5
6分間歩行試験有意な改善なしLTOT群で歩行距離減少
HFT群で増加
SGRQHFT群で改善HFT群で改善
COPD増悪HFT群で少ない

※有意差あり

HFT:ハイフローセラピー,NPPV:非侵襲的陽圧換気療法,LTOT:長期酸素療法

2015年に報告された11人の患者(いずれも長期酸素療法(LTOT)中)を対象(平均PaCO2 53.7 mmHg)とした研究は,全患者に対して6週間ハイフローセラピーを施行した後に6週間NPPV(IPAP/EPAP 16/5.8 cmH2O)に切り替えるというデザインで行われた17. その結果ハイフローセラピー6週間後のPaCO2 45.5 mmHg,NPPV 6週間後のPaCO2 46.4 mmHgであり,いずれもベースラインの値より有意に低下していたが,ハイフローセラピー後とNPPV後では統計学的有意差を認めなかった.

国内のパイロット研究はLTOT中の29人の患者を対象にLTOTとハイフローセラピー6週間ずつのクロスオーバー試験として行われた5. LTOTのまま6週間経過し,その後にハイフローセラピーを上乗せした群(Group A:開始前PaCO2 51.5 mmHg),LTOTに6週間ハイフローセラピーを上乗せしてからLTOTのみに戻す群(Group B:開始前PaCO2 52.3 mmHg)の2群に分けて研究を行い,解析した.その結果,酸素化,6分間歩行試験,スパイログラム,呼吸困難度(mMRC)については有意な改善は認められなかったものの,PaCO2(4.1 mmHg低下),平均夜間経皮CO2(5.1 mmHg低下),さらにSGRQ(total 7.8ポイント低下)については有意に改善することが示された.

LTOT中のCOPD患者を対象(合計200人)として2群間(各群100人ずつ)前向き比較試験(ハイフローセラピー vs LTOT)がデンマークで行われた7. ハイフローセラピー群ではLTOT群と比較して有意にCOPD増悪回数やそれに伴う入院回数が少なく,またQOL,呼吸困難度,PaCO2,6分間歩行試験のいずれもハイフローセラピー群で改善が認められた.

このように現時点では在宅ハイフローセラピーの研究結果は数が少なく限定されているが,概ね結果は良好であり,ハイフローセラピーにより短期間の換気改善効果だけではなく,QOLの改善や急性増悪の減少も示唆されている.現在国内ではこのデンマークの研究と同様の多施設ランダム化並行群間試験(FLOCOP研究)が施行されており,その結果が待たれる.

②慢性安定期COPD患者における在宅ハイフローセラピーの導入基準(試案)

多くの研究で対象患者がLTOTをすでに導入されており,研究開始時にPaCO2<60 mmHgであったこと,在宅ハイフローセラピーの臨床研究においては夜間にハイフローセラピーを使用していたこと,さらに現時点ではPaCO2 ≧ 60 mmHgを呈する慢性安定期COPD患者(ガイドラインで在宅NPPVの適応と考えられる患者群)においてNPPVとハイフローセラピーの直接比較を行った研究が行われていないことなどを踏まえた上で,慢性安定期COPD患者におけるハイフローセラピーの導入基準試案を表2に示す.

表2 慢性安定期COPDにおける在宅ハイフローセラピー導入基準(試案)
在宅酸素療法(HOT)施行中で①に示すような自覚症状と②もしくは③を満たす場合
①呼吸困難,去痰困難,起床時頭痛・頭重感など
②HOT導入時もしくは導入後に高炭酸ガス血症(PaCO2 45 mmHg以上)を認める症例
ただしPaCO2 55 mmHg以上ではNPPVが不適の場合のみとする
③HOT処方酸素量投与下でPaCO2が 45 mmHg未満であっても夜間の低換気による低酸素血症を認める症例
終夜睡眠ポリグラフ(PSG)あるいはSpO2モニターを実施し,SpO2<90%が5分間以上継続するか,あるいは全体の10%以上を占める

2. 気管支拡張症

ハイフローセラピーの加温・加湿機能は,粘膜障害防止作用にとどまらず,粘膜線毛機能の最適化による気道粘液クリアランスの向上をもたらすことで,気管支拡張症のような喀痰量の多い患者において臨床的アウトカムを改善させることが期待される.

気道粘液クリアランスは,肺の主要防御機構として重要であり,その機能不全は細菌の定着や繰り返す気道感染を引き起こす18.特に,慢性II型呼吸不全を合併した気管支拡張症では,大量の気道分泌物と頻回の感染増悪を認めるために,COPDと比較してもその予後は不良とされる19.一方で,37°Cかつ相対湿度100%に保つことは気道表面の十分な加湿をもたらし,効果的な線毛防御機構の保持と向上に寄与する20,21,22.Hasaniらはハイフローセラピーを用いることにより放射性エアロゾルのクリアランスが改善したことを示し,気道分泌物の排出促進による気道浄化作用の可能性を報告した8.また,COPDもしくは気管支拡張症を有する108名を対象として,標準治療にハイフローセラピーを上乗せする効果を検証した単施設非盲検プロスペクティブ無作為化比較試験では,年間の増悪日数を有意に減少させた(18.2日 vs 33.5日p=0.045)10.なお,同試験は呼吸不全患者に限定されていないが,慢性II型呼吸不全を合併した気管支拡張症においてはCO2洗い出し効果も期待される2.慢性II型呼吸不全を合併する気管支拡張症においては,ハイフローセラピーは臨床的アウトカムの改善が期待できるかもしれない.

3. 拘束性換気障害

拘束性換気障害には,間質性肺疾患を中心とする,比較的高度な肺実質障害を伴う拘束性換気障害と肺実質障害が軽度にとどまる拘束性換気障害(肺結核後遺症,脊椎後側彎症,神経筋疾患,横隔神経麻痺,肥満低換気症候群など)に大別できるが,それぞれの拘束性換気障害においてハイフローセラピーの使用意義は異なると予想されるため,ここではそれらを分けて論じる.

①間質性肺疾患(比較的高度な肺実質障害を伴う拘束性換気障害)

慢性II型呼吸不全を合併した間質性肺疾患に対するハイフローセラピーの有用性に関する報告として,Braunclichらは,特発性肺線維症に対して8時間のハイフローセラピーを行うことでPaCO2が有意に低下したことを報告した1. 長期的なハイフローセラピーの効果は明らかではないが,一部の患者においては,自宅療養の継続や肺移植までの橋渡しとしてハイフローセラピーが有用かもしれない.特に,NPPVへの忍容性が乏しい場合や気胸・縦隔気腫の合併を認める場合には,ハイフローセラピーが選択肢として検討される.尚,在宅ハイフローセラピーでは,既存の酸素濃縮器や液化酸素装置で対応できない高度の低酸素血症には使用が困難である.在宅ハイフローセラピーの使用意義は,高濃度酸素投与ではなく,加温加湿とCO2洗い出し効果が主体であることに留意が必要である.

②肺実質障害が軽度にとどまる拘束性換気障害

肺実質障害が軽度にとどまる拘束性換気障害を呈する疾患として,肺結核後遺症や脊椎後側彎症などの拘束性胸郭疾患,肥満低換気症候群,神経筋疾患,両側横隔神経麻痺などが挙げられる.これまでの研究より長期NPPVは慢性II型呼吸不全を伴う拘束性胸郭疾患,神経筋疾患,肥満肺胞低換気症候群において,QOLや生命予後などが改善すると報告されている23,24,25,26. 本邦のNPPVガイドラインでも,拘束性胸郭疾患,神経筋疾患,肥満肺胞低換気症候群に対して長期NPPVを導入することが推奨されている27. したがって,肺実質障害が軽度にとどまる拘束性換気障害では,積極的にNPPV導入を試みることが望ましい.これらの疾患に対するハイフローセラピーの有効性は明らかでないうえに,換気補助効果の乏しいハイフローセラピーがNPPVを上回ることは予想しがたいため,ハイフローセラピーの役割は限定的と考えられる.ただし,NPPVに対する忍容性不良や気胸・縦隔気腫などによりNPPVの使用が困難な場合や併存する感染症等のために気道分泌物が非常に多い場合には,ハイフローセラピーが代替方法として考えられるかもしれない.

導入方法

在宅ハイフローセラピーの慢性期導入についてはNPPVに準じて図1に示す方法を取ることがよいと考えられる27.ハイフローセラピーの導入は現時点では入院で行う.患者説明,導入,設定の調整や患者指導を十分に行った上で,外来での加療に移行する.ただしこれはハイフローセラピーにおいて確立された流れではなく,各施設で最も効率よく安全を確保できる流れで進めるのが良い.

図1

導入の要点

※1:機器の設定を最も適切な状態にする.5分から開始して1時間以上日中に装着できるよう目標を決める.

※2:2~3時間の連続使用が可能であれば一晩装着を目標とする.終夜パルスオキシメータやできれば経皮二酸化炭素分圧連続モニターによって機器の調整をさらに行い最適の条件を決める.

1. 患者・家族に対する説明・教育

ハイフローセラピーを行う上で患者の協力は不可欠であり,治療を始める前に現在の病状,ハイフローセラピーの必要性,合併症などを患者と家族に十分説明する.これは治療に対する不安感を取り除くためにも重要である.ただし在宅でのハイフローセラピーの使用に関して,COPDに対してはQOL改善や増悪率の低下が示されているものの5,7,その他の疾患に関してはエビデンスが不足している点には注意が必要である.エビデンスが不足していることも十分に説明した上で,期待できる効果を説明し同意を得る必要がある.

またその他の治療として酸素療法やNPPVについても説明し,ハイフローセラピーが使用できない場合や改善が得られない場合には,ハイフローセラピーを中止し酸素療法やNPPVに変更することも事前に説明しておく.

2. 機器の設定

①総流量

総流量は 60 L/分までで設定できるが,在宅での使用においては 20~30 L/分で開始することが多い.その上で効果や忍容性を見ながら流量を調整する.

ガスの鼻腔への流入による不快感が強い場合には流量を減らす.ただし流量が少ないと適切な効果が得られないことや,吸入酸素濃度が不安定となることがあるため注意する.また総流量が多いほど気道内圧の上昇や死腔の洗い出し効果や呼吸仕事量の軽減効果の向上が期待できる28.そのため呼吸仕事量が多いと考えられる場合には流量を増やすことを検討する.また流量が多いほど絶対湿度が上がるという報告29があり,乾燥症状が強い場合にも流量を増やすことを検討する.

②酸素流量

在宅ハイフローセラピーの対象となる患者の多くはII型呼吸不全もしくはそのリスクがあるため,過度な酸素投与を行わないように注意する.適宜パルスオキシメータを用いながら,SpO2 88~92%程度を保つように酸素流量を調整する.

③温度

ハイフローセラピーを使用中には吸入ガスを熱く感じる患者が多く,忍容性を下げる要因となる.開始当初は37°Cで開始することが多いが,必要に応じて34°Cに下げる.温度を34°C以下に下げる場合には乾燥症状を訴えることもあり注意が必要である.

3. 鼻カニュラの装着

鼻カニュラによる発赤やびらん,潰瘍といった皮膚障害の予防のために鼻カニュラをきつく締めすぎないよう注意する必要がある.また鼻カニュラは顔の動きにより適切な位置からずれることがしばしばあり,ストラップを用いるなどの工夫や,ずれた場合に患者自身が適切な位置に調整できるよう教育を行うことが重要である

4. 導入に際してモニタリングすべき項目

①動脈血液ガス

ハイフローセラピーの目的の1つとして換気効率の改善があり,特にII型呼吸不全患者に導入する際には動脈血液ガスは有効性の指標として重要である.慢性呼吸不全患者におけるNPPV導入後のPaCO2が低下する群では予後が良好であることが報告されており30,31,また近年では高圧でNPPVを使用し積極的にPaCO2を低下させることでCOPD患者の予後を改善させることが報告されている32.ハイフローセラピーにおいては,エビデンスは不足しているものの,NPPVに準じてPaCO2をモニタリングしながら調整を行うのが良いと考えられる.

②パルスオキシメータ,経皮二酸化炭素分圧連続モニター

パルスオキシメータは在宅でハイフローセラピーを使用する場合には最も重要なモニターであり,酸素流量設定や患者の病態把握に必須である.なおアラーム機能のあるものについては,在宅であることを考慮し,音による睡眠障害などを考慮して適切な設定値が必要である.患者の状態が安定している場合には連続的にモニターする必要はなく間欠的測定でよい.

慢性呼吸不全患者ではしばしばREM睡眠期に一致して繰り返しSpO2が低下する(REM関連低換気)時間帯が見られるが,その場合は終夜の連続パルスオキシメータによりその重症度を評価することができる.また最近では経皮二酸化炭素分圧連続モニターを用いることで,PtcCO2を連続的に測定できる機器が用いられるようになってきており,詳細に睡眠中の低換気の評価が可能となった.

REM関連低換気を伴うCOPDに対してNPPVが有効であったことが近年報告されている33.ハイフローセラピーがどの程度REM関連低換気を改善させるのかは不明であるが,ハイフローセラピー開始後は睡眠中のSpO2やPtcCO2をモニタリングし,著明なREM関連低換気が見られる症例ではNPPVへの変更も検討する.

③呼吸数,血圧,意識レベル,体温などその他のバイタルサイン

導入時や導入後も定期的にチェックを行う.その他の観察項目としては,胸郭の動き,呼吸補助筋の使用,患者の快適性なども重要である.ハイフローセラピーを開始することで,呼吸様式が安定することを確認し,また不快感が強い場合には適宜調整を行う.

5. 外来での管理

患者説明,導入,設定の調整や患者指導を十分に行った上で,外来での加療に移行する.その際,医師だけではなく訪問看護師や在宅診療医と連携して在宅での装着状況や機器の作動状況をチェックする.NPPVとは異なり現在のハイフローセラピー機種に内蔵される情報は多くないため,患者・家族に確認を行う必要がある.

また外来での動脈血液ガス分析によって覚醒時のPaCO2,PaO2の確認とともに重炭酸イオン濃度の増減などにも留意する.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

富井啓介,永田一真;研究費・助成金(帝人ファーマ)

文献
 
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