The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
Original Articles
Effect of sarcopenia on peak expiratory flow rate
Takeshi KeraHisashi KawaiHirohiko HiranoYutaka WatanabeMotonaga KojimaYoshinori FujiwaraKazushige IharaShuichi Obuchi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 28 Issue 2 Pages 298-302

Details
要旨

【目的】呼吸筋も骨格筋であるため加齢による機能低下を免れることはできない.そのため呼吸筋力の指標としての最大呼気流速(PEFR)が,サルコペニア罹患の影響を受けるかを検討した.

【方法】当研究所の2015年コホート研究への参加者427名を対象とした.対象者には体組成,スパイロメトリー,身体機能を測定した.それらをサルコペニア群と非サルコペニア群で比較した後,PEFRを従属変数,サルコペニアの有無と共変量の候補を独立変数としたstepwiseによる重回帰分析を行い,サルコペニア有無によるPEFRの影響を検討した.

【結果】サルコペニア群は非サルコペニア群に比べ,身体機能のほか呼吸機能も低値を示した.重回帰分析の結果,サルコペニア有無はPEFRに有意に関係し(p=0.012),共変量を調整したサルコペニア罹患によるPEFRへの影響は約 0.5 L/secと見積もられた.

【考察】サルコペニアはPEFRを低下させるが,これが将来の健康上の問題とどのように関係しているかについての更なる検討が必要である.

緒言

老年期には退行現象として骨格筋量が減少する.横断的な観察であるが,80歳代は20歳代に比べ男性で30.9%,女性でも28.5%も下肢筋量が減少する1.Rosenbergが提唱した老年期に起こる骨格筋の減少であるサルコペニア(加齢性筋減弱症)2は,現在は骨格筋量の減少と筋のパフォーマンスの低下で決定する操作的定義である.サルコペニアの定義と診断に関する欧州関連学会(European Working. Group on Sarcopenia in Older People; EWGSOP)のコンセンサスでは,骨格筋の量と質の双方で定義することを推奨している3.サルコペニアは生体インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis; BIA)や二重エネルギーX線吸収法で測定した四肢の骨格筋量を身長で補正した骨格筋指数(skeletal muscle mass index; SMI)と,握力,歩行速度で評価する.これらを用いたサルコペニアを定義するための基準値は,性別,人種,測定方法ごとに検討されており,日本人においてもその診断法については確立している4,5,6

ところで呼吸筋も骨格筋であるため加齢による低下を免れることはできない.呼吸筋の筋肉量についてはその測定手段が十分に確立されていないため,その加齢性の減少については検討されていないが,最大口腔内圧測定で評価することができる呼吸筋力は他の骨格筋と同様に加齢によって低下することがよく知られている7.この加齢による呼吸筋力の低下はサルコペニアの一様態であると推察される.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)のような気道閉塞がなければ最大呼気流速(peak expiratory flow rate; PEFR)は呼吸筋力を反映するが,このPEFRとサルコペニアとの間には明確な関係がある.受信者動作特性(receiver operating characteristic; ROC)曲線を用いた我々の検討では,骨格筋指数と歩行速度,握力で定義したサルコペニアに対するPEFRのcut off値を 5.0 L/secに設定すると,感度0.62,特異度0.77,area of under curve(AUC)が0.73と,PEFRでサルコペニアを判定することが可能であった8.事実,EWGSOPのコンセンサスでは,サルコペニアの筋力評価としてPEFRを使用することが言及されており,PEFRはサルコペニア診断に意義があると考えられている.このPEFRとサルコペニアの関連を検討することの意義は他にもある.咳嗽時の最大呼気流速(cough peak flow; CPF)とPEFRは測定方法が異なるだけで実質的には同じ意味合いを持つ.このCPFは自己排痰能力と関連があるので9,PEFRも同様にこれと関連すると考えられる.したがってサルコペニアの罹患によってPEFRが影響を受けるかについて明らかにすることは意義があると考えられる.しかしながらこれまでこのような点で検討した研究はなく,我々の以前の解析においても検討が行えていない.そのため本研究では,呼吸筋力の代替値としてのPEFRに対するサルコペニア罹患による影響を,地域在住高齢者を対象に検討することとした.

対象と方法

1. 対象

東京都健康長寿医療センター研究所では2011年より板橋区の対象地域に在住する高齢者を対象に,当研究所実施のコホート研究の一つである「お達者検診」への参加を呼びかけ,会場来場型調査を実施している10.2015年の参加者は639名(男性265名/女性374名)であった.本解析では,骨格筋指数と歩行速度,握力で定義したサルコペニアに対するPEFRの判別能を,ROC曲線を用いて検討した我々の以前の研究と同じデータセットを利用した8.体組成・スパイロメトリーが実施できなかったもの,COPDとスパイロメトリーの結果から一秒率(FEV1.0%)が70%未満であったものを解析から除いた.合計427名(男性157名/女性270名)が最終的な解析の対象となった.すべての対象者には研究による利益と不利益について事前に説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た.また本研究は所属機関の倫理委員会の審査を経て実施した(承認番号:H18, 2015).

2. 方法

1) 身体計測的測定と体組成測定

まず対象者に身長および体重を測定し体格指数(body mass index; BMI)を求めた.体組成計(InBody 770,InBody)を用いて,体脂肪率(percent body fat; PBF),四肢筋肉量(appendicular skeletal muscle mass; ASM)を測定した.サルコペニアの抽出のためにASMを身長の二乗で除してSMIを求めた.

2) 併存症と生活習慣の調査

対象者には看護面接により過去あるいは現在の併存症のうち高血圧,心臓病,脳卒中,糖尿病,脂質異常症,骨粗鬆症,貧血,喘息,慢性閉塞性肺疾患,がんについて調査した.また自記式アンケートを用いて生活習慣(運動,飲酒,喫煙)について対象者に質問紙に直接印をつけてもらう方法で回答してもらった.

3) スパイロメトリー

対象者には椅子に腰掛けてもらい,スパイロメーター(AS-507,ミナト医科学)を用いて肺活量測定と努力性肺活量測定を行った.努力不足の場合は十分な測定が得られるまで数回繰り返し,肺活量と1秒量が最大値となる測定値を採用した.なお本研究においては,血圧が高値であるもの,呼吸器疾患に罹患しているもの,胸腹部の大動脈の異常を指摘されているもの,その他スパイロメトリーの測定操作によって問題が生じる可能性があるものは測定を行わず,解析から除外した.スパイロメトリーの結果からPEFR,肺活量(VC),努力性肺活量(FVC),一秒量(FEV1.0),比肺活量(%VC),一秒率(FEV1.0%),予測値に対する一秒量比(%FEV1.0)を算出した.

4) 身体機能の測定

サルコペニアの判定のために 5 mの歩行路とストップウオッチを用いて通常速度での歩行速度を,スメドレー式握力計を用いて握力を測定した.移動能力やバランス機能の評価としてTimed-Up & Go Test(TUG)と開眼片足立ち時間を,ストップウオッチを用いて測定した.いずれもマニュアルを用いて各検者間で測定方法について統一を図った.測定方法の詳細については,我々の以前の報告に記してある8

5) サルコペニアの判定

SMIと握力または歩行速度を用いてサルコペニアを判定した.EWGSOPのコンセンサス3を参考に,骨格筋量(男性 7.09 kg/m2未満,女性 5.91 kg/m2未満),握力(男性 25 kg未満,女性 20 kg未満)または歩行速度(1.0 m/秒未満)のカットオフ値をそれぞれ日本人に適合させてサルコペニアを判定した5,6

3. 解析方法

まずサルコペニアと非サルコペニアの2群に分類し,併存症,身体計測学的指標,呼吸機能,身体機能,生活習慣を比較した.連続変数の場合は独立2群のt検定を用いて比較し,正規分布していない場合はMann-WhitneyのU検定を用いた.カテゴリー変数の比較にはχ2 検定を用いた.さらにPEFRを従属変数,サルコペニアの有無と関連因子を独立変数とした重回帰分析を行い,共変量を調整したうえでサルコペニアによるPEFRの影響を検討した.統計解析にはSPSS 22.0(SPSS)を用い,有意水準はp<0.05に設定した.

結果

サルコペニアと非サルコペニアの比較の結果を表1に示す.サルコペニア群は女性が多く(p<0.001),身長,体重が低値でASMとSMIも低値であった(それぞれp<0.001).しかしPBFには有意な差を認めなかった.身体機能(握力,歩行速度,TUG)についてもサルコペニア群は低値を示した(それぞれp<0.001).呼吸機能の比較の結果を表2に示す.サルコペニア群は非サルコペニア群に比べPEFR,VC,FVC,FEV1.0が低値を示した(それぞれp<0.001).しかし%VC,FEV1.0%,%FEV1.0については2群に差を認めなかった.生活習慣の比較の結果を表3に示す.運動習慣については有意な差は認められなかったが,飲酒習慣については有意な差が認められた(p=0.001)

表1 年齢,体格,身体機能の比較
サルコペニア
n=65
非サルコペニア
n=362
P
性別(male/female)12/53145/217<0.001
年齢(year)77.3±6.173.9±5.0<0.001
身長(cm)149.4±6.7156.7±7.9<0.001
体重(kg)47.6±7.056.6±10.2<0.001
BMI(kg/m221.3±2.623.0±3.2<0.001
PBF(%)29.7±7.328.3±7.20.131
ASM(kg)12.3±2.116.2±3.7<0.001
SMI(kg/m25.5±0.56.5±0.9<0.001
握力(kg)17.7±3.228.1±7.3<0.001
歩行速度(m/sec)1.24±0.281.41±0.23<0.001
TUG(sec)6.4±2.05.3±1.5<0.001

カテゴリー変数はχ2検定を用いて,連続量は独立2群のt検定またはMan-Whitney U検定を用いて比較した.数値は人数と平均値±標準偏差で表した.

BMI,体格指数;PBF,体脂肪率;ASM,四肢筋肉量;SMI,骨格筋指数;TUG,timed up & go test

表2 呼吸機能の比較
サルコペニア
n=65
非サルコペニア
n=362
P
PEFR(L/sec)4.3±1.45.6±1.8<0.001
VC(L)2.1±0.52.6±0.7<0.001
FVC(L)1.9±0.52.4±0.6<0.001
FEV1.0(L)1.6±0.42.0±0.5<0.001
%VC(%)90.0±14.792.8±14.20.118
FEV1.0%(%)82.7±7.581.3±5.80.202
%FEV1.0(%)95.2±16.395.6±15.30.840

連続量は独立2群のt検定またはMan-Whitney U検定を用いて比較した.

PEFR,最大呼気流速;VC,肺活量;FVC,努力性肺活量;FEV1.0,一秒量;%VC,比肺活量;FEV1.0%,一秒率;%FEV1.0,予測値に対する一秒率の比

表3 生活習慣の比較
サルコペニア
n=65
非サルコペニア
n=362
P
軽い体操を定期的にしていますか.1週間に何日くらいしていますか
 毎日24(37%)125(35%)
 5~6日6(9%)35(10%)
 2~4日19(29%)105(29%)
 1日以下4(6%)32(9%)
 軽い体操はしていない12(18%)65(18%)0.965
散歩と,軽い体操以外で,運動・スポーツなどを定期的にしていますか
 毎日4(6%)14(4%)
 5~6日2(3%)16(4%)
 2~4日16(25%)82(23%)
 1日以下8(12%)50(14%)
 運動・スポーツはしていない35(54%)200(55%)0.891
現在,お酒(アルコール)を飲みますか
 飲む17(26%)179(50%)
 やめた6(9%)14(4%)
 以前からほとんど飲まない42(65%)164(46%)0.001
現在,タバコをすっていますか
 すっている5(8%)22(6%)
 やめた9(14%)85(24%)
 以前からすったことがない51(78%)253(70%)0.212

χ2検定を用いて比較した.数値は人数と総数に対する割合(%)で示した.

サルコペニアの罹患によるPEFRの影響を調査するために,stepwise法による重回帰分析を用いて共変量を調整した検討の結果を表4に示す.従属変数にはPEFRを,独立変数には年齢,性別,サルコペニアの有無を強制投入し,共変量の候補として身長,体重,飲酒習慣,喫煙を用いてモデルを作成した.ANOVAの結果はp<0.001と作成したモデルは有意で,サルコペニアの有無は独立して関連しており(p=0.012),Bが-0.498 L/sec(95%CI; 0.257~10.278)であった.したがってサルコペニア有無に対するPEFRの影響は約 0.5 L/secと見積もられた.

表4 重回帰分析の結果
係数
B95%CIp
(定数)5.267-0.257~10.2780.039
サルコペニア(なし0/あり1)-0.498-0.885~-0.1100.012
性別(男0女1)-1.828-2.250~-1.407<0.001
年齢(歳)-0.059-0.085~-0.032<0.001
身長(cm)0.0330.008~0.0580.010
喫煙習慣(なし0/あり1)0.2460.003~0.4890.048

ANOVA p<0.001 R2=0.414

考察

呼吸筋は四肢の骨格筋と同様に加齢による影響を受け,年齢が高くなればなるほど呼吸筋力は低下する.日本人のデータでは呼気筋力は男性で 0.59 cmH2O/歳,女性で 0.33 cmH2O/歳ずつ減少していく11.この呼吸筋の加齢性の機能低下をrespiratory muscle sarcopenia,sarcopenia of respiratory muscle,あるいは単にrespiratory sarcopeniaと呼ぶ12,13,14.我が国では「呼吸筋サルコペニア」と呼ぶことが適切であると考えられる.呼吸筋は骨格筋である以上,四肢の骨格筋の量と質の低下と同じようにその量や質は低下していくので,呼吸筋の筋力低下と四肢骨格筋で定義した従来のサルコペニアと関係がある8.この呼吸筋サルコペニアの検出には呼吸筋力の直接的な指標である最大口腔内圧を用いることが望ましいが,Valsalva操作に伴う心血管系の負担が大きいことから高齢者にはあまり向いていない.一方,気道内の流速は気道抵抗(気道の太さ,長さ,ガス組成で決定される)と,呼吸筋力に影響を受けるが,気道抵抗となる気道閉塞がなければPEFRの影響は呼吸筋力を反映する.そのため本研究ではPEFRがサルコペニアに影響をどの程度受けるかを検討した.

その結果,PEFRは四肢の骨格筋の量と質で定義した従来のサルコペニアへの罹患により 1.3 L/sec,共変量を調整しても 0.5 L/secも低下することが明らかになった.先行研究によれば,自己排痰不可能例のPEFRは 2.4 L/secであるが9,我々の研究におけるサルコペニア群のPEFRは 4.3 L/secであり,それよりも明らかに高値である.また自己排痰の可否が判断できるCPFのカットオフ値は 240 L/min(4.0 L/sec)であるがCPFはPEFRより 60 L/min(1 L/sec)以上高いことも考慮すれば,サルコペニア罹患が直接咳嗽困難に繋がるとは考えにくい.しかしながらPEFRは加齢によって低下していくので15,サルコペニア罹患による影響が加わればその基準値に近づくことも考えられる.したがってサルコペニア罹患による呼吸筋機能の低下は決して無視することができない.

従来のサルコペニアが将来の身体機能低下,転倒,さらに死亡に関係するように,この加齢による呼吸筋弱化,あるいはサルコペニア罹患による影響としての呼吸筋力弱化は将来の何らかの健康上の問題と関連している可能性がある.CookらはPEFRの低下は将来の死亡率と関係することを報告している16.また最大口腔内圧の測定を用いた呼吸筋力と死亡との関連を観察した報告においても,呼吸筋力の上位25%に比べ下位25%は5年後の生存率が低い17.ただしこれらの報告はCOPDなどの呼吸器疾患を除外していないため,これらの結果は呼吸器疾患罹患を反映している可能性がある.一方で呼吸機能は元々予備力が大きいため,呼吸筋力もかなりの低下を来さない限り換気の制限にはならないが,呼気筋力の低下による咳嗽力の低下は誤嚥のリスクを高めるとも考えられる.これらのことから最大口腔内圧の測定で得られた呼吸筋力やその代替値としてのPEFRで定義された呼吸筋サルコペニアが,将来のどのような問題と関連しているかを詳細に検討する必要があると考えられる.

本研究の限界として,まずは本研究で行ったスパイロメトリーはATS/ERSのステートメントに準拠していない点がある.したがって数値の正確性については限界がある.また横断的研究であるため,PEFRが実際に将来の死亡や身体機能低下と関連があるかは検討ができない.今後はPEFRや最大口腔内圧によって定義される呼吸筋サルコペニアの長期的な観察研究を行っていくべきである.

備考

本研究は日本医療研究開発機構(AMED)委託研究(No. 15dk0107004h0003)とJSPS科研費(No. JP15K08824)の助成を受けた研究の一環として実施された.

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top