The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Effects of continuous positive airway pressure on brachial-ankle pulse wave velocity levels in patients with obstructive sleep apnea syndrome
Muneaki YoshinoTatsuo SugaKazuyuki OhmuraMizuki SuzukiYukari SuzukiMiki NakamuraKaori NematsuTomomi OsadaShiro HaraYasuhiro Aoki
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 303-307

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要旨

【背景と目的】閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)では,上腕-足首間脈波伝達速度(baPWV)が高値を示すとされる.重症なOSASほど高血圧の合併頻度が高くなるため,無呼吸低呼吸指数(AHI)に比例してbaPWVが高くなると予測されている.これまで重症OSASにおけるbaPWVの変化に関する報告は少ない.そこで,CPAPが重症OSAS患者のbaPWVに与える影響を検討した.

【方法】対象は平成21年11月から平成27年12月までにCPAPを開始した53例.治療前にbaPWVを測定し,開始後6ヶ月以上の期間をあけて再検した.

【結果】CPAPによりbaPWVの改善を認めた.AHIが20≦AHI<30の群と30≦AHI<56の群,AHI≧56回/時間の3群に分けた検討では,いずれの群でも有意な改善傾向を認めた.

【結語】OSASではCPAPにより血圧が低下する症例が多く,baPWV改善の一因と推測された.

緒言

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome; OSAS)は二次性高血圧症の原因として最も頻度の高い疾患であり1,糖尿病や脂質異常症の病態を悪化させる動脈硬化の危険因子である2,3.OSASでは上気道の閉塞に伴って生じる呼吸努力のために,胸腔内の陰圧化が強まっている.また,睡眠時の低酸素血症と睡眠の分断化を引き起こし,交感神経活性を亢進させることにより血圧を上昇させる.この無呼吸イベントを夜間に繰り返すことにより,血行動態が変化し,動脈硬化が進行すると指摘されている4.一方,上腕-足首間脈波伝達速度(brachial-ankle pulse wave velocity; baPWV)は動脈硬化の程度を検出し脳心血管障害発症のリスクを予測することができるとされている5.過去の文献では,無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Syndrome; AHI)が15回/時間以上(中等症~重症SAS)の群と15回/時間未満(軽症SAS~正常)の群でbaPWVを比較したところ,前者で有意にbaPWVが高値を示していたという報告6もある.OSASの治療法である持続的陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法には,交感神経活性の抑制作用7,8,炎症マーカーの低下作用9,血管内皮機能改善作用,降圧作用10,11などの効果が認められると報告されている.

寺本らはSAS患者において,無治療群では3年後にbaPWVが悪化したのに対し,CPAP治療群ではbaPWVが有意に改善したことを報告した12.また,KitaharaらのグループはOSAS患者のbaPWVに及ぼすCPAPの効果について検討し,CPAP療法によりOSAS患者のbaPWVを低下させる効果があることを報告した5.しかし,過去にOSASの重症度別のbaPWV変化についての報告は少ない.

わが国では,AHI≧20回/時間がCPAP治療の保険適応とされており,AHI≧30回/時間は重症と分類されている.CPAP治療が必要となる対象者において,これまで重症度とbaPWVの改善度との関係を比較検討した研究はない.また本研究ではCPAP加療中の中等症群,重症群に加えて,ROC曲線を用いて算出されたAHIカットオフ値の3群間でbaPWVの変化に差があるか比較検討した.

対象と方法

1. 対象

平成21年11月から平成27年12月の間に終夜睡眠ポリグラフ(polysomnography; PSG)検査を施行してOSASと診断されCPAP療法の適応となったAHI≧20回/時間の患者のうち,CPAP療法開始前にbaPWVを測定し,さらに開始6ヶ月以降に再測定を行った患者53名を対象とした.

2. 方法

対象53名を,20≦AHI<30(中等症OSAS)の群とAHI≧30回/時間(重症OSAS)の2群に分け,CPAP療法前後でのbaPWV,収縮期血圧,拡張期血圧の変化を比較検討した.また,Receiver Operatorating Characteristic(ROC)曲線を用いてbaPWV変化率のカットオフAHI値を算出したところ,56回/時間であった.これを用いて,OSAS中等症,重症,カットオフ値の3群間でbaPWV変化率の比較を行った.なお,baPWV変化率において,改善の定義はガイドラインの3~8%を誤差とする13ことから5%と仮定し,5%の低下を改善群,-5%~5%を不変群,5%の上昇を悪化群とした.CPAP療法前後で降圧薬に変更があったものは除外した.

CPAPアドヒアランスと治療効果との関係については「1日の使用時間が4時間以上,毎月の使用率が70%以上使用することでCPAPの有用性が発揮される14」とされている.これを踏まえ本研究では,CPAP使用の定義を「1日4時間以上かつ月の使用率70%以上の場合」とした.

PSG検査装置は,Respironics社製Alice 5 および6を使用した.脳波,眼球運動,頤筋筋電図,心電図,前脛骨筋筋電図,鼾音,サーミスタおよびプレッシャーセンサによる呼吸,呼吸インダクタンスプレチスモグラフ(respiratory inductance plethysmography; RIP)による胸腹部呼吸運動,パルスオキシメーターによるSpO2,体位センサによる体動を終夜監視下で測定した.

血圧脈波検査装置は,OMRON社製form BP-203RPEIIIを使用した.アームカフおよびアンクルカフ,心電センサによるbaPWV,足関節/上腕血圧指数(Ankle Brachial Index; ABI)などを測定した.

PSGにおける睡眠段階の判定および呼吸イベントの判定はAmerican Academy of Sleep Medicine(AASM)Manual for the Scoring of Sleep and Associated Events ver. 2.1に従い,「無呼吸」はサーミスタによる信号が90%以上低下した持続時間が10秒以上,「低呼吸」はプレッシャーセンサによる信号が30%以上低下した持続時間が10秒以上かつSpO2 が3%以上低下あるいは覚醒反応を伴うものとした.

また倫理的配慮として,検査結果を含む患者の臨床データを研究目的に限って解析に用いその結果を学会などで発表すること,またその際には個人情報が特定されないように十分に配慮すること,について説明し同意を得た.

3. 統計解析

20≦AHI<30の群とAHI≧30回/時間の群におけるCPAP療法後のbaPWV変化率についての検討には,Wilcoxon signed-ranks testを用いた.また,両群のCPAP使用率の検討には,Mann-Whitney’s U testを用いた.20≦AHI<30の群とAHI≧30回/時間の群の重症度と改善の関係性についての検討には,Fisherの直接法を用いた.20≦AHI<30,30≦AHI<56,AHI≧56回/時間の各々の群における,改善と不変・悪化例との関係性についてはMann-Whitney’s U test,Kruskal-Wallis testを用いた.有意水準は両側5%とし,データの入力と解析には,BellCurve for Excel(株式会社情報サービス)を用いた.

結果

対象患者は53例で,全体の平均年齢は57.5歳,BMIは27.1 kg/m2 ,AHIは52.6回/時間,測定間隔は623.5日±379.5であった.また,20≦AHI<30の群が8名,AHI≧30回/時間の群が45名であった.それぞれの患者背景を表1に示した.CPAP使用率については,20≦AHI<30回/時間の群で91.3%,AHI≧30回/時間の群で92.2%と両群で差はみられなかった(図1).重症度別におけるCPAP療法前後のbaPWV,収縮期血圧,拡張期血圧の変化を表2に示した.対象全体ではbaPWV,血圧ともに有意な改善を認めた.また,AHIとbaPWV変化を比較すると相関がみられた(図2).AHIと収縮期血圧,拡張期血圧を比較しても共に相関がみられた(図3図4).AHI群別にbaPWV,収縮期血圧,拡張期血圧の変化を検討すると,AHI≧30回/時間の群では有意な改善を認めたのに対して(p<0.05),20≦AHI<30回/時間の群では改善を認めなかった(表2).ROC曲線より得られた最適カットオフ値はAHI:56回/時間であり,これを含めた3群におけるCPAP前後のbaPWVの変化をさらに詳細に解析すると,AHI≧56回/時間の群では改善が61.1%,不変が16.7%,悪化が22.2%,30≦AHI<56回/時間の群では改善が51.9%,不変が37.0%,悪化が11.1%,20≦AHI<30回/時間の群では改善が全体の25.0%,不変が75.0%,悪化が0.0%であり,有意な差を認めた(図5).

表1 患者背景
全体20≦AHI<30回/時間AHI≧30回/時間
患者数(男/女)53(41/12)8(6/2)45(35/10)
年齢(歳)57.5±9.658.4±9.757.4±9.7
BMI(kg/m227.1±4.623.2±2.127.7±4.6
AHI(回/時間)52.6±22.025.9±4.357.3±20.4

平均値±標準偏差(範囲)

図1

CPAP使用率

表2 CPAP前後でのbaPWV(cm/s),収縮期・拡張期血圧(mmHg)の変化
全体20≦AHI<30回/時間AHI≧30回/時間
baPWV
(cm/s)
収縮期血圧
(mmHg)
拡張期血圧
(mmHg)
baPWV
(cm/s)
収縮期血圧
(mmHg)
拡張期血圧
(mmHg)
baPWV
(cm/s)
収縮期血圧
(mmHg)
拡張期血圧
(mmHg)
CPAP前1,603.2
±299.7
140.1
±19.1
84.1
±12.4
1,557.9
±212.1
132.1
±13.6
78.0
±11.5
1,611.2
±313.9
141.6
±19.7
85.2
±12.3
CPAP後1,524.7
±244.6**
133.0
±21.6*
80.7
±12.9*
1,527.4
±189.1
133.0
±14.4
81.8
±14.8
1,524.2
±255.0**
133.0
±22.8*
80.5
±12.7**

平均値±標準偏差(範囲),*:p<0.05 ,**:p<0.01

図2

AHIとbaPWV(cm/s)変化

図3

AHIと収縮期血圧(mmHg)変化

図4

AHIと拡張期血圧(mmHg)変化

図5

AHI群別におけるCPAP前後のbaPWV(cm/s)変化

20≦AHI<30をMann-Whitney’s U test±標準偏差

30≦AHI<56,AHI≧56回/時間をKruskal-Wallis test±標準偏差

*:p<0.05,**:p<0.01

考察

今回の検討では,重症度に関わらずbaPWVが改善する傾向を認めた.そのメカニズムとして,CPAP療法により血圧が低下することによってbaPWVが改善することが推測された.CPAP療法は,睡眠時の低酸素血症と睡眠の分断化を是正し,交感神経活性を低下させ,胸腔内圧を陽圧化することにより血圧を低下させる.さらに心機能に対しては血圧が低下することによって後負荷が軽減され,静脈還流量の減少によって前負荷軽減が得られる.このようにして高血圧症の改善が得られる15.このような機序により,今回の検討でも多くの例でbaPWVの改善が認められたと推察している.

今回の検討で血圧は20≦AHI<30回/時間の群で有意な改善を認めず,AHI≧30回/時間の群で有意な改善をみとめた.梶川らは,OSASを伴う高血圧症例においてAHIがより重症であるほど血圧の高値が認められており,CPAP療法により有意な降圧効果が認められたことを報告している16.ただし,同研究において対象者は降圧剤を使用していた.これに対し本研究においては,対象者は降圧剤を使用しておらず,CPAP治療単独による降圧効果がAHI≧30回/時間の群においても得られたと考えられた.OSAS中等症群におけるCPAP治療の効果については,統計学上ではbaPWVの有意な改善を認めなかったものの,改善群は25.0%,不変群は75.0%,悪化群は0.0%とわずかな改善傾向を認めたため,中等症群においても重症群と同様にCPAP治療によるある程度の降圧効果が認められたと考えている.またAHIとbaPWVとは有意な正の相関を認めており,20≦AHI<30回/時間では悪化例はみられず,不変例が多いものの改善例を認めた.30≦AHI<56回/時間,AHI≧56回/時間それぞれの群では,加療後baPWV改善例は不変・悪化例いずれよりも有意に多いことが認められた.しかし,CPAP後にbaPWVが上昇した例や,baPWV改善群の中にもCPAP療法開始前と比較して血圧が上昇した例もみられた.これは,CPAP療法による降圧効果以外の因子が影響していることを示唆している.動脈硬化の危険因子には高血圧症以外に,高脂血症,糖尿病,肥満,喫煙,性差,加齢などが挙げられるため17,今後さらにこれらの因子がどのように関与したかを検討していくことが必要と考える.また本研究においては,ROC曲線を用いてカットオフ値を算出したが,最適カットオフ値を設定しても悪化例が4例認められ,ROC曲線による予測能は高いとはいえなかった.これはbaPWVの変化率のみでAHIを予測することは困難であることを示唆している.しかし,多くの例では有意に加療後のbaPWV改善を認めており,重症度に関わらずOSAS患者ではCPAPによりbaPWVの改善をもたらす可能性が示唆された.当院では検査技師によるCPAP療法のサポート体制があり,この結果を患者に伝えることによりCPAP療法の効果の実感とアドヒアランス向上に役立てていく予定である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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