The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Original Articles
Fluctuation of oxygen saturation in patients with chronic respiratory disease before, during, and after washing bodies
Yoko TsukamotoKumiko ShitaraIkuno ItoMikako MoritaNaoya KotazimaRyo MinamiYuko UchidaMayumi OsimaNaoko ShindoHirotoshi Matsui
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 324-329

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要旨

慢性呼吸器疾患患者の入浴に関する報告は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を対象としたものが多く症例数も少ない.本研究の目的はCOPDを含む慢性呼吸器疾患患者の入浴中の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の変動を後方視的に調査し負担のかかりやすい動作を明らにすることで効率的な動作指導を検討することである.作業療法士が入浴評価を実施した61名を対象に入浴を構成する各動作項目(脱衣,洗体,洗髪,体拭き,着衣)後のSpO2値を調査した.加えて入浴評価と6分間歩行試験(6MWT)を同じ酸素量で実施した25名を対象に入浴時と6MWT時のSpO2最低値を比較した.入浴時のSpO2値は体拭きで最低値を示し,約35%の患者は6MWTのSpO2最低値を下回った.入浴時は体拭きでSpO2が低下しやすいことを考慮し指導を行う必要がある.また労作時の酸素流量設定は6MWTに加え入浴評価も実施した上で決定することが望ましい.

緒言

慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease; COPD)などの慢性呼吸器疾患患者では,呼吸困難のためにさまざまな日常生活動作 (activities of daily living; ADL) の遂行が困難になり,健康関連QOL (quality of life; QOL)が低下すると言われている1,2.また在宅呼吸ケア白書によると患者は日常生活に対してさまざまな不安を抱えていると報告されている3.特に入浴動作は,移動・更衣・洗体・洗髪など複合的な動作の連続を伴い,METs(Metabolic equivalents)数も高い4.しかし慢性呼吸器疾患患者の入浴に関する報告はCOPDを対象としたものが大半で症例数も少ない.本研究はCOPDを含む慢性呼吸器疾患患者の入浴中の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の変化を後方視的に調査することで負担がかかりやすい場面を明らかにし,効果的な入浴動作指導の検討につなげることを主な目的とした.

対象と方法

1. 対象と方法

2014年1月~2016年9月までに作業療法士が入浴評価(シャワー浴のみ)を実施した慢性呼吸器疾患患者97名より,後方視的に診療録,入浴評価表からデータを収集した.

方法1)入浴を構成する各動作項目(脱衣,洗体,洗髪,体拭き,着衣)のSpO2を主要評価項目とし,脈拍数(pulse rate; PR)を副次評価項目とした.入浴評価表のSpO2と脈拍数項目の欠損例と介助浴対応例は除外し,61名を対象者として抽出した.基礎疾患として多かったCOPD,間質性肺炎(interstitial pneumonia; IP),肺アスペルギルス症の3疾患,及び酸素吸入の有無で対象者を群分けし,入浴動作を構成する各動作項目のSpO2値について比較した.

なお,当院一般病床においては浴槽を使用しての入浴は実施しておらず,シャワー浴での対応を行っているため,本研究での入浴評価は全例がシャワー浴である.

また入浴評価を実施する前には作業療法士が動作速度の調整や休息を入れるタイミング,呼吸法の指導,洗体・洗髪など各動作における肢位の工夫や椅子の利用についてパンフレット等も活用した口頭指導や模擬動作指導を行っている.評価にあたっては主治医や担当医にSpO2の下限など確認し,指示範囲の中で安全に配慮して実施している.

方法2)6分間歩行試験(6-minute walk test;6MWT)と入浴評価を同じ酸素量で実施していた25名を抽出して6MWTと入浴評価時のSpO2最低値を比較した.入浴評価表のSpO2項目欠損例と6MWTおよび呼吸機能検査非実施例,6MWTと入浴評価の酸素量が異なる症例は除外した.加えて6MWTと入浴評価のSpO2最低値の結果から「入浴時のSpO2最低値が低い群」「6MWTと入浴中のSpO2最低値が同じ群」「6MWTのSpO2最低値が低い群」の3群に分け呼吸機能検査結果を調査した.

図1

対象者抽出の流れ

2. 統計学的検討

3疾患別による入浴中の各動作項目後のSpO2値の比較や呼吸機能検査結果の比較には1元配置分散分析を行い,酸素の有無による入浴中の各動作項目後のSpO2値の比較にはt検定を行った.有意水準はp<0.05とした.また6MWTと入浴評価のSpO2最低値についてはSpearmanの順位相関関数を用いて検証した.

本研究は国立病院機構東京病院の倫理審査委員会において承認を得ている.

結果

方法1)における対象者61名の平均年齢は73.6歳(±8.86).男性44名・女性17名であった.疾患内訳はCOPD 18名,IP 26名,肺アスペルギルス症7名,その他10名(表1a).61名のうち酸素を吸入していた対象者は37名で,酸素吸入量は 0.25 L/分が1名,1 L/分が9名,2 L/分が11名,3 L/分が8名,4 L/分以上が8名であった(表1b).

表1a 疾患内訳
疾患人数(重複疾患含む)
COPD18
間質性肺炎26
肺アスペルギルス症7
その他(喘息・非結核性抗酸菌症など)10
表1b 酸素吸入量内訳
酸素吸入量人数
酸素吸入なし24
0.25 L/分1
1 L/分9
2 L/分11
3 L/分8
4 L/分以上8

1. 入浴中のSpO2の値の変化について

対象者61名の入浴を構成する各動作項目(脱衣,洗体,洗髪,体拭き,着衣)後のSpO2平均値を図2に示した.COPD,IP,肺アスペルギルス症の3疾患で入浴動作項目毎のSpO2平均値を比較したものを図3に,酸素吸入の有無で入浴動作項目毎のSpO2平均値を比較したものを図4に示した.対象者61名は入浴中,体拭き後にSpO2最低値を示し,PRは最高値を示していた(図2).疾患別に比較すると,IPと肺アスペルギルス症では体拭きでSpO2は最低値を示しており,COPDでは洗体でSpO2は最も低下し,次に体拭きで低下していた.酸素吸入の有無による比較では,ともに体拭きの後にSpO2は最低値を示していた.3疾患による入浴の各動作項目におけるSpO2値は有意な差がなかった(図3).酸素吸入の有無による比較では開始時以外は入浴の各動作項目におけるSpO2値に有意差は認めなかった(図4).

図2

入浴中のSpO2とPRの変化

PR; pulse rate

体拭き後に SpO2は最低値を示しPRは最高値を示した.

図3

疾患別による入浴を構成する各動作項目のSpO2値の比較

IP; interstitial pneumonia

入浴動作を構成する各動作項目におけるSpO2値は3疾患の間で有意差を認めなかった.

図4

酸素吸入の有無による入浴を構成する各動作項目のSpO2値の比較

開始時以外は酸素吸入の有無でSpO2値に有意差は認めなかった.

2. 6MWTと入浴でのSpO2最低値の比較について

6MWTと入浴評価を同じ酸素量で実施していた25名でSpO2最低値を比較した(図5).結果,5名が6MWTと入浴中のSpO2最低値が同じで11名が6MWTのSpO2最低値が低く,9名が入浴時のSpO2最低値が低かった.6MWTと入浴でのSpO2最低値についてSpearmanの順位相関関数を用いて検討を行ったが相関関係は認めなかった(p=0.3).また表2に「入浴時のSpO2最低値が低い群」「6MWTと入浴中のSpO2最低値が同じ群」「6MWTのSpO2最低値が低い群」の3群に分けて呼吸機能検査の結果を示した.3群における呼吸機能検査の数値はp>0.05と有意な差は認められなかった.

図5

6MWTと入浴評価時のSpO2最低値の比較

6MWT; 6-minute walk test

縦軸は入浴時の最低SpO2値,横軸は6MWT時の最低SpO2値を示している.

25名中9名は入浴時のSpO2最低値が6MWT時のSpO2最低値を下回っていた.

表2 3群間の呼吸機能検査結果比較
6MWT>入浴
(n=9)
6MWT=入浴
(n=5)
6MWT<入浴
(n=11)
p値
年齢(yr)70.2±11.775.6±6.571.6±12.4n.s.
VC(L)2.39±0.842.05±0.741.67±0.47n.s.
%VC(%)77.92±27.2370.48±21.8958.3±14.63n.s.
FEV1(L)1.54±0.901.15±0.441.15±0.41n.s.
%FEV1(%)71.03±38.660.54±23.9259.7±27.85n.s.

平均±標準偏差

6MWT; 6-minute walk test

n.s.; not significant

6MWTと入浴評価のSpO2最低値の比較結果から3群(入浴時のSpO2最低値が低い群,6MWTと入浴中の SpO2最低値が同じ群,6MWTのSpO2最低値が低い群)に分けて,それぞれの呼吸機能検査結果を示した.3群間での呼吸機能検査結果に有意差はみられなかった.

考察

本研究では慢性呼吸器疾患患61名の入浴中のSpO2値の変動について後方視的な調査をした.また6MWTのSpO2最低値と入浴中のSpO2の最低値を比較した.

今回の研究では対象者61名の入浴中のSpO2値の変動調査により,入浴動作では体拭きの後にSpO2値が最低値となる症例が多かった.この結果は中村らの報告5と類似した結果であった.一方,中広らの報告6では着衣後にSpO2最低値を示す結果が報告されており,本研究結果との相違がみられた.中広らの報告では入湯まで行っていたが,本研究はシャワー浴のみで入湯をしていない点や,本研究では作業療法士が入浴場面に立ちあい声かけや指導を行っている点が結果の相違に影響している可能性がある.

また61名の対象者の中からCOPD,IP,肺アスペルギルス症の3疾患を抽出し比較したが,3疾患の入浴動作項目毎のSpO2値に有意差はなく,また61名を酸素吸入の有無で分けて比較した場合も開始時以外は入浴動作項目毎のSpO2値に有意差を認めなかった.

これらのことからも,一般的な慢性呼吸器疾患患者における入浴動作では体拭きでSpO2が低下しやすい可能性があり,入浴動作指導を行う上で注意すべきポイントの一つになるのではないかと考えた.

体拭き後にSpO2が最も低下する要因としては,浴室から脱衣所への移動も含まれているため一定時間内の運動量が多いこと,体を拭く動作は立位や中腰での体幹前屈・回旋を伴う動作が多いこと,心拍数の上昇に伴う心筋酸素消費量の増大などが挙げられる.また,濡れた体を早く乾かそうとするため慌てて動作をしやすく,水分を拭きとることに注意が集中して呼吸のリズムが崩れやすいことも影響を与えていると思われ,体拭き動作は事前の動作指導ではシミュレーションがしにくく指導効果が実場面で反映されにくいと考える.

これらのことを踏まえ,体拭き動作時のSpO2低下を軽減する対策として「予め浴室内にタオルを持ち込み浴室内の椅子(シャワーチェア)に座って体を拭く方法」が有効だと考える.この方法の利点として①脱衣所への移動をなくし座位のまま休息がとりやすい②体が濡れていることで生じる焦りの軽減に繋がり事前の動作指導を意識しやすいことが挙げられる.

また6MWTと入浴時のSpO2最低値の比較では,入浴時のSpO2最低値が6MWTでのSpO2最低値を下回る患者が約35%存在した.この結果より入浴動作は慢性呼吸器疾患患者にとりSpO2低下を伴いやすい負荷の大きい動作であることを改めて再確認することができた.6MWTは時間内歩行試験として在宅酸素療法を施行している患者や在宅酸素療法の導入を検討している患者に対し医師が患者の運動耐容能等の評価および治療方針の決定を行った場合に算定が可能7とされており,労作時の酸素流量設定には6MWTの結果が活用されることが多い.しかし本研究において,入浴時動作はSpO2値の低下を伴いやすい負荷の高い動作であることに加え,6MWTと入浴評価でのSpO2最低値に相関関係が認められず6MWTの結果から入浴場面でのSpO2の値を予測することは難しいことが示された.また,呼吸機能検査結果からは,どのような症例が6MWTよりも入浴時のSpO2値が低下しやすく,どのような症例が入浴時よりも6MWTのSpO2値が低下しやすいのかについて予測できないことが示唆された.よって入浴時の酸素流量については実際に入浴評価を行い体拭きのSpO2に注意しながら設定することが望ましいと思われる.

本研究の限界は後方視的であり,事前の指導方法や回数,入浴評価時の環境設定・浴室内気温や湿度など状況設定に関する条件が統一されておらず,加えて多様な疾患や重症度が含まれている影響を調整していない点があげられる.今後,入浴評価時の条件設定を同一にし,疾患や重症度など属性ごとの比較を行うことが必要だと考える.

また,動作指導を実施することで入浴時のSpO2の低下を緩和することが可能となるのか,指導前後で入浴評価を行い効果の検証を行うことが今後の課題である.

備考

本報告は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(Conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して申告すべき事項はない.

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