The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Implementation and evaluation of training program for medical staff to perform airway management
Yuki NumanoueShoko YamadaYuji HondaSayaka HosoiHitomi KoyanagiAyako KawasakiKeiko OuchiAkiko NakamuraTakeshi Nawa
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2019 Volume 28 Issue 2 Pages 330-334

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要旨

【背景】メディカルスタッフが喀痰等の吸引(吸引)を行うためには,各施設で必要な研修や教育を実施する必要がある.

【方法】呼吸療法サポートチーム(RST)が中心となり研修,認定制度を作成した.対象は25名(理学療法士13名,作業療法士5名,言語聴覚士4名,臨床工学技士3名)であり,筆記試験を含む講義,自作の模型による演習,さらに病棟看護師の立会い,指導のもと患者実習(12例以上)を行なった.認定者には修了証とバッジを作成した.

【結果】2016年8月から12月で全員が研修を修了した.認定者により2016年12月から2017年3月までに延べ396件の吸引が実施され,インシデントは0件であった.さらに,研修体制の整備を通じて看護師の吸引手技や使用用具の統一も図られた.

【結語】メディカルスタッフによる吸引は患者ケアの向上や看護師の負担軽減に繋がる可能性がある.

緒言

平成22年4月30日付の厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」1により,喀痰等の吸引は医療機関における一定の教育・研修を受けることを条件に理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床工学技士が実施できる行為となった.また,「実施に当たっては,医師の指示の下,他職種との適切な連携を図るなど,当該行為を安全に実施できるよう留意しなければならない」と述べられている.

本通知にはメディカルスタッフが喀痰等吸引(以下吸引)を行うための教育や研修の具体的内容は言及しておらず,各医療機関で定めていく必要がある.日立総合病院(以下当院)では,今までメディカルスタッフの吸引に関する規定や研修はなく,卒前教育を受けた者もいなかった.このため,実際の臨床では言語聴覚士の口腔内吸引以外は未実施であった.

当院の呼吸療法サポートチーム(Respiratory care Support Team,以下RST)は理学療法士,看護師,臨床工学技士,管理栄養士,歯科衛生士,医師からなる多職種横断チームであり,2008年から院内の医療事故防止対策委員会の分科会として認められ活動している.今回,我々はRSTを主体としてメディカルスタッフの吸引研修,認定制度を作成し,継続的な育成を行える体制を整備した.教育の内容および実際に認定者が行なった吸引業務の実績や安全性の評価を含めて報告する.

対象と方法

今回の研修および認定制度はRSTが主体となり計画し,上位組織である医療事故防止対策委員会の承認を得て実施した.

初年度の対象は呼吸療法や人工呼吸管理中の患者に関わった経験のある理学療法士(以下PT)13名,作業療法士(以下OT)5名,言語聴覚士(以下ST)4名,臨床工学技士(以下CE)3名の4職種合計25名であり,臨床経験年数は1~3年が2名,4~6年が6名,7~9年が9名,10~14年が5名,15年以上が3名であった.

研修プログラムは,気管吸引ガイドライン2013(以下ガイドライン)2における気管吸引実施者の要件を満たすことを目標に作成し,事前学習,講義,模型演習,患者実習を経て認定する構成とした.対象者には開始時に各セッションの実施日を記載した「吸引研修プログラム確認票」を配布した.講習と模型演習は講師,患者実習は指導した看護師が署名し,個人毎に進行状況がわかるようにした.患者実習まで終了した時点で,確認票をRST事務局に提出する運用とした.

研修プログラムの各項目について述べる.事前学習としてガイドライン2,および気道の解剖・生理に関する資料3の読了を求めた.

講義は「吸引器具,感染予防」,「吸引の適応と制限」,「合併症とその対策」,「理学所見の見方と排痰」,「人工呼吸器の使用方法とアラーム機能」の5つに分け,各30分行なった.講師はRSTメンバーの集中ケア認定看護師,理学療法士,臨床工学技士が担当した.なお,終了後に筆記試験(25問,2択式)を行い,誤答箇所は各自再学習するよう指導した.

なお,ガイドライン2で実施者に望まれる要件とされている心肺蘇生法については,全員が院内BLSコースを受講していることを確認した.

講義を修了した者に模型演習(120分)を行なった(図1).当院で使用している吸引物品のほか,「口腔内」,「鼻腔内」,「気管切開」,「閉鎖式」吸引に対応できるよう模型を3種類作成した.「標準感染予防策の実施と痰の粘稠度の確認(とろみ水で代用)」,「吸引圧の設定とカテーテルの挿入方向の確認」,「閉鎖式吸引カテーテル挿入の長さの確認とカフ上吸引の実施」の3ブースを設定した.各ブースに認定看護師を配置し,1ブース40分で対象者全員が各1回以上経験する内容とした.

図1

模型演習

患者実習,およびその後の実務における安全性を担保するため,対象,吸引の内容,および実施後の記録について看護局と協議し,以下のように取り決めた.対象は病態が安定している一般病棟の患者(小児科を除く)とした.吸引の内容について,PT,OT,STはすべての場面を想定し「口腔内」,「鼻腔内」,「気管切開」,「閉鎖式」吸引を許可し3,4,CEは人工呼吸器回診や回路交換の際に対応するため「閉鎖式」吸引を許可した5.ICU・救急・CCU・SCU病棟など集中治療室の患者は看護師へ依頼するが,他の患者の処置・ケアなどで対応に時間を要す場合,看護師の許可があれば実施してよいことにした.

研修を準備する段階で,看護師が行なっていた吸引の圧設定や使用器具が統一されていなかったことも明らかとなった.RSTからリンクナースを通じ各部署へ周知し,結果的に院内の吸引の手技・用具が統一された.

実施後の記録について,一般病棟は電子カルテに,ICU・救急・CCUはベッドサイドにある経過記録表に実施時間,吸引の種類,痰の量(少量,中等量,多量),色,粘稠の程度,アセスメントを記載することを義務付けた.

病棟では経験4年目以上の病棟看護師が指導者となり,立会いのもと「口腔内」,「鼻腔内」,「気管切開」,「閉鎖式」吸引を各種3回,最低12症例を実施した.ガイドライン2を基に,指導の要点を記載した患者実習指導項目(表1)を作成し,対象者が患者実習中に携帯することで,看護師が統一した指導を行えるようにした.RSTは患者実習まで修了したことを確認できた対象者について吸引業務を行えることを認定し,修了証とバッジを交付した.認定者は胸章の表面にバッジをつけ,裏面に修了証を入れ臨床業務を行うこととした(図2).また,実臨床の評価として修了者が行なった吸引業務の実施状況,看護師へのアンケート(自由記載),および院内リスクマネージメント部会へのインシデント報告を調査し検討した.

表1 患者実習指導項目
感染対策ゴーグル,マスク,ビニールエプロン,未滅菌の清潔な使い捨て手袋,擦り込み式アルコール消毒液
アセスメント実施前後のアセスメント
・痰の有無 ・自己喀痰の有無 ・血圧 ・SPO2
・心電図 ・呼吸様式 ・聴診
・カフ圧(20~25 mmHg以内,25~27 cmH2O以内)
吸引圧150mmHg(20kPa)
痰が硬いなどでひけない場合は,看護師に相談する
カテーテル
長さ
ゆっくり挿入し,カテーテルの先端が気管分岐部に当たらないようにする
気切部からの挿入の長さを,患者毎に提示・指導
吸引時間挿入開始から終了まで15秒以内
吸引圧をかける時間は10秒以内
カフ上部吸引気管吸引の前に実施する
カテーテルではなく,シリンジで吸引する
酸素化低酸素に陥りやすい患者は事前に十分な酸素化をする
合併症対策重篤な合併症が生じた場合は,直ちにナースコール,ドクターコールをする
図2

修了証とバッジ

結果

2016年8月から12月の間に研修に参加した25名全員が研修プログラムを修了し,院内で喀痰などの吸引業務が可能と認定された.認定者は実臨床で吸引を開始した.

認定者の協力を得て,2016年12月から2017年3月までの約4ヶ月間の実施状況を調査した.吸引業務の実施は延べ396件で,職種別の実施状況はPT135件,OT33件,ST228件,CE0件であった.最も件数の多かったSTは言語訓練や摂食嚥下訓練時に実施していた.次に多かったPTは主に排痰訓練や離床の前後で実施していた.CEは調査期間に人工呼吸器患者以外の業務に携わっていたため0件となった.インシデント報告は0件であった.

吸引種類別の実施状況は,「口腔内」,「鼻腔内」,「気管切開」吸引の順に多かった.集中治療室では基本的に実施しない基準を設けたため,「閉鎖式」吸引の実施件数は少なかった(図3a).

図3

喀痰吸引実施状況(2016年12月~2017年3月)

診療科別の実施状況をみると,循環器内科・心臓血管外科,脳外科・神経内科,救急後方支援病棟の順に多く,幅広い診療科で実施している結果が得られた(図3b).

認定者が臨床の場で吸引業務を開始してから5ヶ月目に,看護師にアンケートを実施した.自身の業務への影響について,「看護師が他の患者対応を中断しなくてよい.」「以前に比べ吸引の依頼が減ってとても助かっている.」「リハビリテーション中に痰からみが出現した時に,療法士がタイムリーに吸引することで急変リスクが減りいいと思う.」「リハビリテーション中に呼ばれなくなりありがたい.どんどんやって欲しい.」などの意見が寄せられた.また,メディカルスタッフの吸引手技に関して,「手技に不安があると,吸引をするまでに時間がかかってしまうことがある.」という意見も挙げられた.

考察

今回我々はメディカルスタッフが喀痰等の吸引を行うための研修プログラムを作成し,研修プログラムの実施から臨床現場で実際に吸引業務を行なった初期の評価まで行うことができた.

ガイドライン2では吸引等業務を実施する者の要件として,養成機関や医療機関において必要な教育・研修を受けた者であることとされており,医師,看護師以外の者が気管吸引を実施する現実的な状況を踏まえ,一部口腔内吸引や鼻腔吸引についても言及し改訂されている.我々はガイドライン2の内容を反映できることを目標に,理学療法士協会の吸引プロトコル3も参考にし研修プログラムと認定制度を計画した.

研修修了に5ヶ月間を要した理由として,講師と対象者のスケジュール調整,模型演習の準備に加え,患者実習における患者選定から指導者と対象者の時間調整を要した点が挙げられる.しかしながら副総看護師長を含むRSTメンバーが調整役となり,全員の修了を達成することができた.

修了後の実臨床でメディカルスタッフの吸引が開始された.4ヶ月で396件の実施がなされ,現場で必要な行為であることが確認されたとともに,研修プログラムは有効であったと考えられる.

吸引業務開始後のインシデント報告を調査したが,当該業務に関するものはなく,また幅広い診療科や病棟で実施されていることから,メディカルスタッフによる吸引は安全に行われ,現場にも受け入れられていると判断した.また,看護師から得たアンケートでも好意的な意見が寄せられた.

吸引は合併症の可能性もある侵襲的医療行為であり,従来から看護師の業務として定着していた.このため,療法士の患者訓練中,あるいはCEによる人工呼吸器回路交換時に吸引が必要になった場合は看護師に依頼することとなり,待ち時間が発生し業務の効率が低下するだけでなく,直ちに行えない場合は患者の状態にも影響があったことは否定できない.その場にいるメディカルスタッフによる吸引は,患者ケアの改善と看護師の負担軽減に寄与できる可能性は高いが,安全性を保つためには手技を標準化する必要がある.

メディカルスタッフが吸引業務を学ぶ方法について,受講者を公募する研修は多いとは言えず,施設外の教育機会は限られると推測される6.また,卒前教育について,療法士養成校の調査では実施していない施設も存在し,教育の内容や時間に差があることも報告されている7,8.安全に吸引業務を行うには対象,あるいは除外すべき患者の選定,患者の状態に関するアセスメントがまず必要であり,院内スタッフの理解や協力があってはじめて実施できるものと考えられる8.さらに,自らが勤務する環境で実際に使用している物品を用いて学ぶこと,実際の患者で実習を行うことが望ましい.これらを施設外の研修や卒前教育に求めることは難しく,各医療機関の実情に応じた研修体制を作ることが必要である.

RSTが主体となり研修を企画・運営した利点について考察する.吸引は看護師の業務として定着しているため,個人の努力だけでは院内の理解が進まず定着は難しいと推測される.研修の計画から認定と実務まで進められた主因として,医師や看護師を含む多職種からなるRSTが院内の周知を図り段階的に計画を進め,現場の理解と協力を得られたことが挙げられる.また,RSTを発行元とした修了証やバッジは認定者のモチベーションや作業への責任感を高めるだけでなく,現場への周知や定着を図る上でも有用であると考える.

今後の課題について述べる.第一に,年一回の研修プログラムを継続し修了者を増やすことが挙げられる.2017年度は歯科衛生士(以下DH)を加え,PT5名,OT3名,ST2名,CE1名,DH4名の計15名が修了し,実臨床の吸引を開始した.第二に,修了者が一定の技術が維持できるよう,継続的に教育できる体制を整備することが必要である.特に,吸引業務の頻度が少ない修了者の把握と教育機会の提供を検討したい.第三に,安全性の評価について,インシデント報告に至らない手技の不備やアセスメントの不足を把握し,認定者や研修実施者にフィードバックする仕組みが必要である.この点については各病棟のRSTリンクナースを通し事例や問題点を挙げ,対策していきたい.

結語を述べる.メディカルスタッフによる吸引は患者ケアの改善と看護師の負担軽減に寄与できる可能性がある.医療スタッフの協働・連携によるチーム医療を進めるためには,職種横断的チーム活動は有用である.

謝辞

患者実習に協力いただいた患者様,研修や調査に協力いただいた看護局の皆様に深謝いたします.

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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