2019 Volume 28 Issue 2 Pages 354-360
【目的】本研究の目的は,慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の患者への当院の吸入指導と多職種連携の実態を明らかにすることである.
【方法】当院で吸入指導に関わった経験のある医師,薬剤師,看護師を対象に吸入指導に関する質問紙調査を行った.
【結果】142名に質問紙を配布し,有効回答数は115名で有効回答率は80.9%であった.実施している吸入指導内容で最も多かったのは,医師では「病態説明」86.6%,薬剤師では「吸入手技・動作」100.0%,看護師では「吸入手技・動作」93.3%であった.多職種連携上の課題として,医師と薬剤師からは「役割が明確でない」,看護師からは「指導マニュアルがない」があった.
【考察】本研究結果から,吸入指導内容が,職種間で重複していることが明らかとなったことより,各職種の役割と具体的な指導内容を明確にする必要性が示唆された.
慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の患者は増加傾向にある.それらの治療法は吸入療法が中心1,2)となるため,患者には適切かつ継続的な管理が求められる.最近の吸入療法は主に定量式吸入器が用いられ,患者にとってデバイス操作が複雑かつ加齢による理解力低下などのため吸入手技や動作の習得までに時間を要する現状がある.さらに,吸入開始6ヶ月を過ぎると患者の吸入操作が怠慢になる3)という報告がある.そのため,患者が適切かつ継続的な管理ができるよう,医療者に患者のアドヒアランスの維持・向上につながる介入が求められている.
当院における慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の患者に対する吸入指導は,病棟や外来で診療を担う医師,院内または院外薬局で対応する薬剤師,病棟や外来で対応する看護師らによって実施されている.したがって,患者のアドヒアランスの維持・向上につながる介入には,多職種が連携して吸入指導を実施する必要がある.しかしながら,当院での吸入指導の現状は不明で,かつ各職種における役割も十分に検討されていない.そこで,本研究は,今後当院で吸入指導における多職種連携のあり方を検討していくために,慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の患者への当院の吸入指導と多職種連携の実態を明らかにすることを目的とした.
なお,当院は地域の大学病院であり,年齢は様々であるが40~80歳代の患者が多い.基本的には急性期の患者が受診し,病態が安定すると受診先が近医へと変更となる.しかし,吸入指導の対象患者は慢性的に増悪を繰り返すような病態であるため,当院への継続的な受診を希望する患者が多い.そのため,初回導入の患者ばかりではなく,罹患年数も幅広い.
質問紙による実態調査研究.
2. 対象病棟や外来で慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の患者に対する吸入指導を担う医師(呼吸器内科医師または呼吸器外科医師)18名,薬剤師(当院薬剤師または院外薬局薬剤師)67名,看護師(呼吸器系病棟看護師または外来看護師)57名で,かつ吸入指導経験のある者を対象とした.
3. 調査方法無記名自記式質問紙法とし,留置法により回収を行った.
4. データ収集期間2016年8月.
5. 調査項目調査項目は,以下の内容とした.
1)基礎情報:職種,所属,吸入指導の経験の有無を項目とした.なお,1)で吸入指導の経験があった対象が以後の設問に回答することとした.
2)吸入指導の実施状況:①吸入指導の内容,②吸入手技・動作の確認項目,③吸入指導方法,④アドヒアランスの確認,⑤再指導のタイミング(院内・院外)について,伊志嶺らの文献4)を参考にそれぞれの項目を作成した.
3)多職種連携が図れていると思う項目:「吸入の必要性を共有」,「吸入指導を依頼し情報を共有」,「特になし」の3項目とした.
4)吸入指導上の課題:「職種の役割が明確でない」,「時間的余裕が無い」,スタッフの知識不足」,「指導マニュアルが無い」,「指導の必要性の認識の不足」の5項目とした.
5)他の職種に希望することとした.
なお,2)~4)は,該当する項目の複数選択とし,5)は自由記述とした.
6. 分析方法調査項目ごとに記述統計を行った.調査項目の回答と職種との関係は,カイ二乗検定あるいはFisherの直接確率検定,及び残差分析を実施した.統計ソフトはSPSSバージョン24を使用し,有意水準はp<0.05とした.また,自由記述部分は意味内容を表す一文ごとに区切り,類似している内容でまとめ,その数をカウントした.
7. 倫理的配慮対象者には協力依頼を口頭と文書で行い,質問紙の提出をもって同意とみなした.なお,本研究は金沢医科大学病院研究疫学研究(受付番号129)の承認を得た.
142名に依頼し129名から質問紙の提出があり,回収率は90.8%であった.吸入指導の経験がある対象は,その内115名であり,有効回答率は80.9%であった.115名の職種の内訳は,医師15名(呼吸器内科医師11名,呼吸器外科医師4名),薬剤師55名(院内薬剤師39名,院外薬局薬剤師16名),看護師45名(病棟看護師43名,外来看護師2名)であった.
2. 吸入指導の実施状況 1) 吸入指導の内容(表1)職種による吸入指導の内容は,医師では「病態」13名(86.6%),「用法・用量」12名(80.0%)の順で多かった.薬剤師では「吸入手技・動作」55名(100.0%),「用法・用量」54名(98.1%)の順で多かった.また,看護師では「吸入手技・動作」42名(93.3%),「用法・用量」33名(73.3%)の順で多かった.なお,「吸入薬継続の重要性」を回答したのは,医師10名(66.6%),薬剤師41名(74.5%),看護師17名(37.7%)であった.
職種別で有意に高い項目は,医師では「病態」で,薬剤師では「病態」,「効果と作用時間」以外の5項目であった.有意に低い項目は,医師では「吸入手技・動作」,看護師では「吸入手技・動作」以外の6項目であった.
N | 病態a | 用法・用量b | 効果と作用時間a | 副作用a | 吸入手技・動作b | 吸入薬継続の重要性a | 発作時の対応方法a | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
医師 | 15 | 13 | 86.6* | 12 | 80.0 | 10 | 66.6 | 11 | 73.3 | 10 | 66.6* | 10 | 66.6 | 9 | 60.0 |
調整済み残差 | 4.5 | -0.7 | 1.9 | 1.1 | -4.3 | 0.6 | 1.0 | ||||||||
薬剤師 | 55 | 19 | 34.5 | 54 | 98.1* | 27 | 49.0 | 47 | 85.4* | 55 | 100.0* | 41 | 74.5* | 34 | 61.8* |
調整済み残差 | -0.1 | 3.6 | 1.2 | 5.3 | 2.8 | 3.2 | 2.9 | ||||||||
看護師 | 45 | 8 | 17.7* | 33 | 73.3* | 13 | 28.8* | 11 | 24.4* | 42 | 93.3 | 17 | 37.7* | 12 | 26.6* |
調整済み残差 | -3.1 | -3.2 | -2.5 | -6.2 | 0.1 | -3.7 | -3.6 | ||||||||
p値 | <0.001 | 0.001 | 0.019 | <0.001 | <0.001 | 0.001 | 0.001 |
a:Pearsonのカイ二乗検定
b:Fisherの直接確率検定法
*:p<0.05 調整済み残差の結果,有意差を認めた箇所
職種による吸入手技・動作の確認項目は,医師では「吸入デバイスの基本操作」9名(60.0%),「吸入後の含嗽」8名(53.3%)の順で多かった.薬剤師では「吸入デバイスの基本操作」と「吸入後の含嗽」が同数の51名(92.7%)と多かった.看護師では「吸入デバイスの基本操作」43名(95.5%),「初回使用時の準備」36名(80.0%)の順で多かった.
職種別で有意に高い項目は,薬剤師では「吸い込み後の息止め」「吸入後の含嗽」「デバイスの保管や清掃,廃棄方法」で,看護師では「初回使用時の準備」,「補助器具とデバイスの接続」,「指導は他職種に依頼」であった.有意に低い項目は,医師では「吸入前の息の吐き出し」,「指導は他職種に依頼」以外の7項目で,薬剤師では「吸入指導を他職種に依頼」,看護師では「デバイスの保管や清掃,廃棄方法」であった.
N | 初回使用時の準備b | 補助器具とデバイスの接続a | 吸入デバイスの基本操作b | 吸入前の息の吐き出しa | デバイスに対応した息の吸い込みb | 吸い込み後の息止めb | 吸入後の含嗽b | デバイスの保管や清掃,廃棄方法b | 指導は他職種に依頼a | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
医師 | 15 | 4 | 26.6* | 2 | 13.3* | 9 | 60.0* | 7 | 46.6 | 5 | 33.3* | 4 | 26.6* | 8 | 53.3* | 1 | 6.6* | 8 | 53.3 |
調整済み残差 | -3.8 | -2.8 | -4.0 | -2.6 | -3.1 | -4.1 | -3.1 | -2.0 | 1.1 | ||||||||||
薬剤師 | 55 | 39 | 70.9 | 25 | 45.4 | 51 | 92.7 | 43 | 78.1 | 39 | 70.9 | 45 | 81.8* | 51 | 92.7* | 25 | 45.4* | 4 | 7.2* |
調整済み残差 | 0.5 | -0.3 | 1.1 | 1.0 | 0.7 | 2.4 | 2.9 | 3.8 | -6.9 | ||||||||||
看護師 | 45 | 36 | 80.0* | 27 | 60.0* | 43 | 95.5 | 35 | 77.7 | 34 | 75.5 | 33 | 73.3 | 35 | 77.7 | 7 | 15.5* | 34 | 75.5* |
調整済み残差 | 2.1 | 2.2 | 1.7 | 0.8 | 1.4 | 0.4 | -0.9 | -2.5 | 6.2 | ||||||||||
p値 | 0.001 | 0.006 | 0.002 | 0.056 | 0.011 | 0.0011 | <0.001 | 0.001 | <0.001 |
a:Pearsonのカイ二乗検定
b:Fisherの直接確率検定法
*:p<0.05 調整済み残差の結果,有意差を認めた箇所
職種による吸入指導方法では,医師では「口頭で病気の説明」14名(93.3%),「肺機能や画像所見で病気の説明」9名(60.0%)の順で多かった.薬剤師では「添付の説明書を使用」46名(83.6%),「吸入薬のデモ器を使用」36名(65.0%)の順で多かった.看護師では「実際の吸入器で手技・動作を確認」38名(84.4%),「添付の説明書を使用」32名(71.1%)の順で多かった.
職種別で有意に高い項目は,医師では「口頭で病気の説明」,「肺機能,画像所見で病気の説明」で,薬剤師では「添付の説明書を使用」,「吸入薬のデモ器を使用」,「指導者が吸入薬のデモ器で実演」,「デバイスによって間違いやすい点を説明」,看護師では「実際の吸入器で手技・動作を確認」であった.有意に低い項目は,医師では「添付の説明書を使用」,「吸入薬のデモ器を使用」,「実際の吸入器で手技・動作を確認」で,薬剤師では「肺機能,画像所見で病気の説明」,看護師では「口頭で病気の説明」,「肺機能,画像所見で病気の説明」,「指導者が吸入薬のデモ器で実演」,「吸気流速を測定できる器具を使用」,「デバイスによって間違いやすい点を説明」であった.
N | 口頭で病気の説明a | パンフレットや模型で病気の説明b | 肺機能や画像所見で病気の説明b | 添付の説明書を使用b | 吸入薬のデモ器を使用a | 指導者が吸入薬のデモ器で実演b | 実際の吸入器で手技・動作を確認a | 吸気流速を測定できる器具を使用b | デバイスによって間違いやすい点を説明b | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
医師 | 15 | 14 | 93.3* | 2 | 13.3 | 9 | 60.0* | 0 | 0* | 4 | 26.6* | 4 | 26.6 | 3 | 20.0* | 2 | 13.3 | 4 | 26.6 |
調整済み残差 | 5.1 | -0.4 | 8.1 | -6.0 | -2.0 | -0.3 | -3.7 | 1.3 | 0.4 | ||||||||||
薬剤師 | 55 | 18 | 32.7 | 12 | 21.8 | 0 | 0* | 46 | 83.6* | 36 | 65.4* | 30 | 54.5* | 31 | 56.3 | 5 | 9.0 | 20 | 36.3* |
調整済み残差 | -0.4 | 2.2 | -3.0 | 3.5 | 3.1 | 5.4 | -1.3 | 1.3 | 3.4 | ||||||||||
看護師 | 45 | 8 | 17.7* | 4 | 8.8 | 0 | 0* | 32 | 71.1 | 18 | 40.0 | 1 | 2.2* | 38 | 84.4* | 0 | 0* | 2 | 4.4* |
調整済み残差 | -3.1 | -1.9 | -2.5 | 0.6 | -1.8 | -5.3 | 3.9 | -2.2 | -3.7 | ||||||||||
p値 | <0.001 | 0.075 | <0.001 | <0.001 | 0.005 | <0.001 | <0.001 | 0.038 | <0.001 |
a:Pearsonのカイ二乗検定
b:Fisherの直接確率検定法
*:p<0.05 調整済み残差の結果,有意差を認めた箇所
アドヒアランスの確認では,医師,薬剤師,看護師共に「吸入手技・動作が正しく行えているか」が最も多かった.次いで,医師では「病気に対する認識はどうか」10名(66.6%)が多かった.「患者の吸入薬への思いはどうか」は,医師7名(46.6%),薬剤師32名(58.1%),看護師22名(48.8%)であった.職種別では,「病気に対する認識はどうか」の項目で,医師が有意に高く,看護師が有意に低かった.
N | 患者自身が吸入薬の残薬を確認しているかa | 医療者が吸入薬の残薬を確認するb | 吸入手技・動作が正しく行えているかb | 吸入薬の効果や作用時間,副作用の知識はどうかb | 病気に対する認識はどうかa | 生活リズムに合わせた実施方法について患者が考えているかb | 患者の吸入薬への思いはどうかa | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
医師 | 15 | 7 | 46.6 | 2 | 13.3 | 10 | 66.6 | 3 | 20.0 | 10 | 66.6* | 0 | 0 | 7 | 46.6 |
調整済み残差 | -0.9 | -0.6 | -2.0 | 0.0 | 2.7 | -2.0 | -0.5 | ||||||||
薬剤師 | 55 | 21 | 38.1 | 7 | 12.7 | 49 | 89.0 | 14 | 25.4 | 20 | 36.3 | 11 | 20.0 | 32 | 58.1 |
調整済み残差 | -0.4 | -1.7 | 1.3 | 1.4 | 0.2 | 0.2 | 1.1 | ||||||||
看護師 | 45 | 14 | 31.1 | 13 | 28.8 | 38 | 84.4 | 6 | 13.3 | 11 | 24.4* | 11 | 24.4 | 22 | 48.8 |
調整済み残差 | 1.0 | 2.1 | 0.0 | -1.4 | -2.0 | 1.2 | -0.7 | ||||||||
p値 | 0.549 | 0.141 | 0.118 | 0.306 | 0.012 | 0.091 | 0.633 |
a:Pearsonのカイ二乗検定
b:Fisherの直接確率検定法
*:p<0.05 調整済み残差の結果,有意差を認めた箇所
再指導を行うタイミングは,医師では「吸入薬,処方変更後」9名(60.0%),「外来再診時」6名(40.0%)の順で多かった.院内薬剤師では「他職種から依頼」28名(71.7%),「初回指導後,手技・動作が不十分な場合」24名(61.5%)の順で多かった.一方,院外薬局薬剤師では「患者希望時」13名(81.2%),「再来局時に手技・動作を確認したが不十分な場合」11名(68.7%)の順で多かった.病棟看護師では「薬剤師の初回指導後,手技・動作が不十分な場合」36名(83.7%),「再入院時に手技・動作確認をし,不十分な場合」30名(69.7%)の順で多かった.一方,外来看護師による再指導は行われていなかった.
医師 | N | 外来再診時 | 入院中,処方後の診察時 | 吸入薬,処方変更後 | 吸入薬の効果が出ていないと判断した時 | 患者希望時 | 退院時 | 他職種から依頼時 | 行えていない | ||||||||
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n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
15 | 6 | 40.0 | 4 | 26.6 | 9 | 60.0 | 6 | 40.9 | 4 | 26.6 | 0 | 0 | 1 | 6.6 | 0 | 0 | |
院内薬剤師 | N | 初回指導後,手技・動作が不十分な場合 | 再入院時に手技・動作確認をし不十分な場合 | 患者希望時 | 退院時 | 初回指導後,定期的に実施 | 他職種から依頼時 | 看護師に確認し,再指導を依頼 | 行えていない | ||||||||
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
39 | 24 | 61.5 | 20 | 51.2 | 22 | 56.4 | 6 | 15.3 | 11 | 28.2 | 28 | 71.7 | 11 | 28.2 | 2 | 5.1 | |
院外薬局薬剤師 | N | 再来局時に手技・動作を確認したが不十分な場合 | 患者希望時 | 再来局時に毎回確認 | 初回指導後,定期的に実施 | 他院や他薬局で説明されているが当局は初めての場合 | 他職種から依頼時 | 行えていない | |||||||||
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||||
16 | 11 | 68.7 | 13 | 81.2 | 0 | 0 | 5 | 31.2 | 3 | 18.7 | 6 | 37.5 | 1 | 6.2 | |||
病棟看護師 | N | 薬剤師の初回指導後,手技・動作が不十分な場合 | 再入院時に手技・動作確認をし,不十分な場合 | 患者希望時 | 退院時 | 初回指導後,定期的に実施 | 他職種から依頼時 | 手技・動作を確認し,薬剤師へ再指導を依頼 | 行えていない | ||||||||
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||
43 | 36 | 83.7 | 30 | 69.7 | 10 | 23.3 | 3 | 6.9 | 2 | 4.6 | 3 | 6.9 | 22 | 51.1 | 6 | 13.9 | |
外来看護師 | N | 再診時に吸入を継続しているか,疑問点など確認し実施 | 再診時に吸入器を持参してもらい実施 | 薬局で指導を受けるように説明 | 患者希望時 | 院内薬剤師へ依頼 | 行えていない | ||||||||||
n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | n | % | ||||||
2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 50.0 | 1 | 50.0 | 1 | 50.0 | 1 | 50.0 |
多職種連携が図れていると思う項目については,医師では「吸入の必要性を共有」7名(46.6%),「吸入指導を依頼し情報共有」5名(33.3%)の順で多かった.院内薬剤師では「吸入の必要性を共有」22名(40.0%),「吸入指導を依頼し情報共有」16名(29.0%)の順で多かったが,院外薬局薬剤師では「特になし」が最も多く10名(62.5%)であった.病棟看護師では「吸入指導を依頼し情報共有」36名(80.0%)であったのに対し,外来看護師は「特になし」が最も多かった.
職種別では,「吸入指導を依頼し情報共有」で看護師が有意に高く,薬剤師が有意に低かった.
4. 吸入指導上の課題吸入指導上の課題として,医師では「職種の役割が明確でない」8名(53.3%),「時間的余裕がない」7名(46.6%)の順で多かった.薬剤師では「スタッフの知識不足」24名(43.5%),「時間的余裕がない」23名(41.8%)の順で多かった.看護師は「指導マニュアルがない」35名(77.7%),「スタッフの知識不足」33名(73.3%)の順で多かった.
職種別では,「スタッフの知識不足」「指導マニュアルがない」「指導の必要性の認識不足」で看護師が有意に高く,薬剤師が有意に低かった.また,医師では「職種の役割が明確でない」が有意に高かった.
5. 他職種に希望すること他職種に希望することについては,医師は他職種に対し「指導状況など情報共有」と記述していた.特に,薬剤師に対し「患者に応じた吸入薬の提案」を希望していた.院内薬剤師,看護師は医師に対し「患者への吸入薬継続の必要性の説明」と「患者に応じた処方」と記述していた.院外薬局薬剤師は他職種に対し「指導状況など情報共有」を希望していた.看護師は,薬剤師に対し「指導状況など情報共有」,「指導後の定期的なフォロー」,「手技動作のポイントを教えて欲しい」という希望があった.
当院の吸入指導の体制は図1の通りである.このシステムを前提に,本結果の考察をする.
当院の吸入指導システム
まず,吸入指導の内容,確認項目において,医師により「病態」の説明がなされ,その他は,薬剤師が中心に実施し,看護師は「吸入手技・動作」中心に実施していた.役割が分担されていると言えるが,重複している項目があった.特に看護師による指導の実施率が低く,「用法・用量」以外は40%以下であった.看護師の患者病態や吸入薬に関する知識不足,技術習得不足が原因で実施できていないことが考えられた.そのため,知識,技能の向上に加え連携強化も図るため,病態や吸入薬の基礎知識について,またデモ器を使用して吸入指導のロールプレイを多職種で行っていく必要がある.
つぎに,吸入指導方法では,医師が病気の説明を行い,薬剤師が「デモ器を使用」して説明,看護師が「実際の吸入器を使用」して説明しており,役割分担がされているといえる.しかし,実施率を見ると項目間でばらつきがあり,全項目は実施されていない.そのため,同職種でも各々の判断に委ねられ実施されているといえ,統一された質のケア提供がなされてはいないと考える.その対応策として,チェックシートの使用や指導の標準化は各地でも行われており,効果が確立している5,6,7).そこで,当院においても統一した指導マニュアルやチェックリストを作成し,多職種間での使用を奨めていく必要があると考える.
さらに,吸入薬を継続していくためのアドヒアランスの確認項目では,医師,薬剤師,看護師共に「吸入手技・動作」の確認が最も多かった.しかし,残薬確認,吸入薬の知識,患者の吸入薬への思いの確認,病気の認識,生活リズムに合わせた検討は十分に行えていないことが明らかとなった.駒瀬ら8)はアドヒアランス向上のため,患者の生活に合った吸入方法を患者と共に考える必要があると述べており,多職種でアドヒアランス向上のための勉強会も検討していく必要があると考える.
再指導を行うタイミングについては,再入院時に薬剤師の51.2%,病棟看護師の69.7%は手技の確認を行っていたことから,入院患者の吸入持参薬に対する再指導は比較的行っているといえる.外来では,医師は再診時に約4割が指導しており,薬局薬剤師は手技・動作を確認し不十分な場合に約7割,患者希望時に8割が実施していた.ただし,実際に再指導をどのタイミングで行うかなどは明確な決まりはなく,医師や院外薬局薬剤師の個々の判断によって実施されているため,十分な指導が行えているとは言い難い.さらに,外来看護師は吸入指導には関われていない.また,再指導の内容については調査できておらず本研究の限界と言える.
多職種連携が図れていると思う項目では,医師は「吸入指導を依頼し情報共有」と回答する者が33.3%,病棟看護師の回答では80.0%,院内薬剤師では「吸入指導を依頼し情報共有」29.0%であった.このことより,看護師は他職種と情報共有ができているといえるが,医師や院内薬剤師では十分とはいえない.そのため,看護師が中心となる他職種の情報を効果的に伝達,さらに検討できる働きが必要といえる.具体的には,多職種が統一した指導マニュアルやチェックリストを作成するだけでなく,誰がどのように使用するかもルールを作る必要がある.さらに,それらの情報を共有しやすいように,電子カルテ上にシステムを構築することも重要である.入院中は薬剤師が初回指導を行うことが多く,その初回指導時に電子カルテ上のチェックリストを使用して指導状況を書き込み,不十分であれば追加指導または看護師に指導を依頼する.このチェックリスト情報は,入院時のみならず,退院時にも医師を含めた多職種で共有可能となる.
他職種に希望することについては,院外薬局薬剤師は,他職種に対し「指導状況など情報共有」を希望していた.院外薬局との連携は,各地でも情報提供書9,10)や電話,管理手帳11)などにより行なっており,参考にしながら指導依頼と指導後情報提供の連携を実施中である.医師,薬局薬剤師間での情報提供書による連携が行えれば,情報共有により,明確になっていない再指導内容の把握やいつまで継続指導するかなどの決定を行っていくことができ,効果的な再指導,外来診察に繋がるため情報共有体制を整えて行く必要がある.なお,看護師として継続的な関わりのためには看護外来が必要であるため,開設にむけての活動を始めていく.
以上より,吸入指導における効果的な多職種連携を構築していくためには,看護師に対し,吸入薬の知識,技術の向上,また多職種に対し,アドヒアランス向上のための知識の補充が必要である.そのため,多職種で連携した研修会の企画が必要である.そして職種による役割の明確化,情報共有,指導体制のあり方の検討が必要と考えられた.
なお,本調査は入院患者,及び外来患者における吸入指導に関する調査であったため,今回導き出された外来ケアについては明らかになっていない.そのため,特に外来患者における実態を調査し,対応策を講じてケアの質を評価していく必要がある.
本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.