The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Educational Lecture
Changes in respiratory movement and function by posture
Kyoushi Mase
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2020 Volume 28 Issue 3 Pages 365-370

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要旨

本稿では,呼吸リハビリテーションで用いられることの多い体位と換気運動および呼吸機能について概説した.まず,換気運動は,駆動圧から見ると,胸部胸郭,腹部胸郭,腹部の3つの部位に分けて見る必要があることを説明した.その上で,体位変換に用いられることの多い体位でも,体位により換気運動がわずかながら異なること,呼吸介助法を行った時の換気力学的変化にも背臥位と側臥位で違いがあること,機能的残気量を中心に呼吸機能にあたえる体位の影響について概説した.さらに,慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸困難感の軽減に用いられる上肢で支持した前傾姿勢での呼吸機能の変化について概説した.

緒言

呼吸リハビリテーションでは,対象者の呼吸状態や病態を把握するための評価の一つとして,換気運動を観察する.さらに問題となる換気運動を促進し,換気を改善するプログラムが行われる.肋骨の換気運動としては,上位肋骨はポンプハンドル運動で前後径が拡張しやすく,下位肋骨はバケツハンドル運動で横経が拡張しやすいとされる.しかし,換気運動に影響する胸腹部の内圧や形状は,体位による影響を受け,そのことが換気運動の方向や範囲,呼吸機能に影響する.呼吸リハビリテーションでは,背臥位,側臥位,座位などさまざまな体位がプログラムに応用されるため,体位による換気運動の変化を理解しておくことは重要である.

本稿では,換気運動の駆動圧を説明し,各体位での換気運動や呼吸介助法を行った時の換気力学的変化,機能的残気量(functional residual capacity:FRC)を中心に呼吸機能にあたえる変化について概説する.

換気運動の駆動圧

換気運動の異常から呼吸器系に生じている病態を考える場合,各部位の換気運動とその力源である駆動圧を理解しておくとわかりやすい.Konno and Mead1は,Chest wallを胸郭と腹部の2つに分け,多点の換気運動を観察した.Chest wallとは,肺の外側にあり,換気運動に伴う肺気量変化と等しい量の変化が見られる器官を示す.その結果,健常人においてさまざまな呼吸中,胸郭の多点の換気運動が同期し,かつ同じような割合で運動することを報告した.同じことが腹部でも観察され,胸郭と腹部はそれぞれの自由度をもつと考えられた.この研究の結果,換気に伴うChest wall運動の観察には,この2つの部位に分けてみるモデルが用いられるようになった.しかし,このモデルでは,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)のHoover’s signなど,胸郭が部位により反対方向の運動することが説明できなかった.そのため,換気運動を力源である駆動圧の違いから3つの部位に分けるモデルが提唱された(図12,3.3つの部位とは,胸郭を横隔膜より上部の胸部胸郭,横隔膜より下部の腹部胸郭に分け,腹部を加えたものである.肺に生じている病態を把握する場合は,この3つの部位に分けているほうが良いと考えられる.

図1

Chest wallを3つの部位に分けたモデルの駆動圧

破線で囲んだ部分はChest wall運動を駆動圧で分けた場合の3つの部位(胸部胸郭,腹部胸郭,腹部)を示す.円は圧を発生する筋を示す.3つの部位への矢じりと符合は,胸腔内圧下降,腹圧上昇および各筋活動が各部位にどのような作用を及ぼすかを示している(拡張作用は(+),収縮作用は(-)).腹圧,胸腔内圧への矢じりと符号は,各筋が圧を上昇させる場合を(+),下降させる場合を(-)としている.

胸部胸郭は,胸腔の上にあるため,この部位の換気運動は,胸部・頸部の呼吸筋が作り出す圧と胸腔内圧が主な駆動圧となる3.胸腔内圧が陰圧であれば胸郭を収縮する力,陽圧であれば拡張する力となる.胸部・頸部吸気筋はこの部位を拡張する力をもつ.肺水腫や肺炎などで肺のコンプライアンスが低下した場合,胸腔内圧が低くなり,胸部胸郭を収縮させる力となる.そのような病態の症例で,努力性呼吸が生じると横隔膜の強い収縮により胸腔内圧がさらに低くなり,吸気時に胸部胸郭が陥凹する呼吸様式となる.

腹部胸郭は,横隔膜を隔て,胸腔の上に位置する部分と腹腔の上に位置する部分がある.深い吸気では,胸腔上に位置する胸郭の面積が増加する.そのため,この部位の駆動圧は,主には,肋骨,剣状突起に停止し,肋骨を頭側に挙上する作用をもつ横隔膜が作り出す圧4,腹筋群が作り出す圧,胸腔内圧・腹圧となる2,5.腹圧の上昇はこの部位を拡張する力となる.胸腔内圧による腹部胸郭運動への作用は胸部胸郭と同様である.腹筋群には,胸骨・下部肋骨に停止し筋活動が直接この部位を収縮させる筋(例 腹斜筋)と腹圧を上昇し間接的に拡張させる筋(例 腹横筋)がある.

腹部は腹腔の上に位置するため,この部位の駆動圧は,主には腹圧と腹筋群が作り出す圧となる2,3.腹圧による腹部運動への作用は腹部胸郭と同様である.腹筋群が作り出す圧はこの部位を収縮させると同時に腹圧を上昇させる.安静吸気時の換気運動では,腹部筋群は働かず,横隔膜の収縮により腹圧が上昇し,腹部は拡張する.

各体位での腹腔・胸腔の形状

体位変化に伴う換気運動・呼吸機能の変化を理解しようとする時,肺のある胸腔と腹腔が横隔膜という薄い膜に分けられていることを考慮すると理解しやすい.腹腔には,背側に脊椎・肋骨,尾側に骨盤という固い壁がある.一方,頭側は横隔膜,腹側および外側は腹筋群という柔軟な壁に覆われている.腹腔は胸腔に比べ約2倍(腹腔が 10 L,胸腔が 5 L)の体積を持ち,かつ,臓器密度が非常に高い空間である6.例えると,たくさんの水で膨らまされた風船を2つの面が硬く,他の面が柔らかく柔軟な容器に入れているようなものである.この腹腔は流体としての性質を持つため,容器の置き方,つまり体位によって形を変え,柔軟な壁を圧迫し変形させる.

1. 背臥位における腹腔・胸腔の形状(図2

背臥位における腹腔は,上側に位置する腹側に比べ下側の背側ほど高い腹圧となる.腹腔の最上部では大気圧と同程度の圧(0 cmH2Oとする)7,最下部では 15~20 cmH2O程度の圧となり6,8,腹圧は 1 cm下になると 1.0 cmH2O上がる圧勾配をもつ.肥満やAbdominal Compartment Syndromeでは,さらに高い腹圧を示す.腹腔下側の高い腹圧は,柔らかい壁である横隔膜と腹腔外側を拡張する.そのため,腹腔形状を矢状断で見ると,背側の横隔膜が頭側に押し上げられ,水平断では下側ほど外側に拡張,前後径より横径が長い楕円形となる9,10

図2

三次元動作解析装置でみた背臥位,側臥位,座位における胸郭形状と安静時呼吸の換気運動ベクトル(文献10より引用)

左図は左胸郭からみた胸郭矢状断,右図は頭側から胸郭水平断,ベクトルは各マーカー呼吸運動により動いた方向と距離(距離は3倍に表示)を示す.A: anterior, P: posterior, R: right, L: left

この腹圧や腹腔の形状変化が,肺のある胸腔に影響する.腹圧で頭側に押し上げられた横隔膜は肺を圧迫する.また,背臥位の胸腔内圧は,上側となる腹側ほど高い陰圧となる.最上部で-6~-10 cmH2O,最下部で-1~-2 cmH2Oとなる6,8.この胸腔の陰圧は胸郭を収縮させる圧となるため,水平断における胸部胸郭の前後径は短くなり,腹部と同様に楕円形となる.

2. 腹臥位における腹腔・胸腔の形状

腹臥位でも背臥位同様に腹圧の圧勾配が生じ,腹腔の最上部で 0 cmH2Oとなる6.この圧勾配は柔らかい壁である横隔膜を頭側に押し上げ,腹壁外側は拡張し,水平断で見る腹部形状は楕円形となる.胸郭形状も前後径より横径が長い楕円形の形状となる.しかし,腹臥位の胸腔内圧は,最上部で-6~-7 cmH2O,最下部で-1~-2 cmH2Oを示し,背臥位に比べると圧勾配が緩やかになる6,8.その理由としては,Slinky 効果と心臓に圧迫される肺野が非常に少ないこと6などがあげられる.

3. 側臥位における腹腔・胸腔の形状(図2

側臥位の腹圧は,横径のほぼ中間の高さで0 cmH2O7となる.したがって,それより下側の腹圧は,圧勾配に準じて徐々に高い陽圧となるが,上側に位置する腹腔はある程度の陰圧が生じる.この圧により,上側に位置する腹腔には収縮する力が加わるため腹腔の横経は低下する.一方,腹腔下側の高い腹圧は,柔らかい壁である横隔膜と腹側の腹壁を拡張する.腹圧で頭側に押し上げられた横隔膜は下側の肺を圧迫する.水平断でみると,下側ほど腹圧により腹腔が拡張することになり,背臥位に比べると横径が短く,前後径が長い形状となり,円形に近づく.

側臥位の胸腔内圧は,最も上側で-8~-10 cmH2O程度,下側で-1 cmH2Oとなり11,上側の胸腔内圧は背臥位より低くなる.この陰圧には,腹腔上側の陰圧により横隔膜が腹側に引き寄せられることや,心臓を中心とした縦隔組織が重力により下側に移動することなども影響している.上側の胸腔内陰圧が,同部位の胸郭を収縮する力となるため,胸部胸郭の形状は腹部形状と同様に背臥位に比べ円形に近づく.

4. 座位における腹腔・胸腔の形状(図2

座位での腹圧は,横隔膜より 3~4 cm下側で 0 cmH2Oとなり7,それより上側は圧勾配から考えるとわずかに陰圧となる.この陰圧により横隔膜は尾側に引き寄せられる.腹腔は,下側ほど高い陽圧が生じるが,水平断における腹圧はほぼ一定と考えられるため,横径と前後径は同じような長さとなり,水平断における腹部形状は円形に近づく.

座位の胸腔内圧は,最も上側で-10 cmH2O,下側で-2.5 cmH2O12となり,1 cm下になると0.2 cmH2O下がる圧勾配をもつ.腹腔の上側は陰圧であるため,背臥位,側臥位と違い,横隔膜の直上にある肺野は,腹圧による圧迫は受けない.さらに,心臓による圧迫もほぼ生じない.そのため下側に位置する胸腔でも陰圧が生じやすい.水平断における胸腔内圧はほぼ一定の陰圧と考えられるため,胸部胸郭の形状は,背臥位に比べ円形に近づく.

体位による換気運動の変化

換気運動は吸気時に横経・前後径ともに拡張し,上部の胸郭は前後径の変化が,下部は横経の変化が生じやすい.体位による換気運動の変化を見ると,背臥位の換気運動で動きが顕著に見られるのは,胸部・腹部胸郭,腹部ともに前後径の運動で9,10,横経変化は少ない(図2).一方,側臥位の換気運動で動きが顕著に見られるのは,背臥位で動きの少なかった横経変化である(図2).前後径の変化も見られるが,背臥位に比べると少なくなる9,10.また,座位での換気運動は,側臥位ほどではないが,背臥位に比べ横径変化が見られ,前後径の変化もよく見られる9,10.背臥位と側臥位の換気運動の違いを見ると,背臥位,側臥位ともに胸腔,腹腔の前後径,横経の中で,安静呼気位で直径が長くなっているところは,換気運動は小さく,直径が短くなっているところの換気運動が大きくなる特徴がある.安静呼気位での胸郭の形状が換気運動に影響している可能性がある.

各体位における呼吸介助法時の換気力学的変化

呼吸介助法は,本邦で排痰や換気改善を目的として臨床で用いられるが,エビデンスのみならず試行中の換気力学的変化についても十分に理解されていない13.呼吸介助法は,上述した胸郭の換気運動を用手的に介助する方法である.背臥位で下部の胸郭に呼吸介助法を施行した場合,用手的な介助が加えられる胸郭は,呼気時に尾側および背側方向に動き,その動きは,努力性最大呼気時より大きくなる場合もある.それにより,呼気時に腹部も圧迫される.呼吸介助中の胸腔内圧,腹圧,肺気量位を図3に示している.背臥位では,安静時呼吸に比べ呼吸介助時では呼気時の腹圧が顕著に上昇し,それにより胸腔内圧も呼気時に上昇し,呼気が促される14.また,胸腔内圧の上昇により呼気終末には胸部胸郭がやや拡張する現象もみられる15

図3

安静時呼吸,呼吸介助法中の胸腔内圧,腹圧,肺気量位の変化

a)背臥位の安静時呼吸と下部胸郭に呼吸介助法を行った場合,b)右側臥位の安静時呼吸と呼吸介助法を行った場合

一方,側臥位で呼吸介助法を行うと用手的な介助が加えられている上部の胸郭は,呼気時に下方および尾側に顕著な換気運動がみられる.側臥位の特徴は,安静時呼吸,呼吸介助時ともに背臥位に比べ胸腔内圧が低く,呼吸中の肺気量位が高いことである(図3).さらに,腹圧も低く,背臥位時にみられる呼気終末の顕著な上昇も見られない.背臥位に比べ側臥位での呼吸介助法は,肺が拡張しやすい状態にある.

体位による機能的残気量の変化

体位が呼吸機能に与える影響として,肺気量分画,特に,FRCの変化がある.体位変換に一般的に用いられることの多い体位の中で,背臥位は最もFRCが少なく,肺が拡張しにくい体位である16.背臥位では横隔膜直上の下側の肺野は,腹圧の圧迫を受ける.さらに,胸腔には心臓がある.肺は心臓の固定という役割を持つため,背臥位で心臓の下側にある肺野は圧迫され,拡張しにくい.一方,腹臥位は,背臥位よりFRCがやや高くなるとされている16.その要因の一つとして,腹臥位では心臓などの縦隔組織が腹側の胸壁に横たわり,縦隔組織が肺野を圧迫する体積が顕著に減少することあげられる.

側臥位のFRCは,全肺気量位の40~50%程度となり11,背臥位と座位の中間程度の値となる.また,体位変換に用いられることの多い前傾側臥位(Sims’ position)のFRCは側臥位とほとんど差がない17.側臥位,前傾側臥位で,縦郭より上の肺の拡張は座位と同程度,下の肺は背臥位と同程度と報告されている11,17.さらに,前傾側臥位は縦隔による肺野の圧迫体積が少なく背臥位や側臥位の1/3から1/2程度となる.これは心臓による肺野の圧迫面積が少ないとされる腹臥位に近い値である18

上肢で支持した前傾姿勢での呼吸機能の変化

上肢を支持した前傾姿勢(支持前傾姿勢)は,COPDの呼吸困難感を軽減する効果が報告19,20されている.その理由としては,主に吸気の呼吸補助筋が上肢支持により換気運動に参与しやすくなることや横隔膜の収縮効率が改善することが考えられている20.それでは,この体位で呼吸機能はどのように変化しているのか.

支持前傾姿勢では,重力により腹部胸郭・腹部が拡張しFRCが増加する21.支持前傾座位のFRCは,直立座位より増加し,直立位と同程度になる16.また,支持前傾立位でも直立位に比べFRCが上昇し,全肺気量の60%程度となる22.このことは,直立姿勢に比べ支持前傾姿勢では,肺が拡張した状態で安静時呼吸が行われることを示す.COPDでも支持前傾姿勢によりFRCが増加することは確かめられている23.肺の拡張に伴い気道抵抗が低下することが知られているが,支持前傾姿勢にみられる高い肺気量位での呼吸は,気道抵抗が低くなり,呼吸困難感を軽減する可能性がある.気道抵抗の変化ではないが,COPD患者の支持前傾姿勢に伴うFRCの増加は,Flow-volume Loopよりみた呼気の気流制限を低下させ,呼吸困難感を低下させる可能性が報告23されている.

まとめ

Chest wall各部位の換気運動の力源である駆動圧から換気運動を3つの部位に分けて診る必要があること,体位変換に用いられることの多い体位での換気運動の特徴や呼吸介助法を行った時の換気力学的変化,FRCを中心とした呼吸機能の変化について概説した.さらに,COPD患者の呼吸困難感の軽減に用いられる支持前傾姿勢での呼吸機能の変化について概説した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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