The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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ISSN-L : 1881-7319
Original Articles
Relationship between self-management behaviors of elderly patients with chronic obstructive pulmonary disease and the degree of breathlessness
Satomi KitamuraAyumi IgarashiYasuhiro YamauchiHideaki SenjuTakeo HorieNoriko Yamamoto-Mitani
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2020 Volume 28 Issue 3 Pages 393-400

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要旨

【目的】高齢慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者のセルフマネジメント(以下SM)行動の実態を明らかにすること.

【方法】65歳以上のCOPD患者に対面式質問紙調査・診療録調査を行った.SM行動実施状況の記述統計量を算出し,息切れの程度別に各行動を比較した.

【結果】81名(平均年齢78.2 歳)のデータを分析した.在宅酸素療法,禁煙や内服に関するSM行動実施群(以下実施群)の割合は約8割以上であった一方,呼吸法,運動やコミュニケーションに関する項目では3~6割であった.息切れ強群は息切れ弱群に比して,“急な動作を避ける”“室内の環境整備”“息苦しくなる動作を避ける”“排痰”“治療方針や療養場所に関する医療者との話し合い”の実施群の割合が有意に高く,“散歩”は実施群の割合が低かった.

【結論】高齢COPD患者に対する,呼吸法や運動・コミュニケーションに関するSM支援が課題である.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)の管理においては,増悪を予防するためのセルフマネジメント(Self Management:以下SM)が重要である1.しかし,COPDを含む高齢慢性疾患患者は,疾患に関する知識,服薬管理,症状の観察や症状への対応能力といったSM能力が低下すると指摘されており2,高齢COPD患者へのSM支援が重要である.

COPD患者のSMは,「一般的な疾患管理」として,禁煙・内服等治療内容の遵守が,「生活の工夫」として,適切な身体活動,呼吸法の工夫等が推奨されている1.先行研究では,COPD患者の情報ニーズ3や知識4,慢性疾患患者共通のSM能力5は調査されているが,これらの研究では患者が実際に行っているSMは検討されていない.慢性呼吸器疾患患者の息切れに対するSM行動を調査した研究はあるが6,ガイドライン1で求められている感染予防,運動等を含めたSMの包括的な評価は行われておらず,各SM行動の実態を具体的に把握する必要がある.さらに,COPDは疾患が軽度の段階からSMを行うことが重要であるが1,重症度により支援するべきSMの内容にも違いがある可能性があり,重症度によるSM行動の違いを検討することが重要である.

本研究では,高齢COPD患者のSM行動を,“呼吸困難等の症状に対処し,心身の健康状態を保つために必要な,生活の中での適切な行動”と定義し,SM行動の実態を把握することを目的とした.さらに,自覚症状による重症度の指標の一つである息切れの程度に応じた適切なSM支援を検討するために,息切れの程度別にSM行動の実施状況を比較した.

対象と方法

1. 対象

都内大学病院の呼吸器内科外来1件,都内一般病院の呼吸リハビリテーション外来1件,都内診療所1件,首都圏近郊の訪問看護ステーション15件を機縁法で選択した.調査対象施設に対し,研究者による質問紙調査及び診療録調査への協力を依頼し,同意を得た.

対象者の選択基準は,定期的に調査対象施設を受診(利用)しており,COPDの診断がある者,65歳以上の者,日本語が理解できる者,在宅療養中である者,約40分の調査が可能な呼吸状態・認知機能である者とし,除外基準は抗がん剤治療・放射線療法中の者とした.

2. 調査手順

2017年8月~12月,各調査施設の担当医療者による口頭での研究紹介に対して口頭同意が得られた者に対し,研究者が書面を用いて説明し,書面で同意を得た.書面同意が得られた者に対し,プライバシーの保たれる空間で対面式質問紙調査を行い,その後診療録(訪問看護記録)調査を実施した.調査は,筆頭著者の他,看護師資格を持つ調査者2名の計3名で行った.

3. 倫理的配慮

説明文書を用いて,研究目的と手順,データの匿名化について説明し,調査参加は自由であること,体調変化時は速やかに調査を中止すること等を説明し,書面で同意を得た.

本研究は,東京大学医学部倫理委員会及び研究実施施設の倫理委員会(A病院・B病院)の承認を得て行った.

4. 調査項目

SM行動は,ガイドライン1,7,先行研究6,8の意見を参考に,(i)呼吸困難感を最小限にするための行動,(ii)身体・精神的健康を維持するために適切な行動,(iii)医療者や家族とのコミュニケーションの3側面について調査項目を作成した.呼吸器内科医師2名,慢性呼吸器疾患看護認定看護師1名,呼吸器疾患看護に精通した訪問看護師2名に内容的妥当性について確認し,表現や項目の修正を行った(表2).

運動に関する項目(表2⑭⑮⑯)は,“1.全くしていない”“2.月1-2回程度”“3.週1回程度”“4.週2~3回程度”“5.週4回以上”,その他の項目は“1.全くしていない”“2.ほとんどしていない”“3.時々している”“4.よくしている”“5.いつもしている”の5件法で回答を求めた.

分析では,各SM行動の,“4.よくしている(週2~3回以上)”以上をSM行動実施群(以下実施群), “3.時々している(週1回程度)”以下をSM行動非実施群(以下非実施群)と2値に分類した.散歩(⑯),インフルエンザワクチンの接種(㉒),内服(㉓),通院(㉕)は,ガイドライン1に基づき,“5.いつも(週4回以上)している”者を実施群とした.喫煙(㉑)は”禁煙した”,もしくは”喫煙したことがない”者を,吸入薬(㉔)は,吸入前の息吐き・吸入・吸入後の息止め・ステロイド薬吸入後の含嗽を全て“いつも実施している”者を実施群とした.

対象者背景は,年齢,性別,同居者の有無,BMI,喫煙歴,息切れの程度(mMRC9),罹病期間,在宅酸素療法・非侵襲的陽圧換気療法の有無,COPDの急性増悪による入院歴,呼吸リハビリテーション経験,合併疾患,利用中の医療介護資源,要介護度について,質問紙及び診療録から収集した.

さらに,対象者がSM行動をとるために工夫していることや困難に感じていることについて,自由記載で回答を求めた.

5. 解析

対象者背景及びSM行動の実施状況の記述統計量を算出した.mMRC grade 0-1を息切れ弱群,mMRC grade 2-4を息切れ強群と分類し,両群における各SM行動実施群の割合(以下実施割合)をχ2検定により比較した.統計ソフトはIBM SPSS Statistics ver. 25.0を使用し,有意水準を5%未満とした.SM行動に関する自由記載の回答は,記載内容の類似性に基づいて研究者がカテゴリー化した.

結果

1. 対象者背景(表1

89名に調査協力を依頼し,81名から回答を得た(有効回答率91%).平均年齢は78.2歳,息切れ弱群は29%,息切れ強群は71%であった.息切れ強群は息切れ弱群に比べて,罹病期間が長く(p=0.031),在宅酸素療法使用者が多く(p=0.003),COPDの急性増悪入院歴がある者が多かった(p=0.005).また,息切れ強群は要介護度が高く(p=0.008),訪問看護(p=0.023),訪問リハビリテーション(p=0.030),訪問介護(p=0.029)利用者が多かった.その他の項目は両群で有意差はなかった.

表1 対象者背景(n=81)
全対象者息切れ弱群息切れ強群
(n=81)(n=23)(n=56)
n(%),n(%),n(%),
平均±標準偏差[範囲]平均±標準偏差平均±標準偏差p
基本属性
 年齢(歳)78.2±6.6[65-103]77.0±4.9078.1±6.500.48a
 性別(男性)71(88)21(91)48(86)0.50b
 同居者(あり)63(78)18(78)43(77)0.89b
 BMI21.6±3.7[14.5-33.3]22.6±3.721.3±3.60.15a
 喫煙歴(あり)76(94)23(100)51(91)0.14b
疾患特性
 mMRC§ grade 07(9)7(30)
      grade 116(20)16(70)
      grade 223(29)23(41)
      grade 319(24)19(34)
      grade 414(18)14(25)
罹病期間(月)70.9±57.4[2-300]48.6±41.879.9±61.20.031*a
在宅酸素療法使用32(40)3(13)27(48)0.003**b
非侵襲的陽圧換気療法使用6(7)0(0)6(11)0.10b
COPDの急性増悪による入院歴あり41(51)6(26)34(61)0.005**b
呼吸リハビリテーション経験者44(54)11(48)33(59)0.37b
合併疾患
 心血管疾患30(38)7(30)22(40)0.43b
 糖尿病15(19)4(17)11(20)0.79b
 脳血管疾患3(4)0(0)3(6)0.25b
 喘息12(15)3(13)7(13)0.95b
 認知症3(4)1(4)1(2)0.51b
 整形外科疾患15(19)2(9)12(21)0.18b
利用中の医療介護資源
 外来リハビリテーション36(44)11(48)25(45)0.80b
 訪問看護27(33)3(13)22(39)0.023*b
 訪問リハビリテーション10(12)0(0)10(18)0.030*b
 訪問介護22(27)2(9)18(32)0.029*b
 デイサービス・デイケア7(9)1(4)6(11)0.37b
要介護度0.008**b
 認定なし44(56)18(86)26(46)
 要支援1~要介護231(39)3(14)27(48)
 要介護3~要介護54(5)0(0)3(5)

メモ:欠損値は分析から除外し,%表示は欠損値を抜いてから算出した

a:t検定,b:χ2検定

*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001

† 81名のうち,2名はmMRCが欠損値であったため,息切れの程度ごとの分析からは除外した

‡ 息切れ弱群:mMRC grade 0-1,息切れ強群: mMRC grade 2-4

§ mMRC, modified Medical Research Council dyspnea scale

 grade 0:激しい運動をした時だけ息切れがある

 grade 1:平坦な道を早足で歩く,あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある

 grade 2:息切れがあるので,同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い,あるいは平坦な道を自分のペースで歩いている時,息切れのために立ち止まることがある

 grade 3:平坦な道を約 100 m,あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる

 grade 4:息切れがひどく家から出られない,あるいは衣服の着替えをする時にも息切れがある

2. SM行動の実態(表2

(i) 呼吸困難感を最小限にするための行動

在宅酸素療法(⑦⑧⑨)や非侵襲的陽圧換気療法(⑩)の実施割合は75-100%である一方,口すぼめ呼吸(①)や動作に合わせた呼吸(②)等その他の項目は40-52%であった.

(ii) 身体・精神的健康を維持するために適切な行動

日々の体調の記録(⑪),ストレスマネジメント(⑫),感染予防(⑬)や運動(⑭⑮⑯)の実施割合は48-62%,睡眠(⑰),食事(⑱⑲)や無理をしないこと(⑳)は78-96%,禁煙(㉑),インフルエンザワクチンの接種(㉒),内服(㉓)や受診行動(㉕㉖)は74-99%であった.吸入薬の適切使用(㉔)は45%であった.

(iii) 医療者や家族とのコミュニケーション

状態悪化時の医療者への報告(㉜)の実施割合は86%だったが,日々の生活の目標に関する医療者との話し合い(㉘)等その他の項目は33-59%であった.なお,全員が回答対象であるコミュニケーションの項目に対し(㉗~㉛),「時々している」と回答した者は25-30%程度であった(表中未記載).

表2 セルフマネジメント行動実施群の割合:息切れの程度別の比較(n=81)
全対象者息切れ弱群§息切れ強群§
(n=81)(n=23)(n=56)
n(%)n(%)n(%)p
(i)呼吸困難感を最小限にするための行動
①息苦しくなる動作をするときには,口すぼめ呼吸をしている39(48)8(35)31(55)0.10
②動作に合わせて呼吸をしている42(52)12(52)30(54)0.91
③急な動作をしないようにしている40(51)5(22)35(65)<0.001***
④効率よく,楽に動けるよう,家具の配置の工夫や整理整頓をしている33(41)4(17)29(52)0.005**
⑤息苦しくなる動作を避けるように心がけている32(40)3(13)29(52)0.001**
⑥痰がうまく出るように,工夫している(例:ハフィング,咳払いや加湿など)  (n=54)||24(44)4(21)20(57)0.011*
⑦家の中で安静にしているとき,医師の指示通りに酸素を使用している      (n=31)||28(90)2(67)25(96)0.056
⑧家の中で動いているとき,医師の指示通りに酸素を使用している        (n=32)||24(75)1(33)22(82)0.061
⑨外出するとき,医師の指示通りに酸素を使用している              (n=29)||23(79)2(67)21(81)0.57
⑩医師の指示通りに非侵襲的陽圧換気療法を使用している            (n=6)||6(100)N/A6(100)N/A
(ii)身体・精神的健康を維持するために適切な行動
⑪日々の体調や健康管理のための行動をどこかに記録している41(51)10(44)30(54)0.42
⑫ストレスを溜めないように,対処している(例:気分転換を行なう,他者に相談をする)41(52)10(44)31(55)0.34
⑬帰宅時や食事前に,うがいや手洗いをしている51(63)14(61)36(64)0.78
⑭体幹や上肢のストレッチを行なっている50(62)11(48)39(70)0.068
⑮筋力トレーニングを行なっている47(58)10(44)37(66)0.063
⑯散歩をしている38(48)19(91)19(34)<0.001***
⑰十分な睡眠をとるようにしている63(78)20(87)43(77)0.31
⑱体重が減らないように十分な食事をとっている67(84)20(87)47(84)0.73
⑲たんぱく質(肉や魚,大豆,卵など)を十分にとっている72(90)22(96)50(89)0.37
⑳体調が悪い時は,無理して運動しないようにしている74(96)21(96)53(98)0.51
㉑禁煙している,もしくは喫煙したことがない(※)74(91)20(87)52(93)0.40
㉒冬にはインフルエンザワクチンを接種している53(74)12(67)40(77)0.39
㉓指示された個数・回数通りに,薬を使用している65(80)18(78)45(80)0.83
㉔吸入薬を正しく使用している(※)33(45)8(38)25(49)0.40
㉕医師に勧められた頻度で,医師の診察を受けている78(99)23(100)54(98)0.52
㉖受診するごとに,受診結果(採血の結果,その他検査結果)を確認している63(89)18(86)45(90)0.60
(iii)医療者や家族とのコミュニケーション
㉗病気に関して,疑問に思っている事や心配な事を医療者に伝えている47(59)15(65)31(55)0.42
㉘日々の生活の目標を,医療者と話し合っている34(43)7(30)26(46)0.19
㉙日々の生活の目標を,家族と話し合っている26(33)6(26)19(35)0.47
㉚治療方針や療養場所に関するあなたの思いを,医療者に伝えている35(44)5(22)29(52)0.014*
㉛治療方針や療養場所に関するあなたの思いを,家族に伝えている30(38)7(30)22(39)0.46
㉜呼吸状態が急に悪化した時や息切れが急に強くなった時に,医療者に報告している (n=36)||31(86)5(83)26(87)0.83
㉝呼吸状態が急に悪化した時や息切れが急に強くなった時に,            (n=37)||
 なぜ起きたのか,医療者と共に振り返っている19(51)3(50)16(52)0.94

メモ:欠損値は分析から除外し,%表示は欠損値を抜いてから算出した

*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001(χ2検定)

† 実施群の割合は,5件法で聴取し,「4.よくしている(週2~3回以上)実施している」以上の対象者の人数(%)を算出した

なお,「全くしていない」~「週4回以上実施している」と,具体的ない頻度で聴取した項目は,運動に関する項目(表2⑭,⑮,⑯)である

下線部の項目は「5.いつも(週4回以上)している」,下線部(※)の項目は,該当する場合のみ実施群として算出した

‡ 81名のうち,2名はmMRCが欠損値であったため,mMRCごとの分析からは除外した

§ 息切れ弱群:mMRC grade 0-1,息切れ強群:mMRC grade 2-4

|| 質問項目の内容に該当する患者のみ回答(例:在宅酸素療法を使用している,過去に急性増悪歴の経験がある)

3. 息切れの程度によるSM行動の比較(表2

(i) 呼吸困難感を最小限にするための行動

息切れ強群は息切れ弱群に比べて,急な動作を避ける(③),室内の環境整備(④),息苦しくなる動作を避ける(⑤),排痰(⑥)の項目で,実施割合が高かった(p<0.001, p=0.005, p=0.001, p=0.011).

(ii) 身体・精神的健康を維持するために適切な行動

散歩(⑯)は,息切れ強群の方が実施割合が低かった(p<0.001).

(iii) 医療者や家族とのコミュニケーション

治療方針や療養場所に関する医療者との話し合い(㉚)は,息切れ強群の方が実施割合が高かった(p=0.014).

4. SM行動をとるための患者の工夫及び困難(表3

高齢COPD患者は,呼吸困難を抱えながらも「日々の生活を維持する」よう心がけ,「趣味や楽しみを通じて」身体活動(家事,通勤等の日常生活における「生活活動」と,体力の維持・向上を目的とした「運動」を指す10)を行っていた.「記録」をすることや「他者からの声かけ」は身体活動のモチベーションに繋がっていた.一方,趣味を通じた身体活動を取り入れる意図はあっても,呼吸困難により身体機能が低下し,その活動に対する「自信がなくなる」と,実際に行動することに困難を感じていた.

表3 セルフマネジメント行動をとるための患者の工夫及び困難に関する自由記述(n=40)
【身体活動を保つための工夫】
1.日々の生活を維持することにより身体活動が保たれている(n=5)
・犬の散歩を毎日朝夕30-40分していることが運動になっている.
・仕事が運動になっている.
・山の手入れや雑草取りなどやらなきゃいけない目的があるから動いている.
2.趣味や楽しみを通じて運動をしている(n=10)
・美術館や博物館に趣味で行くことが運動になっている.
・町内会の体育振興会に所属している.フライングディスクを行ったり,ポートボールのコーチをしている.
・盆栽の水やりをしている.庭の作業場でストレッチを行うと,家の中でやるより気分転換になる.
・HOTのリュックを背負ってバードウォッチングをしながら歩いている.
3.生活の中に意識的に運動する時間を設けている(n=5)
・起きたときやお風呂上がり,寝る前に運動している.
・6:30から毎朝ラジオ体操を公園で行なっている.公園に器具もあり,筋トレをしている.
4.記録をすることで運動のモチベーションを保つ(n=4)
・万歩計を使って歩数を記入する.黄色(中等度の運動)が増えていると歩くスピートが上がったのだなとわかる.
5.家で運動できる環境を整える(n=3)
・うどんの綿棒を使ってストレッチをしている.
6.他者からの声かけを自らの力に変える(n=2)
・苦しくなってから人に優しくされると嬉しい.リハビリの先生にお世話になっているから何かを返したいと思い,忠実にやっている.
【身体活動を保つための困難】
1.以前の趣味と現在の身体機能にギャップがある(n=2)
・本当は格闘技をやりたいが,さすがに難しい.
2.(他者と共に運動することに対して)自信がない,周りに申し訳なく感じる(n=3)
・ゴルフを再開したいけど,遅くて人に迷惑をかけてしまうと思い,自信がない.
【外出時の工夫】
1.活動に応じて移動方法や荷物を工夫する(n=8)
・電動車いすを使用することで,ゴミ出しや外出ができる.
・買い物は,行きは歩いて帰りはバスに乗る.荷物を持って歩くのは大変だし危ないためリュックサックにしている.
2.サービスを活用する(n=2)
・買い物したものは配達してもらう.
3.呼吸法を意識しながら自分のペースを保つ,慌てない,無理をしない(n=4)
・家だとゆっくり動く習慣ができているが,外では他の人と同じペースで動いてしまいがち.人がいても慌てないように意識している.
【外出時の困難】
1.環境の障壁がある(n=5)
・2階に住んでおり,エレベーターがない.
・デパートやスーパーにもっと椅子が欲しい.
2.周囲から止められる(n=2)
・庭へ出たいが,危ないとヘルパーさんに止められている.
【在宅酸素療法に関する工夫】
1.自身の生活スタイルに合わせた携帯方法を考える(n=5)
・外出時は車椅子に酸素ボンベを3本積まなければならないが,後ろに積むとバランスが悪くなるため座面の下にも敷いている.
・外出時間に合わせて,20 Tと 8 Tのボンベを使い分ける.
・液体酸素を使うことで軽くしている.
2.家の中で過ごしやすいように工夫する(n=3)
・酸素チューブが引っかかってしまうため,チューブを壁に這わせた.
・リモコンを導入した,ベッドや玄関で流量調整をできるようにした.
3.見た目が嫌なので,工夫した(n=3)
・HOTのリュックは紺色ばかりで選択肢がないため,緑色のものを自分で作った.
【在宅酸素療法に関する困難】
1.言われているように使えない(n=4)
・酸素チューブが引っかかってしまうからトイレに行く時や台所に行くときは外している.
・動く前の酸素の増量や,回復してからの減量をつい忘れてしまう.
2.酸素ボンベの残量に関する不安がある(n=5)
・停電や災害の時にボンベだけだと不安.電池式にしてほしい.
【日常生活における工夫】
1.入浴・更衣・掃除・洗濯など息苦しくなる動作を理解し,自身の行動を工夫する/環境を整える(n=16)
・半身浴程度にして,湯船に浸かるのは5分程度にする.お湯は39度くらいにしている.
・洗濯物は低めの物干しに干す.
・浴室や台所に椅子を置き,着替える時や長時間料理するときは座って行う.
・入浴前後,更衣後のSpO2,脈拍,呼吸困難感を記入する.入浴後はSpO2が88%まで下がるため,椅子に座り,97%に戻ってから着替える.
・ベッド周りに物を配置する.
2.入浴・更衣・掃除・洗濯など息苦しくなる動作を理解し,人や道具の力を借りる(n=4)
・掃除は掃除ロボットを使用する.
・掃除や布団干しはヘルパーに週1回お願いしている.
3.栄養を摂るようにする(n=5)
・食事は昔から多く食べられないので,栄養補助食品を飲んでいる.
・よく噛む.休みながらゆっくり食べる.
4.風邪を引かないように,温度差や乾燥に気をつける(n=7)
・冬場は湿ったタオルを部屋にかけ,加湿をしている.
・グラウンドゴルフを楽しく行うために,暑さ対策,寒さ対策を考える.
5.日々の生活に楽しみを持つ,相談相手を見つけるなど精神的健康も維持する(n=5)
・ipad,テレビ,スマホを活用し家で楽しめることを行う.
・日々のことは看護師さんやヘルパーさんがきたときに聞いてもらっている.
【日常生活における困難】
1.サービスでは補いきれない活動がある,人に頼むのには罪悪感を感じる(n=4)
・タンスの整理や衣替えが大変.
・雪かきができないので迷惑をかけてしまっていると感じる.
【その他】
1.効果的な吸入のためにスペーサーを使用する,吸入薬の種類を変えてもらう(n=2)

各項目の例として,自由記述の回答の一部を記載した.

外出時は,重い荷物を持つ際はバスを使用する等「移動方法を工夫」し,購入品の配達等の「サービスを活用」していた.在宅酸素療法に関しては,ボンベの容量を使い分ける等「携帯方法の検討」をしていた.一方,エレベーターがない等の「環境の障壁」により外出に困難を感じている者もいた.

日常生活では,「入浴・更衣・掃除・洗濯等息苦しくなる動作を理解して,自身の行動を工夫」し,必要時には訪問介護サービスや掃除ロボット等「人や道具の力を借り」ていた.一方日常生活の中でも,衣替え等「サービスでは補いきれない活動」や「人に頼むのには罪悪感を感じる活動」があり,困難を感じていた.

考察

本研究から,高齢COPD患者のSM行動は,禁煙や服薬等の基本的な疾患管理に比べ,呼吸法や身体活動・コミュニケーションに関して不十分な傾向があることが明らかになり,支援の必要性が示唆された.症状に応じて支援するべき内容が異なる可能性も踏まえ,対策の検討が必要である.

1. 高齢COPD患者のSM行動の実態

呼吸困難感を最小限にするための行動において,在宅酸素療法等の医療機器は多くの者が医師の指示通り使用できていたが,その他の呼吸法の実施者は約半数にとどまっていた.特に,息切れが弱い患者は,急な動作をしない,室内の環境整備,息苦しくなる動作を避けるといった,動作を調整するような行動をほとんどとっていなかった.息切れが弱い患者は,動作を調整するほどの呼吸困難を感じていない可能性や,罹病期間の短さや増悪入院歴の少なさから行動変容の機会が少ない可能性がある.症状が軽い段階から自宅環境や日常生活動作について振り返る機会を作り,患者と共にSM行動を考えられるよう支援が必要である.一方,慢性呼吸器疾患患者は息切れが強くなるにつれ,呼吸困難を起こさないよう活動を抑制する方向に動作を調整している可能性が指摘されており11,本研究においても息切れの強い患者が,より動作を調整する行動をとっていた可能性がある.

口すぼめ呼吸や動作に合わせた呼吸等の呼吸法の実施割合は息切れの強弱による有意な差はなかった.口すぼめ呼吸は,COPD患者の運動耐容能の向上12や呼吸困難感の軽減13に有効である.行動に対する有用性の実感は患者の行動に影響を与えており14,息切れの強弱に関わらず,口すぼめ呼吸を通じて出来る活動の増加や症状の軽減等の有用性を感じていた患者は行動をとっていた可能性がある.患者が呼吸法の必要性を理解し,効果を実感できるよう疾患の早期から呼吸リハビリテーション等を通じて支援していくことは重要と考えられる.

身体・精神的健康を維持するために適切な行動において,禁煙や内服等基本的な疾患管理は実施者が多かった一方,ストレッチや散歩等の運動の実施者は約半数であった.COPD患者は薬や禁煙に比べて,運動に関する情報をより必要としていると先行研究で指摘されており3,実施者が少ない項目については情報が不足している可能性が示唆された.また散歩は,息切れが強い患者の方が実施割合は低かった.息切れが強い患者は身体機能が低下している者も多く,散歩をすることに困難を生じている可能性がある.先行研究においても呼吸困難症状が強いほど身体活動量が減少する15と指摘されているが,COPD患者に対しては重症度に関わらず身体活動を促すことが重要である1.加齢による身体機能の低下等により身体活動量の減少が予測される高齢COPD患者に対しては,セルフストレッチ方法等を具体的に情報提供する必要がある.さらに,要介護(支援)認定者が4割を占めている等多くの対象者で身体機能の低下や合併症の問題も生じていることから,必要時はリハビリ職や看護師による専門的な関わりを通じて,症状や身体レベルに応じた適切な目標設定をし,行動変容を促していく必要がある.

医療者や家族とのコミュニケーションについては,特に生活の目標や治療方針・療養場所に関して十分に話し合っている患者が少なかった.コミュニケーションに関しては,「時々している」と回答した者も2-3割程度いたため,医療者と接する頻度が少ない患者もいることを考慮すると必ずしも少ないとは言えない.しかしCOPDは,予後の予測が困難であることから今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合うプロセス,つまりadvance care planningが困難とも指摘されており16,今後の支援策の検討が必要である.先行研究では,医療者側のadvance care planningに関する重要性の認識不足や患者への躊躇,患者側の疾患に関する知識不足や必要時は医療者が話し合いの機会をくれるであろうという思いが,患者-医療者間コミュニケーションの障害になっていると報告されている16.COPDが進行性の疾患であることや,advance care planningの重要性を医療者・患者双方が認識し,患者の意向や思いの表出を促せるような支援が必要である.

2. 高齢COPD患者のSM行動をとるための工夫及び困難

自由記載の結果から,高齢COPD患者は,日々の生活を維持するよう意識する,趣味等を通じて運動することで,SM行動のモチベーションを保っていることが明らかになった.さらに,介護サービスの利用や移動手段を工夫することで息切れの悪化を防いでいた.一方,自信のなさ等の自己効力感の低下により,身体活動を保つことに困難を感じている者もいた.高齢患者は,身体機能の低下や合併症の問題もあり,身体面・環境面でもSM行動に対する様々な障壁が生じていると考えられる.これらの工夫と困難に関する自由記述の結果は,人間の行動にはモチベーション等の個人の認知的要因,サービスの活用等の環境的要因,そして行動に対する自己効力感等の行動要因が相互に関連しているという社会的認知理論14に対応していた.SM支援を行う際には,SM行動に関する情報提供だけでなく,目標の共有やポジティブフィードバックを通じた認知的要因・行動要因へのアプローチや,身体機能の低下等による障壁を克服するための福祉資源の紹介・導入といった環境要因へのアプローチが重要であると考えられる.

本研究の限界は,以下の4点である.1点目は,本研究では65歳以上のCOPD患者のSM行動の実態を明らかにしたが,65歳未満のCOPD患者との比較はできておらず,高齢者特有の問題かは明らかになっていない点である.2点目は,サンプリングに偏りがあり一般化には限界がある点である.本研究では,定期的に医療機関にかかっている方を対象としたこと,また呼吸リハビリテーション経験者が対象者の半数を占めていたことから,アドヒアランスが比較的良い集団である可能性がある.さらに,SM行動に関して回答該当者数が特に少ない項目については統計的有意差の検出力が不足していた可能性もあり,結果の解釈には注意が必要である.3点目は,SM行動を主観的評価で把握していることから,SM行動が過大・過小評価されている可能性がある点である.例えば,食事に関しては多くが実施群に分類されたが,実際はBMIが低値である患者も少なからずいた.COPD患者は呼吸運動による消費エネルギーが多く低栄養のリスクが高く,栄養評価には体重や血液データ等の客観的指標の使用が重要であるため7,SM行動の評価は,客観的な評価指標も併せて使用する必要がある.最後に,横断調査であり息切れの程度との因果関係は明らかになっていない点,慢性期の状態である方を対象としているものの調査は一回であり,季節や体調により結果に変化がみられる可能性がある点である.今後は縦断調査を行い各患者の行動の変化を調査する必要がある.

謝辞

本研究にご協力頂きました患者様,医療従事者様に深謝致します.また,データ収集にご協力頂きました野内英樹様,姉崎沙緒里様,高岡茉奈美様に感謝申し上げます.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2020 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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